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「Catch up Premier League」~マンチェスター・ユナイテッド編~ 2021-22 season

 マンチェスター・ユナイテッド、21-22シーズンの歩み。

目次

第1節 リーズ戦(H)

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■トランジッションで大暴れのポクバとブルーノ

 先日、契約延長を発表し、無事に今季もリーズの指揮を執ることが決まった名物監督のビエルサ。開幕戦は昨年のリバプールに続き、オールド・トラフォードに乗り込むという非常に難易度の高い相手に挑むことになった。

 立ち上がりからリーズは昨季と同様にらしさが全開。高い位置からプレッシングに行き、マンチェスター・ユナイテッド相手に正面から立ち向かっていた。

 変わった部分といえば、バンフォードが敢行するプレッシングを分担するようになったこと。昨シーズンは2CB相手に1人でひたすら追いかけまわすムーブを繰り返していたが、この試合ではIHのロドリゴと分担。片方が出ていくときは片方が中盤のプレスにリトリートする。やたら広い行動範囲だったバンフォードのプレスを減らすことで、パフォーマンスを落とさないためのやり方なのかなと思った。

 一方のマンチェスター・ユナイテッドもリーズのマンマークに対策を準備。受け渡しがある分、時間を与えられやすいバックスがしっかりと持ちあがる部分が初手。それに合わせて中盤がやたらと縦方向に動くことでマンマークを振り切ろうと試みる。例えば、ブルーノ・フェルナンデスの降りる動きと運動量豊富なCHが入れ替わるように上がっていくなど。フレッジ、マクトミネイは体の仕上がりが上々で積極的にマッチアップ相手を振り切って前線まで駆け上がっていた。

 しかし、このマンチェスター・ユナイテッドのやり方には脆弱性も。中盤と2列目が入れ替わることで、攻撃が止まった瞬間中盤にぽっかりとスペースが空く。リーズのロングカウンターがやたらスムーズに進んだのは、攻撃においてマンチェスター・ユナイテッドが取ったリスクのせいだろう。

 だが、先制点はマンチェスター・ユナイテッド。ブルーノ・フェルナンデスとCHが入れ替わる縦関係の動きに合わせて内側に絞ってきたのはポグバ。リーズとの試合で顕在化する個の力の差を最も感じられるのはこの男のパフォーマンスであることが多い。

 先制点も絞る動きで縦パスを引き出すと、ブルーノ・フェルナンデスにラストパス。見事なコントロールでゴールを生んでみせた。その後も得点をアシストし続けたポグバは何とこの日だけで4アシスト。ブルーノ・フェルナンデスも3得点と爆発。間延びしているライン間に顔を出し、前線と中盤をつなぐ役割は全う。苦しくなってくる後半にトランジッションで差を見せたユナイテッド。中盤の強度で勝り、5得点という強烈なスタートダッシュを決めてみせた。

試合結果
2021.8.14
プレミアリーグ 第1節
マンチェスター・ユナイテッド 5-1 リーズ
オールド・トラフォード
【得点者】
Man Utd:30′ 54′ 60′ フェルナンデス, 52′ グリーンウッド, 68′ フレッジ
LEE:48′ エイリング
主審:ポール・ティアニー

第2節 サウサンプトン戦(A)

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■二度のサボり癖の代償

 サウサンプトンは狙い通りの立ち上がりだったと言っていいだろう。高い位置からマンチェスター・ユナイテッドにプレスをかけて強いプレッシャーから自分たちにペースを引き寄せる。シュートシーンまで行くなど序盤は悪くなかったホーム開幕戦となった。

 試合の展開を手中に収めたかと思ったサウサンプトンだったが、ユナイテッドは落ち着いて対応。プレスに対しては最終ラインに1人選手をおろすことで数的優位を確保。サウサンプトンを徐々に押し込んでいく。特に面倒くさかったのはポグバ。収まるし、ラストパスも出せるこの選手にボールが渡るとユナイテッドの陣地回復は非常に捗る。

 押し込んでいくと今度はサウサンプトンの撤退守備の問題点が露呈。一応自陣には戻りはするものの、ボールホルダーを捕まえるのがやたら遅いため、そこから更なる前進を許してしまい、悪循環に陥ってしまう。

 加えて、難があったのがセットプレー。ほぼほぼ必ずユナイテッドの選手に触られてばかり。ゾーンでのセットプレー守備はほとんど機能しておらず、サウサンプトンがユナイテッドのセットプレーを地面に落とさずにクリアすることは稀だった。

 いつでも点は取れそうだったユナイテッドだが、段々と相手にお付き合いする様になっていく。ペースはおちて、ポジトラのスピードがどんどんのんびりに。すると、再びサウサンプトンのプレスが効くように。ブルーノ・フェルナンデスを引っ掛けたステーフェンスが高い位置でボールを奪うと、最後はアダムスが相手に当てたシュートがゴールマウスに。幸運だが、サウサンプトンにとっては狙い通りの形での先制点と言っていいだろう。

 後半、サウサンプトンは前半から存在感抜群だったリヴラメントに大外を任せる5−3−2にシフト。受けに回る。すると再び前に出れるようになったユナイテッド。セットプレーが不安定かつ、重心が後ろになり苦しむサウサンプトン相手にPAでパスを繋ぐ場面を徐々に増やしていくと、最後はグリーンウッドが同点弾をゲット。

 ここから一気にたたみかけると思われたユナイテッドだが、ここから何故か再びトーンダウン。前半と同じく強度を上げることを怠り、最後はサウサンプトンにあわやというチャンスを作られる場面も。2度のサボり癖を発動したユナイテッドにとっては悔しい引き分けとなってしまった。

試合結果
2021.8.22
プレミアリーグ 第2節
サウサンプトン 1-1 マンチェスター・ユナイテッド
セント・メリーズ・スタジアム
【得点者】
SOU:30′ フレッジ(OG)
Man Utd:55′ グリーンウッド
主審:クレイグ・ポーソン

第3節 ウォルバーハンプトン戦(A)

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■ゴールを手繰り寄せた強引さ

 レスター、トッテナムと開幕から強い相手との連戦の影響か勝ち点を取れていないウルブス。勝ち点はおろか得点も取れていないという状況は気になるところ。そんな中で今節も引き続き強豪との対決。マンチェスター・ユナイテッドをホームに迎える第3節となる。

 前半の内容が良かったのはウルブスの方だろう。相変わらず今季は絶好調なトラオレが大暴れ。1,2人くらいなら軽く吹き飛ばすドリブルでロングカウンターを担う。いつもの光景といえばいつもの光景なのだが、相手はマンチェスター・ユナイテッド。対人強度でいえば、リーグ屈指のチームである。そのチームを向こうに回して大暴れなので、今季のトラオレは只者ではない。逆サイドのトリンコンと共にユナイテッド相手にロングカウンターから好機を生み出す。

 しかし、なかなか得点には届かないウルブス。トラオレのプレーで気になるのは、ボールを運んだ後にパスをどこに出せるかを優先度高く考えている感じ。シュートを打つときはボールの出しどころがなかったとき。そうなると、大体前にはブロックがいるので阻まれてしまう。ゴールの優先度の低さが貢献度の高さと得点関与の少なさというアンバランスさを産んでいる感じだ。

 ポゼッションの局面でWGの打開力に依存しているのは昨季と同じ。撤退した相手にはサイドチェンジしながらWG単騎で攻撃を仕掛けていく。中にヒメネスがいる分、得点の可能性は昨季よりは高まるがエリア内の枚数を考えれば、ロングカウンターの方が可能性がある。局面とボール運びまではできているので、フィニッシュの形を作りたいところだ。

 一方のマンチェスター・ユナイテッドは、そもそものロングカウンターを繰り出せる機会が少なかった。ポゼッション局面でもプレッシャーの低い位置から裏に長いボールを蹴り出すのだが、あまり効果的な感じはしなかった。新加入のサンチョも存在感が希薄で、なかなか馴染むのには時間がかかるかもしれない。

 そうした中で試合を決めたのはグリーンウッド。押し込んだ局面でも活路を見出せなかったユナイテッドにおいて、サイドからやや無理筋な形からシュートに持ち込んで得点を産んでみせた。ゴールから逆算したプレーで強引にチームを勝利に導いたグリーンウッド。内容では厳しくても、最後は上回るというマンチェスター・ユナイテッドらしい勝ち方で試合を決めた。

試合結果
2021.8.29
プレミアリーグ 第3節
ウォルバーハンプトン 0-1 マンチェスター・ユナイテッド
モリニュー・スタジアム
【得点者】
Man Utd:80′ グリーンウッド
主審:マイク・ディーン

第4節 ニューカッスル戦(H)

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■帰還は華々しく

 なんといってもこの試合最大のトピックスはクリスティアーノ・ロナウドの帰還だろう。オールド・トラフォードにて二度目のマンチェスター・ユナイテッドのデビュー戦を飾るロナウドはCFにて先発スタートである。

 試合はニューカッスルが撤退志向の強い5-4-1でのブロック守備を組む。これをマンチェスター・ユナイテッドが壊せるか否かという構図の序盤戦だ。ニューカッスルのプレス位置は1トップのサン=マクシマンがCHのあたりをフラフラと。全体の重心は低かった。

 マンチェスター・ユナイテッドは左サイドを主体に崩しに行こうとするのだが、なかなかに苦戦。5-4-1のブロックは横移動に強く、サイドにボールを運んでもマンチェスター・ユナイテッドはニューカッスルの守備をどかすことができず、そこから先に進むことができない。

 サンチョはサイド打開のキーマンだろうが、決定的な働きを見せることが出来ず。まだコンディションは十分ではないのだろう。サイドからは中央にロナウド目掛けた山なりのボールが飛んで来るばかりだった。それでも脅威ではあるのだけど。

 逆にニューカッスルは攻撃の道筋は準備されていたように思う。左サイドに置かれたジョエリントンを空中性のターゲットとして、自陣からのロングボールを放り込む。落としを拾ったサン=マクシマンやアルミロンがドリブルで前に進むことが出来るので、カウンターの威力としては十分。機会としてはマンチェスター・ユナイテッドの方が明らかに多いが、ニューカッスルも十分対抗することはできていた。

 しかし、先手を取ったのはマンチェスター・ユナイテッド。この日あまり印象的ではなかった右サイドからグリーンウッドが強引に切り込むと、シュートが跳ね返った影響から、ウッドマンがボールをこぼしてしまったところに詰めたのはロナウド。前半終了間際にナンバー7がニューカッスルの守備を攻略して見せた。

 後半のニューカッスルはビハインドを背負いながらも撤退。おそらく、前半に見せたカウンターにそれだけ勝算があったということだろう。そして、実際にそのロングカウンターから結果を出す。この局面で輝いたのはアルミロン。ユナイテッドの選手を一気に置き去りにすることでカウンターを発動すると、そのまま敵陣まで一気に駆け上がる。ボールをたくしたサン=マクシマンが最後にマンキージョにアシストを決めて同点。リードを奪われてなお撤退するというやり方が奏功した瞬間だった。

 だが、ここはオールド・トラフォード。ましてや英雄帰還のお祭りの日である。ポグバから逆サイドへの展開でニューカッスルの撤退がやや手薄になったところにショウからボールを受けたロナウドがフィニッシュ。この日2点目を獲得する。素早いシュートでウッドマンの股を抜き、格の違いを見せつけた。

 内容的にも徐々にニューカッスルは中央のプロテクトが甘くなり、高い位置でポグバが起点になれるように。とどめの3点目はガッツリ空いたバイタルをブルーノ・フェルナンデスがミドルで強襲したところだった。。

 ニューカッスルは60分が過ぎると、サン=マクシマンの馬力が低下。彼がカラータイマーが鳴っている状態になると、ニューカッスルは厳しい。最後はリンガードの得点でゴールラッシュの幕を下ろしたマンチェスター・ユナイテッド。ロナウドの復帰を祝う試合で主役を渡すわけにはいかなかった彼らの意地が見せた大勝だった。

試合結果
2021.9.11
プレミアリーグ 第4節
マンチェスター・ユナイテッド 4-1 ニューカッスル
オールド・トラフォード
【得点者】
Man Utd: 45+2′ 62′ ロナウド, 80′ フェルナンデス, 90+2′ リンガード
NEW:56′ マンキージョ
主審:アンソニー・テイラー

第5節 ウェストハム戦(A)

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■縁深い男が試合を決める

 絶対的なエースのアントニオ不在の状態で、首位のマンチェスター・ユナイテッドと対峙することになったウェストハム。ボーウェン、ベンラーマを中央に並べ、サイドには新加入のヴラシッチを起用して、首位叩きを狙う。

 ウェストハムの後方のビルドアップはゆったりしたもの。両CBが開き、GKも絡めながらの組み立てになる。ただ、前線にボールが入るとかなり展開はスピーディーに。止まってボールを組み立てられるアントニオがいないことで、あまりやり直しは効かなくなっている印象。ソーチェクが前線に顔を出す機会が減ったのは偶然ではないだろう。

 その分、ポジションチェンジを増やして相手に不確定要素を増やしていた印象。前線2人が裏を狙えるので、SHが低い位置まで保持のサポートに降りてきたり、クファルが逆に高い位置まで出て行ったりとポジションを変えながらマンチェスター・ユナイテッドに迫る。

 一方のマンチェスター・ユナイテッドも同じくCBが開き、GKも絡めてのビルドアップとなった。ただ、ウェストハムに比べると、マンチェスター・ユナイテッドのバックスはボールを運ぶのが上手。CHをスタートポジションとしていたウェストハムのプレス隊を引き出しながら、マグワイアを中心に敵陣にボールを指していく。

 そこから先の攻撃はややバランスを取るのが難しい印象。ロナウド、ポグバという大駒が2枚いるとさすがに難儀な部分は出てくる感じ。大外で高い位置までオーバーラップしていたショウのように汗をかける選手がいなければ、ストライカーのロナウドを生かすのは難しい。

 ロナウドもアタッカー陣との連携もまだ熟成段階なのだろう。抜け出しは成功したものの、グリーンウッドへの決定的なアシストの機会を逃してしまう場面もあった。だが、その直後にロナウドは自らの得点でやらかしを帳消ししてしまうのだから、恐ろしいものである。この試合もマンチェスター・ユナイテッドの1点目を決めたのはロナウドだった。

 ウェストハムの1点目を決めたのはベンラーマ。バイタルにぽっかり空いたところから放ったミドルが幸運な跳ね返りでデヘアの守るゴールマウスの中に転がっていった。

 後半になると、流動性を武器していたウェストハムはやや動きが減って辛くなってきた感じ。徐々にマンチェスター・ユナイテッドが攻める機会を増やしていく。交代選手が入っても火力が落ちないあたりはさすがは首位といったところだろうか。

 試合を決めたのは戦前に並々ならぬ思いを述べていたリンガード。CLで敗戦に直結する痛恨のミスを果たした彼が、昨季の後半戦でのブレイクによって多くのファンを熱狂させたロンドン・スタジアムでこの日はファンを黙らせる立場となった。

 試合最終盤、ショウのハンドで追いつくチャンスを得たウェストハムだったが『ピンチキッカー』のノーブルが放ったPKはデヘアにによってストップ。非常にプレミアらしい狂乱騒ぎとなった最終盤でマンチェスター・ユナイテッドが首位を堅持する勝ち点3を手にした。

試合結果
2021.9.19
プレミアリーグ 第5節
ウェストハム 1-2 マンチェスター・ユナイテッド
ロンドン・スタジアム
【得点者】
WHU:30′ ベンラーマ
Man Utd:35′ ロナウド, 89′ リンガード
主審:マーティン・アトキンソン

第6節 アストンビラ戦(H)

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■専守からの変容を見せる5-3-2

 チェルシー戦でいい手応えだったものの、結果が出なかった5-3-2を継続しているアストンビラ。アルゼンチン代表遠征で一悶着あったブエンディアがスカッドに戻ってきても、この形を変えることなく継続している。

 見た目こそ5-3-2だけど、比較的専守っぽかったチェルシー戦と比べるとアストンビラは徐々に変容を見せているように思う。攻撃においては一気にロングカウンターを仕掛けるわけではなく、大外のWBを活用しながら幅を取りつつ徐々に進んでいく。トップのFW2人がサイドに流れることにも積極的。ユナイテッドの4枚の横幅の大外を回るように攻略を狙う。

 15分近辺にあったキャッシュ→ターゲットの決定機はWBからWBへのクロス。この日のアストンビラの狙いの一つだろう。決まらなかったけども。5-3-2だけど、幅を使いながら前進。アストンビラはこのシステムの中でできることの範囲を広げようとしているのかもしれない。

 対するユナイテッドはこのアストンビラの横幅を使った攻撃をカットしたところからカウンターを狙う。割とアストンビラは引っかけるのである程度チャンスの頻度はあるのだが、ロナウドがいるとどうも一度落ち着いてしまうのが気になる。グリーンウッドが必死にゴール前まで運んでも、ロナウドがゴール前で一度止まる。ここまでは点を決めているのでなんとも言えないところだが、展開によっては怪しい部分も見え始めている。

 遅攻はユナイテッドも大外から。大外からドリブルで破壊するか、ラインを押し下げてポグバかブルーノ・フェルナンデスのミドルが王道パターン。ミドルにはめっちゃ積極的なため、決定機はそこまで多くないものの、シュート数はやたら増えていく感じ。

 そんなユナイテッドが苦しんだのは負傷者だ。前半にはショウ、後半はマグワイアとバックラインが次々と交代。この試合だけでも痛いが、ミッドウィークには初戦で手痛い敗戦を喫したCLが控えている。ここでどちらかを欠くだけでも痛手である。

 攻撃面ではルーク・ショウの欠場が痛く、後半からペースはアストンビラに。ワトキンスは決定機まで持ち込むもデヘアに阻まれており、メンディに止められまくったチェルシー戦がフラッシュバックした感じ。

 だが、後半から勢いを得たアストンビラが終盤に先制点をゲット。ホウスがコーナーから仕留め貴重な得点をビラにもたらす。前半はユナイテッドにもかなりセットプレーのチャンスはあっただけに悔しい失点となった。

 しかし、本当にユナイテッドが苦しんだのはここから。決定的な働きを見せたかと思ったホウスが後半追加タイムにハンドで今度はPKを献上。だが、このPKはブルーノ・フェルナンデスが枠外に。マルティネスのトラッシュトークが効いたのかは定かではないが、ユナイテッドが絶好の同点機を逃したのは確か。中断明けからどんより漂う停滞ムードを払拭できないままCLに挑むことになる。

試合結果
2021.9.25
プレミアリーグ 第6節
マンチェスター・ユナイテッド 0-1 アストンビラ
オールド・トラフォード
【得点者】
AVL:88′ ホウス
主審:マイク・ディーン

第7節 エバートン戦(H)

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■斜め成分を活かせるうちは・・・

 互いに4-2-3-1のフォーメーションでスタートした両チーム。序盤からボール保持で主導権を握ったのはマンチェスター・ユナイテッドだった。そこまで可変は激しくなく、CBとCHの4枚で低い位置からビルドアップ。サイドに大きなボールを送り、そこから人数をかけた崩しでエリアを狙うことが主なやり方である。

 サイドの崩しはひし形が基本。ブルーノ・フェルナンデスはボールサイドに絡む代わりに1トップはビルドアップ関与は免除されることが多い。この棲み分けはトップがカバーニだからこそ。クリスティアーノ・ロナウドはこの約束事の外側の人間である。

 ユナイテッドがこの試合よかったことはサイドからのクロス以外に斜めに入り込む成分を左右で用意していたこと。例えば、ルーク・ショウのフリーランとか。大外を取られたらクロスに備えればいい!と相手に割り切らせない点はいい感じ。

 この斜め成分の動きはエバートンに効く。なぜならエバートンは守備におけるCHの行動範囲が非常に広く、中央にスペースを空けてしまうことが多いから。出て来たドゥクレやアランの脇を差されるような動きは苦手なのである。

 そして実際この斜め成分に対応できずに先制点を献上する。右サイドの斜め成分担当のグリーンウッドがドゥクレの脇からすり抜けるように中央に入り込むと、ブルーノ・フェルナンデスを経由して逆サイドのマルシャルまでボールがつながる。DFラインを下げながら受けることに成功したマルシャルが先制点を叩き込む。

 しかし、ユナイテッドが盤石にし試合を運べたかというとそういうわけではない。この試合のユナイテッドはどこか対人が緩い。中盤のトランジッションの局面もドゥクレやグレイに力負けするシーンもあったし、エリア内では人数が揃っていてもマークに対する警戒が甘い時もあった。

 オープンな状況におけるエバートンの強さに脅かされ続けると、迎えた後半についに同点に。グレイのドリブルからラインを押し下げると最後はタウンゼント。完璧に打ち抜かれたミドルに対してデヘアは一歩も動くことすらできなかった。

 その後、エバートンはデイビスを投入し、4-5-1に布陣を修正。中盤の人を増やし、ユナイテッドの横スライドに対して脇を差される危険性を減らす。すると、ユナイテッドはこれまでほどはチャンスを作れなくなり試合は落ち着いた展開に。

 ロナウド、ポグバと大駒を続々と投入したユナイテッドだったが、足元へのパスが増える分、攻撃はむしろ停滞。ポグバのファウルの荒さを見ると、だいぶフラストレーションを溜めていた様子。

 勝ちきれなかったユナイテッドは2節連続で勝ちを逃すことに。他の優勝候補に比べて日程が楽なはずの序盤戦だったが、優勝に向けて弾みのついた滑り出しとは言えなくなってしまった。

試合結果
2021.10.2
プレミアリーグ 第7節
マンチェスター・ユナイテッド 1-1 エバートン
オールド・トラフォード
【得点者】
Man Utd:43‘ マルシャル
EVE:65’ タウンゼント
主審:マイケル・オリバー

第8節 レスター戦(A)

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■終盤に出てきた機動力の差

 よもやよもやの出遅れとなってしまったレスター。攻守の歯車がかみ合わないまま続けていた4-2-3-1はひとまず棚上げをして、昨シーズン終盤の基本形となった3-4-1-2への回帰でこの試合に臨む。4-2-3-1での目玉は両WGの突破力。

   しかし、現状のバーンズやルックマンの仕上がりではワン=ビサカやショウにぶつけてもなかなか勝機を見出しにくいということだろう。その判断はよくわかる。

 ただし、序盤のレスターは苦戦した。理由としてはユナイテッドがばっちりマンマークを当てやすいかみ合わせになってしまったからだろう。正三角形同士のマッチアップとはいえ、相手を定めておけばそんなに苦労はしない。

    対人に優れたユナイテッドが序盤は優勢。レスターはこれまでよりは保持で落ち着いたり、幅を取ったりできる機会はあったけども、ゴールにガンガン迫っていけるという感じの立ち上がりではなかった。

 どちらかといえばレスターがマーカーがはっきりしないSBからボールを運ぶことが出来たユナイテッドの方が優勢に進めることが出来ていたといってもいいかもしれない。

 デュエル色の強い展開の中で先制点はマンチェスター・ユナイテッド。今季好調のグリーンウッドがスーパーミドルを突き刺し先手を取る。しかし、レスターも負けじとスーパーゴールで応戦。こちらはティーレマンスが技ありのゴールでデ・ヘアの虚を突いてみせた。

 後半はやや試合の展開が変化。徐々にユナイテッドの中盤のマークが甘くなり、レスターが動きが上回るようになる。中盤のホールドが解除されれば、レスターからするとかなり選択肢が広がる。ライン間のマディソン、裏のイヘアナチョとヴァーディ。ティーレマンスからするとパスを出すには困らないのがこの2トップ+トップ下のシステムだ。

 勢いに乗るレスターは完全に終盤はユナイテッドを飲み込む。セットプレーからソユンクが押し込むと、同点弾をものともせずに1分後にヴァーディが勝ち越しゴール。対人、機動力で勝る終盤のレスターは試合のテンションを下げないままストライカーのダカを投入すると、そのダカが試合を決定づける4点目。終盤の強度で上回ったレスターが久しぶりの快勝を果たす。

 一方のユナイテッドにとっては重たい逆転負け。対人+ソリッドなカウンターの強度は最強だったユナイテッドだけど、ロナウド加入以降それは変わりつつあることを感じる敗戦となった。

試合結果
2021.10.16
プレミアリーグ 第8節
レスター 4-2 マンチェスター・ユナイテッド
キング・パワー・スタジアム
【得点者】
LEI:31′ ティーレマンス, 78′ ソユンク,83′ ヴァーディ, 90+1′ ダカ
Man Utd:19′ グリーンウッド, 82′ ラッシュフォード
主審:クレイグ・ポーソン

第9節 リバプール戦(H)

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■穴を突く隙すらなし、圧巻のサラーが赤い悪魔を粉砕

 負ければスールシャールの解任も囁かれる形で迎えることとなったナショナルダービー。だが、そんなマンチェスター・ユナイテッドの状況とは裏腹に試合はあっという間にリバプールが先制する。

 トリガーになったのは右サイドの守備。どうやら、グリーンウッドがファン・ダイクを見ることになっていたらしく、ロバートソンの担当は宙に浮いてしまった形になる。そもそもの守り方の初期設定の担当のバランスが良かったか?というのはあるものの、1失点目の場面でワン=ビサカのチェイスは無謀なもの。バックスに次々を穴を開けさせることになっている。

 基本的にはこの形が続くことになる。バックラインの強引なチェイスにより、最終ラインは極端に左右に偏在化しリバプールは横断さえすれば簡単にフリーの選手を作り出すという仕組みだ。猛威を奮ったのはケイタとサラー。ユナイテッドの選手がスライドしてお留守になった右サイドで自由自在に暴れまわって、次々と得点を重ねていた。

 こういうビックマッチは強度が高いプレスでの張り合いに持ち込むことで、結果を手にしてきたスールシャールだけど、ロナウドの到来でそのメソッドの採用は難しくなっている。その分のツケを中盤やバックラインが積極性で補おうとしているので、歪んでいるように見える。

 ただ、リバプールも磐石だったか?と言われるとそういうわけでもない。彼らが即時奪回を目指して敢行するハイプレスには結構穴もある。ユナイテッドはMF-DFのライン間に比較的簡単に楔を入れて、ブルーノ等のフリーな選手にボールを入れることができていた。そこからボールを左右に振りながら、攻めていけば光は十分。特に右からカットインできるグリーンウッドはリバプールにとって鬱陶しい存在だった。

 だけども、そんな話ができたのは前半の追加タイムに差し掛かるまで。明らかに歪みの量が多かったユナイテッドは3失点目を喫すると、どうも感情のコントロールが効かなくなっていたのか不要なファールを連発。

 リバプールが得点を重ねていくのを横目に、ユナイテッドはロナウドを皮切りに後半のポグバの退場まで4枚のイエローカードと1人の退場者を15分余りで出すという形で試合を完全に壊してしまった。最後のポグバの退場でケイタが悲劇的な負傷交代をした時点でサッカーとしての試合は完全に終了。あとは徐行モードでただ時間を過ごしていくという形に。

 明暗くっきりのナショナルダービー。リバプールにも粗があったのは確かだが、触れさせなければ問題なし。ハットトリックのサラーを中心に格の違いを見せつけたリバプールがオールドトラフォードで5得点の特大インパクトの勝利を挙げた。

試合結果
2021.10.24
プレミアリーグ 第9節
マンチェスター・ユナイテッド 0-5 リバプール
オールド・トラフォード
【得点者】
LIV:5′ ケイタ, 13′ ジョッタ, 38′ 45+5′ 50′ サラー
主審:アンソニー・テイラー

第10節 トッテナム戦(A)

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■より悪い方が負けた

 リバプールに歴史的な大敗を喫し、窮地に追い込まれたスールシャール。ひとまずは様子見と言った様相だが、次の代表ウィークまでの成績次第では再度進退の危機に晒されることになる。一方のトッテナムもインパクトとしては地味ながらウェストハムになかなか厳しい内容の敗戦を喫している。こちらも連敗は避けたいところである。

 ユナイテッドは5-3-2のフォーメーションでトッテナムを迎え撃つ。フレッジとブルーノ・フェルナンデスを同じ高さで並べるというちょっと変わった形で守っていることからもわかるとおり、相手の守備位置に合わせて人にぶつける形でこの試合に臨む。ぐちゃぐちゃにされた前節のリカバリーとしてまずは人への意識を強くシンプルにというユナイテッドの守備であった。

 トッテナムはこれに対してCHが低い位置に下がったりサイドに流れたりなどどこまでついてくるかを試すように。2列目で言えばソンも同じような動きを行う。ただ、今のトッテナムはケインに全体を押し上げることが期待できないため、後ろに重たい動きをした時に陣地回復が厳しくなる。そうなると、結局ソンへの裏狙いの一発が主流に。どうしてもこれだとチャンスがニッチになってしまう。トッテナムは前半からまともに敵陣を脅かすことができなかった。

 トッテナムは守備でも苦戦。今までは中央を固めた結果、サイドが薄くなった!という感じだったけど、今節はただ4-2-3-1に並んだままホルダーを放置しつつ、ズルズル下がるという流れの連続でそもそもどう守りたいのかがよくわからなかった。決してユナイテッドの保持が良かったわけではないけども、サイドに流れる仕事を増やしたIHと対角のパスを駆使し、幅方向を使いながら前に進んでいく。

 トッテナムはソンを軸とした縦のギャップ、ユナイテッドは対角パスを駆使した幅を使いながら前進を狙う。この形で先制できたのはユナイテッド。ファーに流れるような形から仕留めたロナウドの見事なフィニッシュで前に出た。

 後半もスピードが上がらないままの攻撃を行い続けるトッテナム。縦横無尽に動き続けるソンへの依存度が下がらず、交代選手も攻撃の核になれず。孤立する前線とそれを支えられない中盤のボール回しでただただ時間が過ぎていく。

 ユナイテッドは後半はやや急ぎすぎ感もあったが、どちらかといえばカウンター型のトッテナムに対してはボールを持たせたかったのかもしれないし、そもそもちょっと急げば崩せそうなカウンターチャンスが多かったことも否めない。

 結局そこからはFWがカウンターを二発で加点したユナイテッド。トッテナムは文字通り何もできずに完敗。前節は決して見られなかったニヤリとした表情を見せたスールシャール。ひとまずは肩を撫で下ろしたことだろう。

試合結果
2021.10.30
プレミアリーグ 第10節
トッテナム 0-3 マンチェスター・ユナイテッド
トッテナム・ホットスパー・スタジアム
【得点者】
Man Utd:39′ ロナウド, 64′ カバーニ, 86′ ラッシュフォード
主審:スチュアート・アットウィル

第11節 マンチェスター・シティ戦(H)

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■理詰めを越えられない理不尽

 リバプール戦の大敗で解任危機が迫る中でトッテナムを返り討ちにし、逆にヌーノを解任に追い込んだスールシャールのマンチェスター・ユナイテッド。しかしながら厳しい日程はまだまだ続く。今節の相手は同じ街のライバル。代表戦直前の最後の一戦はマンチェスター・ダービーである。

 ユナイテッドはトッテナム戦の焼き直しとして5バックを継続採用。しかしながら、違う部分もいくつか。1つは2トップが縦関係を形成したこと。守備時はロナウドの真下にグリーンウッドが入り、アンカーであるロドリを監視していた。

 中央からの前進を阻害する分、サイドからの前進にはガードが緩かったユナイテッド。シティはノープレッシャーのカンセロ、ウォーカーのサイドから前進していく。シティの前進の王道パターンはポジションチェンジを伴うサイドのトライアングル形成。ユナイテッドは中央を固める代わりに、外側でこの数的不利とどのように向き合うかの解決策を見出さないといけない。

 ユナイテッドの答えはサイドのCBのスライド。5バックが横にスライドしながらサイドの数を合わせにいく。しかしながら、シティのもう一つの王道の攻めのパターンはファーサイドへの狙い澄ましたクロス。バックラインが横にスライドするとこの大外のクロスへの対応が難しくなる。

 サイドのトライアングルとファーへのクロスという2つのシティの王道パターンを両方は同時に防げなかったユナイテッド。最終ラインが横にズレながらの対応であたふたする中で早々に失点をする。バイリーのオウンゴールを見てヴァランがいないこともトッテナム戦との違いだったりすることも思い出す。

 もっとも、この場面はバイリーだけの責任ではない。左右に振られながらぎりぎりの対応になっていたことは構造上の仕組みであるし、シティはこういうぎりぎりの対応からエラーを引き起こさせようと危険な場所にとりあえずライナー性やグラウンダーの早いクロスを叩き込むことが多かった。

 シティの追加点も最終ラインの横スライドからファーのケアが甘くなるという筋書き。ユナイテッドは5バックにしてなおシティに対する防衛策を完成できなかった印象だ。2点ビハインドになれば当然ハイプレスには出るが、ロナウドを抱えながらシティ相手にプレッシングを完成させるのは至難の業だろう。

 攻撃においてもロナウドがサイドに流れることで直線的な部分が持ち味のユナイテッドのカウンターが一度落ち着いてしまうことに。プレスもカウンターの部分もロナウドが加入した時点で織り込み済みだったとは思う。ロナウドを獲ったのはそれでももたらしてくれる理不尽が大きかったからだろう。

 しかしながら、この試合はユナイテッドの弱みをつくシティのロジックの前に完全沈黙。理不尽は炸裂せず、理屈の前に完全に屈したマンチェスター・ダービーとなった。

試合結果
2021.11.6
プレミアリーグ 第11節
マンチェスター・ユナイテッド 0-2 マンチェスター・シティ
オールド・トラフォード
【得点者】
Man City:7′ バイリー(OG), 45′ ベルナルド
主審:マイケル・オリバー

第12節 ワトフォード戦(A)

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■旅の終わりはヴィカレッジ・ロード

 ダービーの完敗で再び解任が予断を許さない状況になってきたスールシャール。ここから先はCLに加えてリーグ戦はチェルシー、アーセナルと上位勢との対戦が続く展開になるため、確実にワトフォードを叩いておきたいところ。

 だが、そんな状況とは裏腹にユナイテッドのパフォーマンスはファンが頭を抱えたくなるものだった。立ち上がりのマティッチの持ち上がりこそ、プレス隊が手薄というワトフォードの弱点に沿ったものではあるものの、以降は各駅停車のポゼッションに終始。確かに積極的にプレスにはきたものの、人を嵌める以上に工夫があったわけではないワトフォードの圧に明らかに対応ができない。

 プレスに苦しむというよりはデリケートさに欠けると言った方が正しいだろうか。例えば、序盤に与えたPKはその典型。ブルーノ・フェルナンデスが無造作に蹴り上げたボールも、マクトミネイの後ろからのタックルも非常に散漫で軽いプレー。この場面ではデ・ヘアに救われたが、明らかに状況はよろしくなかった。

 その後も保持から危険なボールロストを続けるユナイテッド。面白いようにボールを引っ掛けられるワトフォードはカウンターからチャンスを量産する。PA内でも厳しさがないユナイテッドの守備はカウンターを受ける局面でも弱みを露呈。あっという間に2失点を喫してしまう。

 後が無いユナイテッドはHTに選手交代とシステム変更。マルシャルとファン・デ・ベークを投入し、システムを超攻撃的な3-5-2に変更する。すると、この交代が的中。大外を使う攻撃と中央で上下動を繰り返せるファン・デ・ベークの存在がマッチし、反撃の合図となる得点を早々に決める。

 その後も外回りからラインを押し下げる形で攻勢を続けるユナイテッド。その勢いに冷や水をぶっかけたのがキャプテンであるマグワイアだった。前半のボールロストと同じく軽率極まりない2つの警告で退場すると、反撃ムードは一気に萎んでしまうことに。

 攻撃陣を入れ替えながらカウンターを活性化するワトフォードが再びリズムを取り戻す。決定的な3点目を決めたのはジョアン・ペドロ。スクランブルでCBに入ったマティッチとショウの脳震盪で急遽SBに入ったダロトの左サイドをぶっ壊し、試合を完全に決着させる。

 終了間際にはデニスも得点を決めて、ワトフォードはエバートン戦の再現となる後半追加タイムのオーバーキル。何度も解任の危機を免れてきたスールシャールにとどめを刺したのはワトフォード。粘り強くスールシャール政権を続けてきたユナイテッドだったが、ついにヴィカレッジ・ロードでその幕を下ろすことになった。

試合結果
2021.11.20
プレミアリーグ 第12節
ワトフォード 4-1 マンチェスター・ユナイテッド
ヴィカレッジ・ロード
【得点者】
WAT:28′ キング, 44′ サール, 90+2′ ジョアン・ペドロ, 90+6′ デニス
Man Utd:50′ ファン・デ・ベーク
主審:ジョナサン・モス

第13節 チェルシー戦(A)

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■よもやのドローとジョルジーニョの凄み

 ワトフォードに敗れてついに監督交代に踏み切ったマンチェスター・ユナイテッド。後任には暫定監督としてラングニックの就任が発表されたが、この試合の時点では正式発表されておらず『みんな知っているけどまだ』という状態だった。

 そんなわちゃわちゃしている形で迎えるチェルシー戦。立ち上がりから攻められる場面ばかり。開始早々にデヘアがいなければジエンドだった!というチャンスを作られてしまう。

 ただ、ユナイテッドは全く無策でこの試合に臨んだわけではない。この試合で指揮を執ったキャリックのアイデアなのか、あるいはすでにラングニックの手が入っているのかはわからないが非常にプレッシングが特徴的だった。

    フォーメーション表的には4-3-1-2という形になるだろうが、左右の守備の陣形は非対称。2トップの一角のサンチョは右サイドに大きく張り出しWBをケア。逆サイドのトップのラッシュフォードは中央に留まり、サイドに出ていくのはIHのフレッジという分担だった。したがって、基本フォーメーションはひし形なのに時折4-4-2フラットに見えるという不思議な感覚。特に噛み合わせているわけではないし。

    チェルシーは左サイドから時間を得たリュディガーから前進。裏のハドソン=オドイへのパスでリンデロフに揺さぶりをかけていく。ユナイテッドとしては苦しい戦いだったが好材料は2つ。

    1つはチェルシーのこの日のメンバーが普段と比べて周りを気にかけながらボールの前進が出来るタイプが少なく、自分のできることに注力するタイプが多かったこと。例えばヴェルナーの裏抜けもそれに合わせる動きがなくやや単発だったし、マルコス・アロンソも前がプレーの幅が広いマウントの方が尖っているハドソン=オドイよりもやりやすかったように思う。

 もう1つはエリア内の守備に体を投げ出す根性はユナイテッドの守備陣に戻ってきたこと。その気力すら見られず、軽率なミスを繰り返していたワトフォード戦に比べれば状態は上向いているといえそう。

 なかなか点が取れそうで取れないチェルシーに対して、先制したのはまさかのユナイテッド。やたら前がかりになるセットプレーを裏返してジョルジーニョのコントロールミスを誘い、カウンターから独走。サンチョがメンディとの1対1を制し、貴重な得点を挙げることに。

 まだ時間は残されているが、チェルシーはやたらあわててテンポが速くなるように。こうなるとミスからロングカウンターの機会が得られる分、少しは展開がユナイテッドに向くようになる。それでも前進の術をもっていないのが今のユナイテッド。ミスがない限りはチェルシーからボールを奪うチャンスを得ることが出来ない。

 慌てて覚束なくても押し込むことができる以上は事故が起きる可能性はある。ワン=ビサカが与えたPKは押し込まれた故にユナイテッドが払うことになった税金である。ワン=ビサカは気の毒だが、コンタクトがあってひとたび笛が吹かれてしまっては、OFRからのPK取り消しは難しいだろう。

 にしてもPK後に即ボールを握りしめたジョルジーニョには覚悟を感じた。この試合のミスもそうだけど、イタリア代表でも決定的なPK失敗を犯している彼がこの局面で進んでPKスポットに立つのはなんというかすごいなという感想に尽きる。そんで決めちゃうんだもんね。

 ジョルジーニョのPK成功でさらに強気にゴールを目指すチェルシー。最後の仕上げは右のWBのプリシッチ。内を固めるユナイテッドを大外から壊すための一手だろう。だが、これでも最後はPA内のユナイテッドの守備陣にシュートは阻まれる。ユナイテッドもメンディのミスから終盤に勝ち越しのチャンスは得たが、これはふわっとフレッジがGKに返すようなシュートでフイにしてしまう。

 試合は1-1のまま終了。ホームチーム圧倒的優位と思われた一戦はスリリングでドラマチックな引き分けで終わることとなった。

試合結果
2021.11.28
プレミアリーグ 第13節
チェルシー 1-1 マンチェスター・ユナイテッド
スタンフォード・ブリッジ
【得点者】
CHE:69′(PK) ジョルジーニョ
Man Utd:50′ サンチョ
主審:アンソニー・テイラー

第14節 アーセナル戦(H)

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■当たり前を当たり前にでOK

 レビューはこちら。

 暫定監督に就任し、スタンドで見守るラングニックのもと、ユナイテッドには未勝利街道を脱することが求められる。対するアーセナルも勝てばウェストハムを交わして4位浮上。CL出場権争いのライバルであるユナイテッドとのマッチレースで考えてもかなり引き離すことができる状況である。

 試合は両チームともそれぞれの持ち味を見せる一戦に。アーセナルはIHのポストを中心に、CHが前を向く形を作りポゼッションからの前進を見せつければ、ユナイテッドはプレッシングからチャンスを作り出す。

 SHのラッシュフォードとサンチョが絞りながら守備をするのが特徴。彼らが絞った立ち位置をとり、アーセナルのCHにプレッシャーをかけることで前を向かせない。

 どちらかといえばポゼッションからのハイプレスを見せたアーセナルの方が押し込む機会が多い序盤だっただろうか。セットプレーから先制点を獲得。スミス・ロウが味方との接触で傷んでいたデ・ヘアの横をすり抜けるミドルを放ちユナイテッドファンにとっては拍子抜けする形で前に出る。セットプレーからの得点というのも今季のアーセナルらしい部分である。

 だが、ここからアーセナルが撤退守備に大きく舵を切ったことで試合の主導権は大きくユナイテッドに流れる。今季のバックスの守備の堅さと引いた相手に対するユナイテッドの手詰まり感を考えれば確かにこのやり方も悪くはないのかもしれない。

 しかし、この試合のアーセナルの守備は撤退ブロックで凌ぎ切れる基準を大きく下回っていた。ボールホルダーを捕まえることを怠り、ニアを防げず、悪戯にサイドに流れてはバイタルをあける。

    特に中盤の守備における優先順位の設定は無茶苦茶。エリア内で何度も自由にパスを繋ぐことを許し、あわやというシーンを作られる。前半終了間際、ブルーノのゴールはオールド・トラフォードのファンにとってはようやく得点が入ったかと思ったのではないだろうか。

 後半になっても流れは変わらないアーセナル。ポジトラでなんとか陣地回復を図ろうとタバレスが積極的な攻め上がりを行うが、ユナイテッドの逆転弾はそのタバレスの裏から。右からのラッシュフォードのクロスに機械のように正確で速いシュートを合わせたのはロナウド。仕事人に決定的な役目を見事に与えることができたユナイテッド。

 ニアを防げない悪癖は後半も継続したアーセナル。決定的な3点目のPKもまたしてもニアのハーフスペースを防げなかったところからである。多くのミスを重ねたアーセナルに対して、フレッジやロナウドが当たり前を当たり前にこなしたユナイテッド。ラングニック色を打ち出すまでもなく、ユナイテッドが未熟なアーセナルをホームで飲み込み、未勝利に終止符を打った。

試合結果
2021.12.2
プレミアリーグ 第14節
マンチェスター・ユナイテッド 3-2 アーセナル
オールド・トラフォード
【得点者】
Man Utd:44′ ブルーノ・フェルナンデス, 52′ 70′(PK) ロナウド
ARS:13′ スミス・ロウ, 54′ ウーデゴール
主審:マーティン・アトキンソン

第15節 クリスタル・パレス戦(H)

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■新体制のキーマンが初勝利をプレゼント

 前節のアーセナル戦はビザの発給が間に合わずにスタンド観戦。ようやくベンチに入れたラングニックが就任初陣を迎えたマンチェスター・ユナイテッド。クリスタル・パレスをホームに迎えての連勝を狙う。

 前節のアーセナル戦で見られたラングニック就任発表後の唯一の特徴である守備時に逆サイドのSHが大きく絞るという挙動はこの日も健在。ボールサイドの逆側のSHがパレスの中盤にプレスをかける役割を任されているようだ。

 SHが中央に絞ることでCFはプレスにおいて前に押し出される形になるユナイテッド。パレスは変形を伴っての保持に力を入れているシーズンではあるものの、CBのアンデルセンの不在が大きい。保持における核がいないとなると、元々高くないプレス耐性の懸念が露わになってしまう。

 高いインテンシティでプレスをかけるユナイテッドに対して、自陣から脱出できないクリスタル・パレス。ハーフコートゲームに押し込まれてしまう。前節は枠組みの中で浮いていた感のあるザハだったが、こういう試合に降りて頼りになるのは彼に他ならない。圧力に対する慣れは必要だったが、存在感は十分にあった。

 優位に試合を進めたホームチームだが、ユナイテッドには押し下げた状況から素早く仕留められなければ攻撃の手段がない。ファーのロナウドへのクロスという狙いは徹底されていたものの、引いた守備に対しては攻めあぐねてしまうという課題に手がつくのはまだ先の話になりそうである。

 クリスタル・パレスの守備の手法を見ても、ユナイテッドはSBを中心にボールを持たされており、自陣からの前進に改善が見られるのはまだこれから。保持の時間がフラットになると、試合の展開も均衡したものにシフトするようになる。

 後半になると両チームのプレスのタイミングが少し遅れるようになり、ファウルが頻発するように。セットプレーからのチャンスを両チームは迎えることになる。パレスは今季もセットプレーの守備は大の苦手なのだが、前半の押し込まれた時間帯も含めて、この試合のセットプレーは珍しく粘りが効いていた。

 どちらに転んでもおかしくない展開において、勝利を決定づけたのは前節も大活躍したフレッジ。グリーンウッドのドリブルでラインを押し下げると、下がったことで空いたバイタルからミドルを叩き込み先制。ノっている選手なのだろうなというのが正直な感想である。

 いかにもラングニック体制でなじみそうなフレッジが指揮官に就任初勝利をプレゼント。まずは連勝という幸先のいいスタートでラングニックの英国での挑戦は幕を開けることとなった。

試合結果
2021.12.5
プレミアリーグ 第15節
マンチェスター・ユナイテッド 1-0 クリスタル・パレス
オールド・トラフォード
【得点者】
Man Utd:77′ フレッジ
主審:クレイグ・ポーソン

第16節 ノリッジ戦(A)

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■順位に反した拮抗した接戦に

 フォーメーション的には4-3-3で幅を取りながら攻めたいノリッジと4-2-2-2で中央を圧縮しながら攻めたいユナイテッド。対抗する概念が激突した両チームだった。

 順位的にはユナイテッドの方が大幅な格上の対戦ではあるが、試合としてはなかなかに拮抗していた。ノリッジの攻撃は幅を取りながら。ユナイテッドの守備は相手が攻撃をサイドから行うと必ず最終ラインが偏る。同サイドにSBとCBが集結するくらいグッとスライドがかかる。

 それゆえ、逆サイドは人数が足りなくなる。例えばユナイテッドの左サイドから攻められたとしたらPA内はリンデロフとダロト。このダロトの外側は相手にとってはかなり狙い目。ピッチを横断するように攻撃を行うことができればノリッジには十分チャンスがあった。

 ノリッジはピッチを横切るようにボールを動かせば、逆サイドからチャンスがあることはどうやら理解している様子。同サイドからの脱出さえすることができれば横断から相手のラインを押し下げることができていた。後方では時にはギルモアのサリーから数的優位を確保し、サイドに展開して横断するというパターンから相手陣に攻めいる。

 一方のユナイテッドはサイドの縦関係で攻略を狙っていく。SB-SHの2人で縦に進みながら一気に攻略することでエリアに迫っていく。ユナイテッドの攻撃のチャンスはほぼほぼ縦方向への強いベクトルのパスが2回連続し繋がったもの。逆にいえばそれができないと効果的な攻撃ができていなかった。

 ラングニックのユナイテッドは縦方向のベクトルが非常に強く、サイドを変えながらの前進は稀。同サイドの圧力を高めながらグイッと縦に進むことでゴールに向かう。ノリッジは基本的には受けに回るが、縦に奪いに出ていったタイミングをミスった状況において、ユナイテッドがチャンスを作ることができる。

 逆に構える守備ブロックに対してはユナイテッドはかなり攻めあぐねた印象。ノリッジは4-5気味で中央に人が多めに構えている状況で、中央からは高いは難しい。サイドで相手が食いつくチャンスを待ちながらの展開になった。

 拮抗した両チームの流れは後半も継続。どちらに試合が流れてもおかしくはなかったが、終盤にPA内で相手を引き倒してしまったことでユナイテッドにPKが与えられる。なかなか決着しなかった一戦は僅かなチャンスからPKを得たユナイテッドが逃げ切り。きっかけを掴めないながらも見事に勝ち点3を掴んでみせた。

試合結果
2021.12.10
プレミアリーグ 第16節
ノリッジ 0-1 マンチェスター・ユナイテッド
キャロウ・ロード
【得点者】
Man Utd:75′(PK) ロナウド
主審:ダレン・イングランド

第19節 ニューカッスル戦(A)

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■展開を引き寄せた『引き算』のカバーニ

 2試合中断を挟んでようやくボクシング・デーのリーグ戦再開に漕ぎ着けることができたマンチェスター・ユナイテッド。再開初戦の相手は同じく途中就任の監督の元で再建にトライしているニューカッスルである。

 両チームの現状の力関係を考えれば、明らかにマンチェスター・ユナイテッドに分がありそうなカードだが、この試合においてはホームチームの方が始終優勢に進めていた。

 ボールの保持はむしろマンチェスター・ユナイテッドの方が優勢に進めていたが、なかなか攻撃が相手に刺さらない。中央密集+大外はSBというスタンスは4-2-2-2というラングニック就任後に一貫したスタイルではあった。だが、ライン間のパスはなかなか収まらず、タッチ数が多いままに相手に絡め取られてしまう。

 裏へのパスはピンポイントに1人を目がける精度が要求されるもの。だが、この日のマンチェスター・ユナイテッドはこの長いボールの精度を満たすことができなかった。

 中央密集形のフォーメーションだと割と即時奪回が効くので、多少強引なチャレンジはOKかな?と思っていたのだが、裏への走り込みとセットだと割と中盤中央はスカスカになりやすい。ニューカッスルのカウンターはスペースがある状態でスムーズに前進ができる形からシュートまで行けるように。開始早々、サン=マクシマンのゴールで先行することとなった。

 裏へのボールは引っ掛けてしまう、ライン間のボールはもたついてロスト。攻撃を完結させることができるカウンターを放ち続けているニューカッスルとは対照的に手詰まりな状態が続いていたマンチェスター・ユナイテッドだった。

 後半、マンチェスター・ユナイテッドはカバーニを投入。このカバーニの存在は地味ながら効いていたように思う。ラインの裏に走り出すマンチェスター・ユナイテッドの前線に対して、カバーニはあえてバックステップでマイナス方向のパスを引き出すことで間のスペースでシュートを放てるように。

 マンチェスター・ユナイテッドが得た同点弾はこのニューカッスルのバックラインの下がる動きとカバーニのマイナス方向への動きを掛け合わせたものだった。

 失点こそしたものの、後半も順調にカウンターを放っていたニューカッスルだったが、後半途中にサン=マクシマンが負傷交代。相手チームに流れがいく流れかと思いきや、交代で入ったアルミロンが惜しいシュートを放つなど終盤まで得点のチャンスがあったニューカッスル。ファインセーブをしたデ・ヘアがいなければ、ニューカッスルがこの試合で得た勝ち点は1ではなかったかもしれない。

試合結果
2021.12.27
プレミアリーグ 第19節
ニューカッスル 1-1 マンチェスタ・ユナイテッド
セント・ジェームズ・パーク
【得点者】
NEW:7′ サン=マクシマン
Man Utd:71′ カバーニ
主審:クレイグ・ポーソン

第20節 バーンリー戦(A)

■息ができる中央密集

 前節、降格圏に踏み入れているニューカッスルから勝利を逃してしまったマンチェスター・ユナイテッド。今節の相手は前節と同じく降格権で苦しいシーズンになっているバーンリー。

 立ち上がりはバーンリーペース。ロングボールや裏抜けをピンポイントで刺すことができれば先手を取るのは彼らでもおかしくなかったくらい立ち上がりはバーンリーにチャンスはあったように思う。

 ただし、今節のユナイテッドは前節と一味違う。4-2-2-2でライン間と裏抜けに多くのリソースを割くスタンスが彼らの持ち味。バーンリーはまずは守備から入りたいチームではあるが、ラインのコントロールやサイドへのスライドが甘いところがある。

 ライン間に人を集めすぎて、いつもそこからの選択を引っ掛けてしまうのがユナイテッドのお決まり。だが、この日はそのスペースが管理されていないことから簡単に呼吸ができる。

 ユナイテッドの攻撃は彼らがめちゃめちゃ上達したとか、ラングニックの哲学が浸透したとかそういう部分というよりはバーンリーの間延びした守備に助けられる部分の方が大きいかもしれない。

 左右にボールを振りながらラインを押し下げたユナイテッド。バイタルに空いたスペースからマクトミネイがミドルシュートを放って先制する。

 この場面以外にもバーンリーの守備はとにかく『後回し』の選択をすることが多く、それによってユナイテッドは助けられた。ホルダーを捕まえに行かない、とりあえず撤退という流れから進んで自ら自陣に釘付けになっているかのよう。

 2失点目はそのホルダーを捕まえるのが遅れてしまった典型。サンチョのドリブルでいつの間にかエリア内に攻め込まれてしまう。ここからユナイテッドはオウンゴールを誘発し追加点を奪う。

 さらに3点目は1点目と全く同じような形と言っていい。左右に相手を揺さぶりしながら、空いたバイタルからマクトミネイ。違いといえば、この3点目はマクトミネイのミドルがポストをたたき、最終的に押し込んだのがロナウドということくらいである。

 1点を返して前半のうちに反撃したバーンリーだったが、後半になっても流れは変わらない。だらっと間延びした中盤のスペースにおいてはパワーもスピードもユナイテッドの方が上。体の当て合いでは前に出ることができない。

 まともに組み合った結果、上位に歯が立たなかったバーンリー。ユナイテッドは連続未勝利をこれで回避。完勝で2021年を締めくくることに成功した。

試合結果
2021.12.30
プレミアリーグ 第20節
マンチェスター・ユナイテッド 3-1 バーンリー
オールド・トラフォード
【得点者】
Man Utd:8′ マクトミネイ,27′ ミー(OG), 35′ ロナウド
BUR:38′ レノン
主審:ジョナサン・モス

第21節 ウォルバーハンプトン戦(H)

■中央封鎖への解決策が見当たらず

 ラングニックのユナイテッドは中央偏重型の4-2-2-2。まずは中央をプロテクトするという意志の元に、粛々と相手にボールを持たせることができるウォルバーハンプトンはおそらく相性が悪いのでは?というのが戦前の個人的な予想だった。

 その予想は大筋で当たったと言っていいだろう。ユナイテッドはライン間ではタッチ数が多くなってしまい、ボールをロスト。裏へのボールは跳ね返されてしまい、どうもチャンスを作ることが出来ない。孤軍奮闘していたのはグリーンウッド。内側へのドリブルや裏への長いボールで個人のスキルでウルブスの最終ラインを強襲する。

 ラングニックのユナイテッドがここまで整備できていないなと思う点はうまく攻撃が終わった後の即時奪回が刺さらないところ。試合開始直後は比較的即時奪回からの波状攻撃がうまくいっていたが、失い方が悪くなると中央をかち割られるようなカウンターを喰らうことになる。

 ウルブスは直線的なカウンターだけでなく、落ち着いたボール保持でも相手を揺さぶる。特にシャドーとWBを使いながらユナイテッドのSBに出ていくか?行かないか?を突きつけるところが効いており、大外からラインを下げながらエリア内に迫っていくことが出来ていた。

 ウルブスが惜しかったのはシュート精度の部分である。枠内シュートがなかったわけではないが、もう少し枠内にシュートを打てる場面もあった。フィニッシュのクオリティが伴えばウルブスが前半のうちにリードをしていてもおかしくはなかった。

 後半は前半に比べればユナイテッドが盛り返したと言っていいだろう。グリーンウッドはベンチに下がってしまったが、左サイドからサンチョがワンツーで抜け出す形を見つけると、前半よりもエリアの中をえぐるような形が増えていく。

 ウルブスは前半に比べると少しカウンターを急ぎ過ぎてしまったきらいがある。ホルダーにプレスがかかっていない状況でも前にとりあえずアバウトなパスを出したせいで、ロストしてしまった場面が多く見られるようになり、ユナイテッド相手に陣地回復がままならなくなる。

 盛り返したユナイテッドの分水嶺になったのはブルーノ・フェルナンデスの決定機。これをクロスバーに当ててしまい、チャンスをフイにしたところから再び流れが変わってしまう。

 時間の経過とともに間延びしていくユナイテッドの守備陣に対して、徐々にウルブスは落ち着いたカウンターを繰り出せるようになる。トラオレの投入で右サイドの奥に陣地回復先を見つけたこともウルブスにとっては大きかった。終盤に試合を決めたのはセカンドボールを拾ったジョアン・モウチーニョ。今季初ゴールとなったミドルはオールド・トラフォード制圧の大仕事を果たす決勝点。

 難敵との一戦になったユナイテッド。いいところを見せられた時間は限定的。僅かな好機を得点に結びつけることが出来ず、CL争いに向けて手痛い一敗となってしまった。

試合結果
2022.1.3
プレミアリーグ 第21節
マンチェスター・ユナイテッド 0-1 ウォルバーハンプトン
オールド・トラフォード
【得点者】
WOL:82′ モウチーニョ
主審:マイク・ディーン

第22節 アストンビラ戦(A)

■ユナイテッドを引き立て役に華々しいデビュー戦

 一貫して4-2-2-2のフォーメーションで戦ってきたラングニックのユナイテッドだったが、この試合では4-1-4-1を採用することに。

 変わったのは方針だけではなく攻め方も。今まではアタッカー陣が非常に狭く縦に鋭く進むことで直線的な戦いに注力していた。だが、この日のユナイテッドは幅を使うことに長けていた。4-2-2-2と異なり、4-1-4-1はピッチに三角形ができやすい配置となっているため、普段よりユナイテッドはポジションの入れ替わりが非常に頻発する。

 特に効いていたのが、左サイドの連携。ブルーノ・フェルナンデス、エランガ、テレスの三角形のポジションチェンジは相手を出し抜いて敵陣に親友。IHが広い守備範囲を賄う形になっているアストンビラだが、この流動的な動きに対して後手に回る。ユナイテッドの攻撃に対応できずアストンビラはファウルを犯してしまう。先制点はここから。ブルーノの直接FKをマルティネスは後逸。前回対戦時に煽られてPKを止められたリベンジを無事に果たすこととなった。

 ビラはポゼッションでは内側を使えずに外回りのボール循環が多く苦戦。MFが縦に動きながらギャップを作ろうとするも、なかなか前進が出来ない。内側にボールを入れるとカウンターが飛んでくる。

 ペースを握ったユナイテッドだったが、前半途中からややポジションチェンジがごちゃっとしだした。特にブルーノの自由な動きに周りが合わせるのに苦労していたように見えた。無秩序な状態になり攻守の入れ替わりが激しい展開になったが、ユナイテッドはプレスに関してもかなり強引。攻守の自由度の高まりが少し嫌な方向に転がっているように見えた。

 後半の立ち上がりはカウンターから再びブルーノが得点を決めるが、これを境にペースはビラに。動きすぎるフレッジと自陣のスペースを埋めに戻る動きが怠慢なブルーノの2人が開けたスペースをビラは徐々に使えるように。アンカーのマティッチ脇からライン間侵入を見せて主導権を握る。ユナイテッドは左サイドのテレスの裏も怪しく、ビラは攻め所を複数見つけることができていた。

 時間の問題だったビラの得点は左のハーフスペースから。デビュー戦となったコウチーニョがワンツーで侵入すると、ラムジーにアシスト。反撃の狼煙を上げると、今度はラムジーが侵入役となりリンデロフを引き出した左サイドを攻略。1点目とは逆にコウチーニョにお膳立てを決めて一気に同点に追いついた。

 前半はラングニック就任後でも指折りの出来だったものの、マティッチの脇という穴を放置しすぎたせいであっさり追いつかれたユナイテッド。勝利濃厚な前半が一転、後半はかつてライバルチームで躍動していたコウチーニョのお披露目を彩る引き立て役に成り下がってしまった。

試合結果
2022.1.15
プレミアリーグ 第22節
アストンビラ 2-2 マンチェスター・ユナイテッド
ビラ・パーク
【得点者】
AVL:77‘ ラムジー, 81’ コウチーニョ
Man Utd:6‘ 67’ フェルナンデス
主審:デビッド・クーテ

第17節 ブレントフォード戦(A)

■前節の悲劇は繰り返さない

 シティ、リバプールと年末から強豪相手のリーグ戦が続いているブレントフォード。次の相手はこの2チームよりは順位は下であるものの、アストンビラ戦で復調気配を見せていたマンチェスター・ユナイテッドである。

 ブレントフォードは勇敢に自分たちのスタイルを見せたことが出来た試合ではあると思う。高い位置にラインを設定し、アタッカー陣に前を向かせないうちに攻撃を跳ね返す。ユナイテッドのSBにもWBが積極的にプレッシングを仕掛けており、前節よりも強気の守備の設定をした感がある。

    ブレントフォードは攻撃では4バックではカバーしきれない大外のWBにボールを配球。クロスを上げてのセカンドボールを拾うことで波状攻撃を仕掛けていた。セットプレーも含めて前半から相手ゴールを脅かす機会はあった。

 ユナイテッドは前節の4-1-4-1ではなくブルーノ・フェルナンデスをトップ下においた4-2-3-1といった方が正しいだろう。SHの意識は4-2-2-2よりは外に向くことが多いため、幅をある程度使うことは出来てはいた。だが、IHがいないため前節のアストンビラ戦のような三角形が頂点を移動させながら入れ替わるみたいな動きを付けることが出来ず。サイドはSHとSBの縦の関係で解決してくれ!という形が多かった。

 ブレントフォードのプレスは強気でユナイテッドは比較的苦しんではいたが、一度深い位置まで入ってしまえばブレントフォードの意識は人のマークよりも自陣を守ることに向く。リバプール戦で見られたブレントフォードの修正を活用したユナイテッドは前進からマイナスにCHに折り返す動きを積極的に挟むことで保持を安定させていた。

 押し込むも決め手を欠いていたユナイテッドがようやく解決策を見つけたのが55分。売り出し中のエランガの斜めの走り込みから先制点をゲットする。横のドリブルで抜け出しを促したフレッジも見事。深さで壁を壊し一歩前に出る。

   さらにグリーンウッドのゴールで加点したユナイテッド。2点リードの中で、前節の反省を生かしロナウドを下げての5バックに移行する。2点リードの展開で下げられて、これだけ不満そうなのだからロナウドのマネジメントは大変である。もっとも、それが彼の強さを作ってきた部分なのだろうけども。

 スネの傷に倣い、ある程度撤退戦略を敷いたユナイテッドだったが、マクトミネイのボール奪取からカウンターを発動し、ラッシュフォードが試合を決める3点目を奪う。終盤にはブレントフォードがセットプレーからのトニーのゴールで意地の1点を返すが、反撃もここまで。

 今季多くの強豪を苦しめてきたブレントフォードのホームスタジアムでもユナイテッドは屈せず。淡々とした試合運びでクオリティの差を見せる3ポイントを勝ち取った。

試合結果
2022.1.19
プレミアリーグ 第17節
ブレントフォード 1-3 マンチェスター・ユナイテッド
ブレントフォード・コミュニティ・スタジアム
【得点者】
BRE:85′ トニー
Man Utd:55′ エランガ, 62′ グリーンウッド, 77′ ラッシュフォード
主審:アンドレ・マリナー

第23節 ウェストハム戦(H)

■交代の3兄弟が主役となった夢の劇場

 4-2-2-2というラングニックのイメージに近いフォーメーションを棚上げにしてから調子が上がりつつあるマンチェスター・ユナイテッド。オフザボールを主体とした爆発力重視の4-1-4-1ではなく、この試合ではバランス重視の4-2-3-1で欧州カップ戦出場権争いのライバルとの一戦に臨むこととなった。

 形の上では4-2-3-1であるがフレッジ、ブルーノ、ロナウドは全員フリーダムなポジションニングを取りがち。彼らは左サイドに落ちる動きを見せる機会が多かった。おそらく、これは4-4-2で守るウェストハムの間のスペースにアタックをかけるためだろう。ライン間に人を配置し、少しでも間に入り込める位置でパスを受けるのがマンチェスター・ユナイテッドの狙いだった。

 だが、相手はインサイドの守備の強度が高いウェストハム。特に序盤に目立っていたのは2列目の守備。中盤の横パスをカットしてカウンターに移行したボーウェンや、内側に絞ることでSBの手助けをしたランシーニなど、ライスやソーチェクの手助けをする選手たちのおかげでマンチェスター・ユナイテッドの侵攻を防ぐ。

 ならば、ということでマクトミネイをアンカーに据えてサイド攻撃に切り替えていくマンチェスター・ユナイテッド。だが、ウェストハムはサイド攻撃を危ないエリアに入れず、外に追いやるのが非常にうまくこれもうまく防ぐ。

 ユナイテッドはゆったりした保持で、ウェストハムは早めのロングカウンターで。それぞれの手段でPA付近までは迫る両チームだったが、そこからゴールに辿り着けるまでにはもう一工夫が必要。両チームとも非常に守備が固かった。たとえばズマを出し抜いて、PA内でフリーでヘディングしたロナウドのようにゴールに向かう決定的な技術が必要な印象だった。

 後半も構図は同じ。1人の動きに合わせて、他の選手が動くことで効果的な攻め手が出せているマンチェスター・ユナイテッドは後半も優勢。彼らの動き回れる前線の電池切れが先か、あるいは徐々に間延びしていくウェストハムの守備陣の崩壊が先か?試合はマッチレースの様相を徐々に呈していくようになる。

 後半のウェストハムは前進の手段が苦しく、前半以上にボーウェンのロングカウンターに依存する形になった。比較的、チャンスを作れていたマンチェスター・ユナイテッド。だが、決め手を欠いた終盤にラングニックは大勝負に。計算がしにくいマルシャル、ラッシュフォードを入れるという割と無謀目に見えたパワープレーに舵を切った。

 多くのプレミアファンが「流石に無理では?」とか「エランガ→ラッシュフォードでPA内の侵入が減った!」と嘆いていた交代だったが、この采配は最後の最後で実を結ぶ。

 後半追加タイムのラストワンプレーでマルシャルのタメから抜け出したカバーニがファーのラッシュフォードで決勝点をゲット。交代で入った3人がボールをつなぎ、ここまでで一番仕事をできていなかったラッシュフォードが沈める。予想もしない形で実を結んだ前線総動員計画はアウェイと同様にウェストハム戦に劇的な結末をもたらした。交代した3人によって作り上げられた夢の劇場。上位争いで一歩前に出る勝ち点3を手にしたのはマンチェスター・ユナイテッドだった。

試合結果
2022.1.22
プレミアリーグ 第23節
マンチェスター・ユナイテッド 1-0 ウェストハム
オールド・トラフォード
【得点者】
Man Utd:90+3′ ラッシュフォード
主審:ジョナサン・モス

第24節 バーンリー戦(A)

■決めきれなかった代償の積み重ね

 立ち上がりからボールとともに主導権を握ったのはアウェイのユナイテッド。ベースの4-2-3-1から4-3-3への変化でポグバとブルーノ・フェルナンデスを前に押し出しながら敵陣に攻め込んでいく。

 この試合のユナイテッドの決定機創出の形は主に2つに集約できる。サイドでIH、SB、WGのトライアングルを形成して抜け出す選手を作り出すのが1つ、もう1つはWGが相手を引き付けた隙にSBがフリーになるという2枚でサイドをこじ開ける形。

 ユナイテッドが目をつけたのは左サイド。ハーフスペースへのブルーノのアタックもさることながら、サンチョを引きつけてフリーになったショーからのチャンスメイクが目立った。上の2つで言えば後者の形での決定機創出である。先制点もサンチョを追い越すショウの形からだった。

 逆にバーンリーはサンチョによってラインを決められてしまい、そこを基準にショウに振り回されまくるという状況。ラインを下げて対応しようとすると、今度はマイナスのコースを開けてしまいバイタルからミドルを放たれるという状況に。撤退時の堅さはなく、バーンリーはいつ失点をしてもおかしくない形を作られ続ける。

 実際にユナイテッドには追加点のチャンスはあったものの、マグワイアやポグバのボールと関係ないところのチャージでフイにしてしまう場面が目立つ。後から考えるとこれが非常にもったいなかった。

 バーンリーの前半はチャンスメイクに苦心。ウッド→ベグホルストに9番が変わった影響は前進の仕方に現れている。ウッドは相手と競り合いながらロングボールで裏に抜けて他の選手にスペースメイクをするのだが、ベグホルストはライン間で相手を背負いながらポストをしながら味方と繋がる形で前を向かせる形がメイン。しかし、ユナイテッドはラインを上げてスペースを制限してこれをシャットアウト。なかなかよさが出ない。

 バーンリーは左サイドの細かいファウルからのセットプレーと縦横無尽にピッチを歩き回るマクニールにボールを預ける形からチャンスは狙うものの、ハーフタイムまでシュートは0。ポープのセーブとユナイテッドのゴール前でのファウルがなければ試合は前半で決着してもおかしくなかった。

 流れが変わったのは後半。バーンリーのボール保持に対して、ユナイテッドがラインを上げるのが遅れ出してから。よって、ライン間でボールを受ける余裕が出てきたベグホルスト。自身で反転するところまでスペースが出てくるようになる。

 同点ゴールはマグワイアの対応のミスだろう。ヴァランがオフサイドに取り残そうとしたロドリゲスに気を取られてラインを下げたせいで、ベグホルストへのチェックが遅れた上に反転を許すというミス。最終的にはフリーでロドリゲスに前を向かれてファーストシュートを同点に結びつけられる。

 ユナイテッドはやはり運動量の低下が気がかり。コンパクトな陣形もトランジッションで前に出ていく元気も後半は明らかになくなっており、バーンリーに押し切られそうになる時間帯もあった。ロナウドの投入で総攻撃の合図を出し、リンガードを入れることでサイド攻略のテコ入れを図るも、最後までポープ相手に勝ち越しゴールを決めることはできず。

 前半でユナイテッドが追加点を決め切っておけば明らかに試合結果は変わったはず。勝ち逃げできなかったユナイテッドは後半にバーンリーに捕まり、ドロー沼に引き摺り込まれてしまった。

試合結果
2022.2.8
プレミアリーグ 第24節
バーンリー 1-1 マンチェスター・ユナイテッド
ターフ・ムーア
【得点者】
BUR:47′ ロドリゲス
Man Utd:18′ ポグバ
主審:マイク・ディーン

第25節 サウサンプトン戦(H)

■トーンダウンで抜け出せないドロー沼

 立ち上がりから積極的な攻勢の連続。非常に決定機の多い序盤戦となった。ユナイテッドは6分にロナウド、9分にサンチョが惜しい場面を作る。どちらのシーンも裏に走るアタッカーが最終ラインを振り切りながらフリーの状況でGKと1対1を迎える。だが、これはフォースターがセーブして事なきを得る。ユナイテッドはこの場面に限らず直線的な動きでサウサンプトンの最終ラインに機動力勝負を仕掛けることで優位に立つ。

 一方のサウサンプトンもチャンス創出はできていた。こちらはサイドのクロスから決定機。大外から奥行きのある形のクロスを上げる形で決定機を迎える。だが、ユナイテッドよりも手早い形ではない分、決定機の多さ的にはサウサンプトンは劣勢。サウサンプトンはユナイテッドのボールホルダーをフリーにしてしまうと、直線的に縦パスを繋がれて一気にユナイテッドにピンチの場面を作られてしまう。

 サウサンプトンはその状況を受けて10分過ぎに5バックをベースに変更。前節と同じくSHの撤退守備を早めることで5バックに変形。5-3-2で中央を固めるフォーメーションを採用し、縦パスを連続的に繋がれることをまずは防ぎ行く形である。

 だが、それでもユナイテッドは縦に早い裏抜けからの決定機。ラッシュフォードがラインを破り、敵陣にボールを運ぶとラストパスを合わせたサンチョが嬉しい初ゴールをゲット。立ち上がりから続けていた直線的な動きでユナイテッドがようやく先制点を手にする。

 この場面はサウサンプトン視点でいえばサリスの対応が怪しかった。サイドでアクロバティックなクリアにトライして一気に裏を取られてしまったが、そこまで賭けに出る場面だったかどうか疑問。もう1人のCBのベドナレクも裏抜けに対する対応の博打成分が高く、ピンチの原因になっていた。

 サウサンプトンはフォーメーション変更で重心を上げにくくなった分、チャンスを作りづらくなってしまう。だが、それでも糸口を見つけるのはさすが。横へのスライドが大きいユナイテッドのCHをサイドにずらし、彼らが開けた中央のスペースに入り込むことでDFラインの前で前を向く選手を作りチャンスを作るようになる。

 アプローチを変えたサウサンプトンは後半早々に追いつく。CHが開けたスペースで前を向くタスクを前半から行なっていたエルユヌシが左のハーフスペース付近で絞って前を向くと、ここからアダムスにラストパス。角度のあるところから同点ゴールをゲットする。

 ユナイテッドはここ数試合見られる悪癖がこの試合でも露呈。後半頭から前半から大幅に割引されたプレーでチャンスの頻度がグッと下がってしまう。この試合で言えば、前線のフリーランはチャンスメイクの生命線なのだが、そのフリーランの頻度が低下。守備においてもポグバなどのサボりが目立ってしまい、サウサンプトンに前半よりライン間を使われるように。

 サウサンプトン的には左のハーフスペースから前を向き、ショウの戻りが遅れやすい逆サイドの裏から一気にラインを押し下げるというチャンス創出パターンが完全にハマった形である。後半になってもブロヤは運動量が落ちなかったのは圧巻。柔らかいタッチと高いキープ力で縦に早いテンポの攻撃の牽引役となった。

 ユナイテッドはマグワイアの決定機など惜しい場面がなかったわけではないが、後半はむしろよく逆転されなかったと胸を撫で下ろす展開だったと言ってもいい。悪癖を克服できなかったユナイテッド。負けないけども勝てないというループから今節も脱することができなかった。

試合結果
2022.2.12
プレミアリーグ 第25節
マンチェスター・ユナイテッド 1-1 サウサンプトン
オールド・トラフォード
【得点者】
Man Utd:21′ サンチョ
SOU:48′ アダムス
主審:スチュアート・アットウェル

第18節 ブライトン戦(H)

■退場者が課題解決のお手伝い

 立ち上がりからボール保持で主導権を握ったのはアウェイのブライトン。ポゼッションで主導権を握りながら、ユナイテッドを前後左右に揺さぶる。この日のユナイテッドの守備は1トップがロナウド。となると最終ラインに制限をかけるのは非常に難しい。

 というわけで自由にボールを動かすことができたブライトン。せめてもの抵抗で陣形をコンパクトに維持しながら、ビスマをマクトミネイが監視するという形で展開を阻害しようとする。しかし、ブライトンは最終ラインから裏に幅にと前線に供給。ユナイテッドを敵陣に抑え込む。さらにブライトンはプレスも機能しており、前半早々にはフレッジのパスミスを活かして、デヘアを脅かすシュートシーンを作り上げるところまで行った。

 ただ、ユナイテッドもこの日はカウンターの気配が良好。先頭をかけるロナウドはもちろん、それをフォローするエランガとサンチョのフリーランも効いていた。その代わり、撤退されるとユナイテッドは厳しかった。中盤はブライトンのマンマーク攻勢で完全に捕まっていたし、押し込んだところでサイド攻略もできていなかった。というわけで30分も経てば割り切って蹴るシーンが増えたユナイテッドだった。

 というわけで試合はブライトンが攻守に安定した形で進めていた。その形が覆ったのが後半早々のブライトンの2つのミス。自陣のビルドアップの過程でビスマのボールロストからロナウドがあっさりと先制ゴールを決めると、その直後には同じくビルドアップのミスからダンクが決定機阻止で一発退場。これで試合の流れがガラッと変わる。

 ビハインドに数的不利のブライトンは前半とは打って変わって、ユナイテッドにプレスをかけられない時間帯が続いていく。ユナイテッドはリードを得たこともあってか、落ち着いて左右に展開しながらブライトンを押し込む。ラングニック就任以降においては割と慌ただしい展開で主導権を握ることが多かったが、この試合の後半はボールを持ちながら主導権も握っていた印象。サンチェスのビックセーブがなければ試合はもっと早くに決着していたはず。

 ただし、試合終盤に反撃に出たブライトンに対しては多少緩さは目立ったユナイテッド。特にサイドの守備は緩く、クロスを簡単にあげさせるせいで冷や汗をかいた場面もあった。

 しかし、仕上げを決めたのはユナイテッド。この試合で決定機を決めてきれていなかったブルーノ・フェルナンデスがラストプレーで独走を決めて追加点。後半の試合コントロールに問題があったここまでのユナイテッドだったが、退場者も手伝っての完勝。暫定ながらも4位に浮上した。

試合結果
2022.2.15
プレミアリーグ 第18節
マンチェスター・ユナイテッド 2-0 ブライトン
オールド・トラフォード
【得点者】
Man Utd:51′ ロナウド, 90’+7 フェルナンデス
主審:ピーター・バンクス

第26節 リーズ戦(A)

■ポグバの優位は絶対!

 マンチェスター・ユナイテッドにとってはCLを控える難しい日曜のゲームとなったが、ターンオーバーは最小限。右のWGにリンガードを入れたこととSBにワン=ビサカを久しぶりに戻したこと以外はスタメンの入れ替えはなし。

 立ち上がりからリーズの土俵にガッツリ乗っかった感のあるマンチェスター・ユナイテッド。マンマークの守備に対して、オフザボールの動きを増やしながら相手を振り切ろうと動き回る。別格だったのはポグバ。彼だけは特に動き回ることをしなくても、ボールを受けて相手を背負って剥がしてを繰り返すことができる。去年もそうだったが、1人ずつしかかかってこないリーズの守備ではポグバを止めることはできない。

 躊躇なく長いボールを蹴るマンチェスター・ユナイテッドはボールの捨て方も安定しており、リーズは簡単に前進を許してしまう。ボールを保持する側に回っても、後方から繋ごうと試みることはするものの、ラフィーニャの不在で前線の脱出口が見当たらず。ジェームズの孤軍奮闘の抜け出しにかけるしかなかった。

 そんなリーズに対して、前半から点を重ねるマンチェスター・ユナイテッド。セットプレーからマグワイアが先手を奪うと、前半終了間際にはリンデロフの持ち上がりからチャンスメイク。最終ラインの持ち上がりを止めるのが後手になったリーズを尻目にブルーノ・フェルナンデスが追加点を決めて見せた。

 ハーフタイムに交代枠を使い切り、前線の補充に舵を切ったビエルサ。攻撃的な布陣で残りの45分に臨むことを決める。これに答えたリーズの面々。早い攻撃と高い位置のプレスから勢いを取り戻す。ハーフタイムに雨が続いたこともあり、長いボールの転がりが悪くなったマンチェスター・ユナイテッドは後半に推進力を見いだせなかったこともリーズにとっては幸運だった。

 53分に飛び出したロドリゴのクロス性の追撃弾から、直後の54分には左サイドから上がったクロスにラフィーニャの同点弾までは流れるような展開。後半頭に勝負に出たビエルサに選手が応えてみせた。棒立ちのユナイテッドの守備陣はグラウンダーのボールに誰も触れることなく、ファーのラフィーニャまで横断を許してしまった。

 この勢いのまま押し切りたいリーズ。だが、マンチェスター・ユナイテッドも前線にフレッシュなメンバーを入れて、局面で発生している主導権を握りにいく。選手交代で局面勝負に再び活路を見出したマンチェスター・ユナイテッド。まさしくこれを求めていたんだ!というフリーランからゴールを決めたフレッジの活躍で3点目を得ると、同じく交代で入ったエランガが追加点。

 交代枠を使い切ったリーズにはこれ以上の打つ手はなし。ポグバを初めとして局所での主導権を優位に進めたマンチェスター・ユナイテッドが乱戦を制した。

試合結果
2022.2.20
プレミアリーグ 第26節
リーズ 2-4 マンチェスター・ユナイテッド
エランド・ロード
【得点者】
LEE:53′ ロドリゴ, 54′ ラフィーニャ
Man Utd:34′ マグワイア, 45’+5 フェルナンデス, 70′ フレッジ, 88′ エランガ
主審:ポール・ティアニー

第27節 ワトフォード戦(H)

■一昔前では考えられなかったオールド・トラフォードでの偉業

 両チーム、ボールが行き来する落ち着かない立ち上がりを見せた序盤戦。どちらかといえば惜しいシーンを作ることができたのはホームのユナイテッドの方。ロナウド絡みの縦に早い攻撃をサポートするようにエランガがキャッチアップ。敵陣を一気に落としにかかる。リーグ戦やCLなどで好調が続くエランガはピッチを横断するドリブルからのチャンスメイクでも存在感。プレーの幅の広さを見せる。

 一方のワトフォードにもチャンスはあり。アバウトに跳ねたセカンドボールを拾い、デニスとサールに繋ぐ。ユナイテッドは陣形をコンパクトに維持しながらセカンドボールの回収に走ることができなかったので、ワトフォードとしては拾ってからカウンターに移行するチャンスは十分にあった。

 前半30分くらいになるとユナイテッドの保持の時間が増えて、ワトフォード陣内でのプレー一色に。サイドからアーリー気味にクロスを上げて、ファーサイドの裏に蹴り込むような形でワトフォードのバックラインを後退させる形でゴールに迫っていく。エリア内のロナウドの強さを生かすようなアプローチである。

 互いに無得点で折り返して迎えた後半。展開としては前半の焼き直しに近い形だった。敵陣に迫る機会は相変わらず多かったユナイテッドだったが、仕上げの粗さはどうも目立つ。逆にワトフォードは敵陣に入る回数はユナイテッドよりも少ないが、入ってからの相手のずらし方には工夫が見えた。特にサールの右サイドからのカットインは効果が抜群。内側に抉るように入り込んでくるドリブルに対してはユナイテッドは苦戦した。

 ワトフォードのカウンターが致命傷にならなかったのは、ユナイテッドの中盤がワトフォードの早い攻撃をワンテンポスピードダウンさせるフィルター役としての効果を果たしていたから。点が入らなかったことにより、次々と前線の選手を投入したユナイテッドはその分自分達のフィルターを削って攻勢に出る。

 両チーム、チャンスが増えた終盤だったが共にバックラインを上回ることはできず。特にワトフォードのバックラインの気合いの入り方は異常だった。体を投げ出してのシュートブロックでユナイテッドから体を張ってゴールを守り切ったワトフォードのバックラインはお見事。オールド・トラフォードでのクリーンシートという一昔前のワトフォードならば考えられない偉業を達成してみせた。

試合結果
2022.2.26
プレミアリーグ 第27節
マンチェスター・ユナイテッド 0−0 ワトフォード
オールド・トラフォード
主審:ジョン・ブルックス

第28節 マンチェスター・シティ戦(A)

■熱量なきマンチェスター・ダービー

 伝統のマンチェスター・ダービー。シティは猛追するリバプールを振り切って優勝争いをリードするため、ユナイテッドはCL出場圏内を維持するためというそれぞれの理由で負けられない試合だった。

 だが、そうした大事なものがかかっているダービーらしい立ち上がりではなかったのは正直なところ残念だった。立ち上がりの両チームのスタンスは慎重なものであり、相手を飲み込んでやろう!という感じではなかった。

 バックラインからボールを動かすシティに対して、ユナイテッドはプレッシャーをかけることはほとんどしなかった。試合の立ち上がりこそ、トップ下に入ったポグバがアンカーのロドリにプレスをかけるなど、多少の狙いは見えたが、しばらくするとそれも消滅。

 ユナイテッドの前線はボールの動く方向を誘導できず、中盤の守備は後追いになる。マクトミネイやフレッジのプレスが遅れがちだったのは、前線からの追い方があまりうまくいっていなかったことも一因である。

 シティはそんなユナイテッドに対して、左サイドから侵攻をする。ユナイテッドがまずかったのは最終ラインの対応も同じ。右のCBに入ったリンデロフはサイドへの圧縮が甘く、同サイドへのスライドが足りていない。その上、遅れて出ていってスペースを空けることというおまけ付きである。デ・ブライネの先制点はまさしくその状況からだった。

 一方のシティも押し込まれた時は危うさがあった。フレッジがPA内で相手を背負いながら受けた後、相手と入れ替わるように反転してシュートチャンスを迎えたシーンはいくらなんでもウォーカーのPA内での守備が甘すぎるだろう。同点ゴールを生んだサンチョのカットインに対しても、あれだけあっさり交わされてしまってはロドリが出てくる意味はあまりない。

 互いに守備には強度が足りていなかったが、相手陣に向かうことができる正確性に関しては両チームには流石に雲泥の差があった。ポグバ、サンチョになんとかしてほしいユナイテッドに比べれば、前線にスムーズにボールを運ぶ手段をいくつも持っているシティがチャンスを量産するのは当然だろう。

 前半終了間際に追加点を奪うと、後半はほとんどワンサイド。ただただボールを回し続け、PA付近までボールを運び、危ういシュートを放つという流れがずーっと続いていた。

 中盤に降りてくるCFのフォーデンへの対応など、最近のシティのズレを作るための王道中の王道パターンにもだいぶ混乱していた様子を見ると、ユナイテッドがこの試合に十分な対策を練って臨めたかは怪しいところ。『次に生かす』はこうした大敗の試合後の常套句ではあるが、何もしていないのだから『次に生かす』ことなどあるようには思えない。

 シティに対して受けて入り、受けきれなかったという結論が返ってきたユナイテッド。淡々と崩しにトライし続けるシティを眺めているだけの後半は、プレミアファンが待ち望んでいた互いの誇りをかけて熱く燃え上がるマンチェスター・ダービーとは程遠いものだったと言わざるを得ない。

試合結果
2022.3.6
プレミアリーグ 第28節
マンチェスター・シティ 4-1 マンチェスター・ユナイテッド
エティハド・スタジアム
【得点者】
Man City:5′ 28′ デ・ブライネ, 68′ 90′ マフレズ
Man Utd:22′ サンチョ
主審:マイケル・オリバー

第29節 トッテナム戦(H)

■不安定な流れの中で輝き続けたロナウド

 マンチェスター・ダービーにおいて惨敗を喫したユナイテッドと、エバートンに大勝したトッテナム。前節の結果は対照的ではある両チームだが、この試合においてはそこまで前節の勢いの差は感じられず。どちらも明白に狙われてしまいそうなポイントがある試合だった。

 ユナイテッドにとって怪しかったのはソン・フンミンへの対応。なぜかマンマーク役にマティッチをつけて、機動力で振り切られ続ける対応を見せていた。個人のパフォーマンス面で良くなかったのは左サイドのテレス。軽さを見せてしまい、ユナイテッドのサイドに穴を開けていた。

 チームとして気になったのはユナイテッドの守備の指針。全体的にどこに誘導したいのか、どういう形で試合を進めたいのかがはっきりしないように見える。トッテナムの攻撃のスタイルを考えれば、サイドを変えさせて振り回されるのだけはどうしても避けたいはず。

 しかしながら、ユナイテッドはそうした制約をトッテナムにかけることができず、トッテナムは自由なサイドチェンジからWBの攻め上がりを生かしてユナイテッドの薄いサイドを責め続けることができた。奥行きを使うソンと大きく幅を使える攻撃の組み合わせでトッテナムはユナイテッドを攻め立てることができていた。

 特に良かったのが左サイドの関係性。デイビス、レギロンが前線とつながる意識が高く、幅と奥行きをどちらも使いながらユナイテッドの右サイドを壊すことができていた。

 チームとしての穴はユナイテッドほど目立たなかったが、個人のパフォーマンスが失点にダイレクトに直結したのがトッテナムだった。1失点目のシーンがその例である。おなじみとなってきた5-4-1のローブロックを組んでいたトッテナム。どのように動かそうな悩んでいるユナイテッドに対して、フラフラ前に出ていったホイビュア。空いたスペースに入り込んだフレッジのフリックにベンタンクールが釣られ、CH2人がいなくなったバイタルに入り込んだロナウドがミドルを突き刺す。シュートはスーパーだが、5-4-1であれだけあっさりとバイタルを開けてはいけないだろう。スーパーなミドルを呼び込んでしまう下地はトッテナム側にあったといえる。

 トッテナムは右サイドからのカットインで同点となるPKを誘発するが、ユナイテッドは即座にロナウドが勝ち越しゴール。この場面はローラインの意識が強いトッテナムの5-4-1ブロックがホルダーにプレッシャーがかかっていないにも関わらず、無理にラインを上げようとした結果、あっさりと裏を取られてしまうという場面だった。裏を取られたドハーティのサイドは確かに再三狙われてはいたが、そもそもラインを上げたいならば、ホルダーを捕まえにいく人を増やすなどやり方を変えないと難しいのではないかと思った。

 後半、試合の流れとしてはユナイテッドをサイドに振り回し続けるトッテナムが優勢の流れ。ただし、前半に比べるとサイドチェンジの精度がやや落ちているのは気になるところだった。久しぶりにそのサイドチェンジがスムーズにいったところがトッテナムの2点目。左サイドから奥行きを作り、マグワイアのオウンゴールを誘発する。

 しかし、この試合の主役はロナウド。81分にセットプレーからトレードマークの打点の高いヘディングから決勝点をゲット。オウンゴールをしてしまったマグワイアを挑発したロメロもこれには黙るしかないだろう。

 試合の流れは行ったり来たりしてはいたが、90分間ロナウドの主人公感が揺らぐことはなし。1点目のスーパーゴールで豪快に口火を切った圧巻のハットトリックでトッテナムを飲み込んでみせた。

試合結果
2022.3.12
プレミアリーグ 第29節
マンチェスター・ユナイテッド 3-2 トッテナム
オールド・トラフォード
【得点者】
Man Utd:12′ 38′ 81′ ロナウド
TOT:35′(PK) ケイン, 72′ マグワイア(OG)
主審:ジョナサン・モス

第31節 レスター戦(H)

■局面勝負の行方は

 どちらも4バック。どちらも中盤は3枚。がっぷり四つの様相を呈している両者の対戦は配置どうこうではなく、個人個人のデュエルにおいてどこで解決策を見出すかの戦いになっていた。

 より明確に策を打ち出すことができたのはレスターの方。バーンズのカットイン+イヘアナチョのレイオフで生み出したゴールへ向かう動きのように、序盤からバーンズが斜めに入り込む動きを見せる。イヘアナチョを活用できるかはレスターにとっては重要な要素。彼が絡まない攻撃は外循環になってしまい、どうしても打開が難しくなってしまう。

 一方のマンチェスター・ユナイテッドは勝負したいところであるサンチョまでボールを届けるところに苦労する。サンチョにボールが渡り、同サイドのショウがオーバーラップすればチャンスが産まれそうなものではあった。だが、ここにボールが渡りにくい上に、サンチョをサポートできるショウが負傷してしまったことで攻撃は停滞する。

 両チームによる無駄に強度が高いタックルで締まりがなくなってしまった展開になったのは率直に残念。ティーレマンス、マクトミネイ(警告を受けたのは後半だが)など不要な局面だったり、あるいは相手に危険が及ぶようなタックルを行ってしまい警告を受けることで、スムーズにカウンターに打って出れない場面が目立った。

 ブルーノの1トップという策を捻り出す羽目になったユナイテッドは仕方ないかもしれないが、保持において解決策が見出せなかった上に、トランジッションでもなかなか好機に繋げることができずに難しい形に。スローダウンする上に詰まってしまい、試合は停滞する。

 後半にレスターは徐々に保持で解決策を見出せるように。右サイドのパス交換から敵陣に迫るチャンスの見出しで段々とユナイテッド陣内に攻め入る。

 すると63分にレスターは先制。ユナイテッドはラッシュフォードを投入し、カウンターに主眼を置いたシステム変更を行ったところだったが、レスターがこれをひっくり返す形。ボールハントしたデューズバリー=ホールが見事。そこからの縦パスを含めてパーフェクトなプレーだった。縦パスを引き取ったマディソンから最後はイヘアナチョが先制点を奪う。

 対するユナイテッドもレスターの後方のビルドアップミスに付け入るような形でフレッジが同点弾をすぐに決める。レスターはこの場面はやたら淡白な対応で、あっさりと失点を招いてしまった印象だった。

 その後はレスターが保持、ユナイテッドがロングカウンターという形でそれぞれの色を使いながらも時間を進める。エランガ、ブルーノなどワールドカップ出場権をかけて代表戦を戦った選手に疲れの色が濃かったユナイテッドの方がより苦しかっただろうか。

 ペースを握ったレスターも得点がファウルで取り消されるなど、3ポイントまでは僅かに届かず。苦しい戦いとなった両チームは勝ち点1を分け合う形となった。

試合結果
2022.4.2
プレミアリーグ 第31節
マンチェスター・ユナイテッド 1-1 レスター
オールド・トラフォード
【得点者】
Man Utd:66′ フレッジ
LEI:63′ イヘアナチョ
主審:アンドレ・マリナー

第32節 エバートン戦(A)

■リシャルリソンの余裕を奪えなかったユナイテッド

 ミッドウィークのバーンリー戦で劇的な敗戦を喫していよいよあとがなくなってきたエバートン。立ちはだかるのは来季のCL出場に向けてこちらも後がなくなったマンチェスター・ユナイテッドである。

 序盤からポゼッションに余裕があったのはエバートン。ユナイテッドのトップがプレスに行けないロナウドであることを利用し、CBが積極的にボールを持ち運びを行いながらボールを前に進める。トップのキャルバート=ルーウィンもターゲットになり、いざとなれば放り込めばOKなので多少の持ち運びのリスクは許容できるといったところだろう。

 一方のマンチェスター・ユナイテッドは持ち運びに苦心。正三角形の中盤がエバートンの逆三角形の中盤につかまってしまい、ボールの預けどころがない状態に。

 困ったユナイテッドはサリーでズレを作ることで解決策を見出す。マティッチが最終ラインに下がり、SBを押し出していく。これで保持が落ち着いたユナイテッドは左サイドからチャンスメイク。テレスのオーバーラップや、ブルーノ・フェルナンデスとラッシュフォードのポジション交換などからチャンスを生み出していく。

 右サイドもサンチョにワン=ビサカのオーバーラップの活用でエバートンを押し込む。マイコレンコがイウォビのお守りつきで左サイドを守っている様子はもはやエバートンの日常になっている。

 一方のエバートンの保持で活路になったのはイウォビ。同サイドのCHであるマティッチは動き回るイウォビとの相性が悪く捕まえきれない。これにより持ち運びが安定するエバートン。すると、27分。左サイドからリシャルリソンがイウォビに横パスを出し、ポストで落としを受けたゴードンがミドルでデ・ヘアを打ち抜いて先制点をゲット。前半のうちにリードを奪う。

 ビハインドになったユナイテッド。攻勢に出たいところだが、前線のオフザボールの少なさが懸念。裏を取る動きがないので奥行きを作ることができない。加えて、チームの中でオフザボールの動き周りが期待できるフレッジが負傷交代。代わりにポグバが入ったことでややアバウトな放り込みに舵を切ることとなり、攻撃の機能性は低下した。

 後半もこの力関係は変わらず。押し込むことができるユナイテッドであるが、サイドでフリーの選手を作ったとてそこからできるのはせいぜい単調なハイクロスくらいなもの。

 そのユナイテッドの攻撃を見てか、リシャルリソンがプレーに遊び心を入れる余裕を出し始めたのはユナイテッドファンにとっては屈辱といえるだろう。しかしながら、最後までユナイテッドはリシャルリソンからその余裕を取り上げることが出来ず。

 最後は守護神のピックフォードの活躍もあり、逃げ切ったエバートン。前節のシックスポインター敗戦を和らげる勝利を手にすることに成功した。

試合結果
2022.4.9
プレミアリーグ 第32節
エバートン 1-0 マンチェスター・ユナイテッド
グディソン・パーク
【得点者】
EVE:27’ ゴードン
主審:ジョナサン・モス

第33節 ノリッジ戦(H)

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■七難隠すハットトリック

 前節は絶不調のエバートンに敗れてしまうという失態を犯したマンチェスター・ユナイテッド。ロナウドのスマホ叩き割り事件など、ピッチの内外で悪い流れが続いている。

 エバートン相手に得点を取れなかったこととフレッジとマクトミネイが共に離脱してしまっていることを踏まえてか、この試合のユナイテッドは非常に攻撃的な構成で来た。底にポグバ、それをリンガードとブルーノ・フェルナンデスで挟む逆三角形の中盤がその象徴といえるだろう。

 攻撃できないくらいなら、守備を多少犠牲にしても前向きで火力勝負に持ち込む。この試合のマンチェスター・ユナイテッドのスタンスはそうしたものだった。早い攻撃と大きな展開を駆使しながら人数をかけたアタックで迅速に敵陣に攻め込む。フォーメーションからの狙い通り、まずは厚みのある攻撃でチャンスを作る展開になる。

 ただし、ノリッジとしてもユナイテッドのスタンスは悪いものではない。ユナイテッドの攻め方は自分たちの守備を犠牲にしてでも攻撃に打って出るという形。ショートパスからフリーの選手を作りアタッカーが裏抜けする形でゴールまで迫りたいノリッジのチームカラーと、中盤をコンパクトに維持できないユナイテッドのこの試合の布陣の相性はむしろいいといえるだろう。

 それだけにノリッジは先に失点してしまったのは痛かった。左サイドのギアンヌリスとギブソンのミスをエランガにとがめられて、最後はロナウド。プレスを制したユナイテッドがあっさりと先手を奪う。

 続く追加点も彼らの強みから。セットプレーからの空中戦の圧力もユナイテッドがノリッジ相手に優位だった部分である。立て続けに2点を奪ったユナイテッド。これで試合は決着かと思われた。

 しかしながら、ユナイテッドはいくらリードを奪おうが、このメンバーでは試合を落ち着けながら進むことも、ブロックを組んで自陣の守備を安定させることもできない。間延びした中盤はノリッジにとってフリーダム。レース・メル、ダウエル、ラシツァは自由に前を向いてプレーすることが出来ていた。

 そんなノリッジは前半のうちに追撃弾をゲット。サイドからの3on3の局面を制して抜け出すと、ファーに余ったダウエルが合わせてゴール。確かにノリッジからすると見事な崩しではあったが、CBが外に引っ張られた上に同サイドからの脱出を許し、中央にはカバー役が誰もおらず、そのくせファーではフリーの選手を余らせているというユナイテッドの守備の機能不全が目立つゴールだった。

 こうした連携ミスは後半も散見。テレスとリンデロフのプッキの受け渡しミスからあっさりと左サイドを破られるとそのまま一気にフィニッシュまで。ノリッジは同点に追いつくことに成功する。確かにだらだら戻っているテレスも緩慢ではあるが、エースのプッキのマークを渡したつもりになっているリンデロフもCBとしては責任感が薄いプレー選択だったといわざるを得ない。

 撃ち合い上等!のスローガン通り、きっちり失点も許してしまったユナイテッド。だが、この日2得点のロナウドが大仕事。FKから直接ゴールを沈め、ハットトリックを達成する。これでまたしばらくはキッカーは彼のままで推移しそうである。

 終わってみればこれが決勝点。脇の甘さが目立つ撃ち合いの一戦を制したのは稀代のスコアラーが輝いたユナイテッド。ロナウドがユナイテッドの守備の難を隠す大活躍で勝利を強引に手繰り寄せた。

試合結果
2022.4.16
プレミアリーグ 第33節
マンチェスター・ユナイテッド 3-2 ノリッジ
オールド・トラフォード
【得点者】
Man Utd:7′ 32′ 76′ ロナウド
NOR:45+1′ ダウエル, 52′ プッキ
主審:アンディ・マドレー

第30節 リバプール戦(A)

■デメリットだけ享受した3バック採用

 ベンフィカとのCL準々決勝に、エティハドとウェンブリーに乗り込んでのシティとの頂上決戦。ハードな日程が続くリバプール。CLとFA杯は勝ち抜け、リーグは持ち越しと少なくとも90点はつけていい成績でこの2週間を駆け抜けた。最大4冠の可能性が残っている中で厳しい日程は続くが、ベンチまで豪華な充実のスカッドでその過密日程と渡り合う準備はすでにできている。

 一方のユナイテッドは不振を極めている。絶不調のエバートンに敗れてしまったことはその象徴だろう。前節のノリッジには勝利こそしたが、最下位相手に刺し違え覚悟の特攻フォーメーションで臨み、ロナウドのFKで救われるというスリリングな白星であり、復調アピールとは程遠いものだった。

 布陣をいじってきたのはアウェイのユナイテッドの方。バックラインを3枚にして、3-4-3のフォーメーションでリバプールを迎え撃つ。だが、この3-4-3で何がやりたかったのかはよくわからなかった。

 降りていくリバプールの前線に対して、バックラインがついていく動きは見せていたので、おそらく後ろ3枚はリバプールの3トップについていく役割なのだろう。だけども、別にユナイテッドの中盤や前線が相手を捕まえるわけではないので、基本的にボールホルダーはフリーである。

 それでいて、リバプールの前線にはマンマークで相手がついてくるのだから、降りる動きさえ見せてしまえばユナイテッドのバックラインには簡単に穴が空く。リバプールは降りてくる前線へのポストを使ってフリーの選手を作り、穴が空いた最終ライン目掛けて放り込む。リバプールがユナイテッドを壊すにはこれだけでよかったので、すごく簡単な仕事だったように思う。

 進んでユナイテッドのバックラインがリバプールの前線を同数で迎え撃った理由はわからない。本来、リバプールの前線との同数のマッチアップはどのチームにとっても避けたい形のはず。

 そんなリスクのあることをあえてやるときはそれなりの理由があるのが普通。例えば、相手から時間を奪うために前から人を捕まえるプレスに行った結果、仕方なく後方を同数で迎え撃つとか。そうした他の部分でリターンを得る可能性がある場合である。この試合のユナイテッドのように、そうした目的がピッチの中で見えてこないまま、バックラインが同数で迎え撃つというのはリバプールにとってはイージーモード以外の何物でもない。

 後半のユナイテッドはそういった部分はいくばくかは改善していた。ある程度前から捕まえに行くのならば、同じように後方で苦しい形になってもまだ理解はできる。前半はそうした狙いが見えないまま、ただただ殴られていたのでよく2点で済んだなというのが正直な感想である。

 後半はサンチョが登場し他の前線の選手にスペースを供給できるようになったのと、プレッシングで相手を捕まえる意識が増えたため、前半と比べればユナイテッドははるかにマシだった。それでもリバプールの優勢は動かない。効いていたのはチアゴ。つかれているチームにとって、プレーの緩急を付けながらテンポを落とせる彼の存在は偉大である。

 そしてもう1人言及しておきたいのがロバートソン。鋭い出足によるプレッシングと機を見たオーバーラップで攻撃に出たいエランガを牽制。3点目は縦パスをカットして一気に駆け上がり、フリーになったマネにラストパスを送ると、4点目もプレッシングからハンニバルに洗礼を浴びせる。

 ユナイテッドの中で誰も良かった選手はいないがこの日のマグワイアは特に散々。いてほしい時におらず、動いてほしくない時に動き、動いて欲しい時に動けず、出してほしくないパスを出す。4点目は直接ボールを奪われたのこそハンニバルだったが、彼にパスを付けたのはマグワイア。あんな適当なパスをデビュー戦の選手につけるなんて、ロバートソンにプレスをしてくれといっているようなものである。

 リバプールにとってはイージーなゲームだったはずだ。リズムも得点も自由自在。無抵抗で穴を空けてくれるユナイテッドに対して、テンポを調整して週末に不要な疲れを残さない形で勝ち点3を奪うことができた。

 最後に。子供を亡くしてしまったロナウドのためにスタジアムが一体になって拍手をするアンフィールドは素晴らしかった。いざという時に手をつなげる関係性は素敵だ。ロナウドのお子さんのご冥福を祈るとともに、アンフィールドに集ったファンには敬意を表したい。

試合結果
2022.4.19
プレミアリーグ 第30節
リバプール 4-0 マンチェスター・ユナイテッド
アンフィールド
【得点者】
LIV:5‘ ディアス, 22’ 85‘ マネ, 68’ サラー
主審:マーティン・アトキンソン

第34節 アーセナル戦(A)

■不安定さは健在ながらも勢いには差が

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アーセナル”あるある”を乗り越えて。ユナイテッド撃破でCL出場へ前進 | footballista | フットボリスタ


3連敗でCL出場権が遠のいたかに見えたアーセナルだったが、チェルシーとのロンドンダービーを制して連敗ストップ。4位を争うマ


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 共に絶不調で目標となっているCL出場権から遠ざかっている両チーム。アーセナルは前節、そのトンネルを脱してチェルシーに勝利した一方、ユナイテッドはリバプールに仕留められて大敗。マグワイアへの脅迫が発生するなど、チームはサポーターともども不穏な空気になっている。

 この試合の立ち上がりはその両チームの勢いの差を反映したものとなった。前半3分。先制したのは前節連敗を止めたアーセナル。セドリック、ジャカの2人で左右に大きくボールを振りながら、ユナイテッドの守備陣を横に振り回す。最後に決めたのは左サイドの大外から入ったタヴァレス。こぼれ球を押し込み、開始早々に大仕事を成し遂げる。

 先手を取られたユナイテッドは高い位置のプレッシングでアーセナルのビルドアップを阻害にかかる。前節もバックラインからの不安定なボール回しを見せていたアーセナルを相手陣側で追い詰めていく算段だ。アーセナルは前節ほどの不安定さはなかったが、バックラインのレギュラーが入れ替わった影響は感じられるボール回しの出来。時折、ひっかけてユナイテッドにショートカウンターのチャンスを与えてしまう。

 もう1つアーセナルにとって怖かったのはロナウドの存在。カウンターの旗手、エリア内での空中戦の強さ、マイナスのパスを刈り取るプレスバックの勘の鋭さ。ユナイテッドの前線でアーセナルのバックラインを苦しめるために立ちはだかっていた。34分に奪い取ったゴールも駆け引きでガブリエウを上回ったもの。年季の違いから前に体を入れてマティッチのクロスを押し込んだ。

 幸運だったのはアーセナルにとってこれが同点弾ではなかったこと。その直前の30分付近。アーセナルはユナイテッドのバックラインのラインコントロールの不安さに漬け込んで2点目を挙げていた。大外のサカで相手の最終ラインの高さを決めると、サカにマークが集中した分、浮いたウーデゴールが決定的な仕事を果たす。ウーデゴールは自身に注意が向いたヴァランをあざ笑うかのようにヴァランの後ろに入り込んだサカに浮いたラストパス。これをテレスが倒してPK。2試合連続でPKを決めたサカによって、前半をリードのうちに折り返せたアーセナルだった。

 後半は互いに撃ち合いの入り。アーセナルも前半に引き続き、ユナイテッドのバックラインにちょっかいをかけることは出来てはいたが、中盤が間延びしている分、ユナイテッドにもチャンスは十分。中央で浮くマティッチから大外のサンチョなどいくつか攻略できそうな糸口はあった。

 同点のチャンスを得たのはユナイテッドの方。タヴァレスのハンドで得たPKは同点の絶好のチャンス。だが、ブルーノ・フェルナンデスがこれを枠に決めることが出来なかった。

 ブルーノのミスを取り返そうと必死に同点ゴールを狙うユナイテッド。その攻撃を耐えきったアーセナルはこの試合の行方を決定づける3点目を手にする。試合を決めたのはジャカの左足。エリア内からスピード、コース共に完璧なミドルで打ち抜いて見せた。

 さすがに2点差がつくとトーンダウンした来たユナイテッド。交代選手が流れを変えることも出来ず、アーセナルに逃げ切りを許してしまうことに。リバプール戦大敗の連鎖を止められなかったユナイテッドとは対照的に、アーセナルはこれで2連勝。CL出場という悲願に向けてまた一歩その道のりが近づく大きな勝利だった。

試合結果
2022.4.23
プレミアリーグ 第34節
アーセナル 3-1 マンチェスター・ユナイテッド
エミレーツ・スタジアム
【得点者】
ARS:3′ タヴァレス, 32′(PK) サカ, 70′ ジャカ
Man Utd:34’ ロナウド
主審:クレイグ・ポーソン

第37節 チェルシー戦(H)

■支配的なチェルシーだったが…

 FA杯の決勝開催の影響で37節唯一の先行開催となったこのカード。立ち上がりから主導権を握ったのはアウェイのチェルシーだった。攻めの主体になったのはWBのところ。ユナイテッドのSHの戻りが遅いことを利用し、高い位置をとるWBがフリーでボールを持ち上がることができていた。

 ユナイテッドはCHがスライドして対応するが、2枚で横幅をカバーするのは非常に難しく、十分にサイドを防ぐことができているとはいい難い。高い位置をとって良さが出るマルコス・アロンソとスペースを与えればボールを運ぶことができるリュディガーの2人がいるチェルシーの左サイドも、ジェームズが大外からも内側からも仕上げに向かうことができる右サイドもユナイテッドは守るのに苦労していた。

 ユナイテッドはそもそもの方針が読み取りにくかった。特に中途半端なのがSHの2人のポジショニング。特にラッシュフォードの動きが不安定だった。前残りするのならば、残しておけばいいのだけども、ふらふらと遅れて戻ってくる形の繰り返し。何がしたいのかがよくわからない。どうせ戻るならば素早くリトリートしてほしいし、前に残ってカウンターで刺す役割に専念するなら守備の不利を承知でそのリスクを受け入れるべきのように思うのだけど。

 いずれにしても定点から攻める形を作るという点ではチェルシーに大きく遅れをとっているのは確か。それだけにトランジッションの局面では上回りたかったユナイテッドだったが、その部分でも優位を取れたといえるかは怪しい。早い展開においてはCHがカンテに置いていかれる場面が目立ち、むしろ苦しい状況になることが多かった。

 それでもチェルシーがなかなか先手を奪えなかったのはひとえにデ・ヘアのお陰である。彼のセービングがチェルシーに立ちはだかったおかげで、ユナイテッドは前半をスコアレスで終えることができたと言っても過言ではない。

 後半は縦に早い展開の応酬でスタート。チェルシーペースだった前半に比べればペースはフラットに。これはチェルシーの前線は早い展開における仕上げが思ったよりも拙かったことが原因として挙げられる。特にここ数試合はハフェルツが精彩を欠いているのが気がかり。展開も相手も選ばず輝くことができていた今季だったが、最終盤にプレー精度を欠いて試合中に無駄にイライラする場面が増えている。

 それでも後半開始から10分経てば再びチェルシーのペースに。そしてようやく先制点に辿り着く。空いていたサイドからジェームズがクロスを上げて逆サイドのアロンソまで展開に成功し先手を奪う。

 しかし、ユナイテッドもすぐさま反撃。わずかに猶予をもらったマティッチが浮き玉でラストパスをロナウドに送ると、これを豪快に沈めてわずか2分で試合を引き戻す。

 追いつかれたものの依然主導権を握っているチェルシーはルカクとプリシッチというウェストハム戦で勝利に貢献した選手たちをセットで投入する。ユナイテッドは5-2-3で噛み合わせる形で撤退するが、最終ラインを増やした分、ラインの乱れがかえって目立ってしまい、ブロックが強固になったかと言われると微妙なところ。

 だが、チェルシーも終盤に強度を上げきれず、攻撃の回数を十分に担保することができない。試合は終始支配したチェルシーだったが、3ポイントを呼び込むための2点目を奪うことができず。優勢を勝利に結びつける一撃は最後まで決めることができなかった。

試合結果
2022.4.28
プレミアリーグ 第37節
マンチェスター・ユナイテッド 1-1 チェルシー
オールド・トラフォード
【得点者】
Man Utd:62′ ロナウド
CHE:60′ アロンソ
主審:マイク・ディーン

第35節 ブレントフォード戦(H)

■マタがユナイテッドにかけた魔法

 シーズンの目標がなくなりつつあるユナイテッドに、前節トッテナムと引き分けた勢いをそのままぶつけたブレントフォードという構図の立ち上がりだった。対角パスを使いながら、セットプレー上等!というスタンスで序盤からユナイテッド陣内でのプレータイムを増やす。

 ブレントフォードが得意とする落ち着かない展開をぐっと引き寄せたのは、いつもと違うユナイテッドのスタメンである。37節が先行開催された影響で今季のユナイテッドにとってはこの試合がラストのホームゲーム。主役となったのは今季ほとんど出番が与えられなかったマタだ。

 トップ下というポジションをベースにしながらあらゆる場所に自由に顔を出すフリーマン役でボールの落ちつけどころとして完全に試合を支配。低い位置に降りるだけでなく、ブレントフォードのブロックの間に入り込み、彼らのプレスの届かない位置でボールを受ける様子はまさに達人と言ってもよかった。

 これにより、ブレントフォードのプレッシングは完全に鎮圧。ミドルゾーンで我慢しながらユナイテッドの保持を受け止める流れに展開が変わった。

 一応、今季ここまで全試合リーグ戦のユナイテッドは見てきたが、この試合のように保持で相手を手懐けるユナイテッドは記憶にない。マタの存在1人でチームの色をガラッと変えてしまった。そんな印象を受けた。

 その良き相棒となったのはロナウド。保持型のゆったりしたチームにとっては崩しのトリガーが見えないというのが陥りやすい困難の代表例であるが、ロナウドがブレントフォードのバックラインに突っ掛けることで裏のボールから決定機を生み出していた。

 先制点も裏抜けから。エランガが大外から抜け出し、ブレントフォードのDFラインをおいていくと、ラストパスをブルーノ・フェルナンデスが沈めてみせる。

 ブレントフォードは早めに攻めることができればチャンスを得ることはできていた。人が揃わないうちのアーリークロス、ハイプレスからのショートカウンター(マタにボールが入る手前のユナイテッドの保持は怪しかった)などユナイテッドの守備の重心をひっくり返すことができれば、ブレントフォードには反撃の機会はあった。

 しかし、ブレントフォードの攻め手であるハイプレスを回避できるのもこの日のユナイテッド。前半終了間際にはマタとフェルナンデスが手を組み、ロナウドへのラストパスを送ってみせた。オフサイドではあったが、完全にブレントフォードのプレスを攻略しかけた場面だった。

 後半もペースを握ったのはユナイテッド。前半の最終ラインの駆け引きに加えて中央のコンビネーションからの崩しも加わったユナイテッドはさらに攻勢を強める。

 ブレントフォードは意識的に早い展開を増やしながら、試合全体のテンポアップを狙う。相手の最終ラインが揃う前の守備ブロック攻略を狙ったのだろう。しかし、早い展開を制したのはユナイテッド。ロナウドのPK獲得で試合は完全に決着することに。

 今季屈指の支配的な展開を演出した主役は紛れも無くマタである。スピードこそないが、安定感は今の中盤では屈指のマティッチと共に、この試合がオールド・トラフォードのラストダンスになってしまうのは非常に残念。チームに与える影響の大きさ、プレーの正確性、他にはない持ち味などこの日マタがユナイテッドにかけた魔法の偉大さを考えると、退団濃厚な現状は他サポながらとても寂しい思いになる。ライバルクラブのサポーターではあるが、大きな拍手で彼らを送りたい。

試合結果
2022.5.2
プレミアリーグ 第35節
マンチェスター・ユナイテッド 3-0 ブレントフォード
オールド・トラフォード
【得点者】
Man Utd:9′ フェルナンデス, 61′(PK) ロナウド, 72′ ヴァラン
主審:クリス・カバナフ

第36節 ブライトン戦(A)

■理屈通りのプレス回避と見違えるフィニッシュ精度で完全粉砕

 立ち上がりからゲームの主導権を確保していたのはホームのブライトンの方だった。3バックでボールをゆったりと持ち、ワイドに展開してサイドから攻め込む。このやり方でこの試合の主導権を終始渡さなかったといってもいいだろう。

 左右の大外にWBを置き、彼らを起点にサイドから押し込む。特に左サイドはこのメカニズムが強力。ワイドで持つトロサールを後方からククレジャが追い越す形はユナイテッドを苦しめ続けた。

トロサールとしてはククレジャが追い越してくれるだけでプレッシャーが弱まるので、実際にパスがそっちに回らなくても効果がある。例えば先制点の場面では無理なくクロスを上げることが出来た。ククレジャが高い位置を取るのをサボらないことでブライトンはサイド攻撃の主導権を握った。

 ブライトンの左右のサイド攻撃の精度は高く、少なくとも敵陣まで押し込むことはかなり高い頻度でできていた。そのため、ユナイテッドは終始クロス対応に追われることになる。

 保持で主導権を握り返したいユナイテッドは前節のようにマタを軸にした形で押し返すことを狙っていくが、ブレントフォードに比べて人を捕まえてくるブライトンのプレスに苦戦する。少しマタを使った後、結局縦への早さに振り切ってアスリート能力勝負に持ち込んだ感があった。そういう展開になるとマタは厳しい。

 結果が出せないまま後半を迎えたユナイテッド。すると、ここから一気にブライトンが畳みかけてくる。右サイドからピッチを横断するようなボールで左サイドの奥を取ると、マイナスのパスを受けたククレジャが強烈なシュートをネットに突き刺す。

 ユナイテッドはテンポを上げてプレスの脱出を図るが、ブライトンのプレスは剥がせない。ユナイテッドは相手ゴールを背にしてボールを受けた選手が自力でターンして前を向こうとするケースばかりなので、簡単に相手のプレスに引っかかるのだろう。4点目のトロサールのように、ブライトンは背負って受けても無理せずにその先の手段まで用意しているケースが多い。こうなると、逆に前がかりになったプレス隊をひっくり返すことができる。

 3点目は左サイドから、4点目は右サイドから自由自在にユナイテッドの守備を壊していくブライトン。ほとんど完璧な試合運びといつもとは見違えるようなフィニッシュ精度でユナイテッドを完全粉砕して見せた。

ユナイテッドはこの日の出来ではなす術がない。4-0は十分内容に見合ったスコアといえる。これでユナイテッドは6位以下が確定。ウェストハムとの6位争いに向けて最終節を待つことになる。

試合結果
2022.5.7
プレミアリーグ 第36節
ブライトン 4-0 マンチェスター・ユナイテッド
アメリカン・エキスプレス・コミュニティ・スタジアム
【得点者】
BRI:15′ カイセド, 49′ ククレジャ, 57′ グロス, 60′ トロサール
主審:アンディ・マドレー

第38節 クリスタル・パレス戦(A)

■ビハインドも若手中心のスタンスは変えず

 最終節にかかっているのはウェストハムとのEL出場権を巡る6位争い。にもかかわらずマンチェスター・ユナイテッドはメンバーが揃わないというか、ターンオーバーを意識したようなメンバー構成となっている。

 対するクリスタル・パレスも右のWGにラク=サキを使うなど、メンバー構成はややチャレンジング。セルハーストパークでの最終節は互いにフレッシュな並びで戦うこととなった。

 互いに前線は相手のバックラインにきつめのプレッシャー。それを受けたバックラインにはミスが多く、なかなか落ち着かない立ち上がりとなった。

 攻撃の方針は両チームともに違いが見えた。ユナイテッドはサイドに大きな展開を使いながら前進の機会を伺っていく。SHとSBの縦関係の意識が強く、2人がそれぞれを使いながら攻撃に打ってでる。

 最終節に抜擢されたハンニバルはスタートポジションは左ではあったが、とにかく動き回る。フリーマンでいいよといわれているのか、制御不能で暴走しているのかはわからない。ブルーノがその様子に応じて左サイドに流れたりなど、元気が有り余るハンニバルに対して調整役を買って出ていた。

 一方のクリスタル・パレスは縦パスを入れながら前進。ザハのポストを使いながらカウンター寄りの中央のルートで前進を狙っていく。ザハのポストは高確率でチャンスにつながっており、ユナイテッドよりも具体的なゴールに迫る道筋だったといってもいいだろう。

 異なる前進のルートを模索する両チームだったが、クリスタル・パレスに入った先制点は思わぬものに。スローインから大きく後ろに戻したブルーノのパスは味方に渡らず。このプレゼントをザハがキープし、シュートまでつなげて先制する。

 確かにピンチになった後のユナイテッドの最終ラインの対応もまあまあひどいが、そもそもブルーノがそんなパスを出す必要がない。通ったところでなんなの?というパスからミスになるのは切ない。

 ビハインド、しかも欧州カップ出場権が左右されるかもしれないユナイテッドだったが、特に終盤までギアチェンジは見られず。交代枠もショレティレ、ガルナチョなど若手の抜擢によるものが中心だ。

 プレスからクリーンにボールを奪い取る場面も増えてこず、ヒューズをミリボイェビッチに変更し、クヤテを最終ラインに入れてプロテクトを進めるパレス相手にこじ開ける手段がない。クヤテが入って以降は、パレスは非保持で5バックを形成。ユナイテッドはマタを入れて保持を安定させるくらいが関の山である。

 80分を過ぎたところでだいぶ押し込む機会は増えてきたユナイテッド。右サイドの裏からゴールに迫っていくが、どうしてもこわしきれないまま試合は終了。

 ラングニックのチームは徐々に店じまいを始めたパレスの守備陣に攻略のきっかけを見つけることが出来なかった。よって、6位争いは他会場にゆだねられることになったが、これはウェストハムは敗退で決着。ユナイテッドが6位に滑り込み、来季のEL出場を決めた。

試合結果
2022.5.22
プレミアリーグ 第38節
クリスタル・パレス 1-0 マンチェスター・ユナイテッド
セルハースト・パーク
【得点者】
CRY:37′ ザハ
主審:マーティン・アトキンソン

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