■システムと役割の不一致
同じ4-4-2ではあるが、中盤の構成は神戸が菱形、名古屋がフラットという形だった。構造的にパスコースを作りやすいのは神戸。斜めの組み合わせになる選手が多く、近くへのパスコースを作るのには困らなかった。
名古屋のプレスはアンカーを2トップが受け渡す形で交互にマーク。機を見れば中盤が飛び出していき、そこから一気にボールを奪い返しにかかる。だが、名古屋はFWとMFのライン間のコンパクトさがないため、いくら走力がある稲垣とレオ・シルバのコンビですら、出ていくものの間に合わないシーンが増えていく。
そうなると名古屋の中盤は今度は出ていくこと自体を控えるようになる。神戸の狙い目だったのは名古屋の中盤の意識にズレが出たタイミングである。例えば17分のシーンのように稲垣が前に出ていく気があっても、レオ・シルバが裏抜けする選手に対しての後方のカバーリングを優先してしまえば、バイタルエリアはガッツリとスペースが空く。中央に構造的に人を置きたがっている神戸のやり方に対して、中央がお留守になるのは致命的になりかねない。
ただ、逆に神戸はそうした縦方向へのずれを作れなければ、ろくなチャンスを作ることができず。そして、武藤以外はろくに裏へのランを見せることができなかったので、神戸の攻撃は停滞することとなる。
名古屋の攻撃は2CBと2CHのボックスビルドアップ。ここは前政権からあまり手をつけなかったところのように思う。神戸はこれに対してIHが前に出ていく形で同サイドに圧縮するように守りにいく。
だが、この神戸のやり方はシステムと人選があっていないように思う。移動距離が長く、ボディコンタクトの増えるこの役割に扇原ははっきり言って不向きだし、本来はこのポジションが適正であろう山口は攻守に緩慢な動きが多く、本調子からは遥かに程遠い出来。前に出てボールを奪い取る仕組みとしては弱いと言わざるを得ない。
そうした中で神戸は自陣でのロストから失点。大崎のロストからカウンターを喰らうと最後はこぼれ球をゴール前に詰めた稲垣が押し込んで先制する。
リードを奪った後半。名古屋はさらに攻勢を強める。狙いとしてはサイドからのクロス。特にマテウスからのDF-GK間に早い段階でクロスを上げる形で神戸のバックラインを背走させる形で対応させる。これにより、酒井のオウンゴールを誘発。名古屋は追加点をゲットする。
神戸にとって追い討ちとなったのは扇原の退場。スピードに欠ける選手によるハードワーカータスクだったため、この場面に限らず思わず手が出てしまうシーンが多い試合だった。本人の軽率さもさることながら、チームとしての起用が適正だったかも再検証したくなるところだろう。1失点目に続き、この場面も大崎のロストがトリガーになっていたのは気がかりだ。
神戸は攻撃的なメンバーを入れた4-3-2のような形でなりふり構わず攻撃に打って出るが、当然ボールを奪い返すことができない。名古屋がプレー速度を下げたこともあり、ここから試合は沈静化してしまうことに。
10人の神戸相手に完勝した名古屋。新監督での開幕戦に勝利し、幸先のいい2022年シーズンの幕開けを飾った。
試合結果
2022.2.19
J1 第1節
名古屋グランパス 2-0 ヴィッセル神戸
豊田スタジアム
【得点者】
名古屋:23′ 稲垣祥, 51′ 酒井高徳(OG)
主審:谷本涼