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レビュー
■理想的な列の越え方が少ない
中2日だけども3連戦はなんとかこの11人を軸に押し切っていきたい!というのはこの試合のスタメンからも読み取れるし、なんなら大量リードだった鳥栖戦の終盤の采配からも予見できたことである。これまでどんなにリードをしても入れ替えなかったバックラインの入れ替えを行ってでも、3つ連続同じスタメンでで凌ぎ切る!というのが鬼木監督の考え方である。
一方の湘南はどこまでコンディションが戻っているかが気がかり。出足が鈍っている磐田戦、札幌戦は明らかに様子がおかしかったが、引き分けた鹿島戦は強度の部分では復調が感じられた。あとは保持におけるルートをきちんと整備できれば手強い湘南が本格的に戻ってきたという手応えを見せられるだろう。2週間ぶりのリーグ戦でどこまでパフォーマンスを戻せるかが課題になる。
湘南の立ち上がりは悪くなかった。川崎の2人のCBには高い位置からプレッシングをかけていく。アンカーは受け渡し形ではあるが圧力は十分。個人的な感触としては前回対戦したよりもプレスの強度は高かったように思う。
よって川崎は苦しめられていた。序盤はとっとと早い攻撃で様子見の様相だったが、徐々にボールを持ちながらの攻略を模索するようになる。CBがボールを持ち、サイドにボールを動かした段階で湘南はIH、WB、アンカーが圧縮するようにスペースを潰す。
この圧縮に対して逆サイドに逃げることで対応したいところ。ややトランジッションの局面ではあるが、2トップの死角からボールを持ち上がることができた18分のシミッチ→山根の展開(下図)はなかなか良かったように思う。こういうシーンを増やしたかった川崎だが、なかなか大きな展開は見られず思い通りには行かなかった。
2トップを外した場所からボールを運ぶことが大事な理由は5-3-2攻略において重要なのはIHとWBをいかに動かせるかであるからである。この2つのポジションがカバーする範囲が広がれば、コンパクトな5-3ブロックを築くのは難しくなる。相手が出てきたスペースをホルダーは使えばいい。2トップ脇からボールを運ぶのは、IHもしくはWBを手前に引き出すためのプレーとして有効である。
この部分で期待できるのは車屋だ。鳥栖戦で3人目のCBのように振る舞いながら対面の選手を圧倒したような形が求められる。しかし、この試合ではそもそも不発。まず縦に運ぶためのトライができず、運んだとしても22分のようにタリクに潰されてしまうなどうまく行かない。
川崎は降りてくるIHへパスを何度か潰された段階でだいぶ縦パス勝負は手応えがない感じを受けた。よって、外循環でとりあえず知念に預ける形が保持のメインになっていく。「サポートの距離が遠い」と知念が嘆いたのは、広げるアプローチができないまま知念に放り込むせいで、湘南がコンパクトな陣形を維持したまま知念を挟み込むことができたからだ。
解決策になり得たのは裏への走り出しだろう。湘南はバックラインは高く維持する割にはホルダーを捕まえる優先度が低い。特に2トップの脇に立つ選手に対してはアプローチが遅れることが多い。ホルダーがフリー+ハイラインに対する特効薬は裏抜け一択である。だが、この日はCF、IH、WGは比較的手前を優先する動きをすることが多かった。体力面でキツかったのだろうが、裏を抜ける動きの乏しさも湘南のプレスを助けたように思う。
■CBはPAを優先する
ひとまず、非保持における振る舞いは鹿島戦の水準を維持したパフォーマンスを見せたと言える湘南。ボールを奪った湘南は素早いトランジッションを試みる。攻め切れると判断した時は一気に縦に進んでいくが、難しいと判断した時は幅を使った攻撃に切り替えていく。この辺りは保持においても従来の湘南らしさを感じる部分だった。ちなみに素早く攻撃に行けるかどうかの判断はシミッチを無事に越えられるかで決まった感がある。
じっくりとした攻撃のキーになるのは両サイドのWB。左の大外の中野はためながら味方の動き出しを待つことができていたし、逆サイドの石原は早い展開で大外を駆け上がったり、クロスに逆サイドから飛び込んだりなど幅広い動きを見せていた。
川崎はこのサイドの人数をかけた攻撃に対してはWGとIHがサイドをケアするように対応する。プレビューでも述べたが、前回の湘南戦はサイドに人数をかけた攻撃に対してCBが出ていったものの、跳ね返しきれない状況で失点を重ね続けた。
今回はよりサイドに行動範囲が広いジェジエウがCBということでCBのカバーで潰し切ることを念頭に戦う可能性もあったように思う。しかし、川崎はそのやり方は取らず、サイドの潰しはIHとWGが出ていくことで対応する。特に右サイドは積極的に家長が下がっていたのが印象的だった。CBは動かなず横幅はSBと中盤に任せてクロスを弾くことに備える。方針としてはそういうことになるだろう。
よって川崎はかなりリトリートした陣形で湘南を迎え撃つことになる。そうなれば反撃の機会はロングカウンターとなる。マルシーニョが前残り気味だったのはそのためだろう。全体を押し上げられる家長より知念とマルシーニョの2人で点を取ってこい!という要求である。
川崎はボール奪取後にすぐにIHに縦パスを入れてカウンターに移行。相手の攻撃を止める、もしくはプレゼントパスではじまったロングカウンターの方が川崎の前半の前進としては有望だったと言えるだろう。しかしながら抜け出したマルシーニョのコントロールが定まらないのが誤算。時間の貯金がここで無駄になってしまう場面が何回か見られたのは想定外と言えるだろう。
湘南は押し込むフレームは作っているものの、精度が悪くてラストパスが流れてしまったり、あるいはプレゼントパスをしてしまったりなどで最後が決まらなかった。たとえば27分に杉岡が走り込んだスペースからのクロスのような攻撃が見られれば面白い。IHの意識が外に向いているのでペナ角はいつも以上に空きやすかったと思う。
湘南に保持からペースを握られきれずに川崎としては非常に助かったと言えるだろう。その上、セットプレーから先制点まで奪うのだからとても効率がいい。
そんな先制点も川崎に取ってはエネルギーにはならない。家長が左サイドに流れる頻度は時間と共に増えていき、徐々に左サイドに偏ったナロースペースの攻略を狙うことに。5-3-2のセオリーとは反する狭いスペースを狭いまま壊してしまおう!という発想である。
川崎が5-3-2を崩せないとよく言われるのはこのように狭いスペースを狭いままに崩そうとした時が多いように思う。相性が悪いというか、捉え方が陣地を広げる方に行かないというか。与えられたものをそのまま壊そうとしている印象である。家長が左サイドに顔を出す頻度が増えたということはそういう方針であるということだ。鳥栖戦と異なり、この家長のオーバーロードはあまり効果的とは言えなかった。
■うまく行かないモデルチェンジと効かない防波堤
後半の川崎は2枚の選手交代を軸にモデルチェンジを図る。大島と宮城を投入し、ボールの保持のところをメインに改善を図ろうという狙いである。おそらく、終盤に出てくるであろう小林がエリア内で勝負しやすいような土壌づくりというイメージだろうか。
早速チャンスを迎えたのは宮城。48分、2on2のカウンターのチャンスを知念と共に迎える。このシーンにおいては知念が明確に走り込むタイミングを提示しても良かったように思う。仮にタイミングが合わずにオフサイドポジションまで走り抜けたとしても、後方から遅れて入ってくる家長がいる。一度右に展開する形という保険があるのならば勝負をかけるランをしてもいいだろう。
宮城と岡本の対決は岡本の完勝だった。宮城のボディフェイクにも惑わされず、縦に抜けさせる方向でマークをし続けるという判断もいい。折り返す選択肢を見せたい宮城だが、その隙を伺っているうちに石原のプレスバックで挟み込まれてしまった。ぜひ、攻撃側の川崎と守備側の岡本の守り方の2つの視点で見返してほしいシーンだ。
チャンスを潰された川崎はすぐにピンチに陥る。もちろん町野のPK獲得のシーンである。後方から追いかけたジェジエウがつまづいた拍子に町野の踵にコンタクトをしてしまいPKを献上。セカンドボールから裏に抜けた町野に出し抜かれた形。谷口の潰しが間に合っていたように見えたので、慌てる必要はなかったが慌ててしまった場面だった。本人は不満であるようだが、後方からボールにチャレンジしないコンタクトでホルダーのバランスを崩させたのだから判定としては明らかに妥当。湘南はPKを得た町野が自分でPKを決めて同点に追いつく。
川崎はハーフタイムの選手交代の意義をなかなか見出せない。相変わらず後方から運ぶ意識が乏しく、知念と宮城へのロングボールに終始している印象だった。知念はともかく、宮城はマルシーニョではないので同じノリで後方からパスを出しても無駄である。
中盤では大島が波に乗れない。周りの状況を把握できず、ボールをロストしてしまい、パスの速度も精度も物足りない。厳しい表現をすれば、ボール保持の部分で安定と精度をもたらせないのであれば、中盤で起用されるのは大島である必要がないので、この試合においてはプレータイムに見合った成果を得ることができなかったと言えるだろう。本人は前回の試合後に「後半だけでもまだ試合間隔が詰まるとしんどい」ということを述べており、短い間隔でまとまった時間のプレーができる状態ではないのかもしれない。
大島の見せ場となったのは小林が抜け出したパスの起点になったところくらいだろうか。湘南の「ラインは高いがホルダーへのチェックが甘く裏抜けに対しての対応が脆い」という弱みを最も的確につくことができた場面であり、小林がGKを交わすことができたところまでは完璧だった。まぁ、今季の小林にあれを決めろというのは少々酷な気もするが、山根へのラストパスが見えていれば少し結果は違ったかもしれない。
ただ、上のようにラインを動かしながらゴールに迫れた場面は限定的。あとは家長が山田を右サイドでぶち抜いたシーンくらいで、それ以外はペナ幅から真正面にぶつかってはシュートブロックかパスカットに繋がるというシーンばかりになる。
個人的には川崎の右サイド側にいた山田はプレスに出ていくタイミングが他の選手より早かったので、こちらのサイドは狙い目かなと思った。しかし、HTで下がってしまった脇坂がいなくなって以降は右サイドを3人で崩す動きは皆無。終盤は知念や小林が立つことも多くなり、全体としてのポジションバランスの悪さは改善されなかった。左の宮城もブレイクスルーになれず得点が遠い。
すると、後半追加タイムに湘南が決勝ゴールをゲット。終盤までは彼らもペナ幅アタックからのシュートブロックに苦しんでいたが、最後の最後で左サイドから裏を取ることに成功し、PA内で穴を開けることに成功した。川崎からすると山村が裏へのパスをカットできずに後方に通された上に、山田の折り返しのクロスをニアでクリアできなかったというダブルパンチが大きく響いた格好になった。
試合に勝利した湘南はシーズンダブルを達成。川崎はC大阪に続いて、今季2チーム目の被ダブルとなった。
あとがき
■ペースを渡さず復調気配
湘南は精度の部分で課題は残るものの、相手にペースを渡さなかったこととと保持でもらしさが出てきたのは良好。本文ではあまり触れられなかったが、体を張った町野の奮闘は良かった。あと、要所の岡本の潰しもとても良かったように思う。
あとはパフォーマンスの継続性だろう。残留争いに向けてまた数節前のようなコンディションに戻るわけには行かない。水曜は横浜FM戦と厳しい戦いが続くが、勝利の喜びもそこそこにタフな相手が続く連戦に立ち向かうことになる。
■3戦1セットでのマネジメントが問われる
この試合の結果から言えることは、今の川崎はミッドウィークのゲームを挟んだ3試合を戦う底力がないということだろう。鬼木監督のプランはこの試合のスタメンの11人を軸に、強度の部分で行けるところまで引っ張りつつ、難しくなったら大島を投入して保持重視に切り替えるというもの。鹿島からの3連戦はこれが強く意識される内容となった。
この試合においてはハーフタイムに強度→保持重視にプランが切り替えられた。おそらく、前半を見てこれ以上強度で引っ張るのが限界!となったのだろう。となると、保持重視のプランでこの試合の後半にボールを握り返すことができなかったのは大きな反省となる。チームとしてもボールを握ってピッチを広く使いながら相手を広げるアプローチができなかったし、個人個人の状態もそれを為せるレベルになかった。
そうしたアプローチが全て不発に終わった時の頼みの綱がCBなのだけど、ジェジエウはPKを献上してしまったし、交代で入った山村はそうした最後の防波堤になりきれず、穴を開けるプレーを重ねてしまった。プランAで時間を稼ぐことも、プランBで修正をかけることも、最後の保険を機能させることもできなかったのがこの日の川崎であり、そうなれば負けるのは当然かもしれない。。
週末→水曜→週末の3連戦は残りのシーズンであと2回ある。この270分の使い方では最後の1試合でショートすることがわかった。次の270分はどう賄うのか?3戦1セットで考えたマネジメントが問われることになりそうだ。
試合結果
2022.9.3
明治安田生命 J1リーグ 第28節
湘南ベルマーレ 2-1 川崎フロンターレ
レモンガススタジアム平塚
【得点者】
湘南:53′(PK) 町野修斗, 90+3′ 阿部浩之
川崎:20’ 知念慶
主審:飯田淳平