【グループD 第3節】チュニジア×フランス
■金星と敗退が同時にやってきたチュニジア
すでにグループステージの突破を決めているフランス。首位の座から落ちるにはオーストラリアが得失点差6を埋める形で両試合の結果が終わらなくてはならない。実際問題不可能に近いミッションであり、フランスは首位が確定している状態でこの試合を迎えたと言っていいだろう。
一方のチュニジアは勝利が最低条件。自らが人事を尽くした上で天命を待つ必要があるという状況だ。
首位通過が確定しているフランスは明らかにプレータイム管理優先の選手起用を披露。マルセイユでシャドーをやっている姿をCLで見かけたゲンドゥージは百歩譲ってSH起用を受け入れるとしても、リュカの離脱が原因とはいえカマヴィンカのSB起用はなかなかである。そんなことをやるくらいなら守田と組んでスペイン戦に出てほしい。
ボール保持は4-3-3だったフランスだが、非保持においては4-4-2。ワイドのコマンが2トップにシフトし、フォファナがSHに移動する。チュニジアは3-4-2-1であり、特に噛み合わせを意識したシフトにはなっていない。
それでもうまく持ち場を守ることができれば問題はないが、実際フランスのSHはかなりチュニジアのWBに外に引っ張られていた。そのため、フランスはチュアメニとヴェレトゥの負荷が増加。特に、ヴェレトゥは同サイドのSBがカマヴィンガだったこともありかなりハードなタスクだったはずだ。フランスは深い位置でのファウルが増えてしまいチュニジアはセットプレーのチャンスを得る。
チュニジアは左のシャドーがムサクニからロムダンに入れ替わっていたが、降りてからのプレーが持ち味なのは同じ様子。低い位置でボールを引き取ってのターンからチュアメニからファウルを奪っていた。このファウルから得たFKでチュニジアはネットを揺らす。だが、これはオフサイド。チュニジアのゴールは認められなかった。
それでもボール保持で主導権を握ったのはチュニジア。細かくパスを受ける位置を変えながらショートパスを繋ぎつつ、フランス陣内まで攻め込んでみせた。
フランスの保持の局面は個々のスキルは流石ではあるが、チームとして機能するということに関しては無理があるだろう。前線でコロ・ムアニがボールを収めることができればもう少し勝手が違ったとは思うが、そもそもこのメンツで保持をなんとか機能させようという方が難題なミッションという話だ。
後半、フランスはややテンポアップ。高い位置からのプレッシングを仕掛けながらチュニジア相手に自分達のペースを引き戻そうとする。
しかしながらチュニジアはこのフランスのテンポアップに上手く付き合うことができた。中盤のライドゥニを軸に小気味いいテンポのパスワークでフランスのプレスを脱出し、敵陣に迫っていく。
そんなチュニジアは高い位置からのプレスでついに念願の先制点をゲット。フォファナをプレスで捕まえたハズリが独走し、敵陣の深い位置まで侵入。自らシュートまで持って行き得点を奪ってみせる。フランスからするとややヴァランの対応がやや甘かったように思う。
裏でオーストラリアが先制してしまったため、この時点では他会場の結果はチュニジアに不利な状況に。しかも、フランスは続々と主力を投入してくる。プレータイムをある程度与えてコンディションを維持したかったのかもしれないが、デンベレが右からガンガン仕掛けて、ムバッペがエリア内で待ち構えている状況を「コンディション維持」という名目で作られてしまうチュニジアはたまったものではない。
それでもチュニジアはGKを中心にフランスの攻撃をシャットアウト。ハズリの先制点を守り切ってみせた。だが、裏のカードの結果は思うようには動かず。ベンチが目の前のフランス戦そっちのけで観戦していたオーストラリア×デンマークの結果が思うように動かず。フランスへの金星と同時にチュニジアは敗退が決定してしまった。
ちなみに終了間際のグリーズマンのゴールが取り消された解説については以下のスレッドを参照。
試合結果
2022.11.30
FIFA World Cup QATAR 2022
Group D 第3節
チュニジア 1-0 フランス
エデュケーション・シティ・スタジアム
【得点者】
TUN:58′ ハズリ
主審:マシュー・コンガー
【グループD 第3節】オーストラリア×デンマーク
■フィニッシャー不在のデンマークをロングカウンターで粉砕
勝てば今大会アジア勢初めてのグループステージ突破を決めることができるオーストラリア。対するは堅実な試合運びが目立つ一方で勝ちきれない試合が続くデンマークである。
保持においてショートパスでの明確な前進を用意することができたのはデンマークである。CBにプレスをかけることを放棄したオーストラリアに対して、アンデルセンは自由にゲームメイクが可能。インサイドへのパスとアウトサイドのパスを使い分けながら前進する。
インサイドのパスはブライズワイトへの楔をターゲットにしたもの。目立っていたのはパートナーとしてオフザボールを駆け回っているイェンセン。楔の落としを裏抜けしながら受けてみせる。イェンセンはこの試合ではフリーランの鬼。右の大外にボールがある時はほぼ自動的にハーフスペースの裏抜けを行ってみせていた。
中央の楔を意識したオーストラリアがインサイドに注意を向けるべく、陣形を横にコンパクトにすると、デンマークの狙い目は左サイドに向く。大外を抜けるメーレとリンドストラムの2人からインサイド攻略を狙っていく。
デンマークはどちらのサイドの攻略もオーストラリアのラインコントロールを意識させながらのクロスであったことは興味深い。裏を返せばラインを動かさない高さ勝負のクロスではオーストラリアには勝ち目はないということ。大外に抜けられてしまうメーレはともかく、ハーフスペースを機械的に抜けるイェンセンに対しては徐々に対応が慣れてきたオーストラリアだった。
配置で殴られているといえば殴られているオーストラリア。だが、プランをどこまで変えるかは難しいところ。後ろに重たい布陣に修正すれば、独力で陣地回復ができないオーストラリアはモロにカウンターに影響が出る。引き分けでOKという状況も裏のカード次第では変容することもある。
何より、カウンターからの攻撃は割といけていた。その理由は空中戦での強さ。長いボールの主導権は常にオーストラリアが握っており、アバウトでも収めることができたのは大きい。カウンターには厚みのある状況を作るオーストラリアは比較的得点の可能性がある形になっていた。
プレッシングにおいても高い位置に出ていけば、比較的デンマークのバックラインを困らせることができていたオーストラリア。オープンな状況を誘発した際に、割とオーストラリア側にペースが流れたのはなかなか興味深い事象だった。
両チームとも選手交代を敢行したハーフタイム。グッドウィンに代わってバッカスを入れて、中盤のアーヴァインを外にポジションを写す。デンマークは右のSBを入れ替える形である。
それ以外の変更点としてはエリクセンがポジションを下げて2センターのような形でビルドアップを行っていたこと。そして、オーストラリアが再びプレスのスタート位置を自陣の深い位置に下げたことである。よって、後半もデンマークがボールを持ちながら右サイドを軸に攻略していく形だった。
他会場の経過の関係で、後半早々に得点の必要性が出てきたオーストラリア。その注文を素早くクリアしてみせる。ロングカウンターから裏に独走したのはレッキー。完全に抜け出しきれないでDFを1人交わす必要があったシーンだったが、一度内側に進路をとることで外のコースを開けたドリブルの選択に加えて、股抜きでファーを狙ったシュートも見事。運ぶ過程からフィニッシュまで非常に優れたロングカウンターの完結と言っていいだろう。
これで突破には2点が必要となったデンマーク。交代枠を早々と5枚使い切り反撃を狙う。右サイドの突破は選手交代後も問題なくできていたことと、エリア内に高さでオーストラリアのDF陣と張ることができるコーネリウスを入れることで反撃に出る。
だが、これは押し切るための手段として考えるとどこまで効果的だったかは怪しいところ。フィニッシュをこなせる人材不足は大会を通しての課題で、この試合でもデンマークはその部分を解消することができなかった。
最後は5バックにシフトし、ゲームクローズに走ったオーストラリア。デンマークから最後まで決定機を取り上げることに成功し、逃げ切りを達成。フランスに敗れた後の2連勝で逆転でのグループステージ突破を決めた。
試合結果
2022.11.30
FIFA World Cup QATAR 2022
Group D 第3節
オーストラリア 1-0 デンマーク
アル・ジャヌーブ・スタジアム
【得点者】
AUS:60′ レッキー
主審:ムスタファ・ゴーバル
【グループC 第3節】ポーランド×アルゼンチン
■フリーズしても許されたポーランド
メキシコ戦ではメッシが一振りのシュートで勝利を決めて、首の皮一枚つなぐことに成功したアルゼンチン。しかし、負けたら即終わりの旅はまだまだ続く。というより、ここを凌いでも先はノックアウトラウンドなので敗退するまで続く。
対するポーランドはここまで無失点という鉄壁ぶり。サウジアラビア戦で与えられたPKのジャッジもシュチェスニーが跳ね返してみせる。ポーランドは引き分け以上であれば自力突破が確定する。
メッシの今日の立ち位置は3トップの中央。後期のメッシの代名詞とも言える0トップ的なポジションで先発することになる。その分、インサイドに入り込むのはWGのアルバレス。左サイドは大外のアクーニャが使う形となった。
アルゼンチンの攻めのパターンは中央に起点を作りつつサイドの深い位置に展開し、そこからマイナス方向に折り返す形。ポーランドのラインを下げながら折り返すことでチャンスを演出していく。途中でディ・マリアとアルバレスがサイドを変えていたが、左がアルバレスの方がそれぞれがSBとの関係性をうまく使えていたように思う。
特に左サイドは大外を駆け上がるアクーニャと鋭い抜け出しとサボらないオフザボールを連続的に行えるアルバレスが効いていた。アルバレスを捕まえるのにポーランドの守備陣はかなり苦労していたと言えるだろう。
メッシを中央に配した布陣はサイドを変えたり中央のコンビネーションの起点になるという意味は非常に機能的だった。その一方でネガトラのスイッチにならないことや、プレスの先導役としてはほぼ機能しない。ポーランドはCBどころかCHまで自在にボールを持って前を向ける状態を作ることに成功していた。
アルゼンチンはメッシを使った中央のコンビネーションを崩しの頻出パターンとして使っていた。こうした攻撃はポーランドにとってロスト後のカウンターに移行しやすい。よって、落ち着いたボール保持においても、カウンターの局面においてもポーランドには前進のチャンスがあった。
だが、実際にはポーランドの前進はスムーズではなかった。アルゼンチンのロストの仕方が危うかったところまでは確かなので、ポーランドのボールを前に運ぶスキルが乏しいか、あるいはレバンドフスキの前に門番として立ちはだかったデ・パウルとフェルナンデスが優秀だったか、そのどちらもか。
前進がままならないポーランドに対して、アルゼンチンは40分手前にPKを獲得。正直、この大会の中でもトップクラスに疑問が残るジャッジだったが、立ちはだかったのはシュチェスニー。メッシのPKを止めて前半をスコアレスで折り返す。
しかし、そのシュチェスニーの健闘が水の泡になるのはあまりにも早かった。後半早々にポーランドは失点。アルゼンチンはモリーナが縦パスを引き出してディ・マリアとのコンビで右サイドにて深さをとる。マイナスの折り返しを決めたのはマック=アリスター。ポーランドはニアのDFがマイナスのパスコースを消せなかったのが痛恨だった。
負けても突破の可能性は残すポーランド。他会場ではメキシコの猛攻が伝わってくる。自らがなんとかするにはもちろん得点を奪うしかないのだが、ポーランドは高い位置からボールを奪い取りに行かない。
メキシコが得点を重ねても、アルゼンチンが4-4-2にシフトしてもポーランドは動かない。というかもしかすると動けないのかもしれない。
前半から効いていたアルバレスの動き出しからアルゼンチンがこの日2点目を奪うと、ようやく少し前に出てくるようになるポーランド。だが、フェアプレーポイントが絡む状況の中で前に出た瞬間にクリホヴィアクが警告を受けたとなれば、前に出ようとした気持ちが再び萎んでもなんら不思議ではない。
というわけで実質ポーランドはフリーズ。アルゼンチンは特に手を抜く気配もなく、「とりあえずこのままでいたい」というポーランドの願いを汲み取ることもなく淡々と攻撃を続行。バックパスをラウタロに掻っ攫われた時は絶体絶命と思ったポーランドサポーターも多いはずだ。
しかしながら、なんとか試合はそのまま終了。遅れて終わった他会場の結果を受けてポーランドは突破が決定。スタジアム974に集った両チームは互いのノックアウトラウンド進出を祝い合う和やかな雰囲気となった。
試合結果
2022.11.30
FIFA World Cup QATAR 2022
Group D 第3節
ポーランド 0-2 アルゼンチン
スタジアム974
【得点者】
ARG:46′ マック=アリスター, 67′ アルバレス
主審:ダニー・マッケリー
【グループC 第3節】サウジアラビア×メキシコ
■勝者不在のルサイル・スタジアム
グループCでの現在の順位は3位と4位。今の状況で言えばともにグループステージ敗退ではあるが、混戦のグループCでは共に突破の可能性を残している。
勝利すれば自力突破のサウジアラビアの方が現状では厳しい状況。前線以外は各ポジションに離脱者が出ており、両SBができるアブドゥルハミドがCHを務めるという状況。欲を言えば、彼をあと2人両方のSBとして起用したいくらいやりくりが厳しい。ベンチメンバーの少なさがサウジアラビアのスカッドのハードさを表している。スカッドが苦しい上に引き分けでもOKの可能性があるというサウジアラビアに比べると、条件は厳しいが勝利しか道がなかったメキシコの方がやるべきことはスッキリしていたかもしれない。
ボール保持では互いにルートを見つけることができていた。メキシコはアルバレスがアンカーに下がり、バックラインは横に広く幅を取っていく。サウジアラビアのSHはメキシコのSBの動きについていったので幅を取るCBはフリーでボールを持ち上がることができる。このおかげでメキシコの保持はだいぶ安定していた。
サウジアラビアはメキシコの強気のプレスの裏をかく形。バックラインでのボール回しから、2列目を引き出すと中盤のギャップを活用しての前進を行っていた。
前線のキーマンになったのはカンノ。アバウトなボールでも収めることができるカンノのキープ力から厚みのある攻撃を繰り出していく。カンノとアブドゥルハミドは普段と異なる起用法ではあったが、問題なくクオリティを発揮することができるあたり、タレントとしての能力の高さを示している。
しかしながら、前進のきっかけをより作っていたのはメキシコの方。サウジアラビアのボール保持を咎めた結果のポジトラからチャンスを作る。メキシコの2列目の機動力は強烈で、サウジアラビアの高いラインの裏をかき回しながら決定機を創出し続ける。
ボールを保持している局面でもメキシコはサウジアラビアのラインの裏を狙っていく。ボールを回していく部分と背後を狙う部分、メリハリをつけながらメキシコは敵陣深い位置まで攻め込んでいく。即時奪回も決まっているメキシコに対して、サウジアラビアは自陣から脱出することが困難に。ペースは明らかにメキシコに傾いていた。
後方早々に結果を出したのはメキシコ。セットプレーからマルティンが押し込み、ようやく優勢な内容をスコアに反映することに成功する。
しかしながら、この段階で他会場ではアルゼンチンが先制。両チームにとって追い落とす対象がアルゼンチンからポーランドに変化する。となると、メキシコに重要なのは得失点差である。ここまで無得点のメキシコにとっては試合開始時点であった4という得失点差を埋めなくてはいけない。
というわけでラッシュをかけていくメキシコ。52分にはチャベスのスーパーなFKも飛び出して、スタジアムのムードはメキシコにとっては非常にポジティブなものになった。
サウジアラビアの状況もメキシコの後押しになる。彼らは他会場の結果に関わらず、勝利をすることができれば自力で突破が可能。2点ビハインドだろうが、前に出ていく姿勢は止める理由がない。むしろ、点差が開く分、欠けるリスクは大きくなっていると言えるだろう。前からのプレスはより強くなる。
両チームの利害が一致した共に間延びしながら攻め合うという状況は前線の機動力で明らかに有利なメキシコの土俵。サウジアラビアのハイラインをロサノを中心に食い荒らしながら得点のチャンスを量産。中にはネットを揺らす場面もあったが、これはオフサイドで取り消される。関係ないけど、テクノロジーがある分、メキシコの選手たちはオフサイドの後の次のプレーに集中できるように見えた。どの判定も副審のジャッジは正しかったのだけど、この辺りは選手たちの納得感が大事なのだろうと思う。テクノロジーが担保してくれるのは納得感だ。
ロサノのアジリティ、マルティンのターン、そして更なるチャベスのFK。あらゆる手段でサウジアラビアのゴールに迫っていくメキシコ。アルゼンチンの助けもあり、最後はあと1ゴールで突破ができる状況まで漕ぎ着ける。
だが、最後までその1ゴールを奪うことができないメキシコ。明らかにもうグロッキーだったサウジアラビアなんだけど、アルゼンチン戦のように限界となった状況から粘る力がすごい。95分に決めたゴールもメキシコの突破条件には理屈の上では影響はないのだけど、ガックリと来させる効果は十分にあった。
激闘の末に最後の1点を許してもらえなかったメキシコ。ルサイル・スタジアムには勝者がおらず、互いにグループステージ敗退となる両チームの悔しさだけが残る結果となった。
試合結果
2022.11.30
FIFA World Cup QATAR 2022
Group D 第3節
サウジアラビア 1-2 メキシコ
ルサイル・スタジアム
【得点者】
KSA:90+5′ アッ=ドーサリー
MEX:47′ マルティン, 52′ チャベス
主審:ダニー・マッケリー