■DFラインは劣勢も勝負はベルナベウに持ち越し
アトレティコを退けた準々決勝を乗り越えたシティ。2連続の決勝進出への最後の関門となるのは、アトレティコと同じくマドリードに本拠地を構える白い巨人である。
立ち上がり、まず目についたのはマドリーの3センターの役割である。シティの3人の中盤に対して、それぞれがマンマーク気味についていく役目を担っていた。だが、その役割が破綻したところからシティはあっという間に先制点を奪う。右サイドからのマフレズのクロスに合わせたのはデ・ブライネ。左のハーフスペースから侵入してきた彼を捕まえるのは、おそらくIHのバルベルデの役目だったはずだ。
この日のマドリーのマンマークにおける問題点になりうるのは3センターが忠実にこの役割をこなせるかどうかである。バルベルデとモドリッチはともかく、クロースはこの日のシティの中盤に機動力勝負を挑まれたら勝ち目は薄い。そうした中でマドリーがどこまで相手についていくかは非常に難しい。カゼミーロが健康ならまた別かもしれない。保持の局面は苦しくなるかもしれないが。
もう1つ、中盤のマンマークのデメリットは最終ラインが個人で劣勢になるとカバーに入りにくいことである。そのデメリットが顕れたのがマドリーの2失点目だ。ジェズスに一発で交わされてしまったアラバのところである。ジェズスはリーグ戦4得点の流れを受けて好調を維持。あっさりとアラバと入れ替わりクルトワの守るゴールを破ってみせた。
こうしてみるとマンマークにはデメリットだらけのように見えるかもしれないが、シティに対して全く効き目がなかったわけではなかった。実際に高い位置からひっかけることもしばしば。特にサイドに追い込んだ時の守備はうまく、シティは数回危うい形でボールを失っていた。前半のうちに交代したストーンズはコンディション面を考慮してのものかもしれないが、彼がパスをひっかけていた選手の1人でもある。
だが、マドリーはボールを奪ってからゴールに向かうところでやや苦労していた印象。変な話、シティはある程度ボールをロストすることに耐性ができているため、トラブルからの立て直しがやたら早い。ロスト後にもう一展開起こさなければ、マドリーはシティのゴールを破ることは出来なさそうだった。
加えて、シティもプレスにやられっぱなしなわけではない。行動範囲の広さが持ち味のベルナルドが縦横無尽に動き回り、対面のマーカーを揺さぶり続けていたし、左のSBのジンチェンコは時折絞って中盤に参加。マンマーク主体の3対3という均衡に4人目の男が登場することで、マンマークで保たれていた中盤中央の秩序を乱しにかかる。
中盤を越えられれば当然マドリーはピンチになる。苦しいマドリーだったが、プレッシングが功を奏したのは33分。トランジッション局面から左サイドのメンディがクロスを放つと、これをあっさりベンゼマが押し込む。ファーに流れてジンチェンコに競りかけたベンゼマはさすがの格の違いを見せつけて、ジンチェンコから遠い側の足で見事に隅にねじ込んで見せた。展開としては優勢だったのは明らかにシティ。だが、この1点が決まるとどことなく不気味な感じが見えるのがマドリーの怖さである。
後半、アラバ→ナチョの交代で最終ラインのテコ入れを図るマドリー。しかし、PA内でのタイトさに欠けており、明らかに試合に入れていない様子。デュエルにおいてシティの前線に対して劣勢という状況は変わらなかった。
そんな中で先にスコアを動かしたのはシティ。前半途中からSBに入ったフェルナンジーニョのボールハントから最後はフォーデンが決めて3点目。決定機を逸し続けたシティにとってようやく手に入った追加点だった。
だが、やられっぱなしにはされないのがマドリーである。フェルナンジーニョに出し抜かれたヴィニシウスはすぐさま反撃。ボールに触らないままフェルナンジーニョと一気に入れ替わるとゴールまで一直線で侵入して、追撃弾を奪い取る。ここまでシティに黙らされてきたヴィニシウスがあっさりと仕事をして、試合は再び1点差に。
このヴィニシウスの得点が大きかったのはマドリーにとって『左サイドから少人数で得点の目途が立ったこと』である。黙らされてきたヴィニシウスが生き生きと突破を始めたことで、攻撃は彼ら2人に任せてもOK。
高い位置からのプレッシングはマドリーにとってはやりたいところだが、いかんせんアスリート能力では劣勢。そう長い時間続けられるのもではない。だからこそ、ロングカウンターをベンゼマとヴィニシウスでという目途が立ったのは大きいのである。
この時間帯はシティは劣勢ではあったが、彼らの前線のアタッカー陣が素早くプレスバックして挟む仕事をサボらないせいで、マドリーに決定的な仕事を許さなかった。
すると、シティは74分に再び追加点で引き離す。左サイドの侵入からファウルまがいのプレーで一瞬動きが止まったマドリーのバックライン。それを逃さなかったベルナルドが鋭いシュートで一気に打ち抜いた。そしてきっかけは4人目の男であるジンチェンコの持ち上がりだった。
マドリーのバックラインのセルフジャッジもどうかと思うが、この場面では笛を吹くのを我慢してシティのいい局面を消さなかったの主審の隠れたファインプレーが光ったシーンだった。
だが、それでも試合は終わらない。さらに意地でも食らいつくマドリーが82分に粘りのPKを獲得。これをベンゼマが沈めて、三度スコアは1点差に。マドリーとしてはこれで最低限満足ということだろう。アタッカーを下げてボールを落ち着かせながら試合を鎮静化。1点差でベルナベウに帰ることを選んだ。
もちろん、魔境であるベルナベウ遠征はシティにとっては厄介だろうが、最終ラインを中心に殴られ続けたのはマドリー。何かしらの策は必要だろう。特にプレス耐性と非保持の強度を天秤にかけるカゼミーロを2ndレグで起用するかはコンディションも含めて難しいところ。劣勢を覆すというミッションに正面から取り組まなければ、再びの逆転劇をシティ相手に呼び起こすのはそう簡単ではない。
試合結果
2022.4.26
UEFAチャンピオンズリーグ
Semi-final 1st leg
マンチェスター・シティ 4-3 レアル・マドリー
シティ・オブ・マンチェスター・スタジアム
【得点者】
Man City:2‘ デ・ブライネ,11’ ジェズス, 53‘ フォーデン, 74’ ベルナルド
RMA:33‘ 82’(PK) ベンゼマ, 55‘ ヴィニシウス
主審:イシュトヴァーン・コヴァーチ