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「グアルディオラの4-4-2攻略指南」~2019.2.3 プレミアリーグ 第25節 マンチェスター・シティ×アーセナル レビュー

前節のレビューはこちら。

プレビューはこちら。

 スタメンはこちら。

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目次

【前半】
エラーが起きやすい環境

 試合開始1時間前のスタメン発表を見ての感想は現地のファンも、日本のファンも、アーセナルのファンも、シティのファンも大体同じだろう。

「アーセナルは3-4-3だし、シティはよくわかんね。」

 蓋を開けてみればアーセナルは4-4-2だし、シティはボール保持時は3-2-2-3、非保持時は4-1-4-1というフェルナンジーニョをライン移動させる可変型でした。シティについては軽く図示しときます。

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 ボールを保持しているときは最終ラインで数的優位に、非保持時にも最終ラインで数的不利に陥らないような発明をジーニョさんの高い判断力ベースで作ってみました!的な発明。先に言っちゃうと全然ボール取れなかったぜ。

 アーセナルも珍しい策に。普段は4-2-3-1の流れで4-4-2ブロックを組むことはあれど、トップ下+FWの組み合わせの4-4-2だったので、純粋なFWを2人使った4-4-2はとても珍しかった。珍しかったのは配置だけでなく、プレス位置も。FWがハーフウェイラインより後ろに構えることもしばしばで、従来の4-4-2ブロックとは異なり、比較的低い位置でのブロック形成になった。これは多分彼らの意図と言うよりは、そうせざるを得なかった部分もあるだろうけど。

 「あれ?このレビューっていつもそんなに丁寧にスタメンの組み合わせ説明してましたっけ?とっとと試合の展開の話をするのがいつもじゃない?」と思ったそこのあなた。いつも読んでくれてありがとう。とても鋭い。なんでいつもより前置きが丁寧かというと、次に失点シーンの話をしなければいけないからです。開始間際感をなくすためになるべく引き伸ばしたいのです。でももう限界です。話しますね。

 アーセナル、4-4-2なんて大丈夫?って矢先の失点でした。確かにイウォビはやっちまった。蹴っ飛ばせばよかったのは確かだ。とはいえ「何してんねんイウォビ!」で済ましてしまうのは芸がないので少しだけ。

 PA内突撃をしてきた先代シルバの攻撃をストップした後、ゲンドゥージからイウォビにボールが渡り、今にもボールロストするシーンを考える。アーセナルはPA内にフィールドプレイヤー10人全員が入ってしまっている。

 おそらくイウォビはラポルトの外か、ラポルトとギュンドアンの間を通してボールを渡したかったのだろう。確かにいつもはFWがその位置にいるシーンだ。しかし、この日はそこには選手がいない。言うまでもなく、シティに押し下げられているからだ。不慣れな右サイドで視野の確保に戸惑った上に、本来はいるべき場所に人がいないくらい押し込まれている。失点の責任は免れないだろうが、事故が起こる材料はふんだんにあったということ。

 ではなんでこんなにガンガン押し込まれるかというと、アーセナルがシティのサイドの崩しに対応できていなかったからだ。具体的にはボールが大外に行った時の同サイドのハーフスペースへの裏抜けに対応ができなかった。

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 得点の前のシーンではリヒトシュタイナーがサイドに引っ張られ、スターリングからシルバにパスが出て、陣形が押し下げられる。図で見るとスターリングとシルバの間にリヒトシュタイナーがいるので、パスコースはあまりなさそうに見えるが、スピード的にミスマッチなリヒトシュタイナーは距離を詰められない。そうなると走っているシルバに出せる角度というのは存在することになるので、そのタイミングで出せばいいやん!という話。

 シティが侵入したいスペースを示した上の図は配置をわかりやすく書いているが、実際はアーセナルのFWもPA内に引き込まれるくらい全体が押し下げられてしまっている。今までアーセナルが2センターの場合の守備の問題点はボールサイドにスライドした結果、バイタルが空くというもの。いわば横方向のエラー。しかし、この試合のアーセナルは最終ラインをPA内に押し下げられることにより、CH2枚はPA内に釘付けに。そうなるとFWが戻らざるを得ない。

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 何が言いたいかというと、失点シーン直前にPA内に10人の選手がいたことは偶然ではなく、シティによって引き起こされたものであることということ。エラーを引き起こさせるような設計になっていたのだ。

【前半】-⑵
止められないラポルト

 得意ではないハイボールをFWが競り、セカンドボールをCHが拾うという根性でアーセナルもなんとか前に進む。しかし、セットプレーからコシエルニーが同点ゴールを叩きこんでも、ペースはシティのままだ。

 前節のニューカッスル戦では5-4-1のブロック相手に苦戦したシティ。

 私もまだフルでは観れていないのだが、上記の小谷野さんのnoteに詳しく書いてあるので、こちらを参考に。ニューカッスル戦でサイドの突破がうまくいかなかったのは以下の2点による部分が大きい。

・2列目のスライドで中央を閉じられたから。
・5バックでウイングがボールを持った時のハーフスペースを消されたから。

 アーセナル戦ではニューカッスルとの試合で生まれた課題を生かして、サイド攻略を行っていた。ラポルトがボールを持ったケースを想定する。

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 ラポルトのプレー選択を考えるとまず1つ考えられるのは同サイドのウイング(スターリング)への展開。対面するリヒトシュタイナーとのミスマッチを考えればシティにとってはいい選択だ。すでに紹介したように、1点目のシーンでも効果が見られた選択肢。もう1つの選択肢は逆サイドのウイング。ラポルトがボールを持ち、イウォビがプレスをかけに行くと、2列目はスライドをしているので、逆サイドのベルナルドは空く。ここにパスを通す。アーセナルはモンレアルが出ていき対応。同時にモンレアルが空けたスペースへ走りこむデブライネにはゲンドゥージが根性でついていった。アーセナルは5バックなので、最終ラインはスライドで対応しなければならない、

 イウォビがプレスに出ていかないケースもあった。15分のシーン。おそらく自らがスターリングをケアすることでミスマッチを解消しようと考えたイウォビ。ステイし、ラポルトを捕まえに行かない。上がってくるラポルトを捕まえに行ったのはトレイラ。そうなるとラポルトには異なるパスコースが見えてくる。

 同サイドのインサイドハーフであるギュンドアン。このシーンでギュンドアンにチェックに行ったのはラカゼット。彼がプレスバックすることで、アーセナルはシティにやり直しを強いることができた。しかし、ここまでラカゼットの位置を下げられればシティとしては問題ない。仮にロストしてもシティの後方にはCB3枚とフェルナンジーニョ。やり直しになっても、両サイドのCBに複数の選択肢がある状態は変わらない。ウォーカーとラポルトはともにこの手段でボールを展開していく。アーセナルはニューカッスルとは異なり4バックなので、ウイングにボールが渡ったときのハーフスペースの裏抜けを止められる位置にCBは常駐していなかった。

 10分を過ぎたあたりから、ウォーカーをコラシナツが積極的に抑えに行ったが、彼が前方に行っても後方のスペースは空くばかり。ウォーカー、オタメンディ、ラポルトの3人はプレッシャーがかからないと見るやサイドと中央をバランスよく使っていった。とりわけ前半はサイドを使った攻撃が多かった。アーセナルが前に出てきた後半は、中央も使っていた。

    アーセナルは対応に悩めるイウォビの右サイドに比べれば、モンレアルとゲンドゥージが根性でついていくと決めた左サイドの方がまだ役割がはっきりしていたが、まだ対応がはっきりしている左サイドからエラーが出たのが2失点目のシーン。
まずはウォーカーから同サイドウイング(ベルナルド)への展開を許したコラシナツ。ウォーカーがベルナルドにパスを出した後、コラシナツはその後誰をマークすべきかを判断できずさまようことになる。モンレアルが出ていってしまったため、デブライネが走りこむハーフスペースの裏側をゲンドゥージが埋める。しかし、そのスペースにはウォーカーが走りこんできたため、ゲンドゥージはウォーカーとマッチアップ。デブライネにはラカゼットが下がって対応した。そして以下の図のシーン。

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 ウォーカーからベルナルドへ。ベルナルドはフェルナンジーニョにパスを出す。ラカゼットはデブライネを見ているため、プレスにはいけない。そしてフェルナンジーニョが進むスペースにいるべきゲンドゥージは左サイドにつり出されている。結局フリーのまま持ち上がったフェルナンジーニョは逆サイドのスターリングに展開し、アーセナルのラインをぐっと押し下げる。自身とともにフリーになったギュンドアンと連携で裏を取ってしまえば、ラストパスをアグエロが流し込むだけ。
確かに見事な追加点ではあるが、アーセナルはゴールに至るまでに6人にのべ7本のパスを特に制限がかからない状態で回させている。構造的に破壊された右サイドを起点にした見事な攻略を前に、アーセナルは手も足も出なかった。私個人の意見だが、組織力の差に比べればもはやリヒトシュタイナーの対応の悪さなど、ちっぽけにしか感じない。得点を個人の対応で防げるとしたら、アシストを決めたスターリングへのパスをムスタフィが先読みして飛び出す場面だと思うが、そんな動きへの対応をあらかじめ仕込んでおけるなら、そもそもこんなことにはなってないだろう。

【後半】
仕上げは中央も絡めて

 後半にギアを1ランクあげたアーセナル。より積極的になったコラシナツのプレスが有効だったかは怪しい。3対3で枚数をかみ合わせたつもりでも、フェルナンジーニョを1列下げれば数はあってしまう。後方にあけたスペースのデメリットを飲むほどの効果はなかったかもしれない。キャラクター的にもプレスのスイッチ役としてはあまり向いていない気もする。それでも気合を入れてプレスを頑張るアーセナル。特にサイドのケアはもっとやろうぜ!といわれたのかどうかはわからないが、左サイドを中心にプレスのスピードはアップ。

 しかし、サイドにテコ入れをすれば中央が空くもの。徐々に最終ラインから内寄りに配球が目立つようになる。サイドのケアで広がったアーセナルのCH間を通す楔が通ったのは60分のこと。試合を決める3点目の起点となった楔を収めたアグエロが最後はゴールに押し込んで勝負あり。

 アーセナルはデニス・スアレスとラムジーの同時投入で打開を図りたいところだったが、システム的にも特に目新しい部分もなく、パフォーマンスもノーインパクト。古巣対決でのデビュー戦になったデニス・スアレスには苦い思い出になってしまった。
試合はそのまま終了。最後の数十分は落ちた試合のインテンシティをコントロールしたシティが完勝で、アーセナル相手にダブルを達成した。

まとめ

 フェルナンジーニョのレーン移動というシステムを採用したシティ。これって直前に言い渡されたシステムって話を見かけたけどほんとですか?ほんとならすげー。形とかシステムでなく、原則としてチームがどういうボールの運び方をするかの優先順位付けが共有できてることを再認識。WMシステムもすごいけど、個人的には中4日でニューカッスル戦の課題に対して解決策をきっちり出すことがすごいなと。ワイドのCBに持ち上がらせて、相手のMFをスライドさせた後、一発で逆サイドに展開して2対1を作るとか、5バック相手にも効きそうと思った。

    アーセナルのメンバーを見ると3バックと考えるのが妥当だし、グアルディオラもそういうプランで試合前は指示を出したと思うけど、4バックでスタートしても動じずに「よし、じゃあサイドで」ってやってたように見えた。アーセナル相手には確かな力の差があった。5バック相手の中央をかち割る試合とかも見てみたい。ニューカッスル戦も時間あったら見直したいなと。

 個人レベルでいえば頑張った選手もいるアーセナル。2トップと2CH、そしてモンレアルやコシエルニーは個人で見れば悪いパフォーマンスではなかったように思う。同点の時間帯でほんのり前に進む力を見せられたのは、ゲンドゥージがいたからこそである。しかしながら、チームとしての差がべらぼーに大きかった。それは監督就任初年度のエメリのアーセナルにとっては仕方のないことだろう。次節から巻き返しを誓い、虎視眈々とトップ4入りを狙っていくしかない。

 ここからは1人のアーセナルファンとして少しだけ個人的な見解を。この試合で最も残念だったのは負けたこと以上に、後半に打つ手が完全になくなったしまったこと。前半からSHのタスクをちょこちょこいじっていたかもしれないが、選手交代も含めてエメリはやることを変えなかった印象だった。

・出口となっていたサイドを埋めつつ、持ち上がってくるCBにはインサイドハーフが対応する5-3-2。
・4-3-3で前から全てハメる。
・4-4-1ブロックで1人(例えばフェルナンジーニョやラポルト)にはラムジーをマンマークでつける。

 生意気ながらシティ対策として私が思いついたのはこれくらい。ただおそらく、これのどれをやってもシティには勝てないはず。なぜなら形ではなく状況に応じた優先順位で動くチームであり、その完成度が高いから。。しかしながらこのような対策を打てば、やり方を変えてくる可能性はある。変化はエラーを引き起こしやすくなるし、こういった変更にどう手を打ってくるかは次の対戦時に参考になるのではないか。完成度でかなわないのなら、せめて手段を変えながらシティに対応を強いる展開を見たかった。この試合で残念だったのは、そういった打ち手の変化が見えなかったこと。最終ラインの怪我人の多さなど制約はあるだろうが、結果的に座して死を待ってしまったような最後の数十分を見るよりは、トライするアーセナルを見たかった。それが私が1人のアーセナルファンとして感じたこの試合の感想だ。なぜなら、前半戦にエメリがアーセナルファンの心を掴んだのは、勝利のために手を替え品を替え成功を手繰り寄せる姿勢だったのだから。

   サッカーに「たられば」は厳禁だ。それでももしアーセナルがうまくいかなくともこの試合で様々なプランをシティ相手に試していたら、同じスコアでも試合後の感情は違っていたのではないかとそう思ってしまうのだ。

試合結果
プレミアリーグ 第25節
マンチェスター・シティ 3-1 アーセナル
エティハド・スタジアム
【得点者】
Man City: 1′ 44′ 61′ アグエロ
Ars: 11′ コシエルニー
主審: マーティン・アトキンソン

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