■マタがユナイテッドにかけた魔法
シーズンの目標がなくなりつつあるユナイテッドに、前節トッテナムと引き分けた勢いをそのままぶつけたブレントフォードという構図の立ち上がりだった。対角パスを使いながら、セットプレー上等!というスタンスで序盤からユナイテッド陣内でのプレータイムを増やす。
ブレントフォードが得意とする落ち着かない展開をぐっと引き寄せたのは、いつもと違うユナイテッドのスタメンである。37節が先行開催された影響で今季のユナイテッドにとってはこの試合がラストのホームゲーム。主役となったのは今季ほとんど出番が与えられなかったマタだ。
トップ下というポジションをベースにしながらあらゆる場所に自由に顔を出すフリーマン役でボールの落ちつけどころとして完全に試合を支配。低い位置に降りるだけでなく、ブレントフォードのブロックの間に入り込み、彼らのプレスの届かない位置でボールを受ける様子はまさに達人と言ってもよかった。
これにより、ブレントフォードのプレッシングは完全に鎮圧。ミドルゾーンで我慢しながらユナイテッドの保持を受け止める流れに展開が変わった。
一応、今季ここまで全試合リーグ戦のユナイテッドは見てきたが、この試合のように保持で相手を手懐けるユナイテッドは記憶にない。マタの存在1人でチームの色をガラッと変えてしまった。そんな印象を受けた。
その良き相棒となったのはロナウド。保持型のゆったりしたチームにとっては崩しのトリガーが見えないというのが陥りやすい困難の代表例であるが、ロナウドがブレントフォードのバックラインに突っ掛けることで裏のボールから決定機を生み出していた。
先制点も裏抜けから。エランガが大外から抜け出し、ブレントフォードのDFラインをおいていくと、ラストパスをブルーノ・フェルナンデスが沈めてみせる。
ブレントフォードは早めに攻めることができればチャンスを得ることはできていた。人が揃わないうちのアーリークロス、ハイプレスからのショートカウンター(マタにボールが入る手前のユナイテッドの保持は怪しかった)などユナイテッドの守備の重心をひっくり返すことができれば、ブレントフォードには反撃の機会はあった。
しかし、ブレントフォードの攻め手であるハイプレスを回避できるのもこの日のユナイテッド。前半終了間際にはマタとフェルナンデスが手を組み、ロナウドへのラストパスを送ってみせた。オフサイドではあったが、完全にブレントフォードのプレスを攻略しかけた場面だった。
後半もペースを握ったのはユナイテッド。前半の最終ラインの駆け引きに加えて中央のコンビネーションからの崩しも加わったユナイテッドはさらに攻勢を強める。
ブレントフォードは意識的に早い展開を増やしながら、試合全体のテンポアップを狙う。相手の最終ラインが揃う前の守備ブロック攻略を狙ったのだろう。しかし、早い展開を制したのはユナイテッド。ロナウドのPK獲得で試合は完全に決着することに。
今季屈指の支配的な展開を演出した主役は紛れも無くマタである。スピードこそないが、安定感は今の中盤では屈指のマティッチと共に、この試合がオールド・トラフォードのラストダンスになってしまうのは非常に残念。チームに与える影響の大きさ、プレーの正確性、他にはない持ち味などこの日マタがユナイテッドにかけた魔法の偉大さを考えると、退団濃厚な現状は他サポながらとても寂しい思いになる。ライバルクラブのサポーターではあるが、大きな拍手で彼らを送りたい。
試合結果
2022.5.2
プレミアリーグ 第35節
マンチェスター・ユナイテッド 3-0 ブレントフォード
オールド・トラフォード
【得点者】
Man Utd:9′ フェルナンデス, 61′(PK) ロナウド, 72′ ヴァラン
主審:クリス・カバナフ