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「ブカブカの服」~2023.8.19 J1 第24節 サンフレッチェ広島×川崎フロンターレ レビュー

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レビュー

マンツー外しに解決策が見えない川崎

 立ち上がりから圧力をかけていったのは連勝を狙うホームの広島。積極的に裏を狙うことによって、川崎のDFのボール処理に負荷をかけていく。

 ボールが自陣深くまで戻ってきた時にビルドアップに苦しんだのも序盤に川崎はバタバタした要因の一つだろう。マンツー気味の広島のハイプレスは特にサイドにボールを追い込んだ時に強度を高めることでボールを奪っていく。

 基本的にはこういう形のプレスをして来る相手に対してはGKを使ったプレス回避で対抗したいところ。広島はGKにもアタッカーがプレスをかけて来るので、GKにプレスに来た方のCBからボールを運ぶことができればプレスは回避できる。

 しかしながら、この日のGKはソンリョン。GKにまで積極的にプレスをかけて来る広島に対して、能動的にソンリョンをビルドアップに組み込めないだろう。

 いつもであればマンツー気味の中でもシミッチは相手を外しながら前にボールを出せるボディアングルを確保している。だが、この日はフェイスガードの影響かあまり周りの状況を把握できない状態で受けてしまうこともしばしば。CBがフリーにならないことに加えて、頼みのシミッチが捕まり続けることも川崎が前進に困った要因である。

 そうした中で前進に向けて奮闘したのは瀬古。瀬川にピン留めされた塩谷の背後をとるように左サイドの奥に走り込んだり、シミッチとのワンツーでマンマークを外したりなど、2,3人の関係性から前進する。

 しかしながら、相手を外す状況をコンスタントに作れなかった川崎は広島に押し込まれる流れが続く。広島の攻撃で防ぎにくかったのは両WBからのクロス。川崎のWGが下がるのか、あるいはSBが出ていくのか。ファジーなポジションで浮いた志知と中野はフリーでクロスを上げることもしばしばだった。若干試合展開とは前後する話だが、塩谷の負傷で左が主戦場の佐々木が右に出てきた時に、瀬川が潰そうと躍起になった結果、背後をより使われるようになるという流れはなかなか興味深かった。

 広島のWBからのクロスはファー狙いが主。特にソティリウがファーで川崎のSBと競り合う狙いを持っていることが多かった。特にSBが登里の川崎の左サイドはソティリウにとっては優位が見込めるところ。志知のハイクロスからソティリウという形からチャンスメイクを狙う。

 押し込み続ける広島。当然増えるのはセットプレーである。右のCKからのコーナーを沈めたのはソティリウ。ボレー気味のシュートでネットに豪快に突き刺して先制点をゲット。川崎としては高さのある広島に対してソティリウのマッチアップ相手が山根になったのは痛恨。

 ただ、山根が振り切られるのは仕方ないとしても、あれだけソティリウの足元に収まるボールを素通りさせてしまう川崎のニア側の守備陣に問題があったのは明白。低い弾道のクロスであればニアで跳ね返して欲しかったところだ。

 先制点以降も大きく流れは変わらない。マンツーで捕まえる広島に対してなかなか後方でフリーを作ることができない川崎は満足に前進ができない状況が続く。

 そうした中でシミッチ→瀬川のラインから同点弾が生まれたのは納得感がある。後方でフリーになった時に一番局面を進めるパスを出せるのはシミッチだし、オフザボールで相手を外すのであれば瀬川が一番。この連携から広島の右サイドを壊し、エリア内の脇坂にアシストを決めた。

 ゴールを生み出した連携は見事。だが、シミッチをフリーにするかどうかは川崎のビルドアップの改善というよりは、広島の前線の守備の気まぐれやサボりによるところが多く、手を施したからゴールが生まれたという文脈には見えない。よって、この同点ゴールによっても流れは当然変わらない。

 川崎はパスワークの流れの中でシミッチが外れるのを待ちながら攻撃を仕掛けていきたいが、その過程で広島のプレスの網に引っ掛かればカウンターを受けるという賭けを続ける流れだった。川崎のCBはスライドなどの連携や潰しにいくかどうかの個々の判断に難があり、カウンターを止めるのには一苦労。川崎にとってはこの賭けはあまり分がいいものとは言えない状況だった。

マルコス登場で続く分の悪い賭け

 後半、まず動いたのは広島。マルコス・ジュニオールを2列目に投入する。この交代は非常に効果覿面だったと言えるだろう。ライン間でボールを受ける動きと裏に走るポジションの取り直しを繰り返すことで川崎のDFを翻弄する。

 マッチアップする高井にとってマルコスは悪夢のような相手だっただろう。「出ていく判断は遅れるが、出ていく動き自体は遅れても行う」というプレーの傾向がある高井にとっては、動き直しを繰り返せてかつアジリティで優位に立つマルコスとの相性は最悪。前半以上に後追いで動かされ続けてしまい、穴を開けるケースを頻発。そのおかげでスペースを得た志知のオーバーラップが後半に目立つ。この辺りもマルコスの寄与が大きい部分だろう。

 そのマルコスから広島は勝ち越しゴールを生み出す。確かにシュートはスーパーだったが、あまりにも川崎の守備陣にケチがつくシーンが先に来てしまう。まずはもちろん瀬古のパスミス。そして、その後広島がマルコスにつけた後の対応。高井は瀬古と挟み込むまで我慢ができなかったことと、大きな動きから2回マルコスのマークを外してしまうというエラーを犯している。いくらマルコスが巧みとはいえ、あの位置で前を向けない状態で受けた選手に対して1人でミドルを振り抜ける間合いを許してしまえば、仕方ないとは言い難い。

 3枚替えによって悪い流れを断ち切りたい川崎。交代カードで最も効いていたのは橘田だろう。ボールを持った時の縦の推進力に加えて、広い範囲を潰すカバーリングの良さも少しずつ戻ってきた感がある。シミッチとの入れ替えは高さの観点からどうかな?と思う部分もあったが、地上戦の奮闘でその不安を払拭した。

 川崎の2点目は中盤の良さが出た場面と言えるだろう。まずは橘田が右に大きく展開したところ。広島視点で言えば大きく左に流れているマルコスが中盤からスムーズなサイドチェンジを許したのが誤算だった。

 右サイドでボールを受けた脇坂は明らかに2点目における最大功労者である。川村から離れるように橘田からボールを受けて、東が食いつくタイミングまでドリブルを続けることで橘田が飛び込めるエリア内のスペースを作っている。

 最後のアシストのところも、一度右側にターンするような体重移動を見せることで川村をそちら側に引き付けている。もし、脇坂がターンを入れずに受けた瞬間の体勢でそのまま山根にボール落としていたら、川村は山根のシュートコースのブロックに間に合った可能性もある。あのターンの動きを見せて川村の重心を山根の逆側に誘導することでシュートコースを創出している。

脇坂がターンを入れない場合の仮定
脇坂がターンを入れた場合(実際のシーン)

 試合はここからオープンな展開の連続に。川崎はフレッシュなアタッカーを軸にカウンターを狙うが、なかなか交代選手が波に乗れず。80分手前の遠野のカウンターは2点目のシーンと同じように空いている右サイドに展開するのがベストだが、左にマルシーニョという逃げ道もある。そうした中で明らかにオフサイドの宮代を選択したのは判断の悪さを感じる。

 右サイドに入った瀬川は終盤まで精力的に動いていたが、終盤に彼が好んだピッチを横切るマルシーニョへのパスがなかなか相手に刺さらず。構造的にあの横パスは悪くはなかったと思うのだが、マルシーニョ自身がピッチの縦方向にスピードに乗りながらコントロールすることを好むので、右足で右サイドから飛んでくるボールの処理を非常にやりにくそうにしていた。この辺りは組み合わせの相性だなと思う。

 CFの宮代も含めてなかなか決定的な動きができない川崎。するとラストプレーで広島は劇的なゴールをゲット。カウンターからマルコス→満田とボールを繋ぎ、ソンリョンとの1on1を制する。

 この場面もやはり高井の判断がどうしても気になる。マルコスとの距離が遠いのはロストの時の状況の悪さやボール周辺の守備者の影響もあるから仕方ないにしても、間合いが間に合わないのであれば、次に優先すべきは背後を使われて満田にDFラインを破られるのを防ぐことだろう。

 さすがのマルコスでもボールを受けた位置からのミドルは難しいので、まずはステイしつつ、満田が背後で受けられるスペースをある程度制限できる位置までラインを下げたところでボールとの間合いを詰めるという過程を踏む方がベターに思う。背後の状況を気にしながら判断を変えるのが難しいのは確かだが。それができれば、満田が抜けることができる位置はあそこまでど真ん中にならなかったように思うし、外に追いやることができれば当たっているソンリョンのセーブに縋ることも少しはできたはずだ。

 高井は88分にも同じようにマルコスに遅れてアプローチに行くことでバイタルが空いてしまう状況を作っている。この場面では遠野がプレスバックからのインターセプトでチームを救っていたが、ある意味失点の兆候はあったということだ。

 終盤のオープン合戦はこれまでの川崎の困った時の常套句。ただ、この日の噛み合わないカウンターと広島のアタッカーが持つ川崎のDFに対する優位を踏まえると、後半もまた前半と異なる形で川崎は分が悪い賭けを続けていたと言えるだろう。

あとがき

 形を変えていたとはいえ、90分を通してずっと広島の突きつけてくる問題はちっとも解決できていなかったという印象だ。劇的な結末の分ダメージがあるが、負けという結果自体は内容的には妥当というか、見どころがあったG大阪戦や神戸戦とはちょっとテイストが違う負け方だったと思う。やりようが全くないわけではないとは思っていたので、最後まであのペースで流れていくことを許容したこと自体が広島側の土俵だったのかなと思う。

 まず保持で押し込む機会をきっちり作るというのが前半の流れに逆らうための最も効果的な手段だと思う。プレビューでも触れたように上福元を起用することが自分の中の一案だったし、試合の内容から見ても最も簡単に保持のところを変える手法だったという気持ちは変わらない。セーブ能力の高さの部分が揺らぐ試合もあったように思うし、チームの流れ的にもGKを変更してもおかしくない流れだったのだろう。しかしながら、当然ソンリョンの昨日のパフォーマンスに問題はあるとは思えないし、結果論的なズルい見方をしてもソンリョンの起用が正しかった以外の考えは浮かんでこない。

 だが、そうなると相手に捕まり続ける状況は変わらず、広島が得意なボールが行き来する展開を受け入れることになる。高井、山村というCBの組み合わせにある程度縛りがあった中でソンリョンの起用をめぐるあれこれは非常に難しいものがあると感じた試合だった。

 後半の部分はTwitterでも触れたが今の川崎はプランAとして「こういうのがやりたい!」ってプレーがあるとして、それがいろんな理由でできない時にプランB選びに失敗してる!みたいなことがとても多い気がする。鬼木さんのプランというよりも選手それぞれのプレーセレクトでそう思う。それが最も顕著なのが高井ということだろう。

 例えば最後の失点シーンの高井は「マルコスを捕まえる」がプランAだとしたら、プランBは「まず背後を使わせないことで次にホルダーを捕まえること」になる。でも、高井のプランBは「間に合わなくてもマルコスを捕まえる」なので、最も避けたいところにパスを通されて一番嫌な結末になった。

 G大阪戦のアラーノのゴールもプランAが「繋ぐ」なのだとしたら、プランBは「ロストした時になるべくダメージが少ない形で蹴る(=縦へのロングボール)」。「それでもやっぱり繋ぐ」がプランBに来ているからああいうミスになってしまう。となるとどんな状況でもプランAができるようになるか、プランの組み方の考えを変えないと成立しない。高井は割と前者を目指していると思うが、やっぱりポジション的に失敗のコストを払い続けるのはきつい。

 ただ、やっぱりプランAのプレーを目指し続けることを諦めてしまうこと自体は嫌なので難しい。就任からここまでの鬼木監督の川崎を一言で表すとしたらブカブカの服に対して、自らが似合うように努力し続けた結果、タイトルはもちろんのこと、多くの選手が海外で活躍したり谷口や山根がW杯の本大会でスタメンを張れるようになった。

 極端な話ではあるが、この部分を妥協した時が鬼木さんが監督である意味がなくなる時だと思っている。Jリーグが世界につながる場であるということに関してはここ数年で最も結果を出してきたクラブであるという自負はあるし、川崎が強みを打ち出せるとすればそこ。そこのハードルを下げれば、内部の突き上げが一気に消えてしまうのではないかという危機感を個人的には持っている。

 となると、失敗とは隣り合わせになるのは仕方がない。かといって優勝を目指すのだから、成長のための失敗が勝ち点より前に来るのであればそれも意味がない。それが川崎が今抱えるジレンマだろう。まさしく今の川崎は身の丈に合わないブカブカの服を着ている状況。大きめの服に自分をフィットさせるための道筋がピッチの中で見えるのであれば、まだ今年のチームにできることややるべきことは残されているように思う。

試合結果

2023.8.19
J1 第24節
サンフレッチェ広島 3-2 川崎フロンターレ
エディオンスタジアム広島
【得点者】
広島:15′ ピエロス・ソティリウ, 60′ マルコス・ジュニオール, 90+7′ 満田誠
川崎:24′ 脇坂泰斗, 71′ 山根視来
主審:松尾一

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