Fixture
明治安田生命 J1リーグ 第27節
2022.8.7
川崎フロンターレ(5位/11勝4分6敗/勝ち点37/得点32/失点25)
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横浜F・マリノス(1位/14勝6分3敗/勝ち点/得点50/失点25)
@等々力陸上競技場
戦績
近年の対戦成績
直近5年間で川崎の5勝、横浜FMの3勝、引き分けが3つ。
川崎ホームでの戦績
直近10戦で川崎の6勝、横浜FMの3勝、引き分けが1つ。
Head-to-head
川崎にとっては首位追撃のラストチャンスかもしれない大事な一戦である。2014年以来のリーグダブルを横浜FMが達成すれば、彼らはリーグ上位との2回目の対戦を無傷で終えることになる。
直近の成績では川崎の方が優勢であるが、横浜FMの直近の勝利はいずれもインパクトが強いもの。共に4得点以上である。川崎は得点をコンスタントに決めていることが特徴で無得点で神奈川ダービーを終えたのは2017年が最後だ。
どちらかが首位を迎えた試合での対戦は首位側のチームの成績の方がいい。唯一、首位のチームが敗れたのは2013年の等々力での対戦。最終節で横浜FMの優勝を川崎が阻んだ因縁深き試合がたった1つの例外になっている。
スカッド情報
【川崎フロンターレ】
・大島僚太はふくらはぎの負傷で6週間の離脱。
・コロナの陽性反応でトップチーム関係者10名以上が陽性反応。復帰は不透明。
【横浜F・マリノス】
・宮市亮は右ひざ前十字靭帯断裂で今季絶望。
予想スタメン
Match facts
【川崎フロンターレ】
非常に大事な大一番だというのに、川崎は低調な状況になっている。公式戦では直近6試合で1勝しか挙げておらず、クリーンシートも1つだけ。本来は得意であるはずの試合終盤での失点が多く、このせいで落とした勝ち点はかなりの数にのぼる。
ホームでは3試合負けなしで計10得点と好材料がないわけではない。首位とのチームとの対戦にもめっぽう強く、直近6試合で1敗のみ。その1敗が2019年の等々力での神奈川ダービー。横浜FMに4失点の大敗を喫した試合だ。
横浜FMキラーといえるのは家長昭博。キャリアで10得点と最も得点を挙げている相手であり、相性はいい。直近の横浜FM戦でも4戦で4得点、1アシストとかなり得点に絡んでいる。窮地に期待のかかる救世主としてチームを救ってほしい。
【横浜F・マリノス】
リーグ戦では9試合負けなし、そして9試合連続複数得点とリーグ1の得点力をいかんなく発揮し、2位に8ポイント差の首位に付けている。チームは絶好調といっていいだろう。
ケチをつけるとしたら失点の多さだろうか。特にアウェイでは際立っており、直近4試合は全て複数失点で10失点はかなり多い。それでもビハインドから取り返す力は十分。横浜FMで追いかける形で得た勝ち点はおよそ13。C大阪と並んでリーグ最多である。
レオ・セアラは今季はアウェイでのゴールが80%と縄張り荒らしに目覚めた様子。敵地での得点数はリーグトップだ。横浜FMが直近で川崎に大勝している2019年と2022年を比較すると、どちらかも仲川がスコアラーというのは共通点。ラッキーボーイ化している仲川は今年も得点を決めるだろうか。
予習
第21節 C大阪戦
第22節 鳥栖戦
第23節 鹿島戦
展望
■均質性の担保で薄まるドリブラーの存在感
前節のリーグ戦では鹿島アントラーズ相手に圧倒的な力を見せてのワンサイドゲームでの勝利。首位攻防戦での完勝で見ているファンに「横浜FMこそ終盤戦の主役である」というのを印象付けた一戦となった。
優勝に向けてひた走る横浜FMの最大の武器はやはり充実のスカッドだろう。先日のE-1選手権に7人の招集を受けたことや、週中のルヴァンカップ広島戦ではスタメン10人を入れ替える大胆なターンオーバーを施すなど、多くの選手のスタメン起用から結果を出している。
ルヴァンカップは結果的には敗れてしまってはいるが、既に夏まで来ている段階で10人を入れ替えるというのはなかなかできないことではある。というよりも、こういう場でこうした大胆な入れ替えを行うからこそ、今日のような骨太なスカッドが出来上がるといえるのかもしれない。
そうした大きいスカッドを目指した運用の結果、得ることが出来たのは均質性の高さである。今年の横浜FMは多くの選手がオフザボールのポジションとりに長けており、この部分は誰が出てもある程度質を担保できる部分である。
それが如実に出ているのがボールホルダーに対して周りが提供する選択肢の多さだ。安全策も提供しつつ、局面を1つ前に進められるような動き出しも並行して行う。
崩しとなる勝負のパス、やり直しとなるバックパス、この次のパスで勝負するための横パスなどホルダーが選べるパスの種類はかなり多い。その結果、いい意味で今の横浜FMはドリブラーの存在感が薄い。なぜならば、大外においてもドリブラーが1枚頑張って剥がさないとどうにもならない状況が少ないからである。
余談になるが、三笘が移籍して以降の川崎についてファンの中から「強力なWGがいないから4-3-3」は無理という話を耳にすることがある。だけども、この横浜FMを見ればそうした問題がシステムに帰属しないことがわかるだろう。別に彼らは4-2-3-1(そもそもこの横浜FMの保持をこの数字にカテゴライズして収納することに違和感がある)だからこういう崩しができるわけではない。ホルダーに対するサポートを被らずに効果的にできているから強力なWGがいない盤面でもサイド突破ができるのである。
川崎だってやろうと思えば同じポテンシャルを持っているとは思う。ボールスキルは引けを取らないだろう。システムについてあれこれ考えること自体は別に悪いことではないが、「強力なWGがいないのなら4-3-3攻撃はなり立たない」のならば4-2-3-1に変更することでその問題点が解消できるとは思わない。
この件に関しては結局はホルダーと受け手の関係性構築をどう設計し、体現するかの問題。システムはその手助けにしかならない。前提が変わらなければ4-2-3-1だろうが、4-3-3だろうが強力な突破力があるWGの不在に帰着するのは同じだと思う。
話を元に戻す。そうした保持における選択肢を大事にしているチームになった結果、横浜FMは以前よりもゆったりとしたポゼッションを志向するようになったといえるだろう。ショートパスをつなぎながらフリーマンを作ろうとする意識は開幕の時点よりもはるかに高いといえそうだ。
CH、SB、そしてトップ下の西村を軸に内外のレーンを被りなく使えるのが特徴。どのポジションに誰が入るというよりもそれぞれがその時々で一番自然なポジションに無理なく入っていけるのが彼らの強みだ。決まったボールの動かし方のルートがあるチームよりもこうした戦い方ができるチームの方が対策を立てにくいのは言うまでもない。
その上、中途半端に速い攻撃を仕掛ければ返り討ちに合うのが関の山。前節の鹿島がその典型でスンテのゴールキックが跳ね返されたところから手早く先制点まで運ばれてしまった。このスンテのキックをミスの次元まで引き上げられる精度でカウンターができるチームがどれだけあるかは気になるところである。
上ではまるで横浜FMからドリブラーが消えたような物言いをしたが、依存度が下がっただけで、WGの爆発力自体は下がっているわけではないのも厄介だ。鳥栖戦では仲川が田代とミスマッチを作ったことによりPKを得たし、C大阪戦で途中交代で入ってくるエウベルもギアをあげるカードとしての効果は抜群。対面するSBに本職の選手が万全で入る見込みの薄い川崎にとってはここへの対応にも頭を悩ませることになるだろう。
■中央から動かせるかどうか?
川崎視点からすると、はっきり言って最悪のタイミングで最悪の相手に当たってしまったという感想しかない。ただでさえ、強度の面では今季は差があるシーズン。その上で向こうはミッドウィークに10人を入れ替えてプレータイム調整を実施、こちらはその日暮らしの11人を並べるので手一杯。この週末までにコンディション面での差は広がったとみるべきだろう。
浦和戦やC大阪戦でも書いたが、仮に極端な強度ゲーに引きずり込むような戦い方をされてしまったらジ・エンドである。90分間の運動量と5人の交代枠をフルに生かす戦い方をされてしまったら、勝ち目は薄くなる。
それであればまず必要なことはある程度ボールをにぎりながら主導権を確保することだ。横浜FMの保持で狙いやすいのは西村と2CHのユニットである。彼らはボールホルダーに揺さぶられることが多い上に、サイドまで出ていく傾向が強い。その割には逆サイドの絞りの選手が薄く、この部分は足並みがそろわない状態になることが多い。
よって、川崎が狙いたいのはサイドにボールを寄せて中央で起点を作りやすくなるようなボールの動かし方をすること。中央のユニットの食いつきの良さを利用して、サイドから中央への横パスを通して前進の起点を作ることである。
プレッシングに関しても自分たちの保持で時間を作ることができる大きなポイントになる。横浜FMのビルドアップで警戒したいのは2つ。まずはバックライン。GKをCBが挟むようにしながら立つ横幅を使ったビルドアップだ。現実的に考えるとこの3人を川崎の3トップがマークし続けるのは無理がある。
実際、ルヴァンカップのC大阪戦ではトップの山田がジンヒョンとアンカーの鈴木のどちらをマークすればいいかわからなくなり、中央から前進を許した場面もあった。横浜FMも当然そうした場面は狙ってくる。GKまでの深追いの機会は限定的にすべきで、中央でのプロテクトを固めたい。
もう1つ警戒したいのはCHのサイドに流れる動きだ。これを川崎攻略の定番であるWG裏への侵入と組み合わされるとめんどくさい。横浜FMのCHが外に開く動きは多くの場合、SBが内に侵入する動きとセットになっている場合が多い。川崎のWG裏はIHが出ていくという決まり事があるため、外に釣りだされるのに利用されてもおかしくはない習性だ。
それに加えてトップ下の西村もフリーダムにポジションを取る。こうなるともはや乱数だらけ。誰がどこまでついていくのかは難しい。オールコートマンツーにすればそうした心配はなくなるが、デュエルで川崎が勝利を見込めるのかが怪しい点と、そもそも体力の温存のため保持の時間を増やしたいのに、取り返すためにオールコートマンツーのような負荷の高いやり方を選んでは本末転倒感がある点であまり推奨は出来ない。WG裏というスペースを消しやすくする4-4-2への変更は一手かもしれないが。
というわけでこうすればOKというような対策は机上の空論ですら思いつかない。彼らの攻撃を食い止めながら、少しでもゴールに向かえるやり方を見つけるという難易度の高いことを万全でないコンディションでやるしかないのである。
近年は毎年順位予想をやっているのだが、つくづくJリーグは前評判があてにならないリーグだと毎年痛感する。去年の今頃は夏の移籍で川崎は失速し、横浜FMが逆転優勝するという見立てが大半だった。が、現実はそうはならなかった。
この試合の前評判も同じだ。横浜FMが勝つと思っている人の方が圧倒的に多いはず、そして今季の優勝も横浜FMと考える人は増えているはずだ。
こういうシチュエーションを裏切ってこそのJリーグである。「ああ、予想通りにならないな」と多くのファンに見る目のなさを痛感させるために川崎は出来る限りの準備をしているはず。「これでこそJリーグ」といえるような予測できなかった結末を描くことが川崎に残された逆転優勝のための最後のシナリオといえるだろう。