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レビュー
■マルシーニョを活用する下準備
Covid-19の感染者が出たことにより中止となった広島戦が先々週の水曜日に組まれた関係で、今J1で一番忙しいリーグ戦を過ごしているG大阪。対する川崎は逆に水曜日の鳥栖戦が中止になったことで日程面では直近1週間では猶予がある状況。
よってこの試合はJ1で一番過密なチームとJ1で一番直近の試合にゆとりがあるチームとの一戦。G大阪にとってはいささかアンラッキーといわざるを得ない巡り合わせになってしまった。
そうした状況であるため、G大阪としては選手を入れ替えながら試合を進めることを避けることはできない。ここまでの試合でも少しずつではあるが、メンバーを入れ替えながら試合を進めていた。
そんな片野坂監督はこの試合では比較的大胆に選手を入れ替え。石毛、黒川、坂本など直近の試合で重用していた選手をベンチに置く決断をする。ちなみにギョンウォンは前節に続き2試合連続の欠場なので、軽い負傷やフィットネス不足などの問題を抱えている可能性がある。
この試合は大きくメンバーを入れ替えただけでなく、フォーメーションも変えてきた片野坂監督。ここ数試合続いていた5バックではなく、4バックにしてこの試合に臨んだ。
しかしながら前から相手を潰したい!というG大阪の狙いは変わらない。メンバーを入れ替えながらも高い位置からプレスをかけて前からのプレスに打って出る。
その一方で川崎はこの試合では大島が欠場。アンカーに橘田を据えるという6月の中断前の風情のフォーメーションだった。前線も遠野、小林ではなく、マルシーニョとダミアンを起用。このあたりの優先度がアンカーの人選と噛んでくるのかは定かではない。
ダミアン、マルシーニョのトップでの起用において、川崎が得られるものはズバリ少ない手数での前進だ。相手を背負えるダミアンと裏を取れるマルシーニョの2人がいれば単純な長いボールでも競り勝てる可能性はある。
この日の川崎の保持の組み立てがよかったのはロングボールでの逃げ道を用意しておきながらも、ショートパスで相手のプレスを回避しすることもあきらめなかったことである。苦しい状況でロングボールを蹴らされることになってしまえば、川崎としてはボールを捨てるだけになってしまう。
ボールをつなぐ過程において重要な役割を果たしたのがチャナティップ。低い位置まで下りてからボールを受ける頻度を増やすスタイルは変わらないが、変わったのは判断の部分である。チャナティップの難点は強引なターンを仕掛けすぎてしまうこと。低い位置に降りてのプレーが増えた分、強引なロストはカウンターの起点にもなりうる。
チャナティップがここ数試合でよくなったのはこのターンを含めた選択肢を適切なタイミングで選択できるようになったこと。背中で相手を背負いながらのパス交換でフリーになる選手を作り出す、もしくは自分がフリーになる。
G大阪の守備は4-4-2ベース、かつ2トップは川崎のCBにプレスに行くため、中盤は恒常的に数的不利。G大阪がバックラインからチャナティップのマーカーを捻出する判断をした場合、チャナティップの降りてくる動きにはどうしても遅れが生じやすい。仮に自身へのプレスが弱いと感じたら、チャナティップは自らターンを選択することもできる。少ないタッチで味方をつかうことを覚えたことで元来の武器も使いやすくなった印象だ。
先制点はそのチャナティップが起点になったもの。対面の齊藤を剥がしながらパスを出す隙を作り、裏に抜けるマルシーニョにボールを送った。ボールを受けたマルシーニョはアウトにかけてダミアンにラストパス。東口に弾かれながらも無事に決めきった。
先制点の場面はここ数試合で見られるチャナティップの好調とチームとしての前線の武器がうまく噛み合ったシーン。マルシーニョの裏抜けというここまでのチームが安易に頼ってしまった武器を、使う下準備を整えてから活用できた場面といっていいだろう。
ちなみにこの試合の立ち上がりは家長の動きも興味深かった。この日は定点攻撃では比較的右に張ることが多かった家長だったが、カウンターにおいては中央でトップ下のような振る舞いをすることが多かった。これにより縦パスを引き出す役をダミアンから引き受けたことで、ダミアンがよりゴール前に集中できるようになった。
左サイドで裏を抜けるマルシーニョを使う際の課題は彼のスピードに対してフィニッシャーがエリア内に入り込むのが間に合わないことである。内に絞った家長は幅を取れない代わりにスピードアップした時のエリア内のフィニッシャーを担保できる。この点においても川崎はマルシーニョという武器をどう生かすかを考えられているように思えた。
■大外にポイントを作るメリット
G大阪側からすると序盤から対応はうまくいかなかった。ハイプレスはかかり切らず、川崎のバックラインにパスワークで振り切られてしまう。肝心のマルシーニョは対面の福岡が離して守ることが多く、マルシーニョがボールを持つたびに撤退を余儀なくされた。
G大阪の守備は最終ラインが比較的ボールサイドに寄ることが多いのだけど、普段3バックの右を務めることが多い福岡はちょっとマルシーニョに対して寄せ切れなかったように思う。若干3バックのノリで守っているように見えた。もっとサイドに圧縮してボールを出させない形にチャレンジしてもいいのかなと思った。
というわけで遅攻においては大外にポイントを作ることが効果的だった川崎。4バックで挑んだG大阪に対して大外の選手を軸としてサイドチェンジをぽこなうことで、インサイドを広げる形である。遅攻でも押し下げることが出来た川崎はG大阪に波状攻撃を仕掛ける。
そのさなかで起こったのが奥野の退場だ。川崎からボールを奪回した後のパスワークがズレたところに奥野はスライディングで突っこんでしまった。足を最後に上げたのは勢いを少しでも緩めようとする工夫だろう。しかしながら、足を折りたたむ動作が少しでも見られない限りはイエローで済ませるのは難しい。VARのサポートによりOFRが行われ、退場することとなってしまった。
10人になった直接原因は奥野の未熟なタックルではあるが、間接的な要因はG大阪のポゼッションにあるだろう。川崎が仕掛けてきた外切りハイプレスに対して解決策を見出すことが出来なかった印象。かろうじてWG裏のSBにボールを届けられるシーンはあったが、SBへのボールが高いロブになっているせいで川崎のIHのスライドが間に合ってしまったり、左の藤春は時間をもらってもどうしたらいいかが少しピンと来ていない様子にも見えた。
退場者を出したG大阪は4-4-1でプレーする。11人でも守りは後手を踏んでいたため、10人だとなお辛い。川崎は大外をきっちり使うことをサボらなかったため、陣形は押し下げられてしまう。その上、トップに入るのがJリーグ初先発の南野だというのだから、陣地回復を彼に任せるのは少々厳しいだろう。
そんな中で川崎は2点目。サイドを使っている最中に中央に縦パスを入れるスペースを見つけたのは脇坂。ダミアンへの速いパスを付けると、受けたダミアンが緩急をつけたラストパスでマルシーニョへお膳立て。これで2点目。マルシーニョのシューとは見事なニア天井の打ち抜きだった。
マルシーニョ以外にも裏抜けの量は比較的活発だったこの試合。少なくともこれくらいの量は最低水準としてメンバーが入れ替わったとしてもやっておきたいところである。
2点のビハインドを負った片野坂監督がひねり出したのは4-3-2。4-4-1でも中央を割られてしまった2失点目の形に業を煮やしたのか、よりアグレッシブな形での解決を狙っていく。この段階で勝ち点を狙うならば逆転狙いとしてはわからなくもない手である。
だが、川崎にとってはSBにボールを付ければG大阪のIHのスペースが空くというおいしい展開である。この日は特に左の佐々木がマルシーニョが内を取った時に大外に入り込むのがうまかったため、G大阪に中を守ることに集中させなかった。
川崎の3点目は大外に張った佐々木から。脇坂へのマイナスのパスは防げるとしたら倉田がいたポジションではあるが、ハーフスペースの裏抜けを見せられてしまっているせいか、サイドにスライドしてしまっていた。この場面も川崎がきちんと大外を使えていたことの証拠だろう。川崎はCKから家長のバイシクルをきめてこの日4点目。前半のうちに試合を決定づけた。
■左サイドのポゼッションになじんだ復帰戦
4-3-2と4-4-1を併用しながら反撃を試行錯誤していたG大阪だが、30分過ぎに投入したパトリックをトップに置く4-4-1という形でこの試合の残り時間を過ごす意思が決まったよう。試合後のインタビューを聞く限りは倉田が監督に「これでは守れない」と進言したようである。4点ビハインドで迎えた後半も同じ形で迎え撃つ。
川崎もうまくいった前半の流れを踏襲する後半に。後半立ち上がりのチャナティップと橘田のパス交換からの逆サイドへの展開などはこの日のスマートな前進を象徴するものだった。
サイドに流れるパトリックを抑えるのは川崎にとってはハードなミッションであるものの、そこを唯一の突破口として陣地回復を行うことはG大阪にとってはさすがに無理がある。
だが、川崎がパスミスから好機をくれれば話は別。サイド攻略から中央にパスを刺す前の段階において、シンプルな横パスがズレてしまうことが多かった。この試合では幸い得点につながることはなかったが、相手の希望となりうるミスを自ら与えてしまうことを繰り返せば、ペースが落ち着いたと思った試合がよみがえってしまうこともある。要警戒である。
実際、11人という数の有利はあるものの、押し込まれた場面では危ないシーンもあった。外へのケアでIHがお留守になった中央が空いてしまい、パトリックがポストできそうなシーンなども見受けられた。こういう場面を見ると、やはり川崎のブロック守備には課題が残るという印象だ。
ハイラインの守備においては車屋と谷口共にG大阪の前線にうまく対応。冷や汗をかいたのは山見をひっかけてファウル判定を受けた前半の谷口くらいのものだろう。パトリックは守備側から見て左サイドに流れることが多い選手なので車屋や佐々木への負担は大きかったが、挟み込みながらうまく対応をすることが出来た。
終盤の川崎は左サイドにボールを集めながらのポゼッションで時間を溶かす振る舞いに。逆にG大阪は倉田や小野瀬を下げるなど、この試合どうこうというよりも連戦におけるプレータイムの調節の意味合いが強いマネジメントに舵を切ったように見えた。
川崎にとってのこの試合の終盤の大きなトピックは登里の復帰だろう。終盤のポゼッションタイムにおける司令塔を問題なく担うことが出来ており、保持面での活躍はすぐに見込めそう。相手との間合いの遠さは少しブランクを感じるが、このあたりは試合を重ねていくうちに改善されていくだろう。登里の復帰はこの日の川崎の大勝に花を添えたといえるものになった。
あとがき
■プラン崩壊もコンセプトは気になるところ
プレビューでも触れた通り、直近のG大阪の戦い方にはどちらかといえば好感を持っているので、苦しい日程の中で少しでもいい結果を出したいところ。この試合は退場の時点ですでに先制点を奪われているというのが状況を難しくしてしまった感も否めない。勝ち点1狙いで引きこもることが許されない状況で10人で80分を戦うのは厳しい。
G大阪のプランは早々に崩壊してしまったので何とも言えないが、4バックでのハイプレスは11人で続けていたとしてもこの日の川崎には厳しかったかなとも思った。サイドに人数はいたけども、WBとIHで挟むようにサイドでスペースを圧縮するのがG大阪のプレスの良さ。サイドに人を縦に並べたい気持ちはわからないでもないが、その良さがあまり出る形のようには思えなかったのは残念である。
■手ごたえを感じる攻撃の雛形
得失点差を考えればもう少し後半にも得点は詰んでおきたかったが、一応これでリーグ2位の得失点差になったのでノルマは達成といっていいだろう。横浜FM相手にこの得失点差をひっくり返すのは実質不可能。逆転優勝よりもはるかに難易度が高い。
プレビューでこの試合のテーマは自分たちのペースの持続力と掲げた。10人で80分という特殊状況下であったことは否定できないが、それでもボールを握り続けて90分主導権を渡さなかったことは評価したい。
この日のようにポンポン得点を作り出せるかは別の話だが、大外の使い方とチャナティップが降りる形を活用してのビルドアップ回避など、今後の川崎にとって攻撃の雛形になりそうな形はいくつか見ることが出来た。自分たちの時間でどう崩すかの質の部分でも上積みが見えた試合といっていいだろう。あとは質の安定性を高めることに加えて、11人の相手にどれだけ持続力を持った戦い方ができるか。ここがこの夏のポイントになるであろう。
試合結果
2022.7.9
J1 第21節
川崎フロンターレ 4-0 ガンバ大阪
等々力陸上競技場
【得点者】
川崎:6‘レアンドロ・ダミアン, 19’ マルシーニョ,30‘ 脇坂泰斗,36’ 家長昭博
主審:飯田淳平