■サイド攻略の異なる手段と共通のフィニッシュの画
ガーナを破り、キリンカップの決勝に進出した日本。決勝で待ち受けるのはチリに勝利したチュニジアである。
日本はまずバックラインでボールを回しながらどこが空くかをチェックする。チュニジアの基本方針はトップがアンカーをマークしながら、陣形的にインサイドをコンパクトにすること。つまり、日本のIHにボールを持たれたり、絞った立ち位置を取る日本のWGにライン間でボールを受けさせたりはしたくない!ということである。
したがってチュニジアは日本のバックラインにボールを持たれることをそんなに気にしていない様子の序盤戦だった。そうした中で存在感を放ったのは左SBに入った伊藤洋輝。この6月シリーズでおなじみとなった左足から縦に抜ける南野を中心とした配球を見せる。
ということでチュニジアは15分過ぎから早い段階で伊藤にプレッシャーをかけることでフィードを止めにかかっていく。左サイドからの前進を止められた日本。となると、唯一時間ももらうことが出来ていたCBがボールをもって何かをしなくてはならない。
そうした中で存在感を示すことが出来たのは板倉である。ボールを動かしながら、チュニジアのIHを引き出してライン間や裏の南野にボールを通す。大外の伊東にボールを付ける動きも板倉を供給元として安定。インサイドレーンを走る原口との相性も良く、右サイドから突破の動きを付けることが出来ていた。
チュニジアの守り方はトップを起点に同サイドに追い込んでボールを奪取!というコンセプトだったので、板倉はこの誘導ができる1トップを外して前進を行っていた。IHが出てきてくれないとズレが始まらない。板倉-原口-伊東の右サイドのユニットの発見は6月のシリーズの成果の1つだと個人的には思う。
左にせよ、右にせよ日本のこの試合のスタメンでのフィニッシュの画は大外の選手がスピードに乗った状況で速いクロスをPA内に送るということで一致していた。CFで起用された浅野はそうした縦に速い攻撃において、最終ラインについていくことが出来るスピードもあるし、主にニアサイドで相手を釣って囮になることもできる。
流れとしては左サイドの伊藤が封じられたため、板倉が打開点を見出して右サイドの突破で再度糸口を作ることが出来た!という感じだったように思う。前半の終盤は日本は保持からそれなりにチャンスができていた。
一方のチュニジアもボール保持を大事にするチーム。深さを作りながらバックラインでボールを回して日本のハイプレスを誘ってくる。アンカーのライドゥニも低い位置を取っていたが、厄介だったのは左IHのサッシである。左のハーフスペース付近を浮遊しながら、時折ラインを下げることで日本のプレスの狙いを分散させる。
サッシはキック力もあって、大きな展開でプレスのかからない方向にボールを逃がす。こうして日本のプレスを空転させていた。チュニジアは詰まったらやり直すこともいとわなかったし、日本が25分過ぎに鎌田をプレス隊に追加して4-4-2にしても、GKまで戻すパスも活用しながら、日本の中盤を引き出して動くルートを見つけてから前進するのが印象的だった。
■チュニジアの方針転換が日本の弱点に刺さる
迎えた後半、日本は田中碧を投入。4-1-2-3色の強いスタメンから、4-2-3-1と4-3-3のハーフ&ハーフのような形になった。これにより日本のビルドアップは改善。遠藤の手助けに田中が出て来たことで中央のボールの預けどころがやや出来てくるようになった。
その一方で中央でフリーを作った時の日本のスキルは物足りなかった。特に遠藤。ブラジル戦でも指摘したのだけど、アンカーが解放されたフリーで持ち運べる場面でガクッと肩を落としたくなることが多かったのは残念。
おそらく、本番でも1試合で何回かはアンカーはフリーになる機会はある。そうした場面をチームとしてどうするのか。遠藤のスキル向上にすべてをかけるのか、それともIHやSBにもっと手助けを求めるかは調整する必要はある。
前半よりもチュニジアは撤退型の守備を敷くことになった。特に板倉がボールを持った時にIHが即時にラインを下げながら、中央を埋める意識をより強化したことである。これにより、前半ほど板倉の持ち運び起点の攻撃の手段は消えてしまった感がある。
日本の最終ラインの中ではチュニジアは後半も伊藤を気にしていたので、伊藤の前方に外で張れる三笘を投入するというのは理に適った部分だろう。だけども、チュニジアの三笘対策はあらかじめ準備していたのだろうというレベルで速かった。スリマンとドレーガーの右サイドは早い段階で2人が縦関係に三笘に対峙する形を作り、1人目で抜かせる方向だけ決めながら2人目で対応する形で何とかしていた。ドレーガーはそれでも割と振り切られてしまう場面が出来てしまっており、三笘はそれでもチャンスを作ることはできたけども。
得点シーンと話は前後するが久保の投入は堂安とのコンビネーションで密集打開という意味合いだけでなく、三笘が深さを作ることで空くバイタルに入り込んでミドルを打ち込むという役割もあったように思う。パラグアイ戦の久保のゴールのイメージである。この試合では不発だったけども。
後半のチュニジアは保持でも意識改革。前半よりもシンプルに長いボールを狙いながら日本のハイラインの裏を狙う機会を増やす。特に狙っていたのは日本の左サイドの裏。そして、この形から先制点をゲット。競り合いで入れ替わられてしまった伊藤が相手を行かせてしまい、エリア内にラストパスを送られてしまう。
板倉のカバーが間に合ったようにも見えたが、ピッチの内側に回転がかかる影響を見誤ったか、吉田がタックルにチャレンジするも届かず。これがPK献上につながってしまうことになった。日本はここから狙い撃ちされた左サイドを起点に失点を重ねてしまう。
3点目を除けばカウンター対応といえない場面なのはなかなかにハードである。ミスといってしまえばそれまでだし、それぞれのシーンにおいてミスの所在は微妙に違うであろうが、ロングボール一発の対応ミスで壊されてしまうのであれば、守り切るハードルはグーンと上がってしまうことは避けられないだろう。ここは組み合わせも含めて何とか解を見つけたい部分でもある。
失点を重ねることで保持の局面でも焦りが出て来た日本。川崎ファンとしてはこういう追う展開においてのショートパスからの打開はなかなか成功率は低いという体感がある。20人近くがハーフコートにいる状態で、少しでも早く得点を取らないといけないという焦りもある中ではなかなか密集をつなぐパスを何本もつなぐのは難しい。
なので、とっととパワープレーというオプションも試していいように思う。風間時代の川崎における土壇場の同点劇の1つは板倉を前線においてガンガンに放り込んだ天皇杯の浦和戦だったりする。そういう部分は試しても良かったのかなと。まぁ、本番ではきっとやるのだろうけども。
というわけで失点を重ねていく中で攻撃のリズムも失ってしまった日本。チュニジアに敗れてキリンカップの優勝を達成することはできなかった。
ひとこと
このシリーズでの課題はボール保持を許してもらった時間帯における中盤のクオリティ、ハマらなかったハイプレス、ピッチ内での修正のスピード感ということになるだろう。9月シリーズとW杯の直前の期間という短い時間しか残されてはいないが、こうしたドイツやスペインに張り合う手段を増やしておかなければ本大会での成功は難しい。
試合結果
2022.6.14
キリンカップ 決勝
日本 0-3 チュニジア
パナソニックスタジアム吹田
【得点者】
TUN:55′(PK) ロムダン, 76′ サッシ, 90+3′ ジェバリ
主審:モハメド・ダルウィッシュ