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「活かせなかった糸口と隙」~2022.7.30 J1 第23節 浦和レッズ×川崎フロンターレ レビュー

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目次

レビュー

■中の対応よりも上げさせたことが問題

 たった5人しかいない川崎の交代選手のうちの3人がGK。GKはコロナウイルスへの免疫が高まるポジションという新しい陰謀論を流したい気持ちになるようなポジションの偏りである。

 そんな冗談を言うのも憚られるくらい、このメンバーを見れば川崎が苦しい1週間を過ごしたことは明白。試合を見るとさらにそれが強く感じられる内容だったと言うのもまた切ないものである。

 立ち上がり、浦和はワンプレー目をきっかけに川崎陣内に攻め込んでくる。敵陣に押し込んだことを利用して、ハーフコートゲームに押し込む流れに持ち込んだ。

 川崎のビルドアップを封じるべく、浦和が高い位置から捕まえにいく戦い方をしていたかは判断はつかない。なぜならば、ここまでラインを高くしながら敵陣に押し込むことができれば早い段階で即時奪回に挑むのは、戦術上の工夫というよりも一般的な原則と言えるレベル。戦い方を仕込まれたという次元と見做していいかはわからないからである。

 川崎は自陣からなかなか脱出することができない。先制点を献上するまでの間のプレーを見てみると、脱出のチャンスがあったのは2分の脇坂がボールを持った時である。だが、このシーンにおいては脇坂はバックパスを選択。安易にボールを下げて浦和のプレスを引き込んでしまった。

 この場面に限らず、前半の脇坂は相手に体をぶつけることを嫌い、前へ進よりも後ろ向きのプレーを選択することが多かった。代表組は強度を維持できた練習が積めていたのかと思ったが、彼の場合は蓄積疲労の方が大きかったのかもしれない。

 というわけでハーフコートゲームに持ち込んだ浦和。撤退した相手を前に右サイドのモーベルクにボールを持たせて勝負を挑む。3分の得点はモーベルクの右足から放たれたクロスに伊藤が合わせたもの。右のモーベルクを生かす形も、上がるクロスに2列目から伊藤が飛び込んでくる形も浦和の得意なパターン。得意な形を存分に生かした先制点となった。

 川崎からするとモーベルクにあのクロスを上げられた時点で詰みである。谷口はエンドラインからドリブル突破の可能性があることを考えれば、伊藤に張り付くわけにはいかないし、あの軌道のクロスではバックステップを踏もうが間に合わないのは当然だ。



浦和×川崎、先制ゴール時に起こっていた“ギャップ” カギを握った“利き足”「ポジションを取りなおそうという時に上げられた」


浦和レッズは7月30日のJ1リーグ第23節で川崎フロンターレに3-1で勝利した。試合の流れを大きく左右した先制点の場面につ


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 となると、クロスを上げさせたのがまずかったことになる。上記の記事では谷口のコメントをもとに「モーベルクの左足に警戒した結果、縦にいかせてしまった」ことになっている。

 だが、この場面は橘田とマルシーニョがダブルチームについており、それぞれ切るべき足が分担されている。その上、すでに橘田がゴールシーンの前にエンドライン側から右足でクロスを上げられていたことを考えると、橘田が縦への警戒がなかったとするのはいささか無理があるように思う。

 よってわかっていても上げられてしまったと考えるのが妥当なように思う。それでも、失点の要因という部分で考えるとこのクロスを上げられてしまったことが大きいことは避けられない。ただ、その上でSBに抜擢された橘田にどれだけ責任を負わせるかはその人次第という感じだろう。

■ペースを握れなかった要因は

 得点が入ると試合は徐々にフラットに。少なくとも、先制点が入って数分もすれば、浦和に明確なハイプレスの意思は無かったように思える。浦和は4-4-2でプレスにきたが、スーパーカップのように川崎の2CB+アンカーを3枚で潰しにくるようなプレス(下図)はなし。2トップがアンカーまで管理する形でのプレスとなった。

 アンカーがボディアングルに小回りが利かないシミッチであること、中盤で脇坂がデュエルを避けていたこともあり、川崎は序盤はサイドを自由に変えるのに苦労していた。

 それであれば縦にいきたいところではあるが、狭いスペースを高いするにも苦しいのがこの日の川崎。左サイドであれば、マルシーニョのフリーランなどは奥行きを作る貴重な手段であるが、この動きはこの試合ではほとんどなし。ボールコントロールも浮いてしまっており、貴重なチャンスを潰してしまうボトルネックになってしまうことも多かった。おそらくコンディション面は整っていなかったのだろう。ただ、ボールコントロールの方は浦和の選手も含めてかなりトラップするのに苦労していたので、ピッチの影響もあったのかもしれない。

 こうなるともう川崎は詰みであるはずなのだけど、そういうわけでもなさそうだった。なぜならば段々と川崎は幅を使った攻めができるようになったからである。浦和は川崎に対してボールを横に動かされることに無頓着だった。

 マルシーニョは酒井を縦にぶち抜けることはなかったが、横のタッチに対しては置き去りにできていたので、中盤を経由し家長までボールを届けることはできていた。同じく、シミッチを監視することが多かった江坂は簡単にマークを離してしまうことが多かった。よって、サイドを変えられるチャンスは十分に作ることができた。ピッチを広く使うことができた川崎は家長のペナ角からのクロスをベースに敵陣に迫るが、なかなか得点に繋がるクリティカルなものが合わない。

 ボールを持てるようになってはいた川崎だったが、完全にペースを握れていたかと言われると怪しい。というのはプレッシングの局面の息がバラバラだったからである。

 「プレスにいく!」と腹に決めることができた時の精度は十分だったと言えるだろう。浦和のバックラインには最も安定したビルドアップができるショルツが不在だったということもあり、川崎のプレスに対しては自陣を脱出できるスキルを見せることができなかった。

 むしろ、川崎にとって問題だったのは「プレスにいく!」と腹を決めることである。いつもであればCBにプレスに行くダミアンに呼応するように、パスの受け手になる浦和のCHに中盤の3枚がプレスをかけに行くのが鉄板なのだが、この日は後ろの3センターの動きがダミアンに追従しない。

 この弊害として川崎は岩尾にボールを持たせてしまうケースが増加。これにより、大きな展開からのプレス脱出を許してしまうことが多かった。このダミアンと3センターの息の合わなさは浦和の2失点目のトリガーとなってしまったと言えるだろう。

 失点シーンはフリーでボールを持った岩波に対して、遠野がプレスにかけに行ったタイミングでシミッチの脇に降りてきた松尾にパスを通されたのがきっかけである。

 この場面では脇坂がその直前にパスを受けた岩尾に近い位置をとり、遠野とシミッチが前がかりになった場面を刺されてしまった。

 正直、この日の状況であれば、3センターが無理にダミアンに追従したプレスを常に行う必要はない。体力の消費は抑えたいと思っても不思議ではないだろう。ダミアンを見殺しにして、しれっと撤退をするというのもアリといえばアリである。

 だが、それならば岩波が通せる中央にパスコースは封鎖しなければならない。通されてしまうのならば、プレスを控える意味もない。これだけ縦に間延びしているとジェジエウに潰しに出てきてもらうという策も実質ノーチャンスである。

 失点の直接要因としてはジェジエウのシュート前の動きの方が大きいとは思う。岩波→松尾のパスが通った後でもリカバリーは効く状況ではあった。が、その手前の段階の3センターの選択は非常に中途半端だったのも確か。この場面に限らず、行くべきところにいかなかったり、同じところに2人いったりなど、この日の川崎の中盤の守備の連携は厳しいものがあった。根底にはペース配分の意識があったことは否めないが、浦和にはそこを突かれてしまった。

■両守護神の美技の共演

 2点目のゴールは疑似カウンターチックな加速から生まれたもの。1点目に続き、浦和は得意な得点パターンで川崎を引き離したことになる。

 ここからはさらに川崎がボール保持の時間を増やすことになる。浦和は4-4-2ブロックを組みながらミドルゾーンでブロックを張りながら待ち構える形になっている。だが、マルシーニョの横移動やシミッチを開ける江坂など撤退意識を高めたとて、浦和は同サイドに川崎を閉じ込める傾向を強められたわけではなかったので、川崎にボールを持たせて回していたと言えるような展開ではなかった。

 ただし川崎もこの浦和が生み出した隙をなかなかつくことができない。攻撃の強度を上げられなかったのはもちろん、大きい展開においてのパスミスやレシーバーになるマルシーニョの不調など、フリーの状態でもボールをスムーズに繋ぐことができず、ここでもコンディションの悪さを露呈した。

 唯一、浦和のゴールを脅かしたと言っていいのは37分のダミアンの決定機。岩尾を振り切り、知念相手に粘り切った脇坂がダミアンにラストパスを送った。脇坂へのパスの出し手となった瀬古も秀逸だったが、脇坂のランがこの場面ではお見事。浦和の守備ブロックの得意ではないところをうまくついたランだった。

 この日、リーグ初先発となった知念だが、この場面も含めて安定感あるパフォーマンスだったとは言い難いだろう。ダミアン相手に体を当てるという点ではよくやっていたが、保持と非保持両方の局面で要所に不安定さが目立っていた。この場面においては西川のファインセーブがなければ3失点目のジェジエウと同じ憂き目にあってもおかしくはない対応だった。

 一方の浦和も直後にチャンス。ジェジエウのパスミスをきっかけにカウンターを発動した浦和は江坂がモーベルクにラストパスを送りチャンス。しかし、こちらもソンリョンが完璧な対応でループをシャットアウト。浦和の決定機を防いで見せる。2-0以降の前半は強度の低い展開になったが、2人のGKの美技の共演で大きな見どころになった。

■与えられた反撃の機会を掴みきれず

 前半の川崎を見る限り、パフォーマンスに難があるのは明らか。相手のプランと力量次第では逆立ちしても勝つことができない状況に追い込まれても仕方ない状況だった。

 川崎が避けたかった展開は大きく分けて2つ。どちらもボールを求めて追いかけまくる展開である。1つは浦和が保持で川崎を押し込み続けること。これは立ち上がりの浦和のイメージに近い。もう1つは川崎のポゼッションに対して絶え間なくプレスをかけ続けること。こちらのイメージに近いのはスーパーカップでの浦和の振る舞いである。

 しかしながら、後半の浦和は撤退意識を高めながら川崎にボールを持たせるというやり方を選択。カウンターから3点目を狙っていく形を捨てていなかったのは理解できるが、川崎に主導権を明け渡す選択をしたと言える流れだろう。

 実際、松尾のスピードを活かしたカウンターは川崎に脅威をもたらしていたし、谷口に冷や汗をかかせる形となった。松尾は前半から4-4-2の非保持の仕組みを維持するのに奔走しつつ、2点目を決めて、後半は陣地回復まで頑張っているのだからこの日の浦和の中ではかなり貢献度が高かったと言えるだろう。自分がMOMをこの日の浦和から選ぶならば松尾である。ちなみに次点は西川と地味にミスらない岩波。

 というわけで川崎は前半と同じく浦和のブロックに立ち向かうことになる。川崎は右サイドで明本の裏を取れる場面が増えてきたことでチャンスが広がる。岩尾、知念など浦和の同サイドのCHとCBは寄せてくる意識が薄く、対人守備の部分で難があったため、川崎は同サイドの侵入及び逆サイドへの展開は容易であった。

 浦和の右サイドにおいては中盤がDFラインに吸収されるのが早い分、バイタルエリアを空けてしまう機会が増加。川崎にミドルシュートを打たれる機会が出てくるようになった。

 加えて、川崎にとって後半の上積みとなったのは脇坂と遠野のパフォーマンス。自陣からのボール運びでライン間でボールを受けて、ドリブルでボールを前に運びチームを前に進める原動力になったことが大きい。脇坂は前半に見せたようなデュエルの逃げがなくなり、アタッキングサードにおいても動きが徐々に研ぎ澄まされるようになった。

 それでも結果が伴わないのはやはりエリア内の精度である。マルシーニョのトラップは流れてしまうし、家長はセットプレーからの決定機を逸してしまう。前半のダミアンのシーンもそうだったが、この日の川崎が勝ち点を取るためには、決定機を逃している余裕はない。ゴールに近づくシーンは試合前の想定よりも多かったが、仕上げのところに難があった。

 川崎は宮城、山村を続々と投入し、試合を巻き返しにかかる。山村とダミアンへの2トップへのクロスの流れから柴戸が橘田に不用意な対応をして、PKを献上した時には「もしや勝ち点も!」と夢見ることもできた。

 しかしながら、ユンカーと関根、そして岩尾の走り込みから浦和が3点目を奪って試合は決着。浦和が最後に川崎を仕留めて反撃ムードは完全終了。4年ぶりとなる埼スタでの川崎戦の勝利を決めて見せた。

あとがき

■コンディション面の優位を十分に利用したとは言い難い

 勝利した浦和の印象は難しいところ。要所で点を取ったという意味では強かさを感じる部分はあったが、試合全体としてはあまり完成度の高い90分を過ごしたとは言えないだろう。

 不可解な点は試合の多くの部分で川崎が嫌がる戦い方をできなかったこと。保持で川崎の足を使わせるとか、ハイプレスでテンポを上げるとか、コンディション差をより打ち出す戦い方ができなかったというのは気になる。

    得点が早い時間に入ったことがプランに影響したとの見方もできなくはない。だが、ブロック守備にしても4-4-2ではもちろん、5-4-1に移行してからの10分で危険なシーンを作られており、万全な策を講じたとは言い難い。3点目をとったチームの力とは別に、策の正当性は再検討されるべきではないか。

 コンディションが悪いだけならばいいのだが、直近の試合内容と照らし合わせても、主軸が定まってきた分、得意とする戦い方もある程度選ぶチームになったのかもしれない。ある程度諦める部分と目指す部分を今年に関しては整理したというか。だとすれば、保持による試合の制御を実現するのはまだ先になるということだろう。

■理解はできても見逃してはくれない

 この日の川崎に言えることは少ない。ボールの動かし方やプレスの発動した時のボールの奪い方は光るものがあったが、いかんせん動き出しの量と質、そしてラストパスとフィニッシュのクオリティが足りない。浦和は糸口も隙も与えてくれたが、それをこの日の川崎は掴むことができなかった。

 この状況で試合を行ったということを考えれば、こうした部分に文句が言えないのは理解できる。だが、サッカーの試合に勝つということを考えれば、いずれも目をつぶれない点ばかり。勝ち点もリーグ戦も待ってくれないのは世知辛い。

 この試合を開催まで持っていったチームの関係者には本当に頭が下がる思いである。心を打たれる試合を見せてくれた感謝を伝えたい。重要なタイミングでこうした局面を迎えてしまい、チームの完成度とか別の次元で難しいシーズンになってしまったが、次の1週間で少しでもリカバリーとチーム状態の向上ができることを期待したい。

試合結果
2022.7.30
明治安田生命 J1リーグ 第23節
浦和レッズ 3-1 川崎フロンターレ
埼玉スタジアム2022
【得点者】
浦和:4‘ 伊藤敦樹, 17’ 松尾佑介, 85′ 岩尾憲
川崎:82‘(PK) 家長昭博
主審:松尾一

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