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「サポートが足りない中で」~2023.1.27 FA Cup 4回戦 マンチェスター・シティ×アーセナル レビュー

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レビュー

強気のマンツーとシティの前進の課題

 早いラウンドであるFA杯、1週間間隔が空いている日程、ただし年末年始とワールドカップの疲労を抱えている選手たちにとっては一息入れたいタイミングではある。手を抜けば痛い目に遭うとわかっている相手を前にグアルティオラとアルテタはメンバー選考に頭を悩ませたはずだ。

 より選手を大胆に入れ替えたのは意外にもアーセナル。先週末のメンバーから6人を入れ替えるという大幅な変更を施す。キープしたポジションのうち、CFとCHは怪我人が絡んでいることを踏まえると、アルテタにとっては基本的にはターンオーバーを前提とした試合だったのだろう。

 一方のシティはリーグ戦に臨むと言われても遜色のないメンバーでスタート。ただし、試合が始まってからの強度をみるとややリーグ戦に比べればお互いに割引。リーグで今後迎えるであろう天王山の前哨戦であることを感じさせる内容だった。

 シティのボール保持はリコ・ルイスがスタメンに選ばれている時の平常運転。SBのルイスがインサイドに入り込んでロドリと並び立つ後方の3-2ブロックでのビルドアップである。アーセナルはこれに対して極端な深追いはしなかった。バックラインへのプレッシャーはほどほどに中盤のマークを重視。ルイス、ロドリ、ギュンドアンの3枚にはヴィエイラ、トーマス、ジャカの3枚で噛み合わせる形でチェイシング。その分、浮いているデ・ブライネはガブリエウが出て行って捕まえるという後方は強気のプランだった。

 特に中盤はマンマークの志向が強かったアーセナルの守り方。すなわち、アーセナルの中盤の守備の配置はシティの中盤が規定することができる状況だった。ユナイテッドとのダービーもそうだったが、中盤は後方を空ける試合においてはシティは積極的にハーランドが降りて中盤が動いたスペースの背後をとるようにボールを受けたがる。

 だが、シティはこの動きからの前進のパターンはなかなか作れない。ボールが入った後の動きに迷いがある。今季のシティは個人的には降りるハーランドからの前進パターンが確立できればもう一つ強くなるのかなと思っている。

 しかし、ハーランドはホールティングとの最終ラインの背後をめぐる戦いでは優勢に。ハーランドが一発で抜け出すところをファウルを犯しながら抵抗するホールディングという構図はアーセナルファンにとっては肝を冷やすマッチアップだろう。前半10分ですでに危ない場面は2回ほど。頼もしかったのは冨安のカバーリングとターナーの飛び出しである。

 この2人のサポートを借りながらホールディングは奮闘する。今季のELやリーグ戦を見ていると元々懸念だったスピード面以外にもホールディングは地上戦での対人強度に明らかに不安がある。そうした懸念がエティハドでハーランドを前にした時に顕在化しないわけがないので、ある意味これは起用された時点で当然の展開と言えるだろう。そうした中で一発退場をせず、警告を受けるタイミングをハーフタイム直前まで粘ることができたのはよくやった方と言えるのではないか。

 アーセナルからするとハーランドを生かすための後方からのフィードも助かった部分である。オルテガが決して悪いプレーをしていたわけではないし、安全で効果的なビルドアップを行ってはいた。だが、エデルソンのようにピンポイントでハーランドに届けるようなボールが後方から飛んでくるわけではない。エデルソンがいれば、冨安のカバーやターナーの飛び出しが間に合ったかは怪しい。滞空時間の分、アーセナルは対策を考えることができた格好である。

 そういうわけで押し込むことができるかどうかはまちまちのシティ。押し込んだ際にキーになるのはサイド攻撃が成立するかどうかである。アーセナルがうまく封じたなと感じたのは右サイドである。マフレズは高い位置のワイドに止まりながら2人を引きつけつつ、同サイドで余った選手を生かす形が得意。だが、この試合ではティアニーをトロサールとジャカがカバーする形でなんとか踏ん張ることに成功する。

 逆にシティが活路を見出すことができたのは左サイド側。グリーリッシュは自身が上下動しながらボールをキープしつつ反転する動きが非常にうまい。冨安はよく対応していたように思うが、ラッシュフォードに続いてタフなマッチアップ相手との試合になったなというのが正直なところ。降りて受けて反転して陣地回復するグリーリッシュの動きには苦戦する。

 少し話が逸れるがムドリクが得意としているのも相手を背負いながらインサイドにターンする動きである。成功すれば相手を置き去りにできるメリットがある反面、グリーリッシュほどの体幹はないので読まれ出すと対応される恐れはある。インサイドに入る方向のプレーであるため、被カウンターのリスクも怖い。ムドリクが活躍できるかどうかはこの日のグリーリッシュのような陣地回復ができるかどうかにかかっているように思う。

シティ保持局面のポイント
  • 中盤より後ろをアーセナルはマンマークで
  • ハーランドの裏抜けが最も脅威
  • 上下動できるグリーリッシュのサイドが有力

確固たる前進ルートが定まらない

 アーセナルの保持はいつもよりも苦しかった。シティのプレッシングはそこまで強度の高いものではなく、がっちりと4-4-2で構える形でのミドルブロック主体のものだった。CBが余らされるが、それ以外は噛み合わせがきっちりしている形。デ・ブライネはCBのケアよりも中盤の数合わせを重視していた。

 この日のアーセナルは後方にジンチェンコがいないし、ホールディングも持ち運ぶのが得意とは言えないので、バックラインからのズレを前に送るのは難しい。そうなるとアーセナルの優先順位はWGにボールを当てることになる。しかしながら、この日のサカの対面はアケ。1人では収めて攻略することが難しい。

 であれば冨安のフォローが欲しいところなのだが、ここのフォローのフリーランも遅い。前節を見る限り、冨安の高い位置でのランのタイミングには課題があるというのは理解できる。だが、この試合において攻め上がれなかったのは情状酌量の余地がある。バックラインではハーランドとホールディングがマッチアップしており、こちらのカバーに気持ちがいくとなれば冨安が高い位置を取りにくいのはある意味当然だろう。

 逆サイドのWGであるトロサールはマルティネッリと異なり、相手を背負いながらロングボールを受けるタイプではない。CFのエンケティアへのロングボールも跳ね返されてしまい、アーセナルはショートパスでもロングボールでもなかなか前進の手段は掴めなかった。

 アーセナルのパフォーマンスで気になったのは前を向いた時のプレー精度。クロス精度で冨安がよく槍玉に挙げられているが、逆サイドのティアニーも出すボールの精度の部分では悪い位置で目につくことが増えた。ヴィエイラは得点に絡むプレーこそここまで多く見せているが、つなぎの局面でのミスが足を引っ張っている印象は変わらず。こうした部分のレギュラーとの差はアーセナルのチャンスの糸口を少しずつ狭めていたように思える。

 その中で、前進できた時のトロサールのパフォーマンスが良かったことは付け加えておきたい。バックラインからの繋ぎがうまくいった際には左サイドで奮闘。実際、トロサールのいる左サイドはシティの可変フォーメーションで最も大きな移動を伴う場面でありカウンターでは狙い目。ルイスとの単純なマッチアップでもトロサールは優位に立っており、左サイドにクリーンにボールを届けられた時(右の低い位置でサカが持ち、ヴィエイラ経由でのサイドチェンジが多かった)はチャンスを迎えることができていた。

 しかし、シティも黙ってはいない。マフレズのプレスバックやアカンジやストーンズ、ロドリのサイドのカバーなどで徐々にトロサールを封鎖。時間の経過とともに対応していく様子はさすがであった。

 前半は両チームともチャンスの数は数える程度。相手の様子を見ながらジリジリと慎重に試合を進めた45分となった。

アーセナル保持局面のポイント
  • ジンチェンコ不在でズレを作れず、マルティネッリ不在でロングボールの的も足りない
  • 前を向いた時の精度不足が前進を阻害する
  • トロサールはアクセントに

賭けに勝ったグアルディオラ

 後半、選手交代に動いたのはアーセナル。イエローカードでタイムリミットが来てしまったホールディングと肋骨に違和感を覚えたトーマスが下がって、代わりにサリバとロコンガが入った。

 このアーセナルの交代はビルドアップの側面で苦戦を呼ぶ。ホールディング→サリバの交代はハーランドの対応という観点では非常に効くが、ビルドアップにおいては大きな改善が見えるわけではない。

 その上、CHのトーマスの不在は大きな痛手になる。代わりに入ったロコンガは消えてでもポジションを守ることが多かったが、この日はサイドにボールを引き取りに動くことが多くなってしまった印象である。

 一般的に、サイドにボールがあるときにCHがボールに寄る動きは引き取って自分で脱出させる自信がない限りは避けたほうがいい。それならSB→CBorGKのコースから中央で受け直す準備をしたほうがベター。サイドの深い位置もサイドに寄っていくCHも奪われる位置としては最悪なので、閉じ込められたのだとしたらSBが前方に捨てるほうがはるかに安全である。むしろ、CHが近づくことでSBの選択肢が減っているとすら言えるだろう。

 マーカーを引き寄せてしまうというアーセナルのビルドアップの難点は後半にプレスを強めたシティのプランとは非常に相性が悪かった。前線に起点ができたわけではないので、ロングボールが効かない状況も続行。アーセナルは前進に苦しむこととなる。

 前半よりも押し込む状況が増えたシティ。徐々に右の大外でマフレズを追い越す選手が出てくるように。相手陣に重心を置きながらシティが攻撃できていることのバロメーターだ。前半は打開に苦戦した右サイドからも徐々に侵入をはじめていく。

 ここでシティは大きな賭けに出る。交代で投入したのはアルバレス。代わりに外れたのはマフレスだった。エリアに迫る手段を確保できたときにハーランド、アルバレス、ギュンドアンといったPA内での仕事ができる選手を並べるというのはここ最近のシティの常套手段である。

 だが、この場面で交代したのはマフレズ。後半のサイド攻撃の主役を担っていた存在である。後半はサリバが最終ラインに入ったことにより、シティは一発ハーランドという前進の手段は失われている。よって、彼なしでのサイド攻撃を完結させられるかがこの交代のポイントである。

 結果を出したのは左サイドのグリーリッシュだった。左サイドの深い位置でボールをキープすることに成功すると、冨安とサカの2人を引きつけつつアケにラストパスを出すことに成功。これをアケがグラウンダーで沈めてシティが先制する。グアルディオラが賭けに勝った瞬間である。一連の流れの起点がアルバレスのミドルだったことも含めてシティの交代策がハマったシーンと言えるだろう。

 失点シーンのアーセナルで何かができたとすればサカだろう。冨安のアプローチのせいでグリーリッシュは正対から再び相手を背負う形に逆戻りしている。2対1で囲えている状況であれば、脱出させてしまうのはエラーと言える。サカが深い位置まで追い、グリーリッシュからボールを脱出させてしまったことが失点の直接原因である。

 アーセナルはマルティネッリとジンチェンコを左サイドに投入。ロングボールの起点となるマルティネッリとSHの背後に立てるジンチェンコの2人を活用することで、左サイドから押し返していく。左サイドから出てくるボールの精度も高くなり、アーセナルは反撃の準備が整う。

 しかし、同サイドをシティはウォーカーとベルナルドで封鎖。ルイスより対人に明らかに優れるウォーカーはマルティネッリに決定的な働きをさせず、プレスバックとボールキープができるベルナルドは攻守に効いていた。

 さらにはシティはアーセナルのもう一つの起爆剤であるプレッシングも封殺。ロングボールを増やし、ウォーカーとジンチェンコのところを狙う安全に陣地回復を図る。ジンチェンコが競り負けるとなればジャカはこちらのサイドのカバーに行かなければならず、最終ラインに吸収されてしまうこともしばしばである。

 ジャカが中盤からどかされてしまったことに加えて、最前線のエンケティアが明らかに疲労困憊になったことでプレスのスイッチが入らない。ロコンガとウーデゴールでプレスの意識に齟齬が出るのも、ロコンガの守備の規律だけが理由だけではない。全体が疲弊し、ロングボールを跳ね返せないことの上にロコンガの前プレの出足の遅さがある印象だ。

 交代策で勝ち越しゴールを奪われて、安全策で逃げ切りに成功したシティ。優勝争いのライバルにまずはカップ戦で勝利をあげて見せた。

後半のポイント
  • プレッシング主体で押し込むシティ
  • マフレズを下げてもサイドアタックを完結させたシティ
  • マルティネッリとジンチェンコ投入を凌がれる

あとがき

グリーリッシュが果たした大仕事

 強度面では物足りない部分はあったが、時間経過した際の状況への対応力と交代策での流れの引き寄せ方は見事だった。特にグリーリッシュの先制点のシーンは見事。両軍のWGがともに十分なサポートを受けることができない中で決定的な仕事を見せたことが勝利を引き寄せる大きな決め手になった。

敗退で最も残念なポイントは

 内容を振り返れば悪くはないだろう。出たメンバーの能力の中ではそれなりに対応はできていた。早いラウンドでシティの敵地で惜敗というのも諦めはつきやすいだろう。日程的な負荷が弱まるのも助かる部分はある。負け方もタイミングも悪くはない。

 だが、それでもこのチームは常に勝たせてあげたいと思ってしまう。とりわけ、ターナーのパフォーマンスはその思いを強くする素晴らしいものだった。アーセナルは2ndGKのパフォーマンスが優れている時にFAカップに縁があるクラブ。この日のターナーにはオスピナやマルティネスに肩を並べる資格が十分あったと思うので、個人的にはそこが一番敗退で残念な部分だ。

試合結果

2023.1.27
FA Cup 4回戦
マンチェスター・シティ 1-0 アーセナル
エティハド・スタジアム
【得点者】
Man City:64′ アケ
主審:ポール・ティアニー

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