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「FIFA World Cup QATAR 2022 チーム別まとめ」~クロアチア代表編~

目次

第1節 モロッコ戦

■整備された守備の賜物か、最後の局面の整備不足か

 どちらのチームもフォーメーションは3センターが逆三角形型に並ぶ4-3-3。ミラーのようでミラーでないフォーメーションの組み合わせで両チームは対峙することになる。

 相手にボールを持つことをより許容していたのはモロッコの方。トップのエン=ネシリのプレスの開始位置はアンカーのブロゾビッチが中心。クロアチアのCBにはボールを持たせる格好になった。

 モロッコほどではないにしてもクロアチアのプレッシングもそこまで前がかりではない。中盤からモドリッチが飛び出して前線のプレスに加わるパターンはあるものの、この辺りは決まりというよりモドリッチにタイミングを託されたアドリブ色が強いもの。レアル・マドリーでも見られる「いけると思ったら行ってもいいよ」くらいの制約のものだと思う。

 よって、まずは問われるのは互いの保持による解決能力である。モロッコのプランは外からボールを回していく形である。どちらのチームも基本的にはインサイドを閉めて、外でボールを回されることは許容していく形だったので、モロッコがボールを回す形を作るのはそこまで難しいことではなかった。

 サイドの崩しの主役となったのは右サイドのツィエク。パス交換からの動き直しからフリーになり、クロスを上げる間を取りながらPAにボールを放り込んだり、あるいは逆サイドに展開したりなど攻撃の起点になっていた。同サイドには大外を駆け上がることができるハキミもおり、モロッコは明確にこちらのサイドが強みという格好になる。

 しかしながら、この縦関係を強みにするための整備にはもう少し時間がかかるように見えた。ハリルホジッチ解任まで代表から長らく離れていたツィエクにとっては少し猶予が必要だろう。長いボールを蹴ることを囮としながら、ハキミの推進力を活かす形を作ることができるのはまだ先の話になるはずだ。

 クロアチアの保持はそれでも固めている中央でズレを作ろうというもの。CBがボールを運びながらモロッコの中盤を引き出し、空いたスペースにクロアチアの中盤が入り込みボールを引き取る。

 このプランを遂行するにおけるクロアチアの強みは3CHが均質的な役割をこなすことができること。どの選手も低い位置からボールを引き取ることができるし、ポジションをサイドや高い位置に動かしてもプレーができる。その分、個人個人が移動距離を長くしても許容ができる。その分、モロッコの中盤は受け渡すかついていくかを悩む部分が出てくるようになる。

 クロアチアは非常に慎重に試合を運んでいたため、中盤の選択肢の優先度はロストをしないポゼッションだった。その分、高い位置で前を向くトライは控えめ。前線や高い位置のサイドとの連携は薄く、ポゼッションからチャンスを作るのは難しかった。彼らがチャンスを作ったのはむしろ高い位置からモロッコの保持を引っ掛けたカウンターからの方が多かった。前半終了間際の大チャンスはクロアチアとしてはきっちり決めたかったところだろう。

 スコアレスで迎えた後半の頭、高い位置からプレスに行くようになったのはモロッコ。プレスを受けてもなお繋ごうとするクロアチア。近い位置でショートパスを繋いでのトライはモロッコのプレスに引っかかり、なかなか自陣から脱出することができない。後半の立ち上がりはクロアチアが中盤で捕まるシーンが多く、モロッコは敵陣内でプレーする時間が長くなった。セットプレーも含め、後半の立ち上がりはモロッコに最も得点のチャンスがあった時間帯と言っていいだろう。

 しかしながら、後半の立ち上がりを凌ぐと徐々にクロアチアがポゼッションを取り戻していく。中盤の移動は前半以上に多く、特にアンカーのブロゾビッチの左右に顔を出すことが増えるようになった。

 時間帯が進んでもバックラインが高い位置のチェイシングをやめなかったのもクロアチアの方だった。敵陣でプレーする機会を増やすための手助けになった。モロッコは試合終盤はこのクロアチアのハイラインを打ち破るロングカウンターに専念することになる。

 前後半を通じて、敵陣までは迫ることができてもそこからこじ開けることができなかった両軍。それが両チームのアタッキングサードにおける整備不足なのか、はたまたバランスが簡単に崩れない規律正しい守備の賜物なのかは残りのグループステージで答えが出るはずだ。

試合結果
2022.11.23
FIFA World Cup QATAR 2022
Group F 第1節
モロッコ 0-0 クロアチア
アル・バイト・スタジアム
主審:フェルナンド・ラパリーニ

第2節 カナダ戦

■先制点の懸念と数年の停滞を吹き飛ばす圧巻の攻撃陣

 敗れてしまえばカタールに続き2チーム目のグループステージ敗退になったしまうカナダ。絶対に負けられない一戦となる。初戦がドローで、3戦目にベルギーとの試合を控えるクロアチアにとっても状況としては似たようなもの。互いに勝ち点3を奪い合うサバイバルマッチだ。

 先にネタバレをしてしまうと、この試合はクロアチアが圧勝する。のだけど、手放しで「クロアチアすごいな!めっちゃ強いな!」と賞賛することができないのは開始早々に決まったカナダの先制点のせいである。起点となったカナダのGKからのフィードはそこまで狙い澄ましたものではないのだけど、クロアチアのバックラインが自動的にロングボールに対して下がった対応をしたせいで簡単にカナダの前線はスペースを得ることができていた。

 ボールが収まったカナダはサイドに展開し、ファーのクロスを入れてあっさりと先制。前節は勢いを持った入ったものの手にすることができなかった先制点を早い時間帯に得ることに成功する。

 クロアチアのバックラインの淡白な対応はこのシーンに限らない。バックラインはカナダの前線にアプローチするよりもリトリートを優先。そのせいでクロアチアはMF-DFラインが間延びしており、かなり簡単にカナダにチャンスを与えていた。グバルディオル、ロブレンの対応ははっきり言って不可解であり、この部分だけでも決勝トーナメントでは致命傷になるレベルと言えるだろう。試合が進むにつれて落ち着いた部分ではあったが、彼らの能力が低いわけではないので、なんでもそもそもそうなった?の部分がよくわからない怖さはある。

 しかしながら、この日のクロアチアは守備面での懸念をあっさりと打ち消すレベルのボール保持を見せる。カナダは2トップが中盤の受け渡しをしながらCHと連携し、相手を捕まえにいくがこの部分で劣勢に陥ってしまったのがクロアチア優勢の原因だろう。

 モドリッチ、コバチッチ、ブロゾビッチの3人のCHはクロアチアの中でかなり自由に動き回る裁量を与えられている。どの選手も低い位置でプレーができる選手であり、ビルドアップにおいては比較的均質的。それぞれがポジションを入れ替えても無理なくプレーをすることができる。

 そうした均質性ゆえにクロアチアのCHはポジションの入れ替えに寛容である。彼らの実績もそうした自由度の高いプレーの許容に寄与しているのは間違いない。この動きに対してカナダの中盤はついていくことができなかった。受け渡すのか、ついていくのか?の判断の連続に完全に後手に回ってしまい、クロアチアは中盤がフリーでボールを受けることができていた。

 中盤がフリーで持つことができたことで自在に前線に展開ができたクロアチア。左サイドに張るペリシッチもかなり高いパフォーマンスを見せたと言えるが、なんと言ってもこの日輝いていたのはクラマリッチ。右に張るというよりはストライカータスクで圧倒的に輝きを放っていた。

 クラマリッチはボールを収めると卓越したボールコントロールでカナダの守備陣を無力化。難しいボディコントロールから際どいコースのフィニッシュまでなんでも来い!というイケイケのものだった。動き直しを繰り返しでフリーになり続けるモドリッチを相棒に、カナダ陣内で大暴れを続けてみせた。

 アタッキングサードでの攻撃の流麗さだけで言えば、この日のクロアチアは大会最高クラスだったと言える。後半もこのペースは変わらず、クロアチアは流れるような攻撃で得点を重ね続けている。

 カナダの守備は(前半のクロアチアほどではないにせよ)確かにコンパクトさに欠けていたとはいえ、ここまでやられるのは完全に想定外。この日のクロアチアに当たってしまったのは不運で片付けてもいいレベルなように思う。後半は3バックにシフトしたことでやや押し返すことができていたが、それでもクロアチアペースをひっくり返すことができなかった。

 守備への若干の不安を見せつつ圧倒的な攻撃力でカナダをペシャンコにしたクロアチア。不安定さを伴う爆発力がトーナメントでどう転ぶかは読みにくいが、EUROやW杯第1節で感じた消化不良感を払拭する躍動したフットボールを彼らが見せたことだけは確かである。

試合結果
2022.11.27
FIFA World Cup QATAR 2022
Group F 第2節
クロアチア 4-1 カナダ
アル・バイト・スタジアム
【得点者】
CRO:36′ 70′ クラマリッチ, 44′ リヴァヤ, 90+4′ マイェル
CAN:2′ デイビス
主審:アンドレス・マトンテ

第3節 ベルギー戦

■ルカクの日ではなかった

 立ち上がり数十秒のペリシッチのシュートからの幕開けはこの試合の激闘を予感させるものだと言えるだろう。序盤にテンポを握ったのはクロアチア。中盤からの鋭い縦パスと高い位置からのプレスでプレーエリアを高く維持することに成功するスタートとなった。

 15分過ぎにはPKを獲得したクロアチア。内容良好!あとはリードを奪うだけ!という状況まで漕ぎ着けることに成功するが、VAR側からのサポートはこれはオフサイド判定に。飛び出し方の際どさを見ればクロアチア側がテクノロジーの存在を恨んでも仕方がないくらい厳密な判定であった。

 このPK以降は落ち着きを持って試合を進めることに成功したベルギー。ボール保持においてはムニエを一列前にあげる3バックを採用する。これまでのグループステージにおけるベルギーはどこか前後分断感が否めなかったが、この試合では比較的バックラインとDFラインから全体を押し上げる意識を持ってボールを進める一体感があったと言えるだろう。

 特に右サイドの崩しはなかなか。大外をとるムニエにインサイドのサポート役にデ・ブライネ、トロサール、メルテンスが代わる代わる出たり入ったりするローテーションにはクロアチアはやや混乱気味。CBの能力の割に、出足を思い切りよくいけないというクロアチアの今大会のウィークポイントをうまくつくことができていた。

 逆サイドではカラスコが躍動。カットインと縦への進撃を使い分けながら1人でエリアまでボールを運んでいく。ただし、この日のベルギーのインサイドには高さがない。よって、入れるクロスの質にはこだわる必要がある。鋭いグラウンダーのクロスを入れることができれば、クロアチアがブロックを組んでいてもベルギーには十分なチャンスがあった。

 一方のクロアチアにも保持からの前進のルートは存在していた。ベルギーは非保持では4バック気味だが、4-3-2-1なのか4-4-2なのか判然とし難い。デ・ブライネの守備のタスクが甘い分、やや全体の陣形の維持は甘くなっているようにも見える。

 中盤の守備のタスク管理が甘い分、ベルギーはクロアチアの中盤を捕まえきれず。フリーでボールを持つことができれば、大きなサイドの展開ができるクロアチアの中盤。ピッチを綺麗に横切り、WGにボールを届けることができればチャンスになる。

 どちらもエリアに迫る手段はあったが、プレスがうまくハマらなかったり、そもそも控えめだったりなどで機会の差が生まれず。このあとどちらに試合が転ぶかが読みにくい前半だった。

 後半、ベルギーはルカクを投入。ターゲットマンを入れることで、前半は許容することができなかったハイクロスを入れることができるようになった。メルテンスがいなくなった分、右サイドの流動性の減少が気になるところではあったが、早々にクロスを上げて見せたことでその部分も問題ないことはすぐにわかった。

 だが、後半のクロアチアの左サイドの守備ブロックは強力。グバルディオルはクロスをニアで跳ね返しまくるマシーンとなっていたし、ソサも粘り強い対応を見せていた。

 この両者は保持面でも素晴らしいパフォーマンス。特にグバルディオルは最終ラインからのボールの運び出しでも別格な出来を見せていた。クロアチアの後半の攻め手は左サイドに集約。左のハーフスペース付近でフリーでもった選手がエリア内のクロスと大外のソサの2択で揺さぶりながらベルギーの陣内に迫っていく。サイドチェンジも自由自在。大きな展開に振り回されるベルギーにとってはヴィツェルのカバーリングとクルトワの安定したキャッチングが命綱になっていた。

 しかし、ベルギーも攻撃的なタレントを投入し総攻撃を仕掛ける。ドク、アザール兄弟、ティーレマンスなど中盤よりも前の選手を入れて決勝進出に必要な1点を取りに行く。

 だが、ことごとく訪れるチャンスをルカクが決めることができない。明らかにフリーな決定機が2,3回ほどあったが、いずれのシュートもミートできず。明らかに彼の日ではなかった。

 ビックチャンスを作りつつ、最後まで仕留めることができなかったベルギー。前回3位に入ったグループFの本命は最終節で勝利をあげることができず、早すぎる敗退を喫することとなった。

試合結果
2022.12.1
FIFA World Cup QATAR 2022
Group F 第3節
クロアチア 0-0 ベルギー
アフメド・ビン=アリー・スタジアム
主審:アンソニー・テイラー

Round 16 日本戦

スタメンはこちら。

■GSと比較すると『普通』の振る舞い

 参加国の中でもかなり積極的にメンバーを入れ替えながら大会を勝ち進んでいる日本と、ここまで起用人数は16人と固定メンバー感を強く打ち出しながら戦っているクロアチア。ここまで方針は対照的ながら、このラウンドのスタメンはともに第3節の形をベースに組まれている。数人の入れ替えはあるが、どちらのチームもGSの基本システムだったと言ってもいいだろう。

 スペイン戦はボールを持たれる側として過ごす時間が大半だった日本。クロアチアに対しては比較的積極的なプレッシングでスタートする。前田がバックラインまでプレスをかけれるか否かがハイプレスの境目になるのは同じである。

 クロアチアならばスペインよりはいけるはず!と日本の3トップは積極的に前に捕まえにいくが、その目論見はあっさりとクロアチアの中盤に破られることになる。マークの受け渡しの隙にフリーになったブロゾビッチにいとも簡単に広いスペースに展開を許すと、日本は早々にハイプレスを諦めることになる。前田のプレス開始位置はブロゾビッチまで下げるように。

 クロアチアはフリーになったCBのグバルディオルとパスワークからマークを外す中盤から前進のチャンスを得る。しかしながらその先がパッとしないこの日のクロアチア。インサイドへの縦パスは待ち構えるように網を張っていた日本の中盤とバックラインによってカウンター発動のきっかけにされるように。

 ペトコビッチへのロングボールをシャドーと中盤で拾いにいく形も画策するが、日本の空中戦は板倉不在でも簡単には負けず。PA内で空中戦を挑まれることもあったが、屈しなかったのはさすがといえる部分。クロアチアのサイド攻撃の主軸をになっていた左サイドもソサのサポートなしではなかなか効果的に機能することがなかった。

 日本がボールを持った局面でまず目についたのは普通にやっていたことである。カウンターも極端に縦に急ぐわけではなく、サイドに一度ボールを逃しながら攻略できるところを見定めつつボールを前進させることが多かった。直線的にゴールに向かうことが多い前田もこの試合ではサイドに流れる機会が多かった。前線が前からのプレッシングを試みたのもそうだが、極端だったGSの振る舞いに比べてクロアチアに対しては普通の状態で振る舞おう!という部分が見てとれた。

 ボール保持で日本が積極的に狙っていたのはブロゾビッチの両脇のスペースである。クロアチアの3センターに対して遠藤、守田、堂安、鎌田の4枚が中盤を形成する日本はこのエリアで数的有利。堂安がいつもよりインサイドにいる理由はワイドを任せられる伊東が右のWBであると言うことだけでなく、クロアチアの狙い目に沿った立ち位置を取るためだろう。

 バックラインの狙いはこのスペースにいる堂安と鎌田に縦パスを刺すことである。彼らが反転することから日本は前進のきっかけを迎えるようになる。

   ただし、ここから先に難があるのはクロアチアと同じ。鎌田が反転し、前を向いて左サイドに展開すると、そこには長友が。形としてはおいしいが、長友が左サイドでアイソレーションという状況は厳しい。彼は彼なりにいっぱいになっているが、これ以上望むのは酷だろう。左サイドでアイソレーションを作ることができるのはいいことだが、その出口が長友でいいのか?という問題に直面する日本だった。

 その分、逆サイドは光があった。右サイドは伊東が大外でバリシッチとデュエル。後方の冨安のパス供給からスピード勝負に持ち込むと、対面で優位を奪う。伊東が抜き切らないクロスを上げると、インサイドでは前田が待ち構える。日本はクロスに枚数をかけることができてはいなかったが、前田がロブレンを出し抜く動きだしをすることができていたので、ゴールを脅かすシーンを作ることができていた。

 20分もすると徐々にクロアチアが形を変えてくる。ハーフスペースでボールを受ける機会が多かった堂安に対して、CBからグバルディオルが出てくることで方針が固まった様子。前半の途中から容赦なく潰しに来るようになった。これにより、右サイドからのチャンスメイクは少しずつ難しくなる。左サイドでは鎌田がフリーでボールを持つことができてたはいたが、出口が長友になっているうちにはクロアチアは特に警戒を強める必要はないという判断だろう。

 立ち上がりは前田にやや気圧され気味だったロブレンも時間の経過とともに間合いが取れるようになってきた。ボール保持においてもクロアチアはインサイドにボールを刺す回数を減らしつつ、右のハーフスペースをバックラインから裏抜けで狙う形を増やす。これにより、日本はカウンターのきっかけも摘まれるように。クロアチアの対応策により、日本は徐々にチャンスメイクが停滞していく。

 とはいえ、クロアチアもチャンスメイクが改善したわけではないので、展開としてはチャンスが少ない停滞した流れになっていく。そうした中で日本は先制。ショートコーナーからの工夫により、堂安のクロスからの折り返しを最後は前田が合わせて日本が先手を奪う。均衡した状況の中で先制点を奪うことができたのは日本にとっては幸運な展開と言えるだろう。

■三笘シフトの対応策が必要なフェーズ

 リードを奪うことができた日本だが、悩ましい部分はある。それは左サイドの長友の取り扱いである。左サイドでアイソレーションを作れているという部分で言うと、この形をそっくりそのまま三笘に提供できたのならば流れは変わったのでは?と思う人が多くてもおかしくはない。

 ただし、この日の長友は自陣での守備での貢献度が高かった。いくら三笘が空中戦で粘ることができるとは言っても、自陣での守備に関しては長友の方が上だろう。さらにこの日はリードをしていると言う状況。ゲームチェンジャーの出番をもう少し待つと言う判断は理解できるものである。

 交代を見送った日本は前半と陸続きの後半を迎えることになる。プレスラインはブロゾビッチからスタート。ブロックの手前ではボールを持つことを許しつつ、インサイドを閉じるというスタンスで撤退守備を受け入れる。

 よって、後半も両チームにはチャンスが少ない展開が続いていく。そうした中で同点ゴールを決めたのはクロアチアである。右サイドからのクロスにペリシッチが合わせて同点である。

 このヘディングはすごくうまいなと思った。ペリシッチはボールに合わせにいくのに、ゴールラインと平行方向に移動しながら相手のマークを外し、真横にあるゴールに正確に威力十分のシュートを打っている。

    移動の距離自体はそんなに大きくはないが、わずかでも平行方向に移動されると、マークする伊東にとってはインサイドの冨安が邪魔で深追いをすることができない。バスケでいうところのスクリーンプレーのような形になっている。冨安にとっても死角から飛び込んでくるプレーになるので対応は難しい。この動きに加えて正確なシュートを打たれるとDFとしては詰みだろう。仮に防ぐことができるとすればクロスを上げる方だったかなというゴールであった。

 さて、このゴールでファーサイドにクロスを上げることに集中することにしたクロアチア。クロスをファーで待ち構える枚数を増やしながらシンプルに高さで殴っていくテイストは前半よりも増した印象だ。

 同点にされたということで日本は交代で変化をつける勇気を振り絞りやすくなった。三笘と浅野の投入はもはや本大会の戦い方におけるお約束と言ってもいいだろう。左サイドは三笘を軸としたボール保持で、右サイドは浅野(と終盤右サイドに戻った伊東)の裏抜けでというのが彼らに託された役割だろう。

 三笘の投入でクロアチアの守備のスタンスは大きく動く。遅れて投入されたパシャリッチは対面の三笘をきっちりマーク。後方にユラノビッチとモドリッチがスライドする形でドリブルで三笘が蹴り出したいスペースをあらかじめ埋める選択をした。このスライドにより、三笘にボールを預けての行ってこいは沈黙。クロアチアは日本を止めるだけでなく、中盤でミスが起きればそのままカウンターで差し込むという気概も見せるようになっていた。

 日本はボール保持でこのクロアチアのスライドの裏をかきたかったところ。この変化により、モドリッチがサイドに引っ張られる分、日本は中央での攻略がしやすくなる。3バックの左である谷口が80分手前に放った中央を狙うパスは三笘シフトで全体の陣形が歪んだクロアチアを攻略するためのヒントになる。三笘シフトで動いていたクロアチアを攻略出来そうな一刺しだった。

 しかしながら、こうした中央での崩しをチームに求めるのならばCFは浅野よりも上田だろう。三笘にボールをどう渡すか?から三笘シフトを敷いてきた相手に対応できるか?に求められる成分は変化したように思う。三笘に投入によって空いた中央のスペースを活かすためにはCFのカラーが少し違ったように思う。右サイドでドイツ戦の二匹目のドジョウを狙うというプランもわからなくはないので一概にこの交代が悪いとは言い切れないが、少なくとも空いた中央のスペースでのコンビネーションの部分ではこの日の浅野が不満の残る出来であったのは確かだろう。

 交代のプランをうまく機能させることができない日本。ボール保持の局面についてつらつら書いていたが、特にクロアチアに対してプレスを強めたわけではなく、クロアチアからボールを取り上げることができるわけではなかったので、ボール保持の機会の場面においてもなかなか盛り返すのは難しかった。

 終盤は右の酒井へのロングボールと、なぜか急に冴え渡った権田の素早いリスタートにより日本はチャンスを迎えていた。右サイドへのロングボールからの陣地回復はスペインの2点目の焼き直し。酒井の投入は明らかにこれの再現を狙ったものだろう。それだけにファウルを取られてしまったことは痛恨だった。

 リズムを変えることができないまま延長戦に突入した両チーム。クロアチアもモドリッチを下げるなど、サイドを変える術を失ったため、日本は終盤にクロアチアの攻撃を同サイドに閉じ込められるようにはなっていた。そのため、クロスに対応する枚数を削って前線に選手を入れるのもアリだったが、森保監督はそうした決断をせず。追加タイムでも得点を奪えなかった両チームの戦いはPK戦までもつれ、これを制したクロアチアがベスト8に進出した。

あとがき

■クロアチアに対する強みはどこなのか?

 スペイン戦やドイツ戦と異なり、日本は勝負のポイントを作ることが難しい状態で終盤まで過ごしてしまったように思う。クロアチアに対してゲームはGSの試合ほど局面が何かに偏ることなく、「普通」の展開で流れが進んでいったので、ゲームをこれ以上動かすための交代として背中を押すものがなかったのかもしれない。日本は後方の枚数を増やす交代はやっていても、削る交代(伊東と三笘のWB起用をカウントしないならば)は今大会ではやっていない。

 もう少し、スタメンで差をつけられるならばいうことなしだろう。ただ、日本は他のチームと比べて交代策で変化をつけることでこの大会を勝ち上がってきた節があり、固定メンバーでの運用の色が強いクロアチアに対して、強みを出すならばここだったかなという結果論的な感想を抱いている。ちなみに三笘の投入に対するクロアチアのリアクションは明確だったので、ハーフタイムに仮に三笘を投入したとしても日本は同じ問題に直面する時間が早まっただけだろう。

   よって、議論の余地があるのは余らせた最後の1枠である。上田の投入はPK戦と地上戦での決着の両睨みができる判断だったように思う。バックラインのクロス耐性(もしくは途中交代の浅野)を捨てる勇気があれば、そもそもキッカーが少ないメンバーによるPK戦の手前で決着をつけられる可能性も上がったかもしれない。

    ただ、この変更を実施した場合、当然クロスでやられる可能性は高まる。こうした決断は4年前にロストフで学んだ教訓による重石を自ら振り払う格好にもなりかねない。今大会の日本の強みと前大会の反省がバッティングした結果、森保監督は動かない決断をしたと言うことだろう。

試合結果
2022.12.6
FIFA World Cup QATAR 2022
Round 16
日本 1-1(PK:1-3) クロアチア
アル・ジャヌーブ・スタジアム
【得点者】
JPN:43′ 前田大然
CRO:55′ ペリシッチ
主審:イスマイル・エルファス

準々決勝 ブラジル戦

■大会のトレンドに沿った前半の流れ

 優勝大本命であるブラジルが日本を下したクロアチアと戦う試合から準々決勝はスタート。グループ後半側の両チームはかなり日程がきつい状況だが、ここまでくると大幅にスタメンを入れ替えることはなし。どちらのチームも多くのメンバーをRound16からキープしたまま臨む。

 Round16で韓国を電光石火で下したブラジル。だが、試合の内容を見てみると韓国にけしかけられる形でのペースアップというのが実情だろう。韓国が4-4-2で前線がプレスに来たからこそ、それをかわす流れでゴールに早い時間からゴールに迫ることができていた。

 クロアチアは韓国に比べればそうしたプレスの意識が特別高いわけではない。よって、ブラジルは韓国戦と異なり急ぐことはなし。バックラインから繋ぎながらチャンスを伺っていく。唯一、プレスの意識が明確に変わったように思えたのはモドリッチ。中盤から出ていくプレスのスイッチ役として奮闘。カゼミーロのマンマークをやりながら時には穴を感じさせずにバックラインにまでプレスをかけにいくバイタリティは恐ろしい。

 自陣に押し込まれた後のクロアチアの守り方は日本戦で三笘が出てきた後のイメージと似ていただろうか。ヴィニシウスに合わせるように全体がブラジルの狭いスペース側に圧縮をかけるように左サイドにスライドしながらスペースを消していく。ヴィニシウスにはパシャリッチがマークし、斜め後方に抜かれた時の際にモドリッチが待機しているという二段構えでヴィニシウスに挑む。

 日本はこうしたクロアチアのプレスに対して、狭いスペースの圧縮で発生する中央のスペースまで展開することができずに苦しんでいたが、ブラジルは狭いスペースは狭いスペースのままで攻略していた印象。ヴィニシウスやネイマールがスペースに突っ込みながらそのまま打開するという反ポジショナル的な発想で開拓に挑む。リシャルリソンまで絡めたポストからの抜け出しでブラジルがないはずのチャンスをいつの間にか作り出している。そんな流れのブラジルのチャンスメイクだった。

 一方のクロアチアはバックラインからゆったりと保持の機会を確保。ブラジルがきっちりとハメ切るプレスを仕掛けてきたわけではないので、クロアチアはのんびりと中盤を外しながら前進する。

 ブラジルの守備で気になったのはフラフラと前に出ていく2列目のプレス。後方がろくについてきていないのに不用意に前向きのプレスを仕掛ける姿勢はクロアチアにとって美味しい以外の何者でもない。モドリッチ、ブロゾビッチ、コバチッチの3枚はブラジルのプレッシングのスピード感に十分対応しながら自陣からボールを脱出させていた。

 トランジッションにおいて好調さが光ったのは右サイドのユラノビッチ。対面のダニーロの裏を取る形で攻め上がりを行っていた。右サイドからの攻撃のアクセントとして機能していたと言っていいだろう。

 クロアチアはボールを持てばプレスを回避できるが、ゴールに向かうまでには至る感じはしなかった。インサイドでは制空権が握れるわけではなく、ブラジルは余裕を持って跳ね返すことができる。ブラジルにとっては難しい状況。チャンスは作れていないわけではないし、クロアチアがゴールに迫る様子もない。別に急いで改善をする必要もない。

 ゴールには迫れていないが、ボールを持てていてブラジルの攻撃の時間を減らすことができるという状況はクロアチアにとっても悪くはない。悪くはない状況であれば、リスクを冒さない!というのはこの大会におけるトレンドである。どちらのチームも悪くないこの状況を受け入れながら時計が進むのを受け止める。そんな前半の45分だったと言えるだろう。

 後半の頭、仕掛けたのはブラジル。畳み掛けるようにゴールに迫り、クロアチアに冷や汗をかかせる。しかしながら、クロアチアはCBの両雄が強力。体を投げ出しつつ、広い範囲をカバーできるグバルディオルは特に厄介で、彼をどかすことができなければブラジルはチャンスを作ることができない。

 それを超えたとしても待っているのはGKのリヴァコビッチ。日本戦ではPKストッパーとして活躍したリヴァコビッチだが、ブラジル戦では流れの中でも存在感を発揮。抜け出したブラジルの選手に対して、シュートコースを消しながら飛び出し、ことごとくチャンスを防いでいた。

 ブラジルはチャンスを作りながらもゴールを得ることができない。気がかりだったのは即時奪回に甘さが見られたこと。確かにクロアチアのプレス回避は圧巻ではあったが、それでも押し込んだチームにとっては即時奪回からの波状攻撃は非常に有効なチャンスを掴むきっかけになる。ブラジルの前線はそうしたセカンドチャンス創出のための汗をかく動きが少なかった。

 前線の選手交代によってブラジルの停滞はさらに強まった印象。大外でアイソレーションする役をヴィニシウスからロドリゴに代えたが、ユラノビッチに対して優位を取ることができない。逆サイドのアントニーもやや強引な攻め筋が目立った。狭いスペースに対してつっかけるという前半は力技でねじ伏せてきた部分が徐々にこの時間からマイナスに触れてきた。

 逆に動き回るWGに対してついてくるクロアチアの選手が空けたスペースにパケタなどが走り込むことができればチャンスになる。ブラジルはアントニーがボールを持った時よりも、彼を囮に使えた時の方がうまく攻撃が流れていた印象だ。

 ブラジルの攻撃さえ終われば、きっちりボールを持つことができたクロアチアもゴールが遠い。単発でのプレスからカウンターが発動できそうな形を作ってはいたが、直線的にゴールに迫る手段は皆無。それを理解していたかのように、端から急がすに落ち着かせながら押し込む流れになった。ロブレン、ブロゾビッチが流れながら保持のサポートをする右サイドは中でも安定感が光る。押し込んだ状態からロブレンがクロスを放り込む形は日本戦のリバイバルである。

 しかしながら、クロアチアは空中戦で勝機を見出せないという状況は変わってはおらず。得点が取れる香りはしないまま時間だけが過ぎていく。

 膠着気味になった延長戦で躍動したのはネイマール。中央をこじ開けるという狭いスペース狙いの前半に近いスタンスでクロアチアのブロックを破壊。強固な最終ラインを飛び越え、飛び出してきたリヴァコビッチもかわし、厳しいコースにボールを蹴り込み先制点を奪う。

 長い時間通してゴールに迫ることができなかった分、クロアチアの反撃の目はあまりないように見えた。モドリッチとペリシッチの2人が流れる左サイドにクロスを上げる機能を集約し、ひたすらエリア内にボールを入れていく。

 それでもなかなか打開できないクロアチアはクロスを上げる機能に特化した左サイドにオルシッチを投入。すると、このオルシッチが左サイドから抜け出す形からワンチャンスを決めたクロアチア。ペトコヴィッチのシュートはDFに跳ね返り、アリソンの手が届かない位置に吸い込まれていった。

 120分では決着がつかなかった試合はPK戦にもつれ込む。まるで試合前のような涼しい表情でPK戦に臨んでいたリヴァコビッチと中央に連続で蹴り込む強心臓ぶりを見せたキッカーの活躍により、クロアチアがPK戦を制し大本命のブラジルを止めてみせた。

あとがき

 勝負どころを先送りにしていたブラジルからするとしてやられた感があったはず。エンジンをかけるタイミングを見失いながら、だらっと時間を過ごしてしまいクロアチアに時計の針を進められてしまう場面が多かった。試合が進むにつれて集中力が増していったクロアチアの中盤より後ろに比べると、ややブラジルは淡白さが目立った。

 それでも、ネイマールにこじ開けられた時は「終わった」と思った人も多かったはず。ほとんどシュートが打てていない状況から、クロアチアに1点を奪うというミッションを強いるところまでは悪くはなかったがワンチャンスを沈められてしまった。

 エンジンをかけきれない理由としてはクロアチアのプレス耐性の強さが挙げられるだろう。軽い気持ちでクロアチアの保持を深追いすればダメージと消耗の盛り合わせとなってしまい、スカッドに疲労が溜まってしまう。そうしなくても良さそうな戦況ゆえに、勝負所を見送り続けた結果、いつの間にかPK戦に臨んでいたのは少し勿体無いように見えた。そういうところに持ち込むのがクロアチアのしぶとさなのかもしれないが。

試合結果
2022.12.9
FIFA World Cup QATAR 2022
Quarter-final
クロアチア 1-1(PK:4-2) ブラジル
エデュケーション・シティ・スタジアム
【得点者】
CRO:117′ ペトコビッチ
BRA:105+1’ ネイマール
主審:マイケル・オリバー

準決勝 アルゼンチン戦

これはメッシの物語

 ここまで4-3-3でのオールタイム固定フォーメーションで戦ってきたクロアチア。固定メンツ上等!という形で準々決勝と同じメンバーでアルゼンチンに挑む。一方のアルゼンチンはクロアチアに比べるとあらゆるフォーメーションを試している節が強い。この日は4-4-2でメッシを2トップの一角に使うやり方を採用した。

 どちらのチームもボール保持と非保持では異なるフォーメーションを採用していた。アルゼンチンの保持の局面はマック=アリスターが前に出る形で4-3-3にシフトする。アルゼンチンのビルドアップはSBはあまり関与せず。CB2枚にマック=アリスター以外の中盤3枚が加わる形でビルドアップ隊を形成する。

 クロアチアはこのアルゼンチンの保持に対してSHのパシャリッチを1列下げる5-4-1の形で対応する。ここまでパシャリッチは三笘、ヴィニシウスと各国のエースアタッカーにぶつけられる起用が多かったが、この試合ではSBのタグリアフィコを軸に高さを変えていた印象。これまでの起用法とは少しテイストが異なるものだった。

 オランダほどではないが、アルゼンチンの攻撃もメッシを軸とした中央のパス交換をスタートとして、どんどんテンポをあげて加速していく傾向がある。パシャリッチを下げた分、DFを中央に集中させる形はそうしたアルゼンチンに対する対策と言えるだろう。

 一方のクロアチアは4-3-3に対して、アルゼンチンが4-4-2でがっちりと組む形。クロアチアと同じく、保持時と比べると列を下げる選手が何人かいるという印象である。

 どちらも非保持時はきっちり後ろを固める形を選択したため、ボール保持側は打開策を見出すのに非常に苦労する。というわけでともにより狙い目を絞りながら攻略法を探ることになった。

 クロアチアの狙い目はアルゼンチンがプレスに出てきたタイミングである。アルゼンチンのプレスのスイッチはメッシを追い越すように飛び出してくる中盤の選手になる。特にデ・パウルがこのスイッチ役を担うことが多かった。こういう1つ間違えると全て壊れる役割をアトレティコ勢が担うというのはビックトーナメントではあるあるである。

 このデ・パウルが出ていくスペースを虎視眈々と狙っていたのはコバチッチ。モドリッチ、ブロゾビッチとのパス交換から1つ高い位置を取り直し、空いた中盤のスペースをドリブルで侵攻していく。SHのパシャリッチがいつもよりも低い位置を大事にしている分、コバチッチは普段よりも敵陣に進撃していくスタンスを強めていた。

 一方のアルゼンチンの狙い目はポジトラ。ポゼッションで最終ラインを押し上げるクロアチアに対して徹底的に裏を狙っていく。アルゼンチンがニクいのはメッシをグバルディオルに当てることで、他のカバーに出ていけないようにピン留めすることである。

 メッシによるグバルディオルの隔離が成功した煽りを受けて徹底的に狙われることになったのはロブレン。アルバレスをはじめとするアタッカー陣にスピード勝負を挑まれることになる。

 停滞した局面においてはボール保持側は苦悩するが、こうした瞬間では前進の隙は生まれる。この瞬間を制したのはアルゼンチン。アルバレスがロブレンを振り切って抜け出すと、飛び出してきたリヴァコビッチが止まりきれずにPKを献上。ややクロアチアには厳しい判定ではあったが、原判定がPKならば覆ることはないだろう。

 PKを献上してしまったのはリヴァコビッチだが、痛恨だったのはロブレンの方。明らかにDFラインから1人浮いている動きをしており、この動きを正当化するためには意地でもアルバレスを離してはいけなかった。

 瞬間を狙う同士の対戦はリードした方に一気にゲームが傾くケースが多い。なぜならば、追いかける側がかけるリスクが増大したり、仕掛ける頻度が増えたりするから。その分、リードをしている側が隙をつきやすい。

 アルゼンチンは前半のうちにさらに突き放す。クロアチアのコーナーキックを引っ掛けたところから一気にカウンターを発動。加速したアルバレスがソサをなんとか追いていき、実質1人で完結してみせた。間接的にフリーランでDFを釣ることに貢献したのはモリーナ。またしてもアトレティコ勢である。

 2点のビハインドを背負ったクロアチアにとっては非常に厳しい展開に。彼らはここまで先制された3試合全てで追いつくことに成功しているが、それは局面を制御しながら、何が起きてもおかしくない点差でスコアを終盤まで推移させることに成功していることが理由である。今大会初めての2点差のビハインドは彼らにとっては重たい。

 ハーフタイムの2枚交代に加え、後半開始早々にはブロゾビッチを下げて4-4-2に移行。ブロゾビッチには負傷のリスクがあったと試合後に語られていたことを踏まえると、100%戦術面での交代ではないだろうが、彼らなりにパワーを出していこうというプランが見て取れる。ゲームメイクをモドリッチとコバチッチに集約し、中央の的を増やしながらアルゼンチンの守備の打開を狙っていく。

 中央にパスを当てる形はうまく行った時の旨みはあるが、その分のリスクも大きい。先ほどのコーナーにおける陣形もそうだが、こういう部分がアルゼンチンが狙える隙となる。クロアチアのボール保持のスキルは錆びつかないため、CHが2人になっても大きく保持の機能性は落ちることはなかったが、仕掛けを求める状況が増えた分、アルゼンチンのチャンスもまた増えていく。

 そして、試合を決める3点目を生み出したのはメッシである。右サイドからグバルディオルと対峙すると、緩急を使ったステップでグバルディオルをいつの間にか置き去りに。中央のアルバレスにラストパスを送り試合を完全に終わらせる3点目をゲットした。

 3-0という得点差ももちろん大きいものではあるが、それ以上にメッシがグバルディオルを引きちぎったことが大きなダメージとしてクロアチアに襲いかかる。この大会であらゆるチームの有力なアタッカーを止め続けた新進気鋭のストッパーを老獪なメッシが圧倒したことで、クロアチアの心は完全に折れてしまったように思える。

 個人的にはメッシをグバルディオルにぶつけて孤立したロブレンからゴールを奪うというのはいいプランだなと思ったが、メッシ側で圧倒的な優位を作ってゴールを生み出すとは想像していなかった。つくづく自分の想像力はつまらないし、現実のサッカーは面白いものだと痛感する。

 終盤はアイドリングしながら心の整理をつけていった両チーム。アルゼンチンは決勝を見据えて、クロアチアは3位決定戦に向けて切り替えるように時間を過ごし、落ち着いた気持ちでタイムアップの笛を迎えることとなった。

あとがき

 クロアチアの今回のW杯の総括は難しい。ここまでの6試合で1勝4分1敗。相手に付き合いつつ、中盤のプレス回避能力を盾に相手に引き込まれないというファジーさでは大会屈指。クロアチアのそうしたスタンスは全方位型のスキルが求められるという今大会のトレンドと合致するものがある。

 しかしながら、クラマリッチが大爆発したカナダ戦以外は相手陣に向かってチャンスを作る頻度が少なかったのは問題である。最も与し易い相手なはずの日本戦ですら勝ちを確実に引き寄せられるほど、チャンスの数に差があったわけではない。

 それでもブラジルにノックアウトラウンドで勝利し、2大会連続のベスト4なのだから明らかに課題よりも賞賛が先に来るチームであるだろう。だが、課題も浮き彫りになった6試合と迫り来る世代交代の波にどう向き合うかは気になる部分である。

 アルゼンチンは強かった。1点目が入ると流れるようにプレーするという今大会の彼らの特徴はこの舞台でも遺憾なく発揮。得点がどんどんメッシを神にしていくし、ラウンドを増すごとに凄みを増すのだから恐ろしい。2得点+先制点のPK奪取となったアルバレスの貢献度も素晴らしいが、やはりどうしてもメッシに目がいってしまう。

 コパ・アメリカとはメンバーは違うが、メッシのために死力を尽くせるという点では同じようにコミットできる選手が揃っている。悲願まであと1つ。メッシのサッカー人生の集大成となる念願のタイトルまで残り1勝である。

試合結果
2022.12.13
FIFA World Cup QATAR 2022
Semi-final
アルゼンチン 3-0 クロアチア
ルサイル・スタジアム
【得点者】
ARG:34′(PK) メッシ, 39′ 69′ アルバレス
主審:ダニエレ・オルサト

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