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「構造で殴られた立ち上がりの2失点」~2023.3.8 Jリーグ YBCルヴァンカップ グループステージ 第1節 清水エスパルス×川崎フロンターレ ハイライトレビュー

目次

構造の不具合は失点につながる

 メンバーを大幅に入れ替えた川崎。この日の4-3-3は今季トライしている後方3-2型のビルドアップではなく、昨シーズンまでの形や今季のリーグ戦の後半のようにSBが外に開くタスクが中心となるスタイルだった。

 プレッシングにおいては昨シーズンの標準のスタイルと言っていいだろう。WGが外を切る、そしてIHが前向きの矢印をちらつかせながらWGの裏のカバーも兼任するという形である。

 立ち上がりは前向きな圧力でなんとか誤魔化せていた川崎だが、チャナティップと小塚という機動力の面で無理が効かない2人を抱えながらこのメカニズムを維持するのは難しいものがある。1回目のプレス回避を清水が得点に繋げたのはアンラッキーな部分もあるかもしれない。だが、チャナティップがいない左サイドに佐々木と大南が引っ張られる場面はかなり高い頻度で発生していたので、構造的にひっくり返されていた部分と言える。前半途中に4-2-3-1に変えたのは前プレを諦めてでもこのプレスをひっくり返された時の穴が大きかったからである。

 川崎のビルドアップはSBが絞らない分、中盤が降りる形で4-2型と言えるような形だった。まぁ、これは平常運転といえば平常運転。だが、この日は名願や瀬川がアンカーに近い高さまで下がって受けることが多かった。今季これまでの試合を見る限り、瀬川はボールを受け取れなくとも我慢が効く選手なので、おそらく降りてきていいというのは指示になるだろう。

 だが、降りてくる選手に対して高い位置を取る選手がいなかったりなど、降りる動きと対になるアクションがこの日はあまりうまくいってなかった。2失点目のミスはぱっと見ると佐々木のミスではあるが、そもそも小塚、チャナティップ、佐々木が左のハーフレーン付近に集結しており、名願が左の大外の低い位置まで降りている。これでは清水のマーカーがある程度集結するのは当然の帰結だろう。

 どこを誰が使うのかを整理ができていない。この場面でいえば仮に小塚とチャナティップが被ったとしても名願が高い位置をとってくれれば、佐々木が外に流れてプレスの脱出口になれていたはず。

 ただ、先に述べたようにWGが低い位置でボールを受けましょう!は鬼木監督の指示である側面が強い感じがするので、名願個人のポジショニングの悪さが原因なのかは不明である。なお、敵陣での名願は佐々木との連携がさっぱりであった。マーカーに2人が集結していることを周りにいる方が利用できておらず、ホルダーは常に1on2の状況を強いられている形だった。

 保持で全体の重心が低くなる川崎。すると、周りに味方がいない山田がサイドで起点になろうと動き出す。こうなると人がいなくなるのはPA内。そうなれば当然得点を決めるのは難しいだろう。

 積極的に縦パスを入れるチャナティップも難しいところ。後ろに人が集中しているところでボールだけ前に届けても、ホルダーが敵に囲まれて苦しいだけである。ボールと一緒に人も前に送らなければいけない。

 ただ、チャナティップが狭いスペースに通しまくるという選択をしたこと自体は頭ごなしに否定をしにくい。左も右も明確な崩しのスタイルが見えない中で、チャナティップの狭いスペースへのパスというのはこの日の川崎の武器の中では上から数えた方が早いものだったのは確かだ。縦パス→ポスト→ハーフスペースの裏に抜けるという形はこの日の川崎の前半のベストな崩し。清水のプレスラインが下がり、川崎の重心が前向きになった前半の終盤はチャナティップの縦パスはそれなりに有用な選択肢になっていた。もちろん、カウンターのリスクは高いけど。

 後半、川崎はマルシーニョを投入。これにより左サイドの位置関係は整理された。守り優先だけど高い位置を取りたい色気を見せていた後半の清水のラインを押し下げる役割として、マルシーニョは十分に効いていたと言えるだろう。

 右サイドでは瀬川が山田のそばでプレーするようになった。大外を松長根に託し、若干2トップに見える形。去年、小林を途中投入して山根を大外に任せたのと全体のポジションバランスは似ていたように思う。鬼木監督の松長根への信頼度の高さが窺える配置だった。

 チャナティップのボレー、松長根が得たPKなど要所で押し込む意義は見られたが、クロスの使い方がうまくいかないのは頭が痛い。ファーへのクロスは軌道がいいけどそこに人がいないか、人はいるけどろくでもないクロスが上がるかの2択であった。

 ちなみにニアに入り込んでのマイナスのクロスはいつも通り良かった。1点目のゴールはマルシーニョがえぐったことによって作られたスペースにチャナティップが入り込んだものだった。中に高さがないからクロスはダメと言われがちだけど、スペースを作る動きがないからダメなだけである。クロスが悪いわけではない。上げる状況と狙いが悪いだけだ。クロスというのは押し込んでチームにおける最も確実な得点手段の1つである。スペースを操作してのクロスを増やすのも撤退守備を壊すための手段になるだろう。

 清水の3点目は鹿島戦の知念のゴールと構造的によく似たものだった。片側サイドにボールを寄せて、脱出された挙句逆サイドの余った選手で勝負。川崎対策として使えそうな再現性のある崩しを清水は見せていた。

 試合は3-2で終了。清水は2015年以来8年ぶりの川崎戦の勝利を挙げることとなった。

あとがき

 上福元待望論が流れていたが、上福元がソンリョンよりも足元が上手いとて、やばいミスはしない以上の効果は特には見られなかったというのが正直なところである。鹿島戦、湘南戦と続いて前半の入りが悪く、そこの修正に至るのが遅いという流れは一緒。この試合では好き勝手降りる&ハイプレスという入りのプランのダメなところをきっちりと咎められての2失点である。ある意味、今季の中では最もロジックで殴られた2失点かもしれない。

試合結果

2023.3.8
ルヴァンカップ グループステージ 第1節
清水エスパルス 3-2 川崎フロンターレ
IAIスタジアム日本平
【得点者】
清水:6′ オ・セフン, 7′ 白崎凌兵,70′ 中山克広
川崎:67′ チャナティップ, 82′(PK) 宮代大聖
主審:川俣秀

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