■要所を渡さない試合運びで最小得点差の完勝
まず目についたのはPSVサイドの慎重な立ち上がりである。トップのティルは中盤のケアを優先。アーセナルのバックラインにはボールを持たせる形での立ち上がりとなった。
アーセナルはいつもに比べると左サイドの選手のキャラクターがはっきりしている並び。大外をティアニー、左のインサイドレーンをエンケティア(たまにジェズス)が使う。ジャカは低い位置でロコンガを手助けしやすいポジションをとっていることが多かった。大外に立つWGにボールが入るとPSVはダブルチームでこれを監視。ガクポとシモンズの両ワイドは低い位置までのプレスバックを求められるタスクとなった。
序盤にエンケティアがハーフスペースに落ちながらターンを決めたシーンのように、アーセナルはインサイドにボールを入れながら攻撃を加速させていきたいところ。だが、PSVの陣形は非常にコンパクトでこれを許さない。ライン間を狭めながらアーセナルに攻撃を加速させるスイッチを入れさせな買った。ということでアーセナルはサカの裏へのボールや、ジェズスへのロングボールなどから縦方向にPSVの陣形を揺さぶるアプローチを行うこととなった。
PSVはボールを奪うとアーセナルは高い位置からプレスに出る。いつもに比べると左のWGのエンケティアが前に出て、右のWGのサカが低い位置をとる形が多かったのは、後方での冨安×ガクポのマッチアップをキープしたかったことが理由と推測する。PSVの長いボールのターゲットはほぼこのサイドのマッチアップ。アーセナルとしては空中戦と地上戦の両面で戦える冨安をガクポにぶつけたい狙いはあったはずだ。
長いボールを使っての直線的な攻撃ではなかなかアーセナルを脅かせそうにないPSV。攻撃に時間をかけながら敵陣に人を送り込み、厚みのある攻撃を仕掛けなければチャンスはそこまで多くは作れなさそうである。左のガクポに対して、ニアで裏に抜ける選手とファーでクロスを待ち構える選手を両方作れるシーンが彼らの理想。ニア裏を取られた冨安のところをホールディングがカバーしたシーンなどはこの日の前半ベストの崩しだったように思う。
人をかけて厚みのある攻撃を行うために、PSVは20分過ぎから高い位置のプレスを仕掛けてくる。守りつつもある程度高い位置から相手のビルドアップを引っ掛ける自信が出てきたのだろう。
アーセナルはこれに対して、中央に突っかけてしまった場面もなくはなかったが、すぐに長いボールでプレスをひっくり返すことに成功する。よって、PSVは30分ごろには再び撤退しながらミス待ちの色が強い守り方に戻ってくる。
中央でのターンを無理にすればPSVのカウンターを誘発してしまうアーセナル。左サイドの選手はエンケティアをはじめとしてやや強引なターンが目立っていたのが気がかりではあった。
その分、前半終盤の有力な攻め手になっていたのは右サイド。サカのパワーとスピードを兼ね備えたカットインやファビオ・ヴィエイラのクロスなどからチャンスメイク。セットプレーと合わせて前半の終盤は再びアーセナルに得点のチャンスがある時間帯となった。
スコアレスで迎えた後半。立ち上がりは左のハーフスペースをエンケティアとジェズスでシェアしながら進んでいく形で幕を開ける。
基本的な構図は前半と似ているが、アーセナルがプレスで深追いをするようになったのは違いとなっていた。PSVをサイドに追い込むことで中央に捨てたボールを、アーセナルが拾ってカウンターに移行する場面が特に目立つようになった。試合のテンポが上がり、トランジッションが増えた分、PSVは前半のように整った形でアーセナルの攻撃を受けることができなくなる。
そもそも前半のPSVのプランは素直にアーセナルと殴り合いをしては厳しいという姿勢からスタートしている感じがする。テンポが上がった後半はPSVにも得点のチャンスは増えたと言えるが、それ以上にアーセナルに対する失点のリスクが高まっているとも言える。あまり歓迎できる状況ではない。
イケイケになったアーセナルに立ちはだかったのはGKのベニテス。サカ、ジェズスなど多くの決定機をセーブすることで、アーセナルに先制点を許さない。狙い通りの展開になったが得点だけが入らないアーセナル。
どちらのチームもオープンになった展開を再び制御するというよりは、この展開に乗るための交代策を実施したと言えるだろう。アーセナルはウーデゴールとトーマスで同ポジションのグレードアップを敢行。PSVはマドゥエケを入れて前線にドリブラーを追加する。
後半にようやく結果を出したのはやはり優勢に進めていたアーセナル。ウーデゴール、トーマスの右サイドでのパス交換はやや詰まりそうだったが、大外を回る冨安が登場したことでロストを免れる。意表をついたクロスはジャカの足元に。逆足のハーフボレーという難易度が高いシチュエーションで撃ち抜いたジャカが先制点をもたらす。
以降もオープンな展開は変わらない。ルーク・デ・ヨングを前線においたPSVは高さを加えて得点を狙うが、アーセナルは最後まで得点を許さず。25本のシュートで1点というのはいささか寂しい部分もあるが、相手の枠内シュートを1本に抑えたことと、勝利こそが最低限のミッションだったことを考えれば上出来だろう。
PSVが流れをつかみそうな時間帯もなくはなかったが、要所を締めたアーセナルがそれを許さなかった展開。最小得点差の試合ながらアーセナルはゲームの主導権を握りながら進めることができたと言えるだろう。4連勝のアーセナルはグループステージの突破が決定した。
試合結果
2022.10.20
UEFAヨーロッパリーグ グループA
グループステージ 第2節
アーセナル 1-0 PSVアイントホーフェン
アーセナル・スタジアム
【得点者】
ARS:70′ ジャカ
主審:エルナンデス・エルナンデス