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レビュー
■0:30がこの日のベスト
代表ウィーク前の名古屋戦と柏戦に2つ連続で引き分けて、いよいよ優勝争いは首の皮一枚という状況になった川崎。今節の対戦相手は前節、横浜FM戦で引き分けて首の皮一枚で川崎をつなぎとめた張本人である札幌だ。
両チームのメンバーはそれぞれ驚きがあるものだった。移籍報道が試合前にあったマルシーニョはメンバー入りを果たすというもの。札幌→カイロ行きという存在するのかどうかわからない便にはマルシーニョは乗っていないことが確定した瞬間である。
逆に札幌は菅や福森など事前にいない気配がなかった選手が数名不在。やや意外性のあるメンバー構成となった。あと、スパチョークがベンチにもいなかったため、タイ感0の対戦になったのは面白かった。
立ち上がりから試合は想定通りの展開。札幌はマンマーク気味のプレッシングで敵陣でのプレータイムをなるべく増やしていきたいという意図を感じられた。
というわけで後ろから時間を作って前に送りたい川崎。はっきり言ってこれが全くできなかったのが前半の劣勢の要因の全てといっても過言ではない。30秒くらいの登里→佐々木のサイドチェンジからの前進がこの日の前半の川崎のベストビルドアップだろう。相手をワイドに振りながらマンマークが弱まりがちな逆サイドに大きく蹴って、後方が運んで前進を狙っていく形だ。
しかし、これ以降川崎はこうした形を継続的に作ることが出来ずにフリーズ。ジェジエウ-佐々木の右が機能しないのはともかく、前進において左の車屋-登里のラインがほぼ機能不全に陥っていたのは頭が痛い。
特に車屋の保持におけるパフォーマンスは残念だった。まるで根が生えたようにその場に立って知念に向けてのロングキックと相手につかまっているシミッチへのショートパスを繰り返すだけ。どちらも精度としては不十分で、特にシミッチへのショートパスやスピードがやたら遅く札幌のプレスの狙いどころになっていた。
精度はそんなものなので、札幌からすれば無理に川崎のCBにはプレスをかける必要がない。放っておいても運ばないし、勝手にミスをしてくれるのでとても楽だっただろう。
荒野の負傷でプレス要員としては機動力に欠ける興梠が最前線に入っても、青木と駒井というやたら軽量級のCHの組み合わせに札幌が変化したとしても、特に札幌の前がかりな姿勢に影響を及ぼすことはない。なぜならば、川崎が勝手に長いボールを蹴ってロストしてくれるからである。
2020年の等々力の札幌戦のようにハイプレスがハマっているから前進できないのならまだ理解ができるが、そもそもチャレンジしないで勝手に相手にボールを渡すという意味ではこの日の川崎はほとんど何もしていない。ホームの湘南戦と同じく、相手を見ることもなく自分たちで沈んでいるだけだったといえるだろう。
バックラインからボールを運べないのであれば、スマートではなくとも中盤に家長が降りてきて全て任せてしまえばいい。家長をCHにして基準点を乱しに行く方がはるかに有効であったはず。右サイドは機能しなくなるだろうが、張っていてもボールが回ってこなければ機能はしないので同じである。
それならば、別にワイドにこだわる意味もない。勝たなければいけない試合なのだから、後方が情けないゲームメイクをしている時は家長がもっと出しゃばっていい試合だったように思う。
結局川崎の前進の方策は知念へのロングボールを当てて、脇坂か橘田が追い越す形とシミッチ→マルシーニョのホットラインの2択。マルシーニョはともかく、知念と岡村のマッチアップにおける勝率を見れば後者は有力な前進の手段とはいえない。あとは個人が背負って反転できるかのターン勝負。鬼木監督が「もっとゆっくり攻めるべき」と怒るのは至極当然である。
知念はシンプルに競り勝つ場面は少なく落としの精度も悪いし、マルシーニョへのロングパスの精度も物足りない状況だったので、むしろ川崎にPKから先制点のチャンスが訪れるのは意外だった。家長が降りたタイミングで高い位置を取った登里は抜け目がない。低い位置からの前進の手助けは物足りなかったけど、高い位置で顔を出すことに関しては悪くはなかった。
■信用できないネガトラの対応
札幌の負傷交代のアクシデントや川崎が先制点をとったことなど序盤から川崎が攻勢に転じるきっかけになるシーンはいくつかあったように思う。しかし、そうした場面での川崎のブーストはこの日はかからない。
札幌が厄介なのは川崎がボールを簡単にロストしてしまうと、カウンターが割とあっさり飛んでくることである。ロングボールを活用したものの収まらないという川崎のやり方は札幌を押し込むことが出来ず、川崎陣内に多くの札幌の選手を残したままという形でカウンターを受けやすい。。
非保持で不利が出ないのであれば興梠の存在はむしろプラスになる。プレビューでも触れた通り、札幌はタメを作って時間を作る選手とそれを追い越していく選手のセットで前線が構成されている。興梠とシャビエルがいればタメはだいぶ効くし、後方にはいつも以上に走力自慢が揃っている。ここも非保持で不利にならないのならば迫力のある攻撃が期待できる部分だろう。
ある程度深い位置まで川崎が保持で押し込み、ロスト後にハイプレスを敢行したとしても、川崎は家長の背後を使われながらあっさり札幌に前進を許しており、波状攻撃は仕掛けられない。先に示したロストからのカウンターも含めれば札幌の攻撃頻度は十分だ。
ハイプレスを外されるにしろ、ロストからのショートカウンターにしろ、川崎にとっては自陣に運ばれてしまうとまずい状態なのは変わりない。バックラインの負荷は高く、ストッパーとして効いているのはジェジエウだけである。
そのジェジエウを外に釣りだすことに成功したのが札幌の同点ゴールの場面である。このゴールシーン、真っ先にまずかったのはシミッチのロスト。そして、金子に入れ替わられて逆サイド(=川崎から見て右サイド側)への展開を許した橘田である。ロストの形が悪かったので、橘田にとってはとても難しい対応にはなったが、できればホルダーを捕まえて攻撃を遅らせたかった。
逆サイドに展開されたことにより佐々木はルーカスと興梠に挟み撃ちにされて機能停止、サイドに流れる興梠には結局ジェジエウが出て行く形となった。脇坂も家長も戻り切れない時点で佐々木がフリーズするのはわかる。少し、出て行きすぎという感じだったが、ジェジエウが佐々木を見かねて外に出て行くのもわかる。
そして、車屋が上げた足がトラップみたいになってしまったのは不運だ。あそこで足を出さないCBは信用できない。クリアへのトライは理解できる。よって、逆サイドにずらされて、ジェジエウという山を越えてクロスを上げた札幌の勝ちである。トランジッション局面で札幌の方が優れた振る舞いをしたといえるだろう。
その一方で2失点目に関しては車屋に言いたいことがいっぱいある。まず、シャビエルへの適当な対応で簡単に楔を収めさせることがまず悪手。見かねてジェジエウが潰し行かざるを得なかった。これで裏のルーカスのケアをジェジエウが行う線はなくなった。
よって、車屋はスムーズに裏のルーカスのケアに移行すべきなのだが、これもあっさりと放棄。体勢としては有利とはいえない佐々木に裏のカバーを任せることに。それならば、ジェジエウとの間を閉じることでシャビエル→ルーカスのスルーパスのコースを消すことが出来たが、これも車屋は怠った。この時点で車屋は前のシャビエルにも背後のルーカスにも影響を及ぼすことが出来ていない完全に浮いたピースである。
最終的にPKを与えた佐々木のアプローチの仕方に改善の余地があるのは確かだが、そもそもそこにいなければディフェンスはもちろん、ファウルを犯すことすらできない。この件においてはそこにいることが出来なかった(上に他の選手に無理なカバーを強いた)車屋の責任は少なくはない。
車屋が前に引き出されては裏を取られるという状況はこのシーンだけでなく、非常にたくさんあった。はっきり言えば、札幌の攻撃の狙いどころにされていたといってもいいだろう。
何も持ち場を離れることが悪いわけではない。川崎のCBのタスクを考えれば持ち場を離れる動きはむしろ自然だ。谷口やジェジエウが前に出たり、横にスライドしても何も文句を言わないのは彼らには持ち場を離れる動きとそこでプレーを終わらせることがセットになっているからだ。それができないまま単に持ち場を離れることとはワケが違う。この日の車屋がCBとして責任を伴ったプレーが出来たとは残念ながら言うことはできない。
ネガトラに関して言えば脇坂と橘田も良くなかった。知念のそばでプレーしようという意識が強かったのか、脇坂は高い位置を取ることが多く、戻りのスピードも十分ではない。橘田も先に示したように札幌の攻撃をストップできない場面がしばしば。
両者とシミッチを含めた中盤が後手に回りまくったのが37分の青木のオフサイドでゴールが取り消されたシーン。普通に失点に直結する強度の低さである。川崎からすれば1点のビハインドで済んで良かったという内容の前半だった。
■スクランブルの中でできたことは?
後半、川崎は山根を投入し、右サイドをテコ入れする。札幌はこのサイドから躊躇なく攻め立てていたので、相当前半の内容に自信を持ったのだろう。
前半を同じくニッチもサッチもいかない展開が続く両チーム。できていることも、できていないこともそこまで前半と大きく変わることなく試合は推移していく。
そんな中でまず動いたのは川崎。小林を入れて4-4-2に移行する。4-4-2といっても実質家長はトップ下。右のWGロールは山根が担う形となる変則アシメの形態である。
そのフォーメーション変更から川崎は同点ゴール。右サイドの脇坂と山根の関係でクロスを上げると小林のヘディングからの混戦で知念が押し込んで追いつく。4-4-2アシメでクロスに入るFWの枚数を増やした成果が出た形となった。
川崎はさらにカウンターからマルシーニョにボールをつなぐと、最後はゴール前に入った小林悠。札幌キラーは今日も途中交代からゴールを奪い、これで12試合連続ゴールを記録。この試合で初めて川崎が前に出る。
小林のゴールの少し前から試合はこれまで以上に中盤が存在しないロングカウンターの応酬だった。自陣からボールをつなげなくても前線にボールを当てればそれだけで決定機になる川崎×札幌のおなじみの展開といえるだろう。
そうした上下動が増える展開において限界を迎えたのはリードしている川崎だった。すでに手首を痛めて負傷交代したジェジエウに加えて、車屋も負傷交代。バックラインはCBの本職が不在となる。
最終ラインの構成は右から山根、谷口、登里、橘田に変更した川崎。だが、これは個人的には微妙だったように思う。札幌は車屋の負傷退場の直前にゴンヒというタワー型のFWを投入していたことを考えれば、上背的には登里よりも山根の方がまだCBとしてチームを助けられると思うし、中盤でもフィルターになれなかった橘田と札幌の11人の中で最もワイドでの1on1が得意なルーカスをぶつける構図は無理がある。左には登里を置くべきだったように思う。もしくは逆サイドにWBタイプがいなかったことを踏まえると山根でも可。この部分は鬼木監督の失策だったように思う。
案の定、橘田は数分で勝負を決めるミスを2つ立て続けに犯す。サイドからの抉られてのクロスとシャビエルを倒しての一発退場である。
橘田の1つ目のミスで追いつかれた川崎。だが、優勝には勝利しかないということで前に出て行く。札幌は右サイドでタメを作り、左サイドに大きな展開を蹴ることで川崎のプレスを打開し、終盤に勝ち越しゴールをゲット。勝ちだけを狙っていた川崎からすると左サイドの高い位置から脱出された時点で神頼みするしかない。負傷で動けなかったソンリョンもチームを助けることが出来ず、札幌にこの日4点目が入る。
いつもであれば、打ち合いを制するのは川崎がお決まりだったこのカードだが、厚別で歓喜を上げたのは札幌。川崎は優勝が絶望的になる一敗を喫した。
あとがき
■2回目の失望
終盤のスクランブルについてはもはやしょうがない。失点する前の段階で橘田をサイドに持ってくるのは明らかに危険とは思っていたが、登里や山根なら止められていたという保証はない。結果論の可能性はある。3-3をキープしても無駄でしかないので、奪い取れなかった結果はともかく、狙いには一定の理解を示したい。
が、それはあくまで終盤のスクランブルの段階での話である。 札幌のタメ&フリーランのコンボに守備は後手になり続けた一戦だった。いろいろあったが、全体を見れば札幌の勝利は妥当なものといえるだろう。川崎はこの内容でよく逆転まで持って行ったなというのが素直なところである。
優勝がかかっていて、代表メンバーがスタメンにいなくてもメンバーはほとんど揃っている状態でこのレベルのパフォーマンスしか見せられないのは心底残念だ。ホームの湘南戦に引き続き、相手をろくに見もせず、次につながりそうにもない試合をこの段階で見せられるとは思わなかった。はっきりいって選手にも監督にも失望している。
プレビューでも指摘した通り、この試合で目指すべきことはバックラインからの時間を作るアプローチをすること。前線の特性をそこに上乗せすることである。どうせ負けるならば、トライしてうまくいかないことを嘆きたかった。プレスに引っかかって脱出できない方がはるかにマシである。まさか、この段階でトライしない状況を延々と見せられるとは思いもしなかった。それも、今年2回目である。
タイトルを逃すことを決定的になったことを嘆いているのではない。前半戦に卒業したと思った逃げ腰な自分たちがこの期に及んで顔を覗かせたのが情けない。
残りのシーズンは4試合。誰が出れる状態にあるかなど関係ない。ACL出場権すら手中に収めていないのに、若いというだけで選手をテスト起用をする必要も全くない。残りのシーズンで求めるのは自分たちがタイトル争いをするにふさわしいチームであったことを証明すること。ただこれだけだ。
試合結果
2022.10.1
明治安田生命 J1リーグ 第31節
北海道コンサドーレ札幌 4-3 川崎フロンターレ
厚別公園競技場
【得点者】
札幌:33‘ ルーカス・フェルナンデス, 41’(PK) 興梠慎三, 83‘ ガブリエル・シャビエル, 90+12’ 小柏剛
川崎:30‘(PK) 家長昭博, 60’ 知念慶, 69’ 小林悠
主審:岡部拓人