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レビュー
■GSと比較すると『普通』の振る舞い
参加国の中でもかなり積極的にメンバーを入れ替えながら大会を勝ち進んでいる日本と、ここまで起用人数は16人と固定メンバー感を強く打ち出しながら戦っているクロアチア。ここまで方針は対照的ながら、このラウンドのスタメンはともに第3節の形をベースに組まれている。数人の入れ替えはあるが、どちらのチームもGSの基本システムだったと言ってもいいだろう。
スペイン戦はボールを持たれる側として過ごす時間が大半だった日本。クロアチアに対しては比較的積極的なプレッシングでスタートする。前田がバックラインまでプレスをかけれるか否かがハイプレスの境目になるのは同じである。
クロアチアならばスペインよりはいけるはず!と日本の3トップは積極的に前に捕まえにいくが、その目論見はあっさりとクロアチアの中盤に破られることになる。マークの受け渡しの隙にフリーになったブロゾビッチにいとも簡単に広いスペースに展開を許すと、日本は早々にハイプレスを諦めることになる。前田のプレス開始位置はブロゾビッチまで下げるように。
クロアチアはフリーになったCBのグバルディオルとパスワークからマークを外す中盤から前進のチャンスを得る。しかしながらその先がパッとしないこの日のクロアチア。インサイドへの縦パスは待ち構えるように網を張っていた日本の中盤とバックラインによってカウンター発動のきっかけにされるように。
ペトコビッチへのロングボールをシャドーと中盤で拾いにいく形も画策するが、日本の空中戦は板倉不在でも簡単には負けず。PA内で空中戦を挑まれることもあったが、屈しなかったのはさすがといえる部分。クロアチアのサイド攻撃の主軸をになっていた左サイドもソサのサポートなしではなかなか効果的に機能することがなかった。
日本がボールを持った局面でまず目についたのは普通にやっていたことである。カウンターも極端に縦に急ぐわけではなく、サイドに一度ボールを逃しながら攻略できるところを見定めつつボールを前進させることが多かった。直線的にゴールに向かうことが多い前田もこの試合ではサイドに流れる機会が多かった。前線が前からのプレッシングを試みたのもそうだが、極端だったGSの振る舞いに比べてクロアチアに対しては普通の状態で振る舞おう!という部分が見てとれた。
ボール保持で日本が積極的に狙っていたのはブロゾビッチの両脇のスペースである。クロアチアの3センターに対して遠藤、守田、堂安、鎌田の4枚が中盤を形成する日本はこのエリアで数的有利。堂安がいつもよりインサイドにいる理由はワイドを任せられる伊東が右のWBであると言うことだけでなく、クロアチアの狙い目に沿った立ち位置を取るためだろう。
バックラインの狙いはこのスペースにいる堂安と鎌田に縦パスを刺すことである。彼らが反転することから日本は前進のきっかけを迎えるようになる。
ただし、ここから先に難があるのはクロアチアと同じ。鎌田が反転し、前を向いて左サイドに展開すると、そこには長友が。形としてはおいしいが、長友が左サイドでアイソレーションという状況は厳しい。彼は彼なりにいっぱいになっているが、これ以上望むのは酷だろう。左サイドでアイソレーションを作ることができるのはいいことだが、その出口が長友でいいのか?という問題に直面する日本だった。
その分、逆サイドは光があった。右サイドは伊東が大外でバリシッチとデュエル。後方の冨安のパス供給からスピード勝負に持ち込むと、対面で優位を奪う。伊東が抜き切らないクロスを上げると、インサイドでは前田が待ち構える。日本はクロスに枚数をかけることができてはいなかったが、前田がロブレンを出し抜く動きだしをすることができていたので、ゴールを脅かすシーンを作ることができていた。
20分もすると徐々にクロアチアが形を変えてくる。ハーフスペースでボールを受ける機会が多かった堂安に対して、CBからグバルディオルが出てくることで方針が固まった様子。前半の途中から容赦なく潰しに来るようになった。これにより、右サイドからのチャンスメイクは少しずつ難しくなる。左サイドでは鎌田がフリーでボールを持つことができてたはいたが、出口が長友になっているうちにはクロアチアは特に警戒を強める必要はないという判断だろう。
立ち上がりは前田にやや気圧され気味だったロブレンも時間の経過とともに間合いが取れるようになってきた。ボール保持においてもクロアチアはインサイドにボールを刺す回数を減らしつつ、右のハーフスペースをバックラインから裏抜けで狙う形を増やす。これにより、日本はカウンターのきっかけも摘まれるように。クロアチアの対応策により、日本は徐々にチャンスメイクが停滞していく。
とはいえ、クロアチアもチャンスメイクが改善したわけではないので、展開としてはチャンスが少ない停滞した流れになっていく。そうした中で日本は先制。ショートコーナーからの工夫により、堂安のクロスからの折り返しを最後は前田が合わせて日本が先手を奪う。均衡した状況の中で先制点を奪うことができたのは日本にとっては幸運な展開と言えるだろう。
■三笘シフトの対応策が必要なフェーズ
リードを奪うことができた日本だが、悩ましい部分はある。それは左サイドの長友の取り扱いである。左サイドでアイソレーションを作れているという部分で言うと、この形をそっくりそのまま三笘に提供できたのならば流れは変わったのでは?と思う人が多くてもおかしくはない。
ただし、この日の長友は自陣での守備での貢献度が高かった。いくら三笘が空中戦で粘ることができるとは言っても、自陣での守備に関しては長友の方が上だろう。さらにこの日はリードをしていると言う状況。ゲームチェンジャーの出番をもう少し待つと言う判断は理解できるものである。
交代を見送った日本は前半と陸続きの後半を迎えることになる。プレスラインはブロゾビッチからスタート。ブロックの手前ではボールを持つことを許しつつ、インサイドを閉じるというスタンスで撤退守備を受け入れる。
よって、後半も両チームにはチャンスが少ない展開が続いていく。そうした中で同点ゴールを決めたのはクロアチアである。右サイドからのクロスにペリシッチが合わせて同点である。
このヘディングはすごくうまいなと思った。ペリシッチはボールに合わせにいくのに、ゴールラインと平行方向に移動しながら相手のマークを外し、真横にあるゴールに正確に威力十分のシュートを打っている。
移動の距離自体はそんなに大きくはないが、わずかでも平行方向に移動されると、マークする伊東にとってはインサイドの冨安が邪魔で深追いをすることができない。バスケでいうところのスクリーンプレーのような形になっている。冨安にとっても死角から飛び込んでくるプレーになるので対応は難しい。この動きに加えて正確なシュートを打たれるとDFとしては詰みだろう。仮に防ぐことができるとすればクロスを上げる方だったかなというゴールであった。
さて、このゴールでファーサイドにクロスを上げることに集中することにしたクロアチア。クロスをファーで待ち構える枚数を増やしながらシンプルに高さで殴っていくテイストは前半よりも増した印象だ。
同点にされたということで日本は交代で変化をつける勇気を振り絞りやすくなった。三笘と浅野の投入はもはや本大会の戦い方におけるお約束と言ってもいいだろう。左サイドは三笘を軸としたボール保持で、右サイドは浅野(と終盤右サイドに戻った伊東)の裏抜けでというのが彼らに託された役割だろう。
三笘の投入でクロアチアの守備のスタンスは大きく動く。遅れて投入されたパシャリッチは対面の三笘をきっちりマーク。後方にユラノビッチとモドリッチがスライドする形でドリブルで三笘が蹴り出したいスペースをあらかじめ埋める選択をした。このスライドにより、三笘にボールを預けての行ってこいは沈黙。クロアチアは日本を止めるだけでなく、中盤でミスが起きればそのままカウンターで差し込むという気概も見せるようになっていた。
日本はボール保持でこのクロアチアのスライドの裏をかきたかったところ。この変化により、モドリッチがサイドに引っ張られる分、日本は中央での攻略がしやすくなる。3バックの左である谷口が80分手前に放った中央を狙うパスは三笘シフトで全体の陣形が歪んだクロアチアを攻略するためのヒントになる。三笘シフトで動いていたクロアチアを攻略出来そうな一刺しだった。
しかしながら、こうした中央での崩しをチームに求めるのならばCFは浅野よりも上田だろう。三笘にボールをどう渡すか?から三笘シフトを敷いてきた相手に対応できるか?に求められる成分は変化したように思う。三笘に投入によって空いた中央のスペースを活かすためにはCFのカラーが少し違ったように思う。右サイドでドイツ戦の二匹目のドジョウを狙うというプランもわからなくはないので一概にこの交代が悪いとは言い切れないが、少なくとも空いた中央のスペースでのコンビネーションの部分ではこの日の浅野が不満の残る出来であったのは確かだろう。
交代のプランをうまく機能させることができない日本。ボール保持の局面についてつらつら書いていたが、特にクロアチアに対してプレスを強めたわけではなく、クロアチアからボールを取り上げることができるわけではなかったので、ボール保持の機会の場面においてもなかなか盛り返すのは難しかった。
終盤は右の酒井へのロングボールと、なぜか急に冴え渡った権田の素早いリスタートにより日本はチャンスを迎えていた。右サイドへのロングボールからの陣地回復はスペインの2点目の焼き直し。酒井の投入は明らかにこれの再現を狙ったものだろう。それだけにファウルを取られてしまったことは痛恨だった。
リズムを変えることができないまま延長戦に突入した両チーム。クロアチアもモドリッチを下げるなど、サイドを変える術を失ったため、日本は終盤にクロアチアの攻撃を同サイドに閉じ込められるようにはなっていた。そのため、クロスに対応する枚数を削って前線に選手を入れるのもアリだったが、森保監督はそうした決断をせず。追加タイムでも得点を奪えなかった両チームの戦いはPK戦までもつれ、これを制したクロアチアがベスト8に進出した。
あとがき
■クロアチアに対する強みはどこなのか?
スペイン戦やドイツ戦と異なり、日本は勝負のポイントを作ることが難しい状態で終盤まで過ごしてしまったように思う。クロアチアに対してゲームはGSの試合ほど局面が何かに偏ることなく、「普通」の展開で流れが進んでいったので、ゲームをこれ以上動かすための交代として背中を押すものがなかったのかもしれない。日本は後方の枚数を増やす交代はやっていても、削る交代(伊東と三笘のWB起用をカウントしないならば)は今大会ではやっていない。
もう少し、スタメンで差をつけられるならばいうことなしだろう。ただ、日本は他のチームと比べて交代策で変化をつけることでこの大会を勝ち上がってきた節があり、固定メンバーでの運用の色が強いクロアチアに対して、強みを出すならばここだったかなという結果論的な感想を抱いている。ちなみに三笘の投入に対するクロアチアのリアクションは明確だったので、ハーフタイムに仮に三笘を投入したとしても日本は同じ問題に直面する時間が早まっただけだろう。
よって、議論の余地があるのは余らせた最後の1枠である。上田の投入はPK戦と地上戦での決着の両睨みができる判断だったように思う。バックラインのクロス耐性(もしくは途中交代の浅野)を捨てる勇気があれば、そもそもキッカーが少ないメンバーによるPK戦の手前で決着をつけられる可能性も上がったかもしれない。
ただ、この変更を実施した場合、当然クロスでやられる可能性は高まる。こうした決断は4年前にロストフで学んだ教訓による重石を自ら振り払う格好にもなりかねない。今大会の日本の強みと前大会の反省がバッティングした結果、森保監督は動かない決断をしたと言うことだろう。
試合結果
2022.12.6
FIFA World Cup QATAR 2022
Round 16
日本 1-1(PK:1-3) クロアチア
アル・ジャヌーブ・スタジアム
【得点者】
JPN:43′ 前田大然
CRO:55′ ペリシッチ
主審:イスマイル・エルファス