■チェルシーの猛追を振り切った2人のレジェンド
1st leg
スタンフォード・ブリッジでの1stレグではベンゼマのハットトリックで2点のリードをレアル・マドリーが持ち帰りに成功。チェルシーにとってはベルナベウで最低3点は取らないと120分での勝ち抜けはないという厳しい条件で迎えた試合となった。
試合は序盤からチェルシーペースといっていいだろう。まずはキツいプレッシングでマドリーに前進の隙を与えない。2CBにはハフェルツ、ヴェルナーの2トップが激しく追い回し、3人のCHにはマウント、コバチッチ、ロフタス=チークの3人がこちらもマンマーク。珍しく後方に構える役目を与えられたカンテは水漏れを防ぐ役なのだろう。
マドリーは中盤の3枚が動き回ることで何とかプレッシングの回避を行う。一度チェルシーのプレスをかわして敵陣に迫ることができれば、比較的余裕を持ったボール回しはできてはいたが、そこにたどり着くまでに一苦労する展開。
モドリッチは縦横無尽に動き回り、カゼミーロはベンゼマの近くに寄りながらヘディングのターゲットになるなど、工夫は見せていた。だが、やはり比較的プレッシャーの少なかったSBからボールを運ぶルートを開拓できなかったこともあり、スムーズにチェルシーのプレスを外せない。
チェルシーはボールをもっても好調。3-2-2-3っぽく変形するチェルシーは中盤の数的優位を生かし、左サイドから持ち上がると、クロースの背後で受けるロフタス=チークを使う斜めのパスを活用する。マドリーが中盤の数的優位を使わせまいとラインを下げるとすぐさまボールを運んでくるリュディガーはマドリーにとってめんどくさい存在だったはず。
右サイドに展開するとSBのメンディをジェームズでおびき寄せ、その裏にハフェルツが入り込む形でマドリーの陣内に入りこむ。この動きは直近のリーグ戦のサウサンプトン戦の動きのエッセンスを取り入れたもの。サイドに流れる2トップと、右サイドで起点になるロフタス=チークのコンビネーションは週末の再来である。
押し込んで好機を作る中でチェルシーが先制ゴールをゲット。このユニット起用時のもう一つの特徴である3トップの横移動の流動性にややマドリーがついていけなかったのが致命的だった。
前線のベンゼマ、ヴィニシウスにボールを当てることができる陣地回復の手段がないマドリーは解決策を見つけられないまま押し込まれ続ける。すると、CKから今度はリュディガーが追加点。本来はCKになるということ自体が怪しい判定だったため、マドリーファンにとっては恨み深い1点となってしまった。
トータルスコアで追いついたチェルシーは後半も攻撃の手を緩めない。後半のマドリーは中盤が外へのヘルプに行きつつ、WGが下がる守備を増やすことで、チェルシーに前半使われまくったサイドからの裏抜け攻略のパターンを防ぐ。前半途中からメンディはあまりラインを動かされなかったので、ロフタス=チーク起用の効果は徐々に薄れていた。
こうなると苦しいのはしんどいのはチェルシー。サイドに1人で大外突破するがいないということ。静的な局面で壊せるほど優秀なワイドアタッカーはいない。
よって動き回って壊すしかない。そこで活路を見出したのは左サイド。ポジションを入れ替えながらマーカーを振り切るアプローチをかけたところで、左のハーフスペースから抜け出したのはヴェルナー。決定力不足に苦しんだストライカーが決定機を見事に沈めてチェルシーがトータルスコアで優位に立つ。
マドリーは反撃したいがこちらも難しい状況。決定的なミスを犯したメンディがVARのサポートによるハンド判定でなんとか救われたように紙一重の状況が続く。
だが、マドリーには苦しい状況にはめっぽう強いモドリッチがいる。逆境こそ正義の彼が演出したこの日のマドリーの1点目はアウトサイドにかけた美しいクロスによるもの。この日最も綺麗な軌道を描いたクロスはロドリゴの右足にピタリ。一瞬の隙を活かしてピンポイントのクロスを送り届けることができるのはあっぱれというほかない。
いつも思うのだけど、モドリッチのパスには受け手への明確なメッセージは込められている。この場面でいえば、裏に抜けてダイレクトで右足で合わせる以外の選択肢は取りようがないパスだ。メンディを破って枠に飛ばすことは当然困難が伴うし、そこはロドリゴのスキルなのだが、プレーの難易度とは別次元でシュートを選択すること自体は受け手にとっては簡単だったように思う。モドリッチのパスにはいつもそうした力が宿っているように見える。
モドリッチが苦境で活躍するのはおなじみだが、交代選手も躍動。得点を決めたロドリゴ以外にもカマヴィンカは途中から保持でアクセントを作る存在になり、1stレグ同様に存在感を見せた。
タイスコアに戻し勢いに乗るマドリーだが、ナチョが負傷交代。これで本職のCBは不在にとなる苦しい戦いに。困難が多すぎる。普段は慣れないCBに指名されていたカルバハルは奮闘はしていたが、やはりどうしてもハイボールのように物理的に届かないアプローチには苦戦する。
それでも、まだマドリーには幸運が残っていた。この日のチェルシーにはルカクが不在であったこと。アラバとカルバハルのCB相手ならルカク目掛けてハイボールを当てまくれば何かいいことはある気はするけども、この日はベンチにも不在。多分、今季一番必要なタイミングだったのに。
ここにきて大外の突破役とターゲット役が不在であることが重荷になったチェルシー。90分で決めたかっただろうが、試合の決着をつかず延長戦にもつれ込む。
これだけ激戦になるとヒーローは誰になるか?という話になってくる。ここはベルナベウ。そしてモドリッチがすでに活躍済みとなれば、残るヒーロー候補は1人だけしかないだろう。再三ファーで敵の背中を取る位置でクロスを待ち構えたベンゼマが96分についにゴールを手にする。モドリッチと並び立つマドリーのレジェンドがこの日のベルナベウのヒーローだった。
チェルシーはその後、攻勢に打って出て、何度もマドリーのバックラインを脅かすが、得点には至らず。最後までプレスでラインを下げることなく走りきったバルベルデには個人的には感銘を受けた。
終始優勢に進めていたチェルシーだったが、押し込まれるマドリーを救ったモドリッチとベンゼマに立ちはだかられた格好。近年のマドリーを象徴する生けるレジェンドの活躍により、前年王者の連覇の夢は準々決勝で途絶えることになった。
試合結果
2022.4.12
UEFAチャンピオンズリーグ
Quarter-final 2nd leg
レアル・マドリー 2-3 チェルシー
エスタディオ・サンチャゴ・ベルナベウ
【得点者】
RMA:80′ ロドリゴ, 96′ ベンゼマ
CHE:15′ マウント, 51′ リュディガー, 75′ ヴェルナー
主審:シモン・マルチニャク