バレていても狙うのはムバッペの背後
決勝で待つアルゼンチンの対戦相手を決める準決勝2試合目。ブラジル不在のトーナメントで本命に躍り出たフランスは2大会連続のファイナル進出がかかっている。対戦相手となるモロッコはある意味今大会の主役となっているチームといっていいだろう。アフリカ勢初のベスト4進出を決めて、驚異的な快進撃を見せている。フランスには胸を借りる形にはなるだろうがスペイン、ポルトガルに続く大物食いのチャンスを狙うことになる。
どちらのチームともメンバーには一部変更があった。フランスは蔓延している風邪の影響でウパメカノとラビオがスタメン落ち。コナテとフォファナをリプレイスする形で4-2-3-1を維持する11人を送り出した。一方のモロッコは最終ラインを増員する5-4-1を採用。負傷を抱えているレギュラーCBであるサイスとアゲルトは共にスタートメンバーに名前を連ねてはいたが、アゲルトは試合直前でメンバーから外れることに。アリが代わりに3バックの一角に入ることになった。
立ち上がりは両チームとも相手にボールを持たせる格好になる。フランスはそもそもプレスをかけてテンポを上げていくタイプのチームではないし、この日のモロッコはまずは後ろを固めることを重視するフォーメーション。前から捕まえに行くことを優先せずにまずは構えて受け止めることを重視した形である。
そのため、前日のアルゼンチン×クロアチアのようにジリジリした展開が予想されたのだが、先制点が入ったのは思いのほか早かった。フランスは縦パスを収めたグリーズマンからDFをかわして穴を空けると、そこからモロッコの守備対応はドタバタ。フランスは最後にファーに余ったテオ・エルナンデスが高い位置でのボレーを決めて先制点を奪う。
モロッコからするとDFのヤミークの飛び出しが甘かった。飛び出すならば入れ替わられてはいけないし、サイスもカバーしなければいけなかった。ただ、実質負傷持ちのサイスにそこまでをお願いするのは酷だろう。20分で限界を迎えて負傷交代をしたことからもこの試合におけるサイスに人の手助けをする余裕はなかったように思う。実質、飛び出したヤミークがうまく対応する以外にモロッコが陣形を崩さずに守り切るための手はなかった。。
明らかにプランが崩れる先制点を奪われてしまったモロッコ。しかし、前進の形を明確に作れている分、先制点により希望が完全に途絶えてしまったということはなかった。
モロッコの攻め筋はいつもと比べると少し風情が異なった。右サイドのツィエクと左サイドのブファルを軸に両サイドからバランスよく攻撃を仕掛けるのが彼らのスタイル。しかし、この日のモロッコは狙いをフランスの左サイドに集約した感があった。フランスの守り方の定番といえば、ムバッペの背後のラビオがカバーし4-3型に変化する形。ラビオがフォファナに入れ替わってもそうしたフランスの守備のバランスは変わらなかった。
まず、フランスが狙うのはこのムバッペの背後のスペース。ここから数珠つなぎでフランスの攻略を狙うモロッコ。次に狙うのはムバッペのカバーに出て来たフォファナの背後である。ここから仕上げになるのはテオとコナテの間のスペースへの裏抜けである。
ムバッペの背後→フォファナの背後→テオとコナテの間という形で段階的な狙い目を定めたモロッコはフランス陣内に攻め込むことが出来ていた。同サイドを徹底的に攻略するために、ブファルが右に流れる機会が多かったのもモロッコのプランがいつもと違ったことの証明になっている。
しかし、フランスからするとムバッペの背後を突かれるというところは想定内。逆に、きっちり同サイドに閉じ込めながらコナテに早めに潰しに出てくる形に持っていければ攻め込まれたとしても問題はない。特にツィエクが抜け出す形はほぼ抑え込まれていた感じ。逆にハキミやウナヒのような選手の飛び出しにはワンテンポ遅れることが多く、エン・ネシリもフランスのDFの前に入ることが出来ていたので、ぴったりとクロスが合えば得点できる形は作ることが出来ていた。
だが、失敗すればフランスはカウンターから反撃を行うことができる。撤退してても受けるのが難しいフランスのアタッカーにスペースが加わるのだから、止めるほうもさらにピンチになる。それでもモロッコは勇敢にそのリスクを受け入れる。サイスの負傷に伴い4バックにシフトし、いつも通りの布陣に戻すなど1点ビハインドという状況から強引に引き戻すためのプランを打って見せる。
敵陣深くまで攻め込んでからのロストが多かったこと、そもそも5バックでもそこまで堅く守れていなかったことなどを踏まえるとモロッコの4バックシフトによる急激な失点のリスクの上昇は避けられたといってもいいだろう。たまにフランスの想像を超える形でのチャンスメイクが出来ていたことも含め、モロッコの失点後のリアクションは軒並み優れたものだったといえる。それでも失点のリスクをロングカウンターで突きつけることができるフランスは恐ろしいのだけど。
後半、フランスはより手堅いプランに移行する。まず、ムバッペのプレーエリアを気持ち下げることで左サイドの守備を強化。フォファナはムバッペのスペースを埋めることから解き放たれ、最終ラインが出て行った時のカバーに入れる高さまで位置を下げるようになる。
逆サイドではグリーズマンが3センターの一角まで位置を下げる。PA内での跳ね返しに加わることで盤石の態勢を構築する。グリーズマンは前向きの状況でも守備で貢献。後半はブファルの右サイド流れを減らしつつ、左サイドからの攻撃も狙っていきたかったモロッコだが、下がるのをサボらないデンベレとグリーズマンが延々とスペースを消し続けるためどうしようもなかった。
モロッコが光を見つけることが出来たのは大外アタックのところ。アッラーはクンデを時折出し抜くことが出来ていたし、右サイドではハキミがオーバーラップを欠かさないことでウナヒ、ツィエクとトライアングルを形成する。フランスが手を打った後半も右サイドからの攻め手が死ななかったのはSBハキミが終盤もオーバーラップの量が減らなかったことが大きい。
ゴールに迫るシーンもいくつかあったモロッコ。だが、ロリスのスーパーセーブとフランスDF陣のシュートブロックに遭いまくり、なかなかごーるまでたどり着くことができない。
フランスはジルーに代えてテュラムを投入し、左サイドの守備のさらなる強化とロングカウンターにおける人員の増加を図る。この交代から徐々に押し返す機会を増やすと、最後はムバッペの左サイドの突破から転がったボールをコロ・ムアニが押し込んで決着をつける。
モロッコの激しい抵抗をなんとか振り切ったフランス。連覇という偉大な記録への挑戦権を手にし、メッシが待つファイナルに駒を進めることに成功した。
あとがき
このトーナメントは格上と目される方が余裕を持って入ったものの、追いつかれたりなかなか点が入らなかったりした際にギアチェンジが出来ずに苦しむところがある。クロアチアに敗れたブラジルはその代表例といえるだろう。
この試合のフランスも同じ展開に陥る可能性もあったが、モロッコの猛攻をしのぐ守備陣の奮起とデシャンの手当てで流れを取り戻すあたりが今のフランスの強さである。デンベレやグリーズマンや4年前のポグバなど攻撃的なタレントに守備における高負荷な仕事を押し付けることができるのはデシャンのチームの特色である。グリーズマンはほぼシメオネのおかげだけど。
モロッコに関しては言うことはほぼない。手負いの状態でフランスと立ち向かい、できることはほぼやった。最終ラインが万全なメンバーならという悔いは残るが、それはアンダードックの宿命でもある。
低い位置でのブロック守備とハイプレスに対するプレス回避、そして敵陣でのトライアングルアタックなど現代の代表チームにおいてほしい要素をコンプリートしており、今のモロッコは代表チームが目指すべき要素の詰め合わせといっていいだろう。そこにアムラバトをはじめとするタレントの個性も乗っける形で質を上乗せしたモロッコは間違いなく今大会のベストチームの1つだ。
試合結果
2022.12.14
FIFA World Cup QATAR 2022
Semi-final
フランス 2-0 モロッコ
アル・バイト・スタジアム
【得点者】
FRA:5‘ テオ・エルナンデス, 79’ コロ・ムアニ
主審:セサル・ラモス