ラッシュフォードから逆算する再構築でリカバリーに成功
マンチェスター・ユナイテッドは過密日程の真っ最中。その中で毎節のように離脱者が発生している。前節の離脱者はカゼミーロ。一発退場でここからのリーグ戦は3試合の欠場だ。マクトミネイもいないため、割と問答無用でザビッツァーはスタメンデビューを飾ることとなる。なお、リーズはここからマンチェスター・ユナイテッドとは連戦。カゼミーロ不在の恩恵を180分間享受することができる。
いきなりの先制点を決めたのはリーズである。試合が落ち着く前に決定的な仕事をしたのはアダムスとニョント。右に流れたブルーノを捕まえたアダムスがポジトラの起点となると、ボールを受けたニョントがバンフォードとのワンツーで加速し、デ・ヘアをニアから撃ち抜く。カットインから決め切るというニョントの課題を見事この大舞台でクリアしてみせた。
マンチェスター・ユナイテッドにとってはどの部分の影響が大きい失点だろうか。広大なスペースをカバーできるカゼミーロの不在の影響はないとは言い切れないだろう。しかしながら、それだけ説明し切るにはロスト後の中央のスペースはあまりに広すぎるようにも思う。
この日のマンチェスター・ユナイテッドの前進のシステムをもう少し見てみると、中央から主に右サイドにサポート役を送ることでサイドからのキャリーを優位に進めようとしている節があった。後方から支援するヴァラン、フリーダムなフレッジ、そして降りてくるブルーノなどがラッシュフォードやダロトをヘルプする形である。
だが、マンチェスター・ユナイテッドには誤算があった。リーズはサイドに流れる選手に対して序盤は徹底的についていくスタンスを崩さなかったことである。ここでユナイテッドがボールをロストをしてしまうと、サイドに人が流れている分、中盤の中央にはかなり広大なスペースが広がることになる。中盤に残るのがカゼミーロならなんとかなるかもしれないが、ザビッツァーに丸投げするにはあまりにも重荷だろう。リサンドロ・マルティネスの迎撃性能を足しても、リーズの攻撃を余裕を持って受け切ることができるとは言い切れない状況が続くこととなる。
こうした事象を踏まえると、中央の空洞化はサイドでボールを預けて人を集めてもプレーができるアントニーの不在も無視できない。というよりも、むしろカゼミーロよりも影響が大きいと言ってもいいかもしれない。
結局はこのサイドの3人目をめぐる攻防が前半の流れを左右する大きなファクターになる。リーズに怪我人が続出したこともあるだろう。20分もすればリーズのプレスは弱まり、ユナイテッドはサイドに人を置くことのメリットを享受できるような場面が徐々に出てくるようになる。サイドからキャリーするラッシュフォード、ダロトによりユナイテッドはエリア内にチャンスがもたらされるようになる。
順足WGとして起用されていたラッシュフォードは前半はアシスト役に徹していた感がある。クロスが上手い分、アシスト役としても立ち回れるのが彼の長所でもある。その分、フィニッシャーを託されていたのは逆サイドのガルナチョだったが、シュートはリーズの守備陣のブロックに阻まれ続けることになる。特にウーバーとメリエの2人の奮闘は鬼気迫るものだった。
リーズのボール保持でも時間が作れるわけでもなく、もっぱらチャンスはトランジッション。35分以降に再びユナイテッド陣内に攻め込むことができるようになったのは中盤でのセカンドボールの奪取争いで優位に立つことができたからである。ユナイテッドはリサンドロ・マルティネスがかなりタフな対応を強いられ続けるなど、押し込まれると結構危うい形になっていたのが印象的だった。
後半、先に勢いを掴んだのはリーズ。大きく左右に展開を行いながら、押し込むと高いラインをとるトランジッションからカウンターを発動。コッホのボール奪取から大外を抉ったサマーフィルがヴァランのオウンゴールを誘発してリードを広げる。
ユナイテッド側にも変更はあった。左右のWGを入れ替えて、ラッシュフォードとガルナチョのタスクを組み替える。前半のガルナチョのパフォーマンスを見ると、ラッシュフォードをフィニッシャーにするところから逆算した方が早いとテン・ハーグは感じたのかもしれない。崩しの局面で活用されなかったベグホルストはエリア内のフィニッシャーとしてはパンチ力に欠けるし、ガルナチョは右サイドでは左ほどの打開力を見せられるかは未知数。交代で彼ら2人から手をつける采配は妥当である。
となると、次のポイントは右サイドに入ったペリストリがエリア内への供給役として働くことができるかどうかである。見事にペリストリは期待に応えたと言っていいだろう。右サイドでキープすると、ダロトのオーバーラップを促し、ラッシュフォードの追撃弾の引き金を引いてみせる。選手交代と配置変更でラッシュフォードをフィニッシャーにする再構築がようやくこれで安定した感がある。
交代選手が存在感を放たなくてはならないという意味ではこの試合のアーロンソンが背負うものも大きかったはず。W杯以降、序盤戦は嘘のようにパフォーマンスを落としているアーロンソンは投入直後にポストを直撃するシュートを放つなど、投入された意味を体現する掴みはできていたと言えるだろう。
だが、決定的な仕事をしたのはアーロンソンではなく、ユナイテッドのもう1人の交代選手だった。左サイドに入ったサンチョはアントニーとは違うタイプながら、二人称でもサイドの崩しを託せる選手である。復帰後のリーグ初戦となったサンチョはショウとの2人の関係性でエリアに侵入し同点ゴールをゲットする。見事な帰還の挨拶だった。
このゴールで勢いに乗るユナイテッドが以降は試合を支配。だが、リーズにも得点の目は残されていた感がある。早い試合展開と自由なフレッジの分のカバーをこなしていたザビッツァーは時間経過とともに中盤のスペースを埋めるのがしんどくなっていた。リンデロフの中盤起用という応急処置にテン・ハーグが動いたのも十分に理解ができる内容だ。
さらに、ユナイテッドにとって厄介だったのはメリエの存在。体を伸ばしてのファインセーブと安定したキャッチングの両面でリーズのフィールドプレイヤーに安心感をもたらす大きな働きを果たす。ユナイテッドにとっては勝利に向けての最後の壁を越える余力は残されていなかった。メリエのパフォーマンスに後押しされたリーズのフィールドは前向きの姿勢を見せてはいたが、強引で成功率が薄そうなスルーパスに終始していたあたり、彼らもまた余力はなかったのだろう。
結局試合は引き分けで終了。壮絶な展開は勝ち点1を分け合う形で一旦幕引き。週末にエランド・ロードに舞台を移し、リマッチが行われることとなる。
ひとこと
率直にいい試合だった。両チームの選手のパフォーマンスに賛辞を送りたい。監督が代わったリーズはやはり別チームのようなフレッシュさがあったので、マーシュが重石になっていた部分はあるのだろうなと思った。不在選手がいる中で仕組みの再構築に動いていたテン・ハーグの手打ちにも納得感があった。強いて言えば、ベグホルストへの長いボールを前半に使っていれば配置を変える前の段階でもラッシュフォードをフィニッシャーとして使うことはできたかもしれないなと思ったが。
試合結果
2023.2.8
プレミアリーグ 第8節
マンチェスター・ユナイテッド 2-2 リーズ
オールド・トラフォード
【得点者】
Man Utd:62′ ラッシュフォード, 70′ サンチョ
LEE:1′ ニョント, 48′ ヴァラン(OG)
主審:シモン・フーパー