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「あと2つ、まだ2つ」~2023.8.30 天皇杯 準々決勝 アルビレックス新潟×川崎フロンターレ レビュー

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レビュー

登里の復帰でスムーズな左

 クラブ史上初という天皇杯ベスト4のチャンスという大舞台を前にしても、松橋監督は大きくスタンスを変えず。カップ戦では大胆ターンオーバーという今季の運用に則り、直近のリーグ戦から11人をフルで入れ替える形で川崎を迎え撃つ。

 一方の川崎は4人のメンバーの入れ替えを実施。ターンオーバーというよりは札幌戦の後半のメンバーをベースに新潟相手に適正化を図ったという印象だった。

 フレッシュなメンバーを揃えた新潟。プレビューではマンツーを予想していたため、入れ替えたメンバーたちだったらマンツーの傾向はさらに強まるかと思われたが、この試合では4-4-2ベースのアンカーを受け渡しながら守るシステムを採用する。

 バックラインに逐一プレッシャーをかけてくる形ではないので、川崎は空いているスペースからボールを無理なく運ぶことができる。立ち上がりの右サイドの前進は橘田への横パスをクッションとした裏抜けとなっていてなかなかスムーズなものだった。

 左サイドは登里の復帰が大きい。4-4-2の2トップの脇を車屋や橘田などに譲ることにより、自身はインサイドで受けるポジションを模索。彼が低い位置を取ると、CBは幅をとることはできない。この辺りは札幌戦の佐々木などがこの位置に立って、苦しんでいたのが印象的。車屋は明らかにやりやすそうだった。

 また、登里はパサーとしても優秀。自分が降りてくるアクションをするときは一つ、二つ先の動きを見逃さずにパスを出していく。左サイドは家長の参加もあり、空いている選手から運ぶという点では少しずつできるようになってきたと言える。

 その一方で家長を同サイドに置いたオーバーロードは狭いスペースに固執しがちな側面もある。新潟が中央に網を張っていたこともあり、プレスに引っ掛かる場面が目立つように。

 密集地帯においてターンしよう!という鬼木監督がインタビューで強調している姿勢は諸刃の剣。大きなチャンスを得る可能性があるものの、ロストすれば即ピンチに繋がる。脇坂のような好調な選手はこうしたアドバイスを前向きに昇華できると思うが、宮代はこの部分に苦しんでいたように思う。無駄なタッチが多くターンまでにかなりコストを要している様子であり、ロストの温床になっていた。7分のように脇坂を前に向かせるポストのような方向性で進んでもいいのかもしれない。他の選手に前を向いてもらう助けをするのも非常に重要なスキルだ。

 ロストをしてもアンカーの橘田を中心に川崎は即時奪回に成功。高い位置から潰し切るというプレーには復活の兆しがある。新潟は中央でボールを奪う密度を上げるために2トップのプレスバックを利用していた感があったため、反攻に出ようにもなかなかうまくいかない状況が続く。

 攻め込み続けるメカニズムは保持でも即時奪回でも見られるが、肝心のエリアに迫っていく動きには精度も連携も見られず。川崎はボールを持ちながらなかなかうまくいかないボール保持をトライし続けるフェーズが続く展開に。

プレスできっかけを作る新潟

 川崎のプレッシングは4-3-3ベース。新潟もいつものようにCHが縦関係になりながら、CBと連携しつつショートパスで前にボールを進めていきたいというスタンスである。川崎は宮代をスイッチにマルシーニョが追随する形でプレスの圧力を高めていく。

 ボールを奪い切るという観点で言えば、なかなか強度面で難しい部分があったのが正直なところではあったが、後ろを見ながらプレスに行くことができた分、簡単にスペースを開け渡すことはなかったし、仮に前に運ばれても戻りが間に合わないケースは稀だった。

 奪えないのなら、高い位置に出ていく必要はないのでは?と思うかもしれないが、ミスに漬け込むということを考えると、出ていく意義は大いにある。新潟は構造的に空いている部分があったとしても、そこに正確にボールを届けるというスキルの部分でなかなかうまくいかず。マルシーニョ、家長といったWGの裏に立つSBに叩くプレーはそこまで成功率が高くない。よって、ボールを奪う可能性は十分にあった。

 バタバタとしたビルドアップを見るに、ボールを引きつけながらプレーできる千葉と他の新潟のDF陣ではプレッシャーを感じずにプレーできる間合いが違っているのかな?と感じた。同じような間合いで余裕を持って捌く千葉の次の選手がバタバタしてミスが出るというのもこの試合でよく見かけたシーン。中盤で前をむくことができれば、川崎のDF陣を置き去りにすることもできそうだった新潟だが、なかなかそういう場面は訪れなかった。

 よって、基本的に試合は川崎の保持を軸に進むことができていた。だが、往々にしてそうした状況は一つのプレーであっさり変わってしまうこともあるのがサッカー。きっかけになったのは大南のパスミスだろう。右の外から追い込むような形にパスを引っ掛けてしまい、あわやという大ピンチ。

 新潟はこのシーンで前プレへの自信を持った様子。その直後のプレーでも高い位置からのボール奪取に成功し、谷口が背を向けてパスを受けつつ反転しながらシュートに持っていった。

 大南としてはパスを引っ掛けたこと以上に谷口に吹っ飛ばされたシーンの方が死活問題。非保持での強度面で問題が出てきてしまうと、保持でのトライの担保ができなくなってしまう。

 先制点で勢いに乗る新潟と明らかに萎縮する川崎。川崎が制御しつつチャンスを伺うといった前半の姿勢はあっという間に姿を変え、新潟にとってポジティブな形で前半を終えることとなった。

精度は頻度で解決

 後半の川崎は宮代に代えて小林を投入。プレスの番頭役を入れた川崎は前半のリスクとリターンを天秤にかけていたスタンスを返上。リスク上等でのハイプレスを仕掛けて強引にボールを奪い返しにいく。

 相変わらず、WG裏のSBは空いている川崎だったが、前半以上に時間的な制約をかけられていたこともあり、新潟はなかなか自在にボールを運ぶことができず。川崎が再び押し込むためのチャンスを手にしたと言えるだろう。三戸、小見といった独力で運べる選手にボールが渡った際は一気に危ない場面になることもあったが、一発で解決しようとするロングボールに対してはCBを軸に落ち着いて跳ね返すことができていた。55分の三戸の侵入のように車屋はやや判断が危ない場面もあったが。

 小林、瀬川と前半からハーフタイムにかけてオフザボールに持ち味のある選手を投入した川崎だったが、裏への抜け出し一辺倒になりがちでなかなか効果的にボールを引き出すことができない。どちらかは表で受けるなど、裏への動きをフリにして手前の動きを織り交ぜてもよかったかもしれない。

 瀬川はこの試合ではかなり苦戦。左サイドでの動き出しでもなかなか味方と息が合わず、相手を外してパスを受けることができない。よって、攻撃の比重は右に偏ることになる。

 大外に張った家長からのクロスはなかなか精度の高いものとは言えなかったが、川崎からすれば他に前進のルートが見えない状況。小林、瀬川とクロスに対してインサイドに入り込む枚数を作ることができていたことを踏まえれば、家長のクロスに傾倒するのはわからないでもない。

 山根のサポートランが少なかった感じはしたが、家長の対面の田上が特に左足からのクロスを警戒するように守ることをしていなかったため、特に問題にはならず。精度は低いとはいえどそこは家長なので、短い時間に7回も8回もクロスを上げることを許せば、川崎はチャンスを作れる。クロスがうまく繋がった1回目は小林が決めることができなかったが、2回目を瀬古が沈めて試合を同点にすることに成功した。

 失点をした新潟はビルドアップでバタバタ。この辺りは川崎の失点時のリアクションと一緒。なかなか立ち直ることができない。しかしながら、川崎は効率的な攻め所を見つけていたわけでもないため、プレスの強度が弱まってしまえばそこで終了。というわけで試合は徐々に一進一退の攻防が始まることになる。

 ハイプレスを交わすことができれば新潟は前進ができるように。ハイプレス意識でさらに間伸びする川崎のスペースに対して、時間の経過とともに押し返す場面が出てくるようになる。右の大外から上げるファーへのクロスは明確な狙い。4バックで外が弱くなる+川崎のDFラインが簡単にボールサイドにスライドする傾向があるため、この狙いはとてもよく効いていた。

 両チームともに右サイドからファーへのクロスという形でチャンスメイクをしていくことになった後半の展開。川崎のプレスも案の定かからなくなったため、終盤はかなりフラットに両チームともチャンスを作るようになっていく。しかし、どちらのチームも試合を決めることができず延長戦に突入する。

 延長前半は新潟が押し込む展開だった。川崎は中盤の押し上げができない状態が顕著に。普段はアンカーのシミッチが途中交代から中盤のプレスの1番手の役割を担っていたのが運動量の低下を示唆している。シミッチはラインを上げるために出ていきつつ、自分が空けたスペースを自分で埋めるという非常にハードな役割を担っていた。

 中央でのパス交換でこじ開けたい新潟はシミッチを浮かすことができるかどうかが生命線。バイタルへの侵入からシュートを放つが、体を放り出す川崎のバックラインが最後のところで自由を許さない。

 押し込まれた川崎はそもそも陣地回復ができない状態が続く。トップを小林から山田にポジションを入れ替えるなどのマイナーチェンジを行ったが、効果は限定的。

 やはり、押し返す決め手になったのは延長後半の3バックへのシフトだろう。強制的に大外に幅をとり、中盤でのスカスカさを受け入れることでエリア内と大外にボールを集めるやり方。まさになりふり構わない状況だった。

 すると、サイドから浅めの段階で中央に入れた小林のクロスを山田が反転してシュート。時間帯的にもプレー的にもスーパーなゴールを山田が決め、川崎が一歩リードする。

 どこまで狙ったものかはわからないが、やたらと対空性能が高い布陣になった川崎のバックライン。新潟のクロス攻勢には相当柔軟に対応できるかのよう思われた。そんな流れからラストプレーで同点弾を決めた新潟。延長では相当粘り強い戦いを見せていた早川にとっては非常に嬉しいゴールになっただろう。川崎はソンリョンが飛び出すタイミングが遅れてしまい、ゴールマウスをぽっかり空けてしまった。

 試合はPK戦に突入。最後の失点に絡んでしまったソンリョンが2つのセーブを決めた勝利の立役者。新潟のベスト4挑戦への扉を閉め、川崎が準決勝にコマを進めた。

あとがき

 カップ戦は結果が全て。というわけでケチをつけようはない。内容面でも底を脱した感はあるだろう。それでも繋ぎにおける個人戦感はまだまだ続いており、ターンは独力で!という形で好調なところを探り探りで進んでいっている感がある。コンペ的な目標はカップ戦に定まった感があるが、ユニットの再構築のところはリーグ戦で上積みが欲しいところだ。それにしてもあと2つ。いや、まだ2つか!と思えるくらいハードな準々決勝だった。

試合結果

2023.8.30
天皇杯 準々決勝
アルビレックス新潟 2-2(PK:3-4) 川崎フロンターレ
デンカビッグスワンスタジアム
【得点者】
新潟:30′ 谷口海斗, 120+1′ 早川史哉
川崎:68′ 瀬古樹, 109′ 山田新
主審:荒木友輔

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