■優位性の担保が外れたことが招いた敗北
中央とサイドにバランスよく人を置いた日本の4-2-3-1に対して、オマーンが採用したのは中盤ひし形の4-4-2。中央に極端に人を置いたやり方だった。
展開としては、中央に密集するオマーンの守備陣を日本がサイドチェンジを交えながら分解できるかどうか?というものになっていくのだろうなと予測できた。そういう展開に実際になった時に気になったのは柴崎の存在。柴崎の持ち味はトランジッション局面における状況把握の早さとそれを活かした縦パスで一気に局面を進めるカウンターを発動できることである。
しかし、この試合においては中央に人が多い陣形になっているオマーンに対して、一撃必殺スルーパスは相性があまり良くない。柴崎自体のコンディションは悪くはなさそうだったが、持ち味と展開がミスマッチになりそうなプレイヤーだなと思った。
もう1つ、柴崎は守備においてニアのハーフスペースを埋める意識が希薄で、左のペナ角付近で相手に前を向かせる頻度が多かった。この試合においてはオマーンのアタッカー陣が中央から外まで自在に流れながら攻撃を繰り返していたので、対応しにくかったかもしれないが、3分のシーンのように割と埋めるのが簡単そうな場面でもオマーンの選手にノープレッシャーで前を向かせているのは気になった。
オマーンの守備の目的は明らかに同サイドでの封鎖。ボールサイドのFWは自陣の低い位置まで下がっていたし、トップ下やアンカーなど盤面上はピッチのセンターラインにいる選手もボールサイドに流れることで密な状態を作っていた。
それでも、日本は吉田を主体として対角にパスを送ることで徐々にペースをつかんでいく。広いスペースがある方のサイドに振るパスはもちろん、特に効果的だったのは右のWGの伊東の裏抜けに合わせたフィード。オマーンの最終ラインを縦に突っつくこのやり方は試合を通して最も効果的だったといえるだろう。
逆に、大外のサイドでボールを持った時は手詰まり感があった。DF-MFのライン間の内側で原口のサポートをする先週や、ハーフスペースの裏に走り抜けることで、原口にカットインのスペースを作る動きがなかったことが停滞の要因。そうなると、原口がドリブルで相手をちぎって投げ続けなければ活路は見いだせない。
オマーンの攻撃はその日本が出来なかったサポートが非常に上手だった。大外でボールを持つ選手を内外から追い越すように同サイドの裏抜けを挟むことでSBをピン止めしつつ、CHやSHをどかしてしまうフリーランは効いていた。後方からのビルドアップもアンカーが浮いたり、インサイドハーフがサポートのために降りてきたりなど日本のプレスにつかまらない工夫を披露。高い位置においてはサイドチェンジを減らす代わりに、エリア内に飛び込む人数をかけてクロスに威力を持たせるやり方に専念していた。
そういう時にこれまで何とかしていたのは日本のバックス。大外で持たれた場面でいえば酒井と長友にボールホルダーが食い止められてしまえば何もできはしない。しかし、この試合ではアジアで敵なしだった両者の絶対性は見られず。酒井に関しては試合後離脱したようにコンディションの部分がおかしかったし、長友も本来であれば置いていかれないところで置いていかれてしまう場面が目についた。吉田も離脱こそしていないが、コンディション的にはぎりぎりだろう。
アジアで優位性を保つために不可欠だったバックスがツケを払えないとなると、いよいよゴールを脅かされることになる日本。抜け出しから大外に柴崎を引っ張り出すと、クロスするランで手前に入ってきた動きで植田を翻弄したアル・サブヒがフィニッシュ。試合終盤に先制点をゲットした。
後半の日本は今、最も旬なタレントである古橋に左サイドを託すが、原口の焼き直しの役割では難しいだろう。もっとスピードに乗った状態でボールを渡したいプレイヤーだ。個人的にはこういうことをやらせたいなら三笘が一番向いている気がする。ちなみに前線の裏抜けも裏へのフィードもなかったことを踏まえると、チームとして奥行きを使う考え方はあまりなかったはず。そうなると仮に古橋を中央で起用していたとしても厳しかったように思う。
アドリブで何とかしたい!という前提に基づくのならば、交代で入った久保と堂安を併用するアプローチが最もシンプルで効果的だと思う。けども、そのやり方がオマーン相手に通用しなかった以上は、前提を考え直さなければいけないのではないだろうか。バックラインの優位という安定性がなくなったこの試合は、日本の厳しい現状が見えてくる90分となった。
試合結果
2021.9.2
カタールW杯アジア最終予選 第1節
日本 0-1 オマーン
市立吹田サッカースタジアム
【得点者】
OMA:88′ アル・サブヒ
主審:モハメド・アブドゥラ・ハッサン