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「細部を引き寄せた大勝」~2022.8.20 J1 第26節 アビスパ福岡×川崎フロンターレ レビュー

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目次

レビュー

■福岡の3バック採用の理由は?

 J1の中でこの夏、目に見える形で最もコロナウイルスの影響に悩まされてきたチームはどこか?と聞かれたら多くの人が川崎と福岡の名前を挙げるだろう。その両チームもようやくメンバーを揃えられるように。徐々に日常を取り戻している最中の両チームによる一戦となった。

 事前の狙いを外してきたのは福岡だった。4バックには4バック、3バックには3バックと相手に対して鏡合わせのようなフォーメーションを敷いてきたのがこれまでの福岡。しかし、この試合では4バックの川崎に対して、3バックの形で迎え撃つことを選択する。それもこれまで3バック時に採用してきた3-4-3ではなく、中盤を3枚にする3バック型である。

 試合後の長谷部監督のコメントを聞く限り、「川崎のCBとアンカーに自由にボールを持たせたくなかった」という要旨で3バックの採用理由を説明している。要は非保持に力点を置いたプランだったということだろう。

 中盤3枚の4バックに対して、3-5-2をぶつけることのメリットとして思いつくのは、噛み合っていないようで、実は前からプレスをするときれいにハマるという点。つまり、前からのプレッシングを行う上で優れているシステムということだ。

 まだ、レビューを書いていない時期なので細かいことは覚えていないが、川崎は2018年5月の等々力でオリベイラの浦和に敗れた時はこのような前から時間を奪うやり方に屈した記憶がある。

 だが、この試合の福岡はそうした前からのマンマークでのハイプレスを行ってこなかった。ハイプレスを行わなかったことに関して、川崎側の要因として考えられるのは2018年の浦和戦(大島、ネット、憲剛)と異なり中盤が逆三角形であること。ただ、個人的にはこれはハイプレスをやめる理由としては弱いと思う。人主体のプレスならば中盤の当てはめを調整すれば済む話だ。

 むしろ、理由は福岡にあるように思う。高い位置からのプレスになればネックになるのは後方を同数で受けなければいけないこと。後方の同数を受け入れるほどの思い切りの良さは取れなかった可能性はある。

 あとはコンディション面。長谷部監督が試合後に述べたように感染したメンバーのフィットネス的な回復には時間を要する。マンマークハイプレスはそうしたチーム事情とは逆らうやり方である。ただ、長谷部監督が常用する4-4-2のゾーン基調の守り方はマンマークのハイプレスとはかなり毛色が異なるため、こうした事情がなくともそもそもやりません!という方針である可能性は考えられる。

 以上のことから考えると長谷部監督のオーダーは

・川崎のCBとアンカーを抑える。
・強度はそこまで上げたくはない。
・後方は同数で受けるのを避けてゾーン基調に。

 といったニュアンスの物だったと推察する。

■川崎が外した福岡の狙い

 福岡の基本的な守り方は中盤のスライドに強度を求めるものだった。SBに対しては同サイドのIHが出ていき、それに合わせて中盤がスライドする。WBはラインを下げてWGを監視。ワイドのCBが遊軍として待機する形である。

 狙いとしては同サイドに相手を閉じ込めるようなイメージだろう。2トップを主体としてSBにボールを誘導し、IHがプレスに行ったところで同サイドを一気に閉じる形だ。

 プレビューでは「試合の主導権は攻めるサイドをボールを持つ側が決めているか?持たない側が決めているか?が重要」と述べた。その理屈に当てはめればこのトライは福岡が川崎に対して攻めるサイドを決めさせるためのアプローチといっていいだろう。

 しかしながら、このアプローチは福岡の想定ほどうまくは行かなかった。なぜならば、川崎がその福岡の狙いを外しに来ていたからである。

 この福岡の守り方できついのはIHである。横幅を3枚で見るというのはなかなかきついものがある。よって、福岡視点でいえば川崎のサイドを変えるスピードはこの3枚のスライドが間に合う程度に抑えないといけない。それができれば川崎に対して福岡が攻めるサイドを決めさせていると定義ができる。

 福岡がうまくいかなかったということは、中盤のスライドが間に合わないサイドの変え方を川崎に許してしまったといいかえることができる。川崎が攻めるサイドを決めることが出来たパターンは大きく分けて2つ。1つはシミッチがフリーになって前を向けたこと、そしてもう1つは谷口の対角パスである。

 福岡の前線の守備は長谷部監督の思惑ほど、川崎のCBとアンカーを試合から締め出すことが出来なかった。よって、中盤のスライドが間に合わない素早い横の展開を川崎に許すことになってしまう。

 これによって何が起きるか?なるべく後方は同数で受けないという福岡の前提の崩壊である。アンカーのスライドは間に合わないので、IH、WB、CBで川崎のサイドのトライアングルを受けなければならない。

 この試合の川崎は左から右への大きな展開で前進し、右からのラストパスで左でフィニッシュするという形が多かった。右サイドでボールを受けると大外の家長を基準に、同サイドの脇坂と山根が周辺を動き回ることで相手を出し抜いていく。

 その結果が川崎の先制点である。福岡が数的優位で受けたいはずの後方で川崎は同数を作る。そして、右サイドの3人のコンビネーションで同数の局面を打開し、左サイドにラストパスを送る。決めたのはマルシーニョ。

 家長、脇坂、山根の熟成されたサイドのコンビネーションは見事だったが、根本としては川崎が福岡に対して攻めるサイドの制限を許さなかったのが大きい。この場面ではダミアンのポストだったが、右サイドへの展開の過程自体が福岡からすると許容したくないシチュエーションだったはずだ。

■個人のミスとチームの狙いの不透明さが同点弾に

 川崎が先制点を奪うまでは比較的スピーディーに運んでいた試合だったが、先制点を境に両チームのパフォーマンスはトーンダウンしたといっていいだろう。攻守の切り替えの頻度は下がり、福岡は左右へのスライドを熱心に行わなくなった。

 川崎はそうした福岡の変化にうまくお付き合いができなかった。そもそもサイドを変えなきゃいけないほど同サイドが詰まっているわけではない場面でもサイドチェンジを敢行したりなど、やや大きな展開が目的化しているところがあった。

 寄せてもないのにサイドを変えるから、大きな展開を使っても状況がよくならない。そもそも同サイドで崩し切ることが出来なければ、相手がスライドして対応する必要もない。川崎は同サイドを崩すことをチラつかせる部分がやや不足していたように思う。

 同サイドのスペースがタイトでないならば、チャナティップには局面の打開を期待したいところ。だが、この試合ではミスが続いたせいかやや時間の経過とともに自信を失ったように見えた。安全策のプレーしかできないのであれば、チャナティップである必要はない。チャレンジできない状況を見かねてハーフタイムに下げるという鬼木監督の判断は妥当だといえるだろう。

 川崎がペースを失ったことで福岡は保持の時間が増えるようになる。彼らの崩しのポイントは明確。WBを高い位置でフリーにすることだ。志知と湯澤は福岡の攻撃になったタイミングで非常に素早く高い位置をとる。

 理想は彼らがフリーでクロスを上げる状況を作ること。よって、ワイドのCBが川崎のWGを引き付け、アタッカーが川崎のSBを引き付けられるファジーなポジションを取るのが理想である。

 そうすることができればWBはフリーでクロスを上げることができるようになる。WBがクロスを上げる際はIHの城後と逆サイドのWBがエリア内に入ってくることは決まりごとのように見えた。平塚と前は中盤に残り、クロスを上げられない場合にサイドを変えられるように備える。

 川崎の守備がよくなかったのは単純にWBへのケアがあいまいになってしまったこと。そしてWBを捕まえられたとしても、そこから先の守備の誘導ができなかったことである。

福岡は非保持の際に同サイドに閉じ込めようとして失敗した印象を受けたのだが、そもそも川崎はチームとしてどこにボールを追いやりたいのかが見えてこない。ざっくりいうとサイドは自由に変えさせてもいいけど内側を固める!とか、同サイドに追い込んで狭いスペースを崩させる(福岡に似たアプローチ)など。

 川崎は福岡の横の揺さぶりに対しては明らかに弱さを見せていた。福岡は自由に左右に展開しており、どちらのサイドで攻めるかを自在に決めることが出来ていた。福岡が狙い目にしたのはチャナティップが空けることが多い右のハーフスペース手前のスペースだ。

 チャナティップは守備が献身的ではあるものの、こまめにポジションを変える状況判断が続く状況は苦手である。そのため、押し込まれた後にラインを上げたい場面で遅れてしまい、フリーにしたくない選手をフリーにすることがある。

 上の図でいえば柳のケアにいけないのである。山岸のゴールの大きな要因となったのはこの右のハーフスペースの浅い位置での柳の攻撃参加を許したことだ。それを引き起こしたのはラインを上げ損ねたチャナティップである。

 ただ、もちろん失点は彼だけの責任ではない。福岡はボールがアタッキングサードに入ると同サイドの城後がエリア内に入るので、チャナティップの位置が下がりやすい仕組みはあった。加えてアンカーのシミッチはクロスに備えて最終ラインに吸収されることも多く、IHの守備範囲は広くなっていた。

 逆サイドの脇坂も対応しきれない場面があったことを考えても、やはりチームとしての中盤より前の守備が機能していなかったことは指摘されてしかるべきである。福岡の保持に対して川崎が攻める位置を制限できなかったことによりIHの負荷が高まり、その脆さを突かれることになったといえるだろう。

 同点弾を決めてチームとしては追い上げモード、このまま前半を終われば福岡は勢いに乗って後半を迎えられる算段だった。しかし、前半の終わりに川崎は勝ち越しゴールを手にする。きっかけはWBの志知へのミスパスである。これを山根がカットし、カウンターが発動。再びマルシーニョが決めてリードを奪うことになった。

 福岡からすれば痛恨のパスミスだろう。WBが早い段階に上がるという福岡の保持の設計上、ネガトラにおいてWBの裏はアキレス腱である。だからこそ、高い位置を取るWBへのボールをカットされればこのように得点につながるピンチを即引き起こすことになる。

 福岡は川崎を振り回す保持の仕組みを見せて同点に追いついたが、ミス1つでその仕組みが持つ脆弱性を晒し、ビハインドで後半を迎えることになってしまった。

■原点回帰とひらめきで勝負を決める

 後半の福岡は3-4-3にシフト。筋肉界の真打ち、ジョン・マリの登場である。福岡のこの日のベンチを見る限り、前線は入れ替えれば入れ替えるほどフィジカル寄りになっていくのは火を見るより明らかだったので時間の問題ではあったが、リードを奪われたことで早い時間での投入に。フアンマも55分にはピッチに入り、ルキアンと3人で強力な前線を形成する。

 わかっていても止められない馬力があるのが彼らの怖さ。もちろん、福岡はトレードオフとして前からのプレスを機能させるのは難しくはなる。よって、川崎からすると「おまえらは3点目を取れんの?」と問われているような展開だったといえるだろう。

 これに対して川崎は原点回帰で対抗。要はボールを動かしながら薄いサイドを作り、攻める場所をボールを保持しながら定める形へのトライである。福岡は3-4-3になっている分、中盤は2枚に。横に揺さぶられた時のスライドには前半よりも弱い。

 谷口の対角パスを起点とした攻撃はこの日絶好調な右サイドの崩しの合図。ピタッとこの対角パスを止めた家長を起点にサイドでボールを動かすと、クロスから得点を決めたのはマルシーニョ。ハットトリックの大活躍で川崎はリードを3点に広げる。

 リードを広げられたところで前がかりに圧力を強める福岡。そんな状況で存在感を見せたのが遠野である。縦パスを引き出し攻撃のスイッチを入れるのはもちろん、ボールを受けた後のカウンターの状況判断も良化。速い攻撃で印象に残るプレーを見せる。

 そして九州キラーである遠野はこの日も決定的な仕事をする。70分手前、左サイドでボールを受けると浮かせるコントロールを使いPA内で反転。出し抜かれたグローリが手をかけてPKを献上する。

 もちろん、ターンというアイデアも素晴らしかったが、この場面で特筆すべきはコントロールである。浮かせたボールがきっちり次のアクションでシュートまで持っていけるところにボールを置ける技術の高さをここでは評価したい。

 DOGSOの要件を考えればこのコントロールが乱れてしまうと、仮に後ろから倒されたとしても警告止まりだろう。なぜなら、ファウルはファウルでも遠野はシュートまでいくことが出来ず、決定機な得点機会の阻止にはならないからである。きっちりボールをシュートできる場所に置いたからこそ、グローリを退場に追い込む非常に価値のあるワンプレーとなった。

 このPKを家長が決めて4-1に。10人の福岡はクルークスと志知を固めた左サイドからクロス攻勢を狙ったりなど、策を講じてはいたものの、ボールを取り戻すところが足かせとなり10人で自分たちのペースには持ってこれない。

 対する川崎もこの日はコンディションがよかったわけではない。前半途中から試合全体の強度が落ちていたし、後半は大事を取って下がったように見えた脇坂に加えて、橘田や谷口もかなり状態が怪しかった。家長、マルシーニョもほとんどエネルギーは残っておらず。ゴールが欲しい小林にとってはもどかしい状況ではあるが、強引にゴールを狙いに行かないチームとしての判断は理解できる終盤の試合運びだった。

 試合はそのまま終了。苦手な福岡の地で川崎が久しぶりの勝利を挙げることに成功した。

あとがき

■トライしたことに目を向けたい

 福岡の3-4-3のフォーメーションやこの日の陣容がどこまで本意なのかは測りかねるというのが正直なところ。おそらく、何とか形にできる選手たちをベースに打てる対策を組んだというようなニュアンスではないだろうか。

 方向性はさすがと思わされる部分が多かったが、川崎を狭いスペースに閉じ込めきれなかったり、前半終了間際に決定的なロストをしてしまうなど練度はイマイチだった。だが、それも仕方ないことだと思う。グローリの退場は遠野の一瞬のひらめきが大きな結果を引き起こした例であるので、あまり気にしすぎないでいいのではないか。

 この試合ではトライしたことに目を向けるべき。状態がよりよくなった時にこの試合の反省を生かせれば、チームとしての幅はより広がるはずである。

■下地となった右サイドの優位と継続された課題

 継続的に優位を作っていたというよりは一瞬のプレーで流れを手にしたことで引き寄せた感のある大勝だ。遠野のPK奪取、1点目の右サイドの3人の崩し、2点目の山根のボール奪取からの一連など。特にこの日の優位のベースは右サイドの3人の連携を下地に作られており、3点を奪ったマルシーニョと共に彼らは称えられるべきである。

 試合の流れを引き渡さないために手を尽くしたのも好感だ。前半終了間際のダミアンの負傷に対して小林をすぐに入れたことは、追加タイムでの失点が多い今季においては大事なことだし、後半パワー系のFWを入れてくる福岡に対してすぐにベンチから番号札でマーカーを指示(今までやってたっけ?)するなど細部で流れをもっていかせないようにする意地を感じられたのはとてもよかった。

 ただ、前線と中盤の守備における矢印の見えなさは継続課題。クリーンシートで終えられない理由はこの明確な課題について解が得られないから。1点勝負の試合が増えるであろう終盤戦の前に解決しておきたい課題である。

試合結果
2022.8.20
明治安田生命 J1リーグ 第26節
アビスパ福岡 1-4 川崎フロンターレ
ベスト電器スタジアム
【得点者】
福岡:22‘ 山岸祐也
川崎:7’ 45‘ 64’ マルシーニョ, 73‘(PK) 家長昭博
主審:清水勇人

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