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「設計図の実効性」~2022.10.8 J1 第32節 川崎フロンターレ×清水エスパルス レビュー

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目次

レビュー

■引き出す動きと正確性が足りていない

 乾とピカチュウをベンチに置くという部分でスターターはやや虚をつかれた部分はあるものの、この試合に臨む清水のプランは基本的にはプレビューで想像した通りのものだったと言えるだろう。

 非保持においては4-4-2で2トップがアンカーを管理する形。サンタナとカルリーニョスは無理に川崎のバックラインにプレスをかけることはなく、シミッチを監視下に置きながら試合を進める。

 というわけで川崎に求められるのはバックラインからボールを動かすこと。後ろから前にボールと時間を送ることが求められる。マンマークでハイプレスをしてくるチームにはボールさえ前に送ればある程度スペースがある状態で前線にボールを預けることができる。しかし、この日の清水のように無理に前に重心を傾けてこないチームに対しては後ろがどのようにボールを動かすかが重要である。

 普段からレビューを読んでくれている人にとってはもう飽きた!と言われるかもしれないが、アンカーを2トップで管理してくるチームに対して2CB+アンカーでボールを動かす時はCBの距離感が大事。CB間が広がれば、サンタナとカルリーニョスはアンカーとCBを共に管理するのは難しくなる。ボールは人より速い。相手がCBに重心を傾けすぎてしまえばシミッチに直接縦パスを通せるし、アンカーを大事にしてCBを放置すれば谷口や山村が持ち上がればいい。いい加減、下の図は川崎用の画像を作れ俺。

 逆にCBの距離が近い状態になるとサンタナとカルリーニョスはシミッチの受け渡しを無理なく行うことができる。そうなれば清水は中盤より後方の守備に負荷をかけずに守ることが可能になる。

 要は谷口、山村、シミッチをカルリーニョスとサンタナだけでは管理しきれないよ!という状況に清水が陥るのが川崎の理想である。それができれば、川崎は前線により余裕を与えた状態でボールを送ることができる。

 ここまでの議論の前提になっているのはアンカーのシミッチが清水の2トップの間に立つということである。距離をとるCBに対して、相手の2トップが出ていくか出ていかないかを迷うのはそもそも自分達の間に受け渡すべきシミッチという存在がいるからである。

 この日のシミッチはこの2トップの間というポジションを守ることはあまりできておらず、低い位置まで降りるシーンが多かった。低い位置まで降りることが許容できるのは2トップの間にとどまるよりもメリットがある時。例えば、1列後ろになったとしても自分がフリーでフィードを蹴りたいとか、あるいは他の選手を押し上げるためとか。

 この日は右サイドの山村が高い位置までボール回しに参加したり、単独でボールを持ち上がったりすることが多かったため、誰かを押し上げるという点で最終ラインに落ちる形は理解できなくもない。

 一方で彼自身が最終ラインに入ってフリーで蹴り出すことのメリットはそこまで感じなかった。マルシーニョへのタッチダウンパスチャレンジができるのは美味しいかもしれないが、それと引き換えに清水の中盤と駆け引きする動きが消えてしまうのならば、個人的には収支はマイナスである。川崎にはマルシーニョへのチャレンジよりも時間を前に送る形を構築する方に基本的な軸足をおいてほしいからである。よって、もう少しシミッチには立ち位置を守る意識が欲しかったところだ。

 そういう意味では低い位置に下がってくる遠野や脇坂、そして家長の左サイドへの出張は効果が薄かった。繰り返すがこの日の川崎の問題点は前に時間と人とボールを送り出せなかった点である。ハイプレスに苦しんでボールの預けどころがないわけではないため、低い位置に過剰に下がるやり方ではあまり解決に近づいている感じがしない。

 ラストパスがアバウトになっている川崎の問題点は札幌戦と同じ。点で合うようなスーパーパスを狙っているのであれば、当然成功率は低いままである。ミドルゾーンまでの前進、カウンター時のプレー選択、アタッキングサードでの加速、どれも丁寧さを欠いている。

 もっともこの日の左サイドは人数がいる割にはガチャガチャしており、ホルダーに選択肢を作ることができていなかった。そういう意味ではある程度エリアに迫る段階でアバウトな方向に舵を切る正当性があったのは悲しい部分である。

■明確だったビルドアップの設計図

 清水の保持は明確に左右に狙い目となるポイントを定めていたと言えるだろう。左サイドは低い位置の山原である程度敵のプレスを引きつけつつ、奧のスペースを活用するというスタンスである。

 プレビューでは山原とセットで、SHの乾が低い位置をとり、同時にサンタナやカルリーニョスが背後をつくことで相手のSBに選択を強いてくると述べた。

 しかし、今節は乾が不在。よって、トップに入った北川が山原とカルリーニョスの間に入り込んで山根を惹きつける役割を担う。裏に走るカルリーニョスをフリーにできれば清水の狙い通りと言えるだろう。

 右サイドはハーフスペースに人を走らせる形でチャンスメイクを狙っていく。CHから飛び出す白崎が3人目となり、2トップとWGの中山の間に走り込む形である。

 清水側の視点に立てば攻略のポイントはサイドでアウトナンバーを作れるかどうかである。例えば左サイド側。山原が低い位置に下がりながら相手を引き出すと述べたが、本当の理想はCBの鈴木が相手を引きつけ、山原に家長の裏でボールを受けてもらうことである。

 川崎は基本的にWGが外切り志向なので家長を食いつかせて、山原にその背後で受けてもらう形を狙うことはそこまで難しくはない。山原が対面の家長を剥がす形でももちろんOK。理想は山原&北川&カルリーニョスで脇坂と山根の2人と対峙することだ。

 右は裏に抜けていく白崎に対して、川崎は遠野がついていく形でカバーに入っていた。マルシーニョの裏のカバーやCBに食いつかせたりなど、遠野により前方を意識させれば、裏に走る白崎のカバーは当然難しくなる。

 清水が狙いたいのはそういった川崎のハイプレス意識を逆手に取ったプレス回避でサイドに余った選手を作ることである。バックラインでやり直しながらボールを動かすことができており、前進で狙うべきポイントもはっきりしている。ボール保持における清水の設計図は川崎が持っているそれよりもはるかに明白。川崎をよくスカウティングして狙いどころを定めていたと言えるだろう。シミッチが守備で広い範囲に奔走していたことからも、この日の清水は十分にボールを動かせていたことが窺える。

 清水にはCFにサンタナというボールの逃しどころがあったのも大きい。プレビューで川崎がこれまで清水に優位を取れていた理由の1つに「サンタナを問題なく封じられたこと」であるという説明をした。そして、今回のポイントととして「ジェジエウが出れない場合、サンタナを封じられるという前提が今回も有効なのか?」ということも述べた。

 だが、今回はこの前提は成り立たなかったと言える。グラウンダー、ハイボールに限らず、サンタナは川崎のCB陣を難なく背負って見せたし、ワンタッチのフリックや、収めての逆サイド展開の起点になるなど、状況に応じて色を変えてみせた。チームメイトに笑顔で指示を出す姿などを見ると非常に柔軟。攻撃の牽引役となっている雰囲気を窺わせる。狙いとなったサイド攻撃に上乗せするように中央にサンタナがいたことは清水に取って大きな武器になった。

■川崎のハイプレスが効いた理由

 ボールを動かす設計図と局面を打開できるサンタナ。清水はここまで順調なように見える。しかし、積極的にボールを奪いにいくシステムにはなっていないので落ち着いてボールを持つための攻撃機会を得ることができない。設計図があっても、ボールが手元になければビルドアップはできないのである。

 川崎はビルドアップでクリーンな前進はできないが、ボールをロストして下手なピンチを招いていたわけではない。試合の大半をボールを持ちながら過ごすことができているという点ではある意味主導権を握っていたとも言えるだろう。

 ボールを握っているだけでも崩せなければ意味がない!という意見もわかる。確かにその通り。しかし、ボールを持って押し込むだけでもある程度優位になる部分もサッカーにはある。その1つがセットプレーの機会増加である。川崎はその機会増加を活かす。清水のセットプレーの跳ね返しを拾った遠野がミドルで撃ち抜いてゴール。攻略しきれない中で貴重な先制点を手にする。

 清水は2枚シュートブロックにはいけていただけに、間を破られるコースを遠野に対して空けてしまったのは悔やまれる。権田はおそらく壁を信頼してファーのコースを警戒していただけに、実際に放たれたニア側のコースへの反応が遅れてしまったように見えた。ブロックの外のコースに遠野のシュートを誘導できていれば、清水の失点はなかったかもしれない。

 この時間帯から川崎はハイプレスで主導権を握り始める。3トップは権田と2CBに積極的にプレスをかけていたし、IHはそのカバーとして清水のSBを追い回していた。

 清水のハイプレス対応として気になっていたのは2つ。1つは右のSBの原のボールの持ち方である。CBの立田からボールを受けるときにピッチの内側にボールをコントロールする機会が多いのが気になった。こちらにボールをコントロールしてしまうと、もうCBのマイナスと同サイドのCHくらいしか選択肢がない。そうなれば、川崎が次のパスを予測するのは簡単である。ボールをサイドライン側において縦をちらつかせる持ち方もできれば、川崎の守りはより難しくなったはずだ。

 もう1つは清水のサイドチェンジがある程度慣例化してしまったことである。ピッチを広く使うという部分ではサイドを変えるやり方は有効だ。基本的にはボールの方が人より早く動けるからである。

 しかし、この前提が壊れるパターンがある。例えば、相手にサイドチェンジを予測されてしまった場合だ。守備側からするとサイドを変えるしか選択肢がない相手に対しては、あらかじめ逆サイドの選手が大外の選手に決め打ちでプレスにいける。これができればマークがずれることはない。

 なので、保持側で重要なのはサイドチェンジを裏切ることだ。サイドを変えると見せかけて縦にボールを刺す。この緩急が使えれば面白い。43分の立田のパスなどはトライとしては面白かった。決め打ちでSBにプレスに動いた遠野を出し抜くように縦にパスを入れる試みをした。この試みはシミッチに防がれたけど、狙いとしてはこういうことができれば川崎のプレスは決め打ちでサイドチェンジに対応することができない。

 そうした揺さぶりの部分が清水のボール保持には不十分だった。パススピードも含めて、相手のプレスの予測を上回るプレーがあまりできなかったことが、前半終盤の劣勢につながったと言えるだろう。権田に起きたアクシデントも含めて、清水は得点以降の時間帯をリズム良く過ごすことができなかった。

■「4人目」の存在がサイド攻撃を後押し

 先に述べた川崎のプレスが効いた局面はあくまで清水のバックラインから時間を奪い取れているような即時奪回においての話。平時において、清水のボールの動かし方には対応できていなかったし、問題は根本的に解決していたとは言い難い。

 特に後手を踏んだ時のサイドの対応はどちらも大きな難があった。左サイドはマルシーニョと遠野の連携ミスから背後のスペースを登里がケアしきれない場面が散見。右サイドは背後にカバー範囲に不安のある山村を抱えていることが影響しているのか、山根の中途半端な飛び出しから傷口を広げてしまうようなプレーが目立っていた。

 川崎がこうした課題を解決できていない以上、後半も清水は落ち着いてボールを保つ機会を確保さえできれば川崎に対しての攻略ルートを見つけることが可能だった。立て続けに積み上げた2得点はその証左である。なお、前半に清水の課題として述べていた攻撃機会の少なさは後半立ち上がりの川崎のパスミスの多さによって担保されていた。

 1点目は前半の冒頭に述べた左サイドに流れる北川の動きからだった。局面としては大外の北川と裏に抜けたカルリーニョスを脇坂、山村、山根で管理すれば良かった場面だったが、大外の北川に山根と山村が食いつくという被り方をしてしまった上に、カルリーニョスに走り負けるなど右サイドが完敗した場面だった。

 原則としてCBは出ていったら潰さなくてはいかん!なので山村の動きはNG。それに加えて、山根が中途半端な対応でホルダーも裏も潰せなかったのはとても気になった。

 2点目も直接原因とは言えないが山根の対応は気になる。登里がロストし、シミッチが交わされてサンタナにボールが入った時点で川崎にとってすでに状況は悪かった。しかしながら、サンタナには一応脇坂と山根で挟んで対応はできていた。それだけに逆サイドの山原のオーバーラップの活用を許したのは痛恨である。サンタナがうまかったとはいえ、2人で挟んでいる選手に自由にプレーをさせてしまっては失点に繋がるのは当然と言えるだろう。クロスに対して、簡単に前に入られてしまった山村は1失点目に続いて致命的なミスを犯したとも言える。

 逆転されて苦しくなった川崎は知念を投入し、4-4-2にシフト。家長はトップ下とWGのハーフ&ハーフで、右の大外は山根が頑張るやつである。2トップ+家長のコンビネーションの中央、左の登里+マルシーニョ、右は山根+誰かのユニットで左右どこからでもやります!みたいな。2トップでクロスにはターゲット2枚が基本になったのもポイントである。

 川崎にとっては最近の点を取りに行く時のおなじみの布陣ではあるが、右のCBのカバー範囲が増えるのは確実なので、ビハインドにおけるリスキーな選択肢というのが現状の位置づけだろう。ジェジエウならばともかく、山村にこれだけの範囲を任せるならばある程度のピンチは覚悟しないといけない。

 前がかりになったことで川崎のサイド攻撃は機能するように。キーになるのは数的優位である。この時間帯に目立ったのは脇坂。縦横無尽にピッチを動くことで、どちらのサイドの崩しにも寄与。裏へのキーパスも含めて存在感を高めた時間帯だったと言えるだろう。4-2-3-1にシフトした時の問題の1つはサイド攻撃の中盤のサポート不足をどのように解決するか?になるが、この試合では脇坂が動き回ることでサイドで3人で崩す形を担保していた。

 さらにキーになったのはサイド崩しに登場する4人目である。2トップにしたことでFWの1枚は気軽にサイドに流れて、パスワークに参加することができた。これにより、基本3枚だったサイド崩しの枚数が4枚に。サイドからフリーでクロスを上げる機会が増えたのはリスク承知の前重心で数的優位を作っていたからだ。

 同点ゴールを決めたのはセットプレーから山村。ゴールに向かうステップではないのに、絶対届かないコースに置くようにヘディングシュートを決められるのはもはや名人芸。フリーになったとはいえ、簡単なシュートではない。失点に絡んだ分を取り返す活躍を見せる。

 さらに3点目においてサイドの崩しの「4人目」になったのも山村。クロスを上げた先にいたマルシーニョが折り返し、これを小林が押し込んで一気に川崎は逆転する。右サイドからのファーに向けたクロスは山根を中心に4-4-2移行後の川崎がずっとやってきた形ではあった。小林とマルシーニョはクロスに同時に競り合ってしまうなど、入り方の連携に問題がある場面もあったが、決勝点の場面では見事な棲み分けで対応して見せた。

 清水は終盤、山原からのファーへのクロスで登里のミスマッチを活用した攻略を披露。ネットを揺らす場面もあったが、オフサイドで取り消されてしまうなどあと一歩が届かない。川崎にとっては狙ってとれたオフサイドではないのでラッキーである。

 先制点、逆転でのビハインド、小林悠による再逆転など先週のデジャブ?と言える試合展開は川崎にとってリラックスして過ごせるものではなかった。だが、山原をマークするために宮城(川崎が追いつく前の場面で用意されながらお蔵入りになった3枚替えに宮城は含まれていなかったので、リードした時の守備要員という位置付けのようだ)、クロス対応を強化するために佐々木など守備における手当をしながら川崎はなんとか逃げ切りに成功する。

 苦しい勝利でなんとか望みを繋いだ川崎。ホームゲームでの連勝を伸ばし、2年ぶりのチャントで盛り上がる川崎サポーターに勝利を届けることに成功した。

あとがき

■青写真実現のためには残留がマスト

 シミッチがあれだけ左右に振り回されたことや得点時における崩しなど、保持における設計図を清水が持っていたのは間違いないだろう。チームとしてさらに強くなる素地はある。

 彼らの課題はそれを実現するためのスキルである。相手の予測を上回る精度と速度、そして逆を取る心理的余裕。ボールを持っている時により有効打を増やすためにはこうした部分でのさらなる成長が求められることになる。

 サンタナやカルリーニョスをはじめ、前線の選手たちは攻撃以外にも守備においても要所でプレスバックができる献身性がある。プレスでボールを刈り取る機会を増やすことと、設計図を実現するためのスキルを備えることをゼ・リカルド監督のもとで積み上げることができればより強固なチームになるだろう。その青写真を実現させるためにもまずは残留を手にする必要がある。

■実行力が決定打になる

 山村の働きはこの試合の展開を象徴している。平地では劣勢に追い込まれながらも、要所で決定的なプラスとなる働きをした。この日の川崎はそんな感じだ。

 ボールを動かすところははっきり言って清水ほど狙いを持ってできていなかったし、前線から後ろまでの守備の連携が機能していたのは先制点からハーフタイムくらいまでだろう。これまで抑えることができていたサンタナに好き放題やられたことや、中盤中央でIHが起点となる働きをほぼできなかったことを踏まえると、劇的な勝利とは裏腹に前を向きにくい内容であるように思えてしまう。

 勝因として上げることができるのは描いた設計図に対する実行力だろう。60分以降の4-4-2は確かにリスクがある陣形ではあるが、確かにそのメリットを打ち出して逆転にまで繋げることができた。いい崩しのプランがあったが、実現するのに苦労した清水に対して、勝敗を分けたポイントがあるとすれば、描いた設計図を実現するスピード感と実行力だ。

試合結果
2022.10.8
J1 第32節
川崎フロンターレ 3-2 清水エスパルス
等々力陸上競技場
【得点者】
川崎:28′ 遠野大弥, 75′ 山村和也, 78′ 小林悠
清水:49′ 白崎凌兵, 57′ カルリーニョス・ジュニオ
主審:清水勇人

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