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レビュー
■深い位置で勝負するための方策
突然の通信機器のトラブルにより40分ほどの中断を開始直後に挟むこととなったこのゲーム。理由は天候でもストライキによる交通事情でも急病人でもなく、VARやGLTなどテクノロジーによる不具合。10数年前では考えられないような理由でサッカーの試合は中断するようになった。
そんな非日常的な出来事とは裏腹に、エランド・ロードのピッチにおける攻防は非常に日常的なものだった。ボールを持ちながら相手を動かすアーセナルと、エネルギーたっぷりにそれを追い回すリーズという構図はこれまでの両チームらしい想定通りの動きだったといえるだろう。
プレビューでも話したがこの試合のアーセナルの保持のポイントはリーズの2列目を引き出すボールの動かし方ができるかどうかである。ビエルサ時代ほど過激な原理主義はなくなったとは言え「前からプレスに行くこと」と「人基準で相手を捕まえること」というリーズのカラーは健在である。特に動きやすいリーズのSHは狙い目になる。アーセナルのSBとの駆け引きは注目のポイントになるだろう。
立ち上がりのアーセナルはバックラインで横パスをつなぎながらボール回しを実施。どこから穴を空けるかを探りながらボールを動かしていた。狙いとしては低い位置でも高い位置でもボールを持てる冨安とホワイトのSBから対面のリーズのSHを引き出す。これによって空いたスペースを活用することである。
空いたスペースには右はジェズス、ウーデゴール、左はマルティネッリなど様々な選手が活用する。目の前に選手が顕れたリーズのSBはとりあえずサイドに流れた選手を捕まえることで対処していた印象である。
アーセナルからすればズラして作ったスペースを埋められた格好になる。WGのマルティネッリやサカには打開力はあるが、さすがに大外の低い位置に降りた状態で相手を背負いながらゴールまで向かうのはなかなかの負荷がかかる。
よって、アーセナルは前進のための解決策を模索する必要がある。1つ目の案はこのSHが空けたスペースに降りる動き自体を囮にしてしまうことである。6分のシーンではこのスペースにジェズスが降りてきたが、それと合わせるようにサカが裏に抜ける形を作った。
縦に圧縮をかけてくる守備側に対して、ホルダーに寄る動きと裏に抜けていく動きを合わせて、陣形を縦に引き伸ばしていくイメージである。正直、そこまでこちらのやり方の使用頻度は高くなかったように思うが、アイデアとしては面白いと思った。
もう1つはサイドチェンジである。WGが低い位置でしかプレーできないのであれば、逆サイドまで運ぶことによって、より深い位置まで進むのがベター。リーズは中盤でのスライドがきつく、アーセナルのWGにはCHがスライドしてつく形を取っていたため、独力での突破は難しい。
中央ではトーマス、ジャカ、ウーデゴールが鋭いボールで逆サイドまでの供給役を担うことができる。WGにマークが集まった分、手薄になった彼らがボールを引き落ちり、逆サイドまでボールを引き取ることが可能になる。この3人にボールが入れば、逆サイドのWGは1on1で勝負できるくらいの時間を得る余裕は十分にあった。
アーセナルのメインのプレス回避策はこのサイドチェンジ主体のものだった。一発でサイドの駆け引きを制せなくても、相手をずらしてサイドを素早く変えながら薄い側を作る。1枚1枚ショートパスで手稲に剥がしながら前進する姿は前節のリバプール戦とはまるで別のチームのようだったといえるだろう。
■詰まらされた冨安に対しての対応は?
一工夫すればプレス回避の解決策が見つかった感のあるアーセナル。しかし、ボール保持においてはアーセナルにもう1つ別の問題が生じる。単純にリーズの前目の圧力に屈してしまうことである。特にこの部分で苦しんだのは冨安。対面のアーロンソンとヘルプにくるハリソンに挟まれる形で縦と横を同時に切られてしまう。
そうなった時にやはりライン際に気軽に蹴れないのは冨安の気になるところでもある。ガブリエウに代わっての左のCBはあるが、この部分には関してはガブリエウに大きなアドバンテージがあるだろう。もちろん、冨安も試合を重ねることで改善はするだろうが、この部分は現状でガブリエウを優先する大きな理由の1つである。
この日のリーズの前線は前がかりのプレスと自分のラインを越えられた後のプレスバックを両立していた。特にハリソンはアンカーのトーマスとのデートもこなしながらこのタスクを遂行。頭の下がるハードワークである。
ボールを詰まらされたり、中盤でのロストからリーズのカウンターを食らう機会が徐々に出て来たアーセナル。アタッキングサードにスピード感をもって侵入される頻度が高まっていく。それだけにリーズのショートカウンターの仕上げが決まらなかったのはアーセナルにとって大いに助かった部分である。
詰まってしまったアーセナルが出した解決案は左サイドのローテーションである。冨安が内に入り、ジャカが代わりに大外に張りだす。こうしたローテに対してリーズはやや混乱。迷った末にアーロンソンが目の前のジャカを捕まえに行ったことで、アーセナルは18分のようなサイドチェンジでプレスを脱出することができてはいた。
冨安は試合が進むにつれてインサイドでプレーする機会を増やしていく。インサイドでよりスペースが少ない状態でも180°しか使えないワイドよりはプレーしやすいということなのだろう。
アーセナルの保持ではやや狙いどころにされていた感があった冨安だったがリーズの保持の局面では輝きを見せていた。対面のアーロンソンには多少前がかりでも前を向かせる前に制圧。加速する前に決着をつける形で優位に立ち、非保持から徐々にリズムに乗っていく。
アーロンソンがなかなか前を向けないリーズはサイドを変えながら前進を狙っていく。特にイキイキしていたのはシニステラ。右サイドからのサイドチェンジを受けて前向きでプレーする機会が多く、積極的な仕掛けとシュートでアーセナルのゴールを脅かして見せた。
アーセナルのプレスは通常通り。ジェズスとウーデゴールが前線と低い位置でのゲームメーカーを潰し、逆サイドのWGは中央に絞る。ボールサイドのWGとSBは縦にきつめのスライドをして高い位置からプレスをかける。アーセナルがそうしたようにリーズもまた相手のマークをサイドチェンジによってずらすことを行っていた。
ショートカウンターからチャンスを作る回数はリーズの方が多いが、全体のチャンスの量を見ればアーセナルの方がやや優勢ともいえそうな前半。どちらもボール保持からの攻略にはサイドを変えるようなボールの動かし方が必要な状態だった。
攻略のきっかけをつかんで先制点を決めたのはアーセナル。トリガーとなるサイドチェンジを行ったのはなんとリーズのロドリゴだった。逆サイドでボールを拾ったサカがワンツーから抜け出すとニアの天井を豪快に抜く形でゴールを決める。
直前には似たような状況でサイドチェンジを成功させていたロドリゴ。この場面では彼としては出来ればもう少し前方にサイドチェンジのボールを送りたかったのだろう。だが、そのチャレンジがミスにつながってしまい、先制点を献上することに。サカの豪快なフィニッシュとウーデゴールとのコンビネーションは称賛に値するが、その舞台をロドリゴがお膳立てしてしまった格好である。
ショートカウンターから多くのパスミスを誘発するも、ゴールを奪えなかったリーズ。彼らを尻目にミスに漬け込んだアーセナルが一歩前に出る形で前半を終える。
■バンフォードの登場と機能集約で圧力を高めるリーズ
後半、リーズはいくつかチームに変更点を加えた。最もわかりやすかったのはバンフォードの登場である。ロドリゴも悪くはないが、プレスにおいては彼のスイッチの入れ方は別格。追い回しにメリハリがついたことで、前半以上にリーズはプレスにエネルギーを使ってくる。
苦しんだのはサリバである。前半は冨安が苦しんだように、後半は彼がボール保持においてリーズの狙い目に定められた感があった。後半は彼がボールをコントロールしているところを狙われてしまい、バンフォードにあわやゴールというシーンを提供する場面もあった。
前からのプレスにはたじたじのアーセナルだったが、ショートパスへのこだわりは強固。前線のリバプール戦ではもっとゆっくり進んでいい場面すらロングボールで急いでいたのに、この試合においては意地でも1枚1枚剥がすようなパスのチャレンジを続けており、まるで別人のような振る舞いだった。何かの縛りプレイなのだろうか。
よって、アーセナルのバックラインや中盤はすでにマークがついている選手にパスを出してボールを奪われる場面もしばしば。その流れから押し込まれた状況を対応したサリバがハンドでPKを献上してしまう。キッカーとなったバンフォードだが、このPKはまさかの枠外。アーセナルとしては事なきを得た形である。
それでもリーズのペースは変わらない。アーセナルは保持において、バックラインからホワイトが高い位置に出て行くことでサカのサポートを積極的に行う姿勢を披露する。だが、これは効果があったかは微妙なところ。ロストも見受けられたし、何より上がった分の背後を取られる機会が多かったのである。
リーズの後半のもう1つの変更はアーセナルの右サイド側に狙いを定めたことである。前半はシニステラを左、アーロンソンを右にしてどちらからでもボールを運べる状況を作っていたのだけど、後半はトップ下にアーロンソンを移動させて、崩しの機能を左に集約した感がある。
この変更で左はアウトナンバーを作りやすくなったリーズ。逆に右サイドはクロスに飛び込める選手を配置するように。右に入ったハリソンがPA内に入るなどクロスの受け手を複数枚置けるようにする。後半立ち上がりにバンフォードがネットを揺らした際もクロスを上げたのは左サイドに流れるロカ。彼のクロスを受けるためにハリソンとバンフォードがエリア内で待ち構えていた形だ。
先に述べたホワイトの積極的なオーバーラップはリーズのこのサイド集約型の戦い方と相性が悪かったといえるだろう。アーセナルがボールをロストすると、すぐさまリーズは左の大外から裏を狙う。シニステラ、アーロンソンがここから滑走できれば一気にアーセナルを押し下げることができる。左サイドからの裏を取り、マイナスのパスコースで空いたバイタルでフリーの選手が受ける。この形でリーズはチャンスを量産。跳ね返しがギリギリになったアーセナルはセカンドボールをリーズに拾われて波状攻撃を食らうという形である。
終盤も攻撃の枚数を増やしたリーズがさらに勢いを増していく。サマーフィルやバンフォードなど左だけにこだわらず、もはやピッチのどこからでもガンガン裏抜けのフリーランが発生する状況を作り出してアーセナルに圧力をかけていく。
アーセナルはショートパスで脱出した際にはハイプレスでペースを取り戻すトライもしたが、間延びした中盤ではリーズを捕まえることができずに苦しむことに。前節と異なり、バックラインにホールディングを入れて、やや前後分断気味の時間稼ぎにシフトした判断は妥当に思える展開だった。
5バックにした後は比較的落ち着きながらリーズの攻撃を受ける機会は増えたが、ガブリエウのバンフォードへの報復でPK&退場判定が一度は下されたり(OFRにてPK取り消し&警告に格下げ)、セットプレーの機会を与えたりなど、最後までひやひやは止まらない展開に。
それでもなんとか勝ちきったアーセナル。キックオフのホイッスルが吹かれてから2時間40分を越える長丁場の一戦は、前半にミスを突いたアーセナルが先制点を生かした逃げ切りで決着した。
あとがき
■得点なのか機能性なのか
リーズのアグレッシブなスタイルは持ち味を十分に発揮したといえるだろう。ノルウェー帰りの中2日という厳しい行程をしたアーセナルとのコンディション差は明らかで、彼ららしい戦い方で大いにアーセナルを苦しめた。
悩ましいなと思ったのは前線の用兵。個人的には平場の動きの質ではバンフォードの方が優勢なのだが、この日のもろもろを見るといかにも得点から遠ざかっているストライカーという形になっているのが気がかり。得点という観点で見れば今はロドリゴの方に軍配が上がりそう。
ストライカー2人の併用もアリだが、好調の2列目は動かしたくないというジレンマもある。特徴の異なる前線の組み合わせの最適解をどのように見つけるのかはマーシュにとって難しい問題になりそうだ。
■チャレンジの意図はわかるのが救い
ワールドカップまでの間の期間において、移動面で最もキツイ週であるというのを痛感するような内容だった。それでも、意図を持ったボールを動かす前半のチャレンジは魅力的だったし、悪いところばかりではないのは救いだろう。勝ちながら課題を抽出できているのはむしろいいことだ。
後半はプレスにハマり続けるところの修正がだいぶ遅れたのは気になるところ。前節のリバプール戦もそうだが、最近のアーセナルはある種の縛りプレーで何かしらの訓練をしているのかな?と疑いたくもなってしまう。そうでなければややこのレベルでは手を打つのが遅いようにも思えた。
そういった内容でも勝つことができるというのは2022年のアーセナルの違うところである。トラブルがあって使用できないかもしれなかったVARが結局大きな役割を果たしたというのもいかにも今どきな事象だ。あらゆる側面でこれが2022年のプレミアリーグ!といえる試合だったようにも思える。
試合結果
2022.10.16
プレミアリーグ 第11節
リーズ 0-1 アーセナル
エランド・ロード
【得点者】
ARS:35‘ サカ
主審:クリス・カバナフ