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「FIFA World Cup QATAR 2022 チーム別まとめ」~セルビア代表編~

目次

第1節 ブラジル戦

■枠内シュートが0という『健闘』

 W杯もここまで30カ国が登場。第1節の最後を飾るいわば大トリは優勝候補筆頭であるブラジルである。対するはポルトガルを下してストレートインを勝ち取ったセルビア。ブラジルは難敵相手に開幕節を戦うこととなった。

 ブラジルに対してセルビアの立ち上がりは強気だったと言えるだろう。高い位置からのマンマークハイプレスで敵陣の深い位置からのボール奪取を狙っていく。

 しかし、ブラジルも簡単には屈しない。前線のアタッカー陣にとっとボールを当てるとあっさり反転して広いスペースに展開。セルビアのプレスに早々に対応し、速い攻撃に移行する。

 それでもセルビアの守備ブロックは粘り強かった。リトリートの速度は早くインサイドは強固。ブラジルは簡単にボールを入れることができず、ボールを外に追いやることはできていた。CFのリシャルリソンをボールを触らせずに苛立たせる下地は整っていたと言えるだろう。

 インサイドには簡単に入り込めなかったブラジルだが、外から切り崩すことは十分にできていた。中央からはネイマールが、外からはヴィニシウスとラフィーニャがドリブルでガンガンセルビアの守備ブロックを削っていく。特に左サイドのヴィニシウスは凶悪。1枚はもちろん、2,3枚は余裕で引きちぎる暴れぶりでブラジルの攻撃を牽引していた。大暴れのブラジルアタッカー陣に苦戦するセルビアだが、バックラインの粘り強いクロス対応を軸になんとか攻撃を跳ね返していく。

 セルビアのボール保持はアンカーのグデリが最終ラインに入り4バック化。中盤を空洞化させる配置で前線とバックラインに人を割く。この形でのビルドアップは予選と同じようでセルビアにとってはお馴染みのシステムである。

 ブラジルの非保持はオーソドックスな4-4-2。敵陣の高い位置から是が非でもボールを奪い取ってやる!というスタンスではないが、要所ではきっちり強度を発揮するソリッドな組織。攻撃で目立っているヴィニシウスやラフィーニャも非保持に回ればきっちりと4-4-2の一員としての仕事をこなしている。

 ボールを持つターンになれば落ち着いたポゼッションをしたいセルビア。細かい立ち位置の調整など、システム自体の成熟度を見せることはできていたが、なかなかスムーズな前進を連発することはできなかった。

 迎えた後半はブラジルがプレスのギアを一段階あげて奇襲をかけてくる。ボールを奪ってから敵陣までのフィニッシュまでの迫力やセットプレーの圧力など、ブラジルは明らかに勝負どころと設定した形である。

 セルビアは50分過ぎに数回セットプレーのチャンスを得ることができてはいたが、これ以降はシュートどころかブラジルの陣内に迫ることすら至難の技。一方的に攻め立てられる展開に苦しむことになる。

 ブラジルが狙い目にしたのはセルビアの3センター。まず右サイドに彼らを寄せて、逆サイドに素早く展開することで3センターの脇から侵入をする。巧みだったのはアレックス・サンドロの立ち位置。逆サイドからきっちりボールを引き取り、大外のヴィニシウスに1on1を行える舞台を整える役割を果たして見せた。

 セルビアは前半に比べると中盤のスライドが苦しくなった。ボールを自由に動かすブラジルに対して明らかに後手を踏むようになる。その上、大外には1枚も2枚も剥がすヴィニシウスがいる。かといってCHがそちらに注力すればネイマールがカットインするためのバイタルのスペースをあけ渡すことになる。どちらにしても厳しい。

 セルビアの守備が決壊したのは60分過ぎのこと。ネイマールのターンから相手を外して左サイドに展開すると、エリア内に入り込んだヴィニシウスのシュートの跳ね返りをリシャルリソンが押し込んでみせる。

 ようやくこじ開けたブラジルはここからさらに畳み掛ける。セルビアはだんだんと横幅だけでなく、MF-DFのラインも広がるように。アンカーの脇のスペースも新しく狙えるポイントに設定できるようになったブラジルはさらに勢いを増すばかり。先制ゴールを奪ったリシャルリソンが試合を決定づけるゴールを奪うのにそう時間は掛からなかった。

 以降もブラジルは攻撃ユニットを総入れ替えして勢いを途切れさせない。ジェズス、アントニー、ロドリゴ、マルティネッリは自信をアピールすべく張り切るのでセルビアからすれば傍迷惑な話である。

 前半はもちろん、後半もセルビアは健闘したと思う。おそらく、欧州の中でも完成度は高いチームだろう。だが、善戦したとしても枠内シュートはなし。好チームが踏ん張るパフォーマンスを見せてもアリソンに冷や汗をかかせることができないという事実は、ブラジルがいかに強大なチームであるかを示すのには十分すぎるだろう。

試合結果
2022.11.24
FIFA World Cup QATAR 2022
Group G 第1節
ブラジル 2-0 セルビア
ルサイル・スタジアム
【得点者】
BRA:62′ 73′ リシャルリソン
主審:アリレザ・ファガニ

第2節 カメルーン戦

■説得力抜群の裏抜け一発で同点に追いつく

 初戦は敗れてしまった両チーム。連敗となったチームはこの後行われるブラジル×スイスの試合結果次第で、最終節を待たずに敗退が決定してしまうというシビアな状況だ。

 どちらかといえばボールを持つ機会が多かったのはセルビアの方。3バックが落ち着いてボールを持つ。しかし、カメルーンは4-1-4-1であり、前のプレス隊に3枚かけることはやぶさかではない。よって、セルビアは時折ミレンンコビッチをSB的に活用する4バックシフトでのボール回しもバリエーションとして持っていた。こうなると噛み合わせきれないカメルーンには迷いが出るようになる。

 中盤を引き出すことができるようになれば、セルビアは中盤を活用しながら前進する。ボールを前に運ぶ原動力になっていたのは両サイドのWBである。コスティッチとジヴコビッチはいずれもボール運ぶことができる攻撃的な人材。4バックのカメルーンは逆サイドの大外のケアが甘くなることが多く、バックラインが中盤を引き出すことができれば、セルビアは中盤を使った素早いサイドチェンジでWBにボールを供給することができる。

 この形でサイドからアタッキングサードに侵入。ミトロビッチやミリンコビッチ=サビッチなどのターゲットに積極的にクロスを上げていく。特にミトロビッチは前半の内に決定機を手にしていたが、フィニッシュがはまらず。先制点のヒーローになりそこねた。

 一方のカメルーンは前進に苦戦。WBの背後に流れるムベウモのボールキープなど単発では光るところはあったが、セルビアほど前進のルートを確立はできず。時折、セルビアのビルドアップミスを引っ掛けてのカウンターがメインとなっていた。

 しかし、試合の流れに逆らうように先制したのはカメルーン。セットプレーからファーに詰めたカステレットが抜け出してゴールに叩き込む。ベンチメンバー総出で喜びまくったカメルーンはこのゴールから一気に勢いに乗る。プレスからテンポを掴み、セルビアを追い立てるようになる。光っていたのは中盤のボールハント能力である。

 先制直後のカメルーンのラッシュを凌いだセルビアはWB主体のボール保持からテンポを取り戻して反撃に移行。こちらもセットプレーからパヴロビッチが脅威の背筋力を生かしたヘディングで前半追加タイムに追いついてみせる。

 すると、この勢いで畳み掛けるセルビア。自陣深い位置でのアンギサの処理ミスを掻っ攫うと、これをミリンコビッチ=サビッチが決めて一気に逆転まで持っていく。直後にミトロビッチが3点目を決めていれば前半のうちにさらにリードを広げられた可能性も。乗り切れないこの男は気がかりなものの、前半をリードした状況でセルビアは折り返しに成功する。

 しかし、ミトロビッチは後半早々に結果を出す。激しい中盤の攻防でスタートした後半は、背後のスペースが空きやすい展開に。左サイドのコスティッチを起点とした攻撃が冴えていたセルビアは彼のボール奪取からミトロビッチが左右のWBと連携しながらゴールに迫りようやくゴール。リードを広げてみせる。

 2点差というセーフティリードを得たと思われたセルビアだが、ハイラインの割にはボールホルダーを捕まえきれない状況をカメルーンにやたらと突かれると雲行きが怪しくなっていく。リードが広がってもセルビアはプランを変える様子はなし。追いかけるカメルーンは一発の裏抜けを連発し、セルビア陣内に侵入する。

 この形から一気に追いついてみせたカメルーン。中盤から飛び出したアブバカルがループシュートを決めて反撃の狼煙を上げると、逆サイドに残ったミレンコビッチを置き去りにした右サイドの裏抜けからチュポ=モティングが同点ゴールを決める。「繋ぐな!蹴れ!」という命令に背いたGKのオナナを追放しての一発裏抜けのゴールはやたらと説得力がある。

 以降はグロッキーな撃ち合いとなった。最終節の戦いを見越すと勝っておきたいのはブラジルとの試合を控えているカメルーンだが、コスティッチにサイドから押し込まれるなど苦戦。5バックへのシフトを余儀なくされる。

 終盤にもミトロビッチには決定機があったが、いずれも決めることができず。後半頭に得点を決めたもののおそらくコンディションが悪いのだろう。もらったチャンスの数に比べれば、1得点という結果は物足りない。

 試合は痛み分けで終了。自力突破の可能性が最終節まで残るかどうかは裏のカードの結果次第という形となった。

試合結果
2022.11.28
FIFA World Cup QATAR 2022
Group G 第2節
カメルーン 3-3 セルビア
アル・ジャヌーブ・スタジアム
【得点者】
CAM:29′ カステレット, 63′ アブバカル, 66′ チュポ=モティング
SER:45+1′ パヴロビッチ, 45+3′ ミリンコビッチ=サビッチ, 53′ ミトロビッチ
主審:モハメド・アブドゥラ

第3節 スイス戦

■プランの持続力が突破の潮目

 ここまで2試合で勝利がないセルビア。しかしながら、裏のカードがカメルーンと突破を決めたブラジルということで勝利すれば突破の可能性が見えてくる。スイスは引き分け以上で無条件で突破が決まる状態だ。

 いきなり畳み掛けるような攻撃を繰り出したのはスイス。エンボロ、ジャカといきなりミリンコビッチ=サビッチに襲いかかるようにシュートを打ちまくる。セルビアは縦パスが入れられてしまうなど、ややコンパクトさに欠けた対応の序盤戦だった。

 その分、セルビアは高い位置からの迎撃に力を入れているように見えた。アンカーのフロイラーをタディッチで抑えるのに代表されるように、マンマーク気味に相手を追い回す形を優先。同数でバックラインが受けること自体にはあまり躊躇がある様子ではなかった。

 マンマークに対してスイスは王道対応。移動を増やしながら相手がどこまでついてくるかを探る動きを見せていく。最もクリティカルな解決策となったのはエンボロ。縦パスを受けて反転し、独力で運ぶところまでの推進力を見せていた。

 より高い位置でボールを受けることができるのはシャキリ。インサイドに絞る形で縦パスを引き出す。マンマーク色が強い分、コンパクトさに欠けているセルビアの守備の陣形を利用して侵入していく。ジャカもアンカー的な振る舞いが多かったフロイラーにサポートに入る形でビルドアップを助けていた。

 一方のセルビアの前進は布陣のズレを活用したものだった。スイスは非保持において4-4-2の布陣。セルビアのバックライン3枚は数的優位を生かしながら落ち着いてビルドアップを行う。

 両ワイドCBの攻撃参加は非常に積極的にボール保持に関与。スイスとしては放っておくとめんどくさいことになる。セルビアのWBの攻撃性能にもスイスは手を焼いていた。左サイドのコスティッチはタディッチ、パヴロビッチの連携で敵陣に入り込んでいたし、逆サイドのジヴコビッチもカットインのシュートでポストを叩くなど得点の匂いをさせていた。

 しかし、スイスのSBも攻撃性能では負けていない。撃ち合いの様相が強いカードで先制点の起点になったのはスイスのリカルド・ロドリゲス。左サイドのオーバーラップから最後はシャキリがゴールを決めてみせた。

 セルビアもすぐに反撃。左サイドのコスティッチからのクロスをミトロビッチが合わせて追いつく。エースのゴールで勢いに乗ったのは相棒のヴラホビッチ。スイスのDFを惑わせる斜めの動きだしからフィニッシュの間合いを作り出し、一気に逆転まで持っていく。配置のズレからFWのスキルで勝負できるのがセルビアの強みである。

 だが、セルビアがリードを維持できたのは一瞬のことだった。前半のうちにエンボロがゴールをゲット。中央でタメて最終ラインの足を止めたソウの動きが秀逸だった。

 前半で見られた傾向として、盤面で言えばズレをうまく作っていたのはセルビアだったが、スイスはハメた状況からの脱出がうまい。もしくはセルビアが逃げられたマーカー相手の対応をどうするかに悩みまくっている。後半もこの傾向は変わらず、互いに攻め手を持ちながら敵陣に攻め込む展開が続く。

 スイスは敵陣攻略のデザインが美しい。2点目もそうだが、3点目も華麗。シャキリを起点とした流れからバルガスの動き出しで裏をとると落としをフロイラーがゲット。後半早々に勝ち越しゴールを挙げる。

 このゴールで勝利が必要なセルビアの出足はやや鈍ってしまった印象だ。前半ほどのプレスにはいけなくなったし、スイスは大きな展開でより丁寧にボールを逃すことを行っていた印象。

 セルビアは徐々にそうした展開にダレてしまったように見えた。先に挙げたバックラインの面々は後半も保持で効いてはいたのだけど、自分たちが守備で開ける穴を突かれる頻度が徐々に増えてきてしまうように。

 どちらも見どころのあるパフォーマンスではあったが、90分間のプランの持続度という意味ではスイスに軍配。セルビアはようやく波に乗ってきたストライカーのゴールを守り切ることができなかった。

試合結果
2022.12.2
FIFA World Cup QATAR 2022
Group G 第3節
セルビア 2-3 スイス
スタジアム974
【得点者】
SER:26′ ミトロビッチ, 35′ ヴラホビッチ
SWI:20′ シャキリ, 44′ エンボロ, 48′ フロイラー
主審:ダニエル・シーベルト

総括

■戦術的持続力と手当て不足で受けに回った際の脆さを露呈

 ポルトガルを抑えて欧州予選をストレート通過。前線のアタッカーが充実期を迎えたこともあり、ブラジルに次ぐグループ突破の期待がかかる本大会となった。

 しかしながら、蓋を開けてみればまさかの未勝利での敗退という厳しい結果に。初戦は(枠内シュートが0とはいえ)ソリッドな組織でなんとかブラジルの攻撃を耐え凌ぐ形で抵抗を見せていた。

 だが、2戦目以降に我慢を続けたブラジル戦の反動がきた感じは受ける。よりアグレッシブなスタンスが許されるようになったカメルーン戦では、相手を引き出しながら攻撃的なWBを活用するスタンスで敵陣を侵攻していく。スカスカなカメルーンの中盤を活用し逆サイドに展開を行い、WBが単騎で攻め込むことができる状況を作り出すことができていた。

 悔やまれるのはその試合運びである。カメルーン戦ではイケイケなスタンスをリード後も続けたことで、相手に裏のスペースをバカスカつかれる事態が発生。2点のリードをあっという間に溶かしてしまった。

 突破をかけた直接対決となったスイス戦でも組織力ではスイスと差があったように思う。プレッシングのはめ込み方は十分にうまくいっていたが、スイスのアタッカー陣が移動を開始すると、守備の基準を見失ってしまうようになる。瞬間出力では十分に相手と渡り合えるが、出力を持続させる部分で長持ちがしなかったのは勝ち点を簡単に落としてしまう要因となっていた。

 一度基準を見失ってしまうと、個人で相手と張れるDFがいないのも辛い。カメルーン戦ではバックラインのズレが見られるなど、対人能力だけでなくラインコントロールにも難が見られた。

 好調を期待されたアタッカー陣もミトロビッチは負傷あけの影響があってか序盤は思ったような活躍が見られず。ヴラホビッチは限られた出場機会で結果は出したが、彼の代名詞として語られるのはスイス戦のゴールではなくピッチの外の話なのも残念なところである。

 WBが超攻撃的なピクシーの陣形は魅力的ではあったが、受けに回った時の脆さが垣間見えたのも事実。指揮官がそれをケアするプランを見せることができなかったのも敗退の一因と言えるだろう。

Pick up player:セルゲイ・ミリンコビッチ=サビッチ
 GKにもう一人ミリンコビッチ=サビッチがいるって知らなかった。

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