■安定したビルドアップと斬れ味抜群のカウンターで完勝
ここまでは全て首位通過した3チームが勝利しているノックアウトラウンド。B組首位のイングランドは列強に続けるかどうか、エクアドルとのしばき合いを制したセネガルとの一戦に臨むことになる。
どちらのチームに関してもまず目立ったのはボール非保持。中盤より高い位置でボールを奪い、敵陣の方向にボールを押し込んでいく意識が強く見られた。
イングランドはWGが積極的なプレッシャーをかけて、セネガルのバックラインから時間を奪っていく形を狙っていく。セネガルのバックラインはプレス耐性が弱く、イングランドのプレッシングにうまく対応ができない。サカの外切りプレスに対して、頭を越すパスをつけることができれば反撃はできるのだが、そうした足元の技術をセネガルのバックラインに求めるのは酷。GKのメンディが思ったようにパスをつけられないのはプレミアではお馴染みの光景である。
そうした時にロングボールを使って前線の身体能力に任せることができれば大きいのだが、セネガルの前線はなかなかイングランド相手のバックラインに対して優位が取れない。イングランドはマグワイアのところが崩れかけるシーンもあるのだが、セネガルの前線の選手たちはゴリっと反転を狙うので、抜かれたとしても遅らせることさえできれば周りのカバーでなんとかなることが多かった。
前進のメカニズムがより整っていたのはイングランド。2CBにウォーカー、ライス、ショウの3人が2-3の形で並びセネガルの前4枚に対して数的優位を作る。キーになるのはウォーカー。セネガルの2トップがハメてくるならば、ラインを1列下げることでCBと並んでボールを引き出すし、2トップがアンカーを受け渡すならば1列前に入る。
ややインサイドに絞ることができれば、ヘンダーソンが外に開いてボールを受けることも。ウォーカーの列調整もヘンダーソンの外流れもクラブでお馴染みの光景である。2-3と3-2を使い分けるウォーカーの器用さはビルドアップに非常に役に立っている。
セネガルに対してビルドアップ隊は基本的に数的優位を維持。バックラインからの組み立ては非常にスムーズでイングランドは前進をすることができていた。同サイドにボールを追い込んでシスのところでボールを奪い取ることができればセネガルにもショートカウンターの目があるが、イングランドはそうしたルートに頻繁には追い込まれずにビルドアップをすることができていた。
先制点はイングランド。数的優位の左サイドのビルドアップ隊にケインが絡んできてポストプレーを行う。追い越す形でポストを受けたのはベリンガム。一気に攻撃を加速させてゴール前まで入り込むと、マイナスで待ち構えていたのはヘンダーソン。両IHの攻撃参加によって先手を奪う。
2点目も主役になったのはベリンガムだ。セネガルの中盤からボールを奪うと、カウンター発動のための密集を脱出したのが彼である。ボールを前に運ぶと、フォーデンにボールを渡して最後はケインがゲット。前半のうちに追加点まで奪う。
セネガルからすると中盤のシスの前がかりなロストが想定外。この時間帯は右サイドのサールがウォーカーとのマッチアップで可能性を見せていただけに、2失点が重たくのしかかることとなった。
2点リードを奪ったイングランドは淡々と試合を運んでいく。セネガルが3枚ハーフタイムで選手を代えようと、システム変更的な対応はしてこないため、ボール保持を優先としたプレー選択をすることができれば、時計の針は問題なく進めることができる。
攻撃においてもセネガルは傾向は変えることができず。独力で突っ込んで行っては跳ね返されてしまい、カウンターを食らうことになる。決め手となった3点目は比較的早く決まることとなった。セネガルの攻撃を受け止めると、ショウの縦パスからカウンターが発動。ケインのポストからフォーデンにボールがつながり、最後はサカがゲット。セネガルの気持ちを完全にへし折る追加点を決めてみせた。
どうにかして一矢報いたいセネガルだが、きっかけを掴むことができない。前半は攻めのきっかけとなっていた左サイドのサールも、交代でラッシュフォードの登場から2枚で対応されるように。前線が献身的にプレスバックをすることができる選手が揃っているのはサウスゲート就任以降のイングランド代表の強みである。
最後までセネガルに壁になり立ちはだかったイングランド。攻撃を受け止めての切れ味抜群のカウンターでセネガルに完勝。一段上の試合運びでベスト8に駒を進めた。
あとがき
セネガルからすると相性が悪い相手だったなと思う。GSで見る限り、彼らの強みは相手が敷いている網に引っかかった場合の強引なぶち破り方である。強度自慢のイングランドというのはくじ運が悪かったように思う。多少システマティックな相手でも馬力で勝れるチームならワンチャンスはあったかもしれない。
イングランドはそうした馬力勝負に耐えれたことに加えて、クラブで学んでいることをビルドアップで還元できているのはいい流れである。この試合で言えばヘンダーソンやウォーカー、フォーデンはそれに当たると言えるだろう。選手の入れ替え方も理想的でライスとケイン、ショウ以外の戦力はプレータイムを分割しながら勝ち進めることができている。次ラウンドのフランス戦ではいよいよその力の真価が問われることになる。
試合結果
2022.12.4
FIFA World Cup QATAR 2022
Round 16
イングランド 3-0 セネガル
アル・バイト・スタジアム
【得点者】
ENG:38′ ヘンダーソン, 45+3′ ケイン, 57′ サカ
主審:イヴァン・バートン