■終盤に取り戻した貫禄
CL×ザルツブルクという掛け合わせといえば、かのグループステージでのリバプールとの試合を思い出す。
日本人としては南野とクロップと邂逅という点でも非常に意味合いが大きかったこの試合では、どんな大きなものがかかった試合でもどんな強大な相手でも怯むことなく自分達のスタイルを貫いたことが非常に印象的だった。
あれから2年強、舞台はノックアウトラウンド、相手にバイエルンを回してザルツブルクは再び堂々たるパフォーマンスを見せた。ザルツブルクの2トップのプレス隊はバイエルンの3バックに対して、数的不利の状況ではあったが、2トップのボールサイド側ではない選手が中央を横断させない立ち位置をとることで、バイエルンを同サイド側に圧縮する。
プレッシングにおいてはとにかく捕まえるタイミングに遅れてはならないという原則を守りながら相手に前を向かせない。難しい舵取りを迫られるのはトップ下のアーロンソン。バイエルンのビルドアップに対しては数的不利だが、前に出ていくかサイドにヘルプに出ていくかの選択が非常に難しい。
バイエルンはビルドアップの中でアーロンソンを自陣側に取り残した状態で前進をするケースは時たま発生していた。バイエルンはザルツブルクの4-3ブロックを晒す状況を作ることはできていたが、そこから先が決まらない。ポストで前を向く選手を作り、そこから裏に一発という形はテンプレ化していたが、この裏へのパスがなかなか刺さらない。
バイエルンは優位な状況においてもやたら縦に急いでしまうことで、ザルツブルクの慌ただしいテンポに自ら飛び込んで行ってしまっているように見えた。後方に残ることが多かったキミッヒが絡まなければ、どこか急ぎがちになるのはこの日のバイエルンの選手のキャラクター的にわからないではないけども。
急ぐプレーの精度が伴わなかったバイエルンはチャンスメイクに苦戦する。前半の終盤にはキミッヒ、トリッソを軸に対角パスでグナブリーやコマンが大外で勝負できる状況を整える形を増やしたが、これもザルツブルクのサイドを攻略しきれず。チャンスが作れないまま時計が進む。薄いサイドを作れば崩せそうなものだけど、この日はやたらとクオリティが伴わなかったのは気になる。
バイエルンの誤算は守備面でも。WBに超攻撃的な選手を起用している影響もあり、3枚のCBでザルツブルクのカウンターを受ける機会が多かった。この3枚のCBは被カウンター耐性が怪しかった。リュカやパヴァールは体を当てられると脆く、ズーレはスピード面で怪しさがある。
対人スキルで差をつけたザルツブルクは21分にカウンターに成功。パヴァールに先んじて前に入ることができたアーロンソンがアダムにラストパスを決めて先手をとる。攻守にピリッとしないバイエルンはビハインドで後半を迎える。
後半、バイエルンのボール保持は改善が見られた。最終ラインにおいて、非常に意識的に相手を横に振るようになった。これにより、ザルツブルクの前線の2トップでの横への制限を無効化する。ザルツブルクが横を切る意識が強ければズーレが前に運ぶ。キミッヒが落ちれば代わりにリュカがサイドから運ぶ。と言った具合にザルツブルクのプレス隊に対して動きをつけながら主導権を握るようになった。
こうして前線を振り回すことで60分にはザルツブルクの運動量は低下。前半は中盤中央で動くスペースがなかったサネは徐々に前を向いてボールを運ぶ隙ができていたし、大外ではコマンのところからザルツブルクの守備にヒビが割れそうになってきた。
しかし、いい形を作れるようになってもラストパスが決まらないのがこの日のバイエルン。ゴールに迫る形までは進むことができない。ザルツブルクはカウンターから引き続きチャンスを得ることができた後半だったが、リュカやパヴァールは前半よりもカウンター対応に慣れた様子。チャンスの量としては前半には及ばなかった。
ジリジリした展開の中でバイエルンはギリギリに追いつく。パヴァールのクロスにファーのコマンが合わせて同点に。このシーンではエリアに飛び込んだミュラーがミソ。彼がエリアに飛び込むことによって、ファーのコマンのマークが手薄になった。この試合では3人目の動きを生かした連携があまり多く見られなかったので、バイエルンとしては僅かな連携がガチッとハマった攻撃機会を同点ゴールに結びつけた感じだった。
最後の最後は貫禄を見せたバイエルン。ただし、例年に比べるとタジタジな時間帯は長く、相手の見せ場がやたら多かった印象。怖気付くことを知らないザルツブルクならばミュンヘンでのリターンマッチで世界を驚かせることができる可能性は大いにあるといえそうだ。
試合結果
2022.2.16
UEFAチャンピオンズリーグ
Round 16 1st leg
ザルツブルク 1-1 バイエルン
スタディオン・ザルツブルク
【得点者】
SAL:21′ アダム
BAY:90′ コマン
主審:マイケル・オリバー