第1節 スペイン戦
■波乱続きのカタールを黙らせる衝撃の大勝
2強2弱というグループの構図は早々に崩れたグループE。ドイツには続きたくないスペインの初戦はプレーオフを制してカタールにたどり着いたコスタリカである。
コスタリカのフォーメーションは4-4-2。2トップでアンカーを受け渡しながら後ろは4-4ブロックで守るというやり方でスペインを迎え撃つ。スペインはサイドから大外を基準にポゼッション。両サイドでトライアングルを作りながらコスタリカの攻略に取り組んでいく。
コスタリカの4-4ブロックの中で異質だったのは左のSHであるベネット。ブロックの中からかなり早い段階で飛び出し、スペインのバックラインを捕まえに走る。その分、後方のブロックの負荷は増大。SBのオビエドが孤立するという状況を招く。
そうしたキャラクターが不在なコスタリカの逆サイドはむしろCHのスライドが気になる部分。同サイドに閉じ込めるという観点で言えば、そのスライドは正解なのだけど、スペインほどのスキルを持っているチームならば簡単にサイドから脱出できてしまう。
「ボールが蹴りにくいのかな?」と思うほど、この大会はここまで長いレンジのパスがスムーズではないチームばかりだった。しかしながらこのスペインは別格。ミドルレンジのパスを使いながらサイドと中央を器用に移動させてボールを操っていた。
スペインが攻略の狙い目にしたのは左サイドからの横パス。すなわち、コスタリカのCHがスライドするサイドである。その分、空いているバイタルに待ち構えているのはアセンシオを軸に、横パスをこのエリアでフリーで受けることでPA内侵入の足がかりにする。
1点目、このエリアに侵入してみせたのはガビ。相手に引っ掛けながらもダニ・オルモの先制ゴールをアシストしてみせた。2点目はアセンシオがミドルでこの位置から沈める。スペインは20分足らずであっさりと2点リードを奪ってみせた。3点目はPK。デュアルテのトリッピングでスペインにPKが与えられる。
サイドを起点に自在な出し入れを行い、即時奪回で敵陣でプレーし続けたスペイン。前半のうちに日本に続くアップセットの可能性を完全に潰した状態でハーフタイムを迎える。
コスタリカは前半の途中から5-4-1に移行。ミドルゾーンである程度構えながら我慢しようとするが、奥行きを使いながら裏抜けを増やすスペインにとっては大した問題ではない。広がるMF-DFのライン間は自在に使えるし、コスタリカのバックラインはオフサイドを取るのに苦労していたからである。
ならば!と後半はワイドのCBが迎撃を強化するコスタリカ。しかし、これはコスタリカがラインを整える難易度がさらに上がっただけ。パスの受け手を捕まえたとしても、問題なくワンタッチでいなしてしまうスペインにとってはこのコスタリカの迎撃はそこまで大きな意味がない。左サイドでコスタリカのバックラインを誘き寄せたスペインはサイドを変えて、フェラン・トーレスがこの日2点目となるゴールを決める。
ここからは完全にスペインのゴールショーという展開と言っていいだろう。5点目はガビが才能を世界に示すスーパーなボレー。ゴールなしでもスーパーであることを示し続けた若武者が、掛け値なしのスーパーゴールで自らの価値をさらに高めてみせた。
以降は主力を休ませながら、コンディションに不安のある選手のテストを積極的に行っていくスペイン。右サイドから感触を確かめるように裏抜けを繰り返していたモラタは印象的だった。
ソレール、モラタが得点を決めてゴールショーの幕を閉じたスペイン。圧巻の7ゴールと、コスタリカにシュートを許さなかった支配力で完勝。波乱が続いていたカタールの舞台を黙らせるように、世界にその実力を改めて知らしめてみせた。
試合結果
2022.11.23
FIFA World Cup QATAR 2022
Group E 第1節
スペイン 7-0 コスタリカ
アル・トゥマーマ・スタジアム
【得点者】
ESP:11′ ダニ・オルモ, 21′ アセンシオ, 31′(PK) 54′ フェラン・トーレス, 74′ ガビ, 90′ ソレール, 90+2′ モラタ
主審:モハメド・アブドゥラ・モハメド
第2節 日本戦
スタメンはこちら。
■山根の日常のトライが実を結んだ右サイド
ドイツに金星を挙げた日本が2戦目に戦うのはコスタリカ。連勝を達成すれば、この後行われるドイツ×スペインの結果次第では最終節を待たずして突破が見えてくる。
そのために必要なのは得点である。この試合は日本のボール保持を軸に展開されていたため、日本に求められていたのはボール保持で解決するプランの提示である。
まず、コスタリカがどういう陣形で来たかを整理する。初戦はスペイン相手に4-4-2で撃沈したが、この試合では5-4-1を採用。スペイン戦でもかなり似通った5-4-1を途中から活用しており、日本戦ではこの形を頭からやってきた形だ。
5-4-1ではあるが、プレスの開始位置はミドルゾーン。余談ではあるけども、ローライン型の5-4-1というのは今回のW杯でスタートで採用しているチームはほとんど見ない。最も撤退意識が高いコスタリカですらこうなのだから、W杯に出るレベルのチームならほぼこのプランでスタートするという考えは全滅なのだろうと思う。
5バックを壊すには「溶かすように」という話を聞いたことがある。後ろへの重心を高めているチームに対して、1人1人を動かしていきながら開けた穴をどのように活用するか?という部分ができていなくてはダメということだろう。
この「相手を溶かす」という部分で日本が最も可能性を感じたのは右サイドだった。コスタリカの5-4-1のシャドーはインサイドにボールを入れられることを嫌ったのか、インサイドよりに立つことが多かった。そのため、SBはボールを比較的自由に持つことができる。
右サイドで際立っていたのは山根である。この日の山根が素晴らしかったのはインサイドへのパスを刺すという意識の高さだ。たとえば、7分のシーン。山根→上田のパスから鎌田が前を向けた場面だ。この場面では上田と鎌田の周辺には3人のコスタリカの選手がいるが、山根→上田へのパスと鎌田の方向転換により、相手を外した鎌田が前を向いてボールを持つことができている。
後ろに重たい重心の相手に対しては、なるべく多くの選手の動きの逆を取ることが肝要だが、この場面ではそうした連携に必要なものが詰まっている。山根の斜めのパス、上田のポスト、鎌田の動き直しはいずれも重要なピースと言えるだろう。
山根のインサイドへのパスが絡むシーンはこの場面以外にも。全体的に右サイドは1人の動きに合わせるように他の選手がオフザボールの動きでフリーになることができていた。
川崎サポ視点をねじ込むと、山根のFWに向けた斜めのパスは2年間ひたすらチャレンジしてきた部分である。過密日程においてなかなかボール保持の精度が伴わなかった試合においても、相手の懐に差し込むこのパスへのトライを止めることはなかった。その部分がこの大舞台で垣間見えたことは川崎サポとして彼の背中を追い続けていた身として非常に誇りに思える部分だ。
右サイドでは前を向く選手は時折作ることができていた日本。難しかったのは前を向いた選手のクオリティである。特にブレーキになっていたのは鎌田。前を向くことができた後のプレー選択やドリブル、パスの精度が噛み合わないことが多く、前を向いた後の時間をうまく使うことができなかった。上田ももう少しボールを収める役割を期待されていたと思うが、思ったよりもボールコントロールが跳ねてしまった印象だ。
オフザボールの動き直しの意識をもう少し求めたい堂安と警告をもらってしまったせいで退場のリスクが発生してしまった山根にも懸念はある。ただ、それでも選手に前を向かせるスペースを生み出す仕組みについてこの日の日本の中で一番できていた場所は山根がいた右サイドと言えるだろう。
逆サイドは長友、相馬の2人の関係性で完結していた感があった。15分のシーンなどはそもそも長友のパスが長くなってしまったこともあるが、この場面のように左サイドは3人目の登場人物が出てこないことが多い。
左サイドは大外に入る相馬の突破力頼みになってしまっており、彼が枚数を剥がすことで攻撃を機能させるしか選択肢がない。かつ、相馬が仕掛ける状況を他の選手の立ち位置によって整えられているわけではないので、左サイドはPAに入る有効な手段としては右サイドと比べると存在感はなかった。
中央への縦パスもトライしていた日本だが、先に述べたポストとライン間で受けた選手のプレー選択には難があり、狭いスペースを壊すのには十分なクオリティとはいえず。ボールを持ちながらの解決策を見出すのが難しい状況になった。
■堂安と相馬を退けられプレスは機能不全に
ボールを持っての解決策が見出せない日本。だが、敵陣に襲いかかる手段としてはもう1つ手段がある。もちろん、プレッシングだ。日本は立ち上がりから敵陣に積極的なプレスを仕掛けてきた。
コスタリカのボール保持は3バックがそのまま並ぶケースが多く、真ん中に入ったワトソンが1列前に入る形でGKを含めて菱形を形成していた。日本はこれに対して上田、鎌田がチェイシング。それに加えてボールサイドのSHの相馬と堂安のどちらかがプレスに出ていく形でマークつくことが多かった。
コスタリカのバックラインはそこまでボールを蹴って捨てる意識は高くないが、繋ぐためにはバックラインのプレス耐性が高くない状況。はっきり言ってボールを持っている時はプレスのかけ甲斐があるチームである。
そんなコスタリカにおいて厄介だったのは左のSHのキャンベル。低い位置に降りてきてはボールを預けて起点となっていた。このキャンベルに日本は手を焼いた。
日本にとってこの試合の想定外だったのは中盤におけるフィフティーのデュエルで思ったよりも劣勢に陥っていたこと。ファウルなしでクリーンにボールを奪えるケースは限られており、その中心人物であるキャンベルに対してはファウルを犯してしまってFKを与える場面もあった。
もっとも、キャンベルが降りてボールを受けることで日本に恩恵がないわけでもなかった。最も得点の可能性を有する彼が位置を下げてボールを受けることでコスタリカの得点の可能性はだいぶ下がっていたと言えるだろう。
だが、日本がボール保持で達成できなかったスペースをうみだし、攻撃に移行することを目的とすれば話が違ってくる。高い位置から取り切ってカウンターに移行するという流れを断ち切るキャンベルの存在はうざい。保持で相手を動かせなければ、プレスで保持をひっくり返せばいいじゃない!という日本のプランを邪魔したのがキャンベルである。
キャンベルの左サイドの登場によって困ったのは堂安である。自陣のサイドの低い位置で自分がマークすべきかどうか悩む選手が出てくるというのはちょうどドイツ戦でミュラーが登場した時の久保と同じである。
前半途中から、コスタリカが保持において4バック気味に移行したことはさらに堂安を悩ませることになる。SBロールを担う目の前のカルボと降りてくるキャンベルの挟み撃ちに遭う堂安は時間と共に前向きのプレスを担うことができなくなる。
時を同じくして日本が行ったのは3バックへのフォーメーション変更だ。キャンベルの降りる動きやバックラインの4バック変形によって乱れてしまった守備の基準点をはっきりさせるためというのが真っ先に思いつくこの変更の理由である。
しかしながら変更以降も日本はプレスのスイッチを入れることはできず、堂安は出ていくべきか背後をケアするかの迷いが継続した状態。前からハメきれない日本の前線の守備を見れば左WBの立ち位置になった相馬がポジションをひとまず下げる形になるのは致し方がない。
日本はこのように相馬と堂安が前プレから排除されたことで序盤のようにプレスを効かせる展開を失ってしまった。こうして非保持においてもリズムを掴むことに失敗した前半の日本だった。
■三笘にボールが届かなかった理由は?
後半、日本でまず存在感を発揮したのは浅野拓磨。高い位置からでていくことを選択したコスタリカの守備陣に対して、サイドからの裏抜けで牽制を行うフリーランを見せたのはさすがである。加えて、インサイドにおいてもポストプレーから守田のシュートを誘発。ボールを収めることで裏抜け以外の価値も証明する後半の立ち上がりとなった。
もう一人の交代選手である伊藤も立ち上がりは持ち味を発揮していたように思う。58分のようにコスタリカの右のシャドーであるトーレスの背後に顔を出し、インサイドにボールを運ぶなど中央でのプレーは悪くなかった。
気になったのは中盤3枚の振る舞いである。鎌田、遠藤、守田の3人は明確に前半よりもプレーエリアが下げることが多かった。そのため、先に述べた高い位置までボールを運んだ伊藤にはパスの選択肢があまりない!という状況に陥ることになる。
伊藤に関しては交代で入った三笘を左サイドでうまく活用できていない!という指摘が多く見受けられる。その要因の一つはこの中盤の列落ちである。日本の後半の保持時の立ち位置は相馬以外の4人のDFラインの選手に、中盤の1人が降りる形で加わる陣形である。
一般的に左の大外でWGロールを行う選手に1on1をさせるための最も有効な手法はSBロールの選手が絞ることである。この動きによって、大外への動線を確保することができる。この試合のコスタリカのように三笘に対してシャドーとWBでダブルチームを敷いてくるチームに対しては、尚更インサイドで相手の注意を内側に向ける必要がある。
だが、この試合においては伊藤は外に開く立ち位置をとっていた。そのため、三笘にボールをつけるために適切ではなかったのは確かだろう。しかしながら、なぜ伊藤が外側のレーンに立っていたかと言えば、中央の低い位置には降りていたCHが渋滞していたからである。この位置に立たれてしまっては伊藤は一旦外に開くという発想になっても不思議ではない。
加えて、上の図で大外への出し手となる吉田は68分に左足で外に出したパスをミスしている。というわけで伊藤が絞った上でも大外をうまく活用するには、また別の技術的な問題があるということである。
いずれにしても左サイドにおいては後半追加タイム手前まで三笘に1on1で勝負する機会を与えられなかったのは、日本の左サイドがインサイドでマーカーを惹きつける動きができなかったからという部分が大きい。相手を背負っている状況や2人にマークがついている状況でボールをつけたとしても三笘からはすぐにボールがリターンしたことからも、三笘に「適切な状況で」ボールを出せなかったことはこの日の左サイドのユニットの失策と言えるだろう。
うまくいかなかった要因がはっきりしていた左サイドと比べると、他のポジションでは不可解なことが多かったのも事実だ。中央では2トップに入った一見そこに長所がないように思える伊東と浅野が細かいパス交換から抜け出しを狙っていたし、右サイドには山根が交代して相馬が入ってきたことで複数人でスペースを作りながらフリーマンを作れる状況は消滅。相馬と堂安が個人でなんとかしよう!という状況になっていた。こちらはなぜ機能しなかったかよりも、そもそも何をしようとしたのかのところから読み取ることができなかった。
浅野によってコスタリカのプレスを退けた日本は、押し込む時間帯によって解決策を見出すことができず。逆に75分以降にプレスのスイッチを入れたコスタリカに高い位置からボールを奪われて失点してしまう。吉田、伊藤、守田、権田にはそれぞれの悔いが残るプレーになってしまっただろう。
後半追加タイムにようやくいい形でボールを持つことができた三笘からの2回のチャンスを日本は生かすことができず。ドイツに勝利した興奮を打ち消してしまう手痛い敗戦で日本のGS突破には黄色信号が灯ることとなった。
あとがき
■ドイツ戦とは異なるベクトルの課題抽出
勝てない可能性はそこそこあるかなと思ったけども、まさか負けるとは思わなかった。45分間リスクをかけて敵陣に迫るアプローチを敷いたドイツ戦の日本と比べても、この日のコスタリカが得点を取るのにかけたコストは非常に小さく、コスタリカが勝つ確率はドイツ戦の日本勝利と同等かそれ以下と言ってもいいだろう。
とはいえ、ボール保持によって状況を解決できなかった時間は明らかに課題としてチームにのしかかる。個人的には予選で保持の解決策となった川崎式4-3-3をやるかな?と思っていたのだが、本線仕様の4-2-3-1ベースから布陣をいじることはなかった。
ドイツ戦のレビューにおいては「10回やって1回しか勝てない相手」という状況を長期的に解決していく必要性を説いたが、この試合においては「10回やって1回負けるかどうか?」の相手に対して勝ち切るプランを用意できなかったというまた違った部分の課題が見つかったと言えるだろう。
「10回やって1回しか勝てない」相手に勝ち、10回やって1回負けるかどうか?」の相手に負ける。ある意味「おあいこ」のような状況である。そうした状況を引き起こす課題を毎節毎節突きつけてくる感じはいかにもW杯だなといった風情である。
試合結果
2022.11.27
FIFA World Cup QATAR 2022
Group E 第2節
日本 0-1 コスタリカ
アフメド・ビン=アリー・スタジアム
【得点者】
COS:81′ フレール
主審:マイケル・オリバー
第3節 ドイツ戦
■共にオープンであれば力の差は明瞭
他会場次第で突破条件がかなり複雑になっているグループE。明快なのはコスタリカ。勝てばOK、引き分けならば日本が負ければOK、敗れればノーチャンスである。一方のドイツは勝っても敗退の可能性がある状況。勝利は最低条件で、場合によっては勝ち点が並ぶ日本とスペインを得失点差で越えなければいけない可能性が出てくる。ドイツは大量得点を狙いにいくのか?いくならどのタイミングで?というのは難しい舵取りになる。
コスタリカのプランは日本戦とほぼ同じ。5-4-1でのミドルブロックで相手のバックラインにはボールを持たせてOK。ラインを上げつつ、陣形はコンパクトにしつつも人数的な重心は後ろにあるという状況だった。
そうしたコスタリカ相手にドイツは序盤から容赦なく襲いかかっていく。ラインを上げるということは裏へのスペースがあるということ。ワンツーからの抜け出しで積極的に背後を狙っていたのはグナブリー。左サイドを切り裂いて、エリア内に危険なボールを入れていく。
左サイドで言うとムシアラも相変わらず強力。狭いスペースを細かいタッチを繰り返しながらスルスル進み、対面する相手の選手に飛び込む隙を与えない。左サイドを拠点とするこの2人に対して、コスタリカはかなり厳しかった。
ドイツはPA内に人数をかけていたとはいえ、コスタリカの守備陣の方が人は多い。しかしながら、クロスに合わせるドイツの選手にコスタリカはマークをつけられないことが多い。スペースに入り込んでクロスに合わせる動きについていけないのであれば人数など意味がないのだなと言うのがこの試合の学びである。
ドイツは早い時間に先制点をゲット。左サイドでボールを奪ったドイツが開いたラウムに繋ぎ、仕上げはグナブリー。あっさりとコスタリカの守備ブロックを破ってみせた。
コスタリカとしては0-0で進めると言うプランが崩れてしまった点でこの失点は重くのしかかる。その上、この失点の起点となったボールロストはキャンベルによるもの。日本戦で低い位置でボールを受けてはぬるっとしたドリブルから突破やファウルを奪い取ったキャンベルがボールの預けどころとしてはちっとも通用しなそう!と言うのもここから先にドイツと戦う上で頭が痛い部分だと言えるだろう。
コスタリカのボール保持には停滞感があった。ボールを奪い返したらショートパス主体のスタイルに移行するコスタリカだが、キャンベルという預けどころが潰されたままのショートパスは行先不明感が漂っている。下手なパスを中央に刺せば、簡単にカウンターを食らうという恐怖心もあるだろう。ドイツは前に出たコスタリカの攻撃を止めるところから素早く縦に攻撃に打って出ることができるチームである。
低い位置においてもボールが収まらないことがわかったキャンベルは試合途中で前線に位置を変更。ロングボールを増やしながら押し上げを狙うが、アバウトな選択を早い段階で取る方針はドイツが攻める機会を誘発しているとも言える。オビエドが高い位置でボールを持てるくらいまでいけば、ひとまずショートカウンターの脅威は薄まると言えるが、コスタリカがここまで保持を持っていける機会は数えるほどだった。
ほぼ、ドイツペースで進んでいる試合の中で前半のコスタリカの唯一のチャンスを生み出したのはフレール。日本戦でワンチャンスをものにしたミラクルボーイがドイツを慌てさせる場面が、コスタリカの前半の最大の見せ場だった。
後半、ドイツはキミッヒを中盤に移動し、SBにクロスターマンを起用。さらに攻撃を意識し、得点を取りにくるための交代と言えるだろう。中盤でボールの預けどころを増やしたドイツだが、ゴレツカが下がった分中盤のデュエル強度は低下。前半はからっきしだったコスタリカが中盤でもボールを収める機会がだんだんと出てくるようになった。
徐々にカウンターを受ける機会が増えてきたドイツ。3バック化していた日本戦と異なり、後方はCBが2枚残るという状況もコスタリカのカウンターを潰しにくい要因と言えるだろう。コスタリカの同点弾はまさしくリュディガーとズーレをオーバーフローさせた形での失点だった。
同点になり明らかに混乱が見られるドイツ。守備陣は広いスペースへの対応を整理できないまま、攻撃陣が前に前にという状況で前後の分断が生まれる。その混乱に乗じて、コスタリカはセットプレーから追加点。エリア内でのデュエルにことごとく勝ち、逆転となるゴールを押し込んで見せた。
直後にドイツはゴールで落ち着きを取り戻す。ハフェルツの氷のようなフィニッシュは展開と異なり、氷のようにクールなフィニッシュだったと言える。点を決めた後は相手とがっつり喧嘩していたけども。
後半は裏の会場で日本が逆転というこの2グループにとっては有り難くない状況が発生する。追い落とす対象がスペインに切り替わったことで、コスタリカ、ドイツともに得点が必要な状況になる。
ともに得点が必要というシチュエーションは明らかドイツに有利なものだった。オープンでの打ち合いになれば両チームの攻撃の威力の差は明らか。コスタリカのPA内での対応の拙さを思い出すようなハフェルツのゴールで逆転すると、最後はサネの抜け出しにフュルクルク。タレントの差であっさり押し切ってみせた。
得点をとり、後は吉報を待ちたいドイツだったが、他会場からの嬉しい報告はなし。同じ勝ち点4で並んだスペインとはコスタリカをどれだけ叩けたか?という部分で差がつくことになってしまった。
試合結果
2022.12.1
FIFA World Cup QATAR 2022
Group E 第3節
コスタリカ 2-4 ドイツ
アル・バイト・スタジアム
【得点者】
COS:58′ テヘダ, 70′ ノイアー(OG)
GER:10′ グナブリー, 73′ 85′ ハフェルツ, 89′ フュルクルク
主審:ステファニー・フラッパート
総括
■対応できる局面の乏しさは目につく
「2弱」らしくスペインとドイツにきっちり敗れて、日本に勝利をするという比較的順当な星取をしたコスタリカ。勝敗の話で言えば、ちょうど日本と真逆の印象が強い。
初戦のスペイン戦のフォーメーションは4-4-2でスタートしたが、アンカーに平気で前を向かれたり、ハーフスペースの裏抜けに対応することでバイタルが空いてしまうという無限ループで失点を繰り返しまくる。反省を生かし、後半に採用した5-4-1が以降の基本フォーメーションになる。
しかし、この5-4-1も強度や完成度が高いものとは言えない。ドイツ相手には枚数が揃っているものの、相手に平気にヘディングを許してしまう場面を頻発。人数が多い分、責任感が薄まってしまっているかのパフォーマンスを見せてしまう。
5-4-1だろうと4-4-2だろうと基本的にはミドルゾーンで構えたい意志を見せていたが、結果的にPA付近まで下げられてしまうケースばかり。敵陣に攻める機会を得るのに終始苦労した。日本戦は勝利こそしたが、可能性が非常に薄い勝ち筋を手にした要素は無視できない。押し下げられるけど押し上げられないという困難から終始脱却することは難しかった。
多少なりとも緩衝材になるのはキャンベル。ボールを預けられ、ファウルを得ることができるキャンベルは日本の波状攻撃を抑制する存在として効いていた。だが、ドイツ相手にはほとんど彼のキープは通用せず。ドイツの先制点は彼のボールロストからである。
アンダードッグとして、後ろに重心を重たくし、相手にボールを持たせるプランにストレスを感じないのは強みであるが、どの局面にも対応することが求められる今回のような大会においては安定して勝ち点を稼ぐのは難しかったはずだ。
Pick up player:ジョエル・キャンベル
どれだけ降りてきてもOK。そして、彼がボールを持てば味方が追い越すランを始めるというあたり正真正銘のコスタリカの王様。アーセナルファンとしては元気そうで安心した。