①ブレントフォード【14位】×サウサンプトン【15位】
■前後半の違う土俵でブレントフォードに軍配
どちらのチームもカラーに沿った積極的な立ち上がりで迎えた序盤戦だった。特に目立ったのは互いに左サイドからの攻撃。サウサンプトンは左のSHに入ったレドモンドを軸にエリア内に向かっていく形。外に回るSBに対して、内にカットインの選択肢を持てるレドモンドの相性はいい感じ。インスイングとアウトスイングの2つの手段からクロスを上げる。
ブレントフォードもこちらは左サイドからのチャンス。トニーがロングボールを落とすところから、サイドに流しそこからチャンスを創出する。
両チームの違いは中央からのチャンスメイクの部分だろうか。サウサンプトンはこの日は中央のFWを組み立ての段階で活用するケースは少なかったが、ブレントフォードはトニーへのロングボールをがっつり活用。中央へのルートが存在するか否かに対してはこの試合はブレントフォードの方が1枚上手だったように思う。
先制点は押し込んだ後の定番ルートから。セットプレーからブレントフォード名物、ファーへの競り合いに目を付けたトニーが折り返しを見せると、これをヤンソンが押し込んで先制点を奪う。
この先制点の勢いで一気に畳みかけっるブレントフォード。直後のプレーで一気に縦に進んだウィサが得点を決めて、先制点から1分後にはすでに2-0にする。
わちゃわちゃしてしまい2点ビハインドを背負うことになってしまったサウサンプトン。25分を過ぎたあたりで徐々に真ん中のスペースにパスを刺し込めるようになってきたため、ようやく展開がフラットになった印象である。
迎えた後半、ペースを上げたサウサンプトンに攻め込むチャンスができるようになる。ブレントフォードは守備が後追いになってしまっており、やたらとファウルでセットプレーが嵩むように。
サウサンプトンは中央のライン間のパスを入れてサイドに展開し、そこでファウルを奪うことでブレントフォードのエリア内に迫っていく。ブレントフォードはこれに対して真っ向勝負。サウサンプトンがゴール前の時間を増やすのに比例するように、ブレントフォードもサウサンプトンのゴール前までボールを運べるシーンが増えていく。
均衡していた試合を決めたのはボックス内の守備のクオリティ。大外からのボールをひたすら跳ね返し続けるブレントフォードに対して、サウサンプトンは脆さを見せてしまった。PA内で囲まれてしまったアイエルだったが、なぜかゴール方向にシュートコースが出来てしまったため、そのままあっさりゴールを決める。壁になれずに安易に滑ってしまったサリスにとっては悔いが残る対応だろう。
これで3点目を奪ったブレントフォードが完全勝利。前半はセットプレーをきっかけに一気にたたみかけて、後半はボックス内の我慢比べを制した。前後半の異なる土俵での勝負をいずれも優位に進めたブレントフォードが順当に勝利を挙げた。
試合結果
2022.5.7
プレミアリーグ 第36節
ブレントフォード 3-0 サウサンプトン
ブレントフォード・コミュニティ・スタジアム
【得点者】
BRE:13′ ヤンソン, 14′ ウィサ, 79′ アイエル
主審:マイケル・サリスベリー
②チェルシー【3位】×ウォルバーハンプトン【8位】
■混乱の先にあった切り札
前回のこのカードはチェルシーの苦しいスカッドが印象的だった。コロナの蔓延によりアンカーにはチャロバー、控え選手は6人という苦境で試合を行うことになり、スコアレスドローに追い込まれた。今季のチェルシーの中でも最も仕方のない引き分けだったように思う。
当時に比べれば今のメンバーは豪華といっていいだろう。しかし、チェルシーは直近の試合ではなかなか結果を出せずに苦しんでいる。一方のウルブスも同じく結果が出せずに苦しんでいるチーム。後ろにロンドン勢が迫ってくるチェルシーにとっては是が非でもここを勝ってシーズンを逃げ切りたいところである。
立ち上がりからハイプレスを仕掛けてくるのはチェルシー。ボール保持も支配的で、チェルシーが保持でのウルブスの5-3-2攻略に挑むという構図はすぐに定まったように見受けられた。
CHのコバチッチはロフタス=チークと並ぶのではなく、彼と縦の関係を形成。より深い位置でボールを引き取ることを狙っていた。チェルシーは前線からウルブスの5-3-2の最終ラインからの抜け出しを狙いながらブロック攻略に挑む。裏抜けでスペースが間延びすれば、ロフタス=チークの運ぶドリブルやライン間で受けるコバチッチが効くことになる。
ウルブスにも反撃の手段はあった。WBの裏にスピード勝負を仕掛けることで一気に陣地回復。特にネトのカウンターは脅威。攻撃の意識が強い3センターを採用している上、決して戻りが早いとは言えないチェルシーのバックラインを脅かすには十分な威力だった。
スコアレスで迎えたHT明け。一気に攻め込んだのはチェルシー。前半以上に圧力をかけながら敵陣でのプレータイムを増やす。その結果、ルカクが粘り勝ちでPKをゲット。これを沈めてチェルシーは先手を奪う。
すると、この先制点でウルブスは混乱。バックラインからの簡単なパスミスであっさりと追加点を奪われてしまう。この日はラージがコロナのためいないということで、この2失点目はだいぶ混乱。おそらくタブレットで連絡を取っているラージに指示を仰ぎながらも、ベンチは交代策を準備するのにだいぶ時間がかかってしまった。
守備面に不安は前半からあったものの、ベンチの混乱の様子を見ればチェルシーの勝利は揺るがないと個人的には思っていたのだが、混乱したウルブスベンチから投入された交代選手が試合の流れを一変させる。
主役となったのはトリンコンとシキーニョ。流れを引き戻すスーパーシュートをトリンコンが決めて1点差に迫ると、後半ラストプレーに2失点目のミスを犯したコーディが執念の同点ゴール。どちらもアシストはシキーニョであった。
ミスに漬け込み、後半に優位に立ち、大混乱まで引き起こしたのに勝てなかったチェルシー。とはいえ、アンカー脇をあっさり明け渡してしまう守備ブロックの脆さを見れば、マドリー戦以降の抜け殻のような状態はつづいているといっていいだろう。いわば起き得た奇跡である。これ以上、まさかを積み重ねてしまうと後方の影の姿はまずます大きくなるばかり。そろそろ歯止めをかけたいところだが。
試合結果
2022.5.7
プレミアリーグ 第36節
チェルシー 2-2 ウォルバーハンプトン
スタンフォード・ブリッジ
【得点者】
CHE:56′(PK) 58′ ルカク
WOL:79′ トリンコン, 90+7′ コーディ
主審:ピーター・バンクス
③クリスタル・パレス【12位】×ワトフォード【19位】
■対角のパスの先のクオリティ
試合前のセレモニーでやたら風船を使ったのだろうが、試合が始まっても風船があちこちに散らばったまま始まったこの試合。試合が始まってもなお選手たちが暇を見ては風船を割る姿はとてもワトフォードの降格が決まりうる試合という緊張感とはかけ離れていたものだった。
中盤は噛みあうフォーメーション同士での対戦となった両チーム。中盤の運動量を活かしたマンマークはすでにワトフォードのおなじみのスタイルといっていいだろう。というわけで中盤のズレを作れないクリスタル・パレスはバックラインからの対角のパスで前進を狙っていく。
対角のパスを使ったとしてもそれだけでは解決策にはならない。大外に優位を取れるマッチアップがなければ、ここから相手のエリアに迫るのは難しい。だが、パレスはその点も悠々クリア。エゼやザハ、オリーズのように目の前の相手を剥がすことができたり、あるいは横にドリブルを行うことでパスコースを作り出したりできる選手がいるため、ワトフォードが厳しくマークする中盤をよける形でも前進をすることが出来ていた。
一方のワトフォードはそのズレを作るのに苦戦。アタッカーにいい形でボールを渡すことが出来ず、攻撃の形を作ることができない。34分のサミルの決定機を除けば、前半のうちにほとんどチャンスを作ることはかなわなかった。
そうした中で先制点を決めたのはクリスタル・パレス。クロスからハンドを誘い、これがPK判定に。このPKをザハが蹴り込んでパレスが一歩前に出る。
その後もパレスの攻撃の時間帯が続く。高い位置からの横断を自在に行うことでサイドの深い位置までの侵入も問題なし。強いていえばアタッキングサードでの仕上げにおいて、もう少しボールを枠に飛ばしたいところ。シュートに精度が伴えば前半でもっとリードを広げることができたはずである。
後半、徐々に攻め込むケースが増えてきたワトフォード。撤退を早めることと、人数をかけて攻めていくことにメリハリをつけて、前半のパレスペースを覆すためのアプローチを行っていく。
しかし、その反撃ムードに水を差したのがカマラの退場。10人になったワトフォードは再び窮地に追い込まれる。4-4-1にシフトして何とか粘りたいワトフォードだが、押し込まれてから出ていくパワーは10人では無理がある。
再び大外のWGから主導権を握ったクリスタル・パレス。離脱していたオリーズの復調気配も含めて、内容的にはほとんど完璧にワトフォードをシャットアウトした。
これでノリッジに続き降格が決まってしまったワトフォード。かなり試合を残した段階でプレミア残留を逃すことになってしまった。
試合結果
2022.5.7
プレミアリーグ 第36節
クリスタル・パレス 1-0 ワトフォード
セルハースト・パーク
【得点者】
CRY:31′(PK) ザハ
主審:グラハム・スコット
④バーンリー【17位】×アストンビラ【13位】
■勘を外した4-4-2対策でターフムーアを攻略
ダイチを解任して以降も残留争いに邁進しているバーンリー。リーズとエバートンに比べれば、勢いが十分。得意のホームで最近振るわないアストンビラを叩き、さらに勝ち点を積みたいところである。
そんなビラはこの試合では3バックを採用。バーンリーのスタイルとしてお馴染みである4-4-2の勘所を外すようなフォーメーションを採用してきた。
ビルドアップにおいてはGKを絡めてバーンリーの2トっプに数的優位を作りつつ、3バックの一角であるチェンバースがアンカーに入るような振る舞いで中盤にズレを生む。強気でプレスに行きたいバーンリーだが、その姿勢ゆえに出来たライン間のスペースから逆にアストンビラの前進を許す。イングスの先制弾はライン間をつなぐ縦パスをバーンリーが許してしまったゆえに生まれてしまったものであった。
先手を打たれたバーンリーは広く幅を取るバックラインから外を回るようにしてチャンスを作りに行く。右のマクニール、左のレノン。まずはこの2人のSHにいかにボールを届けるかが重要。特に右のマクニールは直近の試合では好調が続いている。
しかし、ここでもビラの3バックが立ちはだかる。枚数を多く割いているため、最終ラインから相手を捕まえに行っても余裕をもってエリア内を守れる状態を作ることが出来ており、バーンリーのサイド攻撃は早い段階でつぶされてしまう。
射程距離の範囲外であるマクニールからのクロスも、ビラは3枚のCBが余裕をもって跳ね返しに対応。ここ数試合の必勝パターンが通じない展開に。すると、ビラは逆にカウンターからチャンスを創出するようになる。
ビラの追加点は外を回ったディーニュから。これにブエンディアが詰めることで2点目。前節はノリッジの降格を決定づけた男。同じく残留争いに苦しむバーンリーに厳しい2点目を突きつける。
後半も苦しい戦いが続くバーンリー。反撃を期すものの、開始2分でターコウスキが負傷交代となればげんなりしてしまう部分があるのも仕方ないだろう。攻撃においてはビラのWBの裏を狙うカウンターから速い攻撃を狙っていくが、逆に前がかりになったところをワトキンスに漬け込まれて決定的な3失点目を喫してしまう。
実質これで試合は完全決着。以降はアストンビラがポゼッションで試合をコントロール。中盤で多角形を作りながらボール保持を安定させる。左偏重、右はキャッシュにお任せというのはいつものビラの日常である。
完全に押し下げられてしまったバーンリーは万事休す。全体が自陣に押し込まれてしまっている状態からでは巻き返す武器はない。得意のホームで好調とは言えないビラに完敗を喫したバーンリー。順調だった逆転残留のシナリオに暗雲が漂う敗戦となった。
試合結果
2022.5.7
プレミアリーグ 第36節
バーンリー 1-3 アストンビラ
ターフ・ムーア
【得点者】
BUR:90+1′ コルネ
AVL:7′ イングス, 31′ ブエンディア, 52′ ワトキンス
主審:デビッド・クーテ
⑤ブライトン【9位】×マンチェスター・ユナイテッド【6位】
■理屈通りのプレス回避と見違えるフィニッシュ精度で完全粉砕
立ち上がりからゲームの主導権を確保していたのはホームのブライトンの方だった。3バックでボールをゆったりと持ち、ワイドに展開してサイドから攻め込む。このやり方でこの試合の主導権を終始渡さなかったといってもいいだろう。
左右の大外にWBを置き、彼らを起点にサイドから押し込む。特に左サイドはこのメカニズムが強力。ワイドで持つトロサールを後方からククレジャが追い越す形はユナイテッドを苦しめ続けた。
トロサールとしてはククレジャが追い越してくれるだけでプレッシャーが弱まるので、実際にパスがそっちに回らなくても効果がある。例えば先制点の場面では無理なくクロスを上げることが出来た。ククレジャが高い位置を取るのをサボらないことでブライトンはサイド攻撃の主導権を握った。
ブライトンの左右のサイド攻撃の精度は高く、少なくとも敵陣まで押し込むことはかなり高い頻度でできていた。そのため、ユナイテッドは終始クロス対応に追われることになる。
保持で主導権を握り返したいユナイテッドは前節のようにマタを軸にした形で押し返すことを狙っていくが、ブレントフォードに比べて人を捕まえてくるブライトンのプレスに苦戦する。少しマタを使った後、結局縦への早さに振り切ってアスリート能力勝負に持ち込んだ感があった。そういう展開になるとマタは厳しい。
結果が出せないまま後半を迎えたユナイテッド。すると、ここから一気にブライトンが畳みかけてくる。右サイドからピッチを横断するようなボールで左サイドの奥を取ると、マイナスのパスを受けたククレジャが強烈なシュートをネットに突き刺す。
ユナイテッドはテンポを上げてプレスの脱出を図るが、ブライトンのプレスは剥がせない。ユナイテッドは相手ゴールを背にしてボールを受けた選手が自力でターンして前を向こうとするケースばかりなので、簡単に相手のプレスに引っかかるのだろう。4点目のトロサールのように、ブライトンは背負って受けても無理せずにその先の手段まで用意しているケースが多い。こうなると、逆に前がかりになったプレス隊をひっくり返すことができる。
3点目は左サイドから、4点目は右サイドから自由自在にユナイテッドの守備を壊していくブライトン。ほとんど完璧な試合運びといつもとは見違えるようなフィニッシュ精度でユナイテッドを完全粉砕して見せた。
ユナイテッドはこの日の出来ではなす術がない。4-0は十分内容に見合ったスコアといえる。これでユナイテッドは6位以下が確定。ウェストハムとの6位争いに向けて最終節を待つことになる。
試合結果
2022.5.7
プレミアリーグ 第36節
ブライトン 4-0 マンチェスター・ユナイテッド
アメリカン・エキスプレス・コミュニティ・スタジアム
【得点者】
BRI:15′ カイセド, 49′ ククレジャ, 57′ グロス, 60′ トロサール
主審:アンディ・マドレー
⑥リバプール【2位】×トッテナム【5位】
■選び取った勝ち点1の持つ意味は
4冠という快挙に挑むリバプール。残されたタイトルの中で自力でどうにもならない要素が絡んでくるのが現在2位につけているリーグ戦。落としてはいけない試合は残り全部!という超過酷な状況ではあるが、彼らならもしかしたら・・・!と思わせてくれるのが今季のリバプールである。
そんなリバプールにとって残りのリーグ戦で最大の関門になるのがトッテナム戦である。シティ、リバプールとのリーグ戦で唯一負けていないリーグ屈指の『大物食い』気質のチームはアンフィールドでCL出場権をかけた試合に挑むことになる。
立ち上がりはわちゃわちゃするところもあったが、試合はすぐに落ち着く。ボールを持つのはリバプール。それに対してトッテナムは5-4-1のローブロックで迎え撃つスタイルである。
トッテナムのローブロックのスタンスは自分たちのスタイルが出しやすいようにあえてボールを捨てる意味合いもあると思うが、それ以前にサイドのプロテクトとして重要な役割を果たしている感が強い。セセニョンやエメルソンはどうしても1on1の対人では後手に回りやすい。ワイドのCBやシャドーの助太刀を得やすいコンパクトなローブロックの陣形は大外で脆さを露呈しないためという部分もあるだろう。
リバプールは後ろを守る意識が高いトッテナムに対して、なるべく高い位置でボールを横断させて少しでも横に揺さぶる形を作ることで対抗。立ち上がりにあった決定機など、頻度の問題はともかくとしてゴールに迫る精度はもたらすことができていた。
トッテナムの狙いはもちろんカウンター。ローブロックだろうと攻撃に打って出ることができるのは彼らの強みでもある。ソン、クルゼフスキだけでなく、ホイビュアもリバプールのSBが空けたスペースに入っていくことができる。リバプール相手でもロングカウンターをやり切れる目があるというのは彼らが大物食いを達成できる所以といってもいいだろう。
というわけで両チームの攻め方は異なってはいたが、この両チームなりに均衡した状態で推移していた。保持で崩したいリバプールとカウンターで返り討ちにしたいトッテナムの構図は90分間崩れることはなかった。
先に動いたのはリバプール。後半、試合が動かないことで徐々に前線のアタッカーを内側に入れるやり方にシフト。大外はSBやIHに任せてエリア内に手段を多く準備する方針に切り替える。
だが、先制点を手にしたのはトッテナム。ロリスのフィードをなぜか左の大外で受けたのはエメルソン。わけわからん立ち位置ではあったが、結果的にこのエメルソンがアウトナンバーになり、トッテナムのカウンターの推進力に。押し出される形で高い位置を取ったセセニョンからアシストを受けたのはこれが今季のリーグ戦20点目となったソンだった。
ビハインドになったリバプールはジョッタを投入しアタッカーを増員した形で攻勢をかける。そんな中で大仕事をしたのはルイス・ディアス。ミドルシュートがリフレクトしてすっぽりと枠内に入った。ミドルシュートのイレギュラーは撤退型ブロックを組むチームの税金のようなものだと思ってる。ロリスには当然どうしようもないし、撤退して攻撃を受ける決断をした以上、こうした事態が転がり込んでくる可能性はある。
これで両チームはタイスコア。ここで確認しておきたいのは両チームとも、それぞれの目標に対してはフォロワー側であるということ。上位にいるチームが勝ち点を落とさなければ目的は達成できない。
そうした中でトッテナムが采配とピッチ上の振る舞いで勝ち点1を守るような振る舞いを見せたのは意外だった。彼らはこの試合に仮に勝つことができれば、ノースロンドンダービーでの逆転が可能になる。逆にここで勝ち点を落とすようなことがあれば、引き分けでも負けでもアーセナルがノースロンドンダービー以外で勝ちを逃さなければトッテナムの逆転はなくなってしまう点では同じである。
だけども、ソンを下げたりサンチェスを入れたりゲームをクローズに走ることでとりあえず勝ち点1を確保しに行ったトッテナム。そうした中でも確かにチャンスがないことはなかったけども。
リバプールにとっては当然悔しい勝ち点1。だが、勝ち点1を選び取りにいったトッテナムにとってこの引き分けはどのような意味を持つのか。シーズンが終わり、振り返った後にターニングポイントになりそうな振る舞いだった。
試合結果
2022.5.7
プレミアリーグ 第36節
リバプール 1-1 トッテナム
アンフィールド
【得点者】
LIV:74′ ディアス
TOT:56′ ソン
主審:マイケル・オリバー
⑦レスター【11位】×エバートン【18位】
■ピックフォード劇場、再演
プレミアらしいエンタメ性豊かな立ち上がりとなった。いきなり、先制パンチを食らわせたのはレスター。ゴールこそならなかったが早々に裏を狙う動きでエバートンのゴールを強襲する先制攻撃をお見舞いする。エバートンは5バックというチェルシー戦勝利の流れを引きずったフォーメーションではあるが、ラインの設定自体は低くないため、レスターには裏を取るチャンスがあった。
しかし、攻撃を急所にきちんと入れたのはエバートンの方だった。右サイドのイウォビからふわりと上がったクロスをマイコレンコがスーパーボレー。前節の決定機逸の鬱憤を晴らす美しいゴールでエバートンが先手を奪う。
このゴールをきれいに守ることができればエバートンは残留争いになんて巻き込まれることはない。レスターはすぐさま追いつく。きっかけはエバートンのミスに漬け込む形。難が出たのはDF間のコミュニケーション。CB陣がアバウトな裏へのボール処理を誤ってしまったせいで、レスターはダカが抜け出して独走。そのままピックフォードを破り同点に追いつく。
基本的には形は違えどどちらも前線のスピードを生かす形でゴールを狙っていくのが両チームのスタンス。エバートンはバックラインにプレスをかけなかったため、レスターがボールを持つ時間が比較的長い試合となったが、ホルダーがフリーになるため、レスターは積極的に裏へのスペースを狙っていく。
定点攻撃では右のハーフスペースに入り込むティーレマンスからのスルーパスが効いていた。いずれにしてもキーは前線の抜け出しである。
一方のエバートンはそのレスターの攻撃を止めてから反撃。こちらも2列目のアタッカーがスピードを生かす。右はゴードン、左のグレイは低調なチームの中では高い水準でコンディションを維持しており、こちらもスピード不足のレスターのバックラインを脅かすには十分。シュマイケルに冷や汗をかかせるシーンも見られた。
均衡の中でセットプレーから勝ち越し点を奪ったのはエバートン。根性でホルゲイトが押し込み、前半のうちに一歩前に出る。
そして後半はチェルシー戦でもお馴染みだったピックフォード劇場である。レスターが一方的に攻め込み、エバートンはひたすら耐え凌ぐという展開だったが、きわどいシュートは全てピックフォードが防ぐ。残留がかかった状況において神がかりにすぎではないだろうか。バーンズ、メンディとかなりきわどいミドルを放ったレスター。最後はヴァーディまで投入したがゴールを割ることは出来ず。
キング・パワー・スタジアムでも再演を果たしたピックフォード劇場。このまましぶとく勝ちきる試合を重ね、残留を勝ち取ることができるだろうか。
試合結果
2022.5.8
プレミアリーグ 第36節
レスター 1-2 エバートン
キング・パワー・スタジアム
【得点者】
LEI:11′ ダカ
EVE:6′ マイコレンコ, 30′ ホルゲート
主審:クレイグ・ポーソン
⑧ノリッジ【20位】×ウェストハム【7位】
■ハンドの受難に苦しむ後半
試合の主導権を握ったのはモチベーション的にも強力な動機があり、力関係的にも上に立っているウェストハムである。ピッチを広く使いながら大外から押し上げて、深い位置まで侵入する。攻撃は完結させられなくても外を使う頻度が多いため、ノリッジの陣形をきっちり押し下げられるのは強みである。
ウェストハムの攻撃が決定的に刺さるかどうかのポイントはライン間への侵入ができるかどうか。ライスとランシーニが縦関係になって1列前で受けようとしたり、トップ下のフォルナルスなどの2列目の選手が動きながら受けられるスペースを探したりなどで縦パスを引き出せたときは惜しいシーンまで導くことが出来ていた。
一方のノリッジは頻度的には劣るもののゴール付近まではボールを運べる展開。これはウェストハムのタイトさに欠ける守備ブロックが原因だろう。前からプレスにはいかない上に、ライン間を締めるのも怪しい。となるとノリッジにも前進のチャンスがあるのは当然である。
しかし、やはり先手を奪ったのは精度的にも頻度的にも上だったウェストハム。フォルナルスとランシーニのライン間の侵入から逆サイドまで展開してベンラーマが決めて先制する。
先手を奪っても特に展開は落ち着くことはなく、相変わらず前線のプレスからのソリッドがない守備が続くウェストハム。ノリッジはボールを持つチャンスを得るが、なかなかアタッキングサードに置ける武器を見つけることができない。普段であれば決まるはずのプッキの裏抜けもどうも冴えがない。
そうこうしている間にウェストハムは得点を重ねていく。またしてもライン間侵入から前進を許すとバックラインとクルルの連携ミスからウェストハムに追加点。クルル、あそこまで出ていって触れないのはアウトである。
前半のうちにウェストハムは3点目。ボーウェンとランシーニの右サイドから打開し、ベンラーマが再びゴールを決める。
意地を見せたいノリッジはハーフタイムに2枚替えして反撃を図る。その甲斐あってネットを揺らすが、これはハンドで取り消し。ミスに漬け込まれたファビアンスキは救われた気持ちだっただろう。
さらにノリッジにはハンドの受難は続く。今度は自陣のPA内。ソーレンセンがPK献上で今度はウェストハムに得点のチャンス。これを決めてとうとう4点差になる。
こうなればさすがにウェストハムが支配的に。ボールを持ち、展開を落ち着かせ、非保持ではブロックをコンパクトに維持する。最後にはノーブルにプレ―タイムを与え、ライスをCBに回すというアクロバティックな交代を見せる余裕もありつつ、試合は終了。マンチェスター・ユナイテッドがもたつく中で背中を追うための勝ち点3をウェストハムががっちりと手にした。
試合結果
2022.5.8
プレミアリーグ 第36節
ノリッジ 0-4 ウェストハム
キャロウ・ロード
【得点者】
WHU:12′ 45+3′ ベンラーマ, 30′ アントニオ, 65′(PK) ランシーニ
主審:ロベルト・ジョーンズ
⑨アーセナル【4位】×リーズ【17位】
■初コーナー初シュートで復活した勝ち点への意欲
レビューはこちら。
CL出場権獲得に向けてチェルシー、ユナイテッド、ウェストハムという強敵相手にアーセナルは猛チャージ。ここに来て4位争いのポールポジションに立ったのはアーセナルであった。しかし、リーズも後がない状況。エバートン、バーンリーという残留争いから1ポイントでも離れたいところ。
立ち上がりは両チームともそうした思いがぶつかるプレスの応酬だった。ここ数試合、アーセナルの最終ラインがやたらひっかけることもあり、リーズにとってはこのプレッシングの方向性はある程度勝利の算段があるものだったはずである。
しかしながら、そのプレッシング局面で先手を取ったのはアーセナル。メリエのパスをエンケティアがハイプレッシングで引っ掛けて一気にゴールに流し込んだ。
レビューにも書いたが、メリエの癖はアーセナルに見抜かれている感がある。右から受けたボールは左足を蹴る癖があるため、持ち替えようとしたところをうまく狙ったという印象である。献身的なプレスが得点につながるというエンケティアにとっては非保持の貢献が目に見える結果につながった。
この先制点でリーズのプレスを鎮圧したアーセナル。左サイドの冨安、ジャカ、マルティネッリをメインユニットとして左サイドから崩す形を模索する。すると10分、その左サイドの突破からマルティネッリがラストパス。再びエンケティアが決めて、前半のうちにリードを2点に広げる。
30分手前にはマルティネッリに危険なタックルをかましたエイリングが一発退場。リーズは10人で試合を進めることになる。
一方的な前半を過ごしたアーセナルはこれ以降も10人のリーズを攻め立てる。後は追加点を獲るだけという時間帯が徐々に増えてくると、アーセナルは左サイドを主戦場にしながら、敵陣を深くまで入り込むことでリーズのカウンターの機会をかなり削っていた。
だが、隙を見つけたリーズが反撃。初めてのコーナーキックから初めてのシュートにつなげ、それを得点にまで持って行く。フィルポのニアでのそらしに合わせたのはファーに待ち構えたジョレンテだった。
この追撃弾でリーズは勝ち点への意欲を復活させる。5-3-1にしたフォーメーションを2トップ気味に戻し、89分にはすでにセットプレーでメリエが前線に上がる状況になっていく。ラフィーニャがすでにピッチを退いていたことに胸をなでおろしていたアーセナルファンは多いはずだ。
アーセナルはほとんどの時間を保持で消化していたが、途中交代のペペと保持で不安のあるセドリックがコンビを組んだ右サイドが不安定。隙だらけのサイドから反撃に打って出たリーズはラストプレー直前で同点のチャンスを迎えるがロドリゴのシュートはミートしなかった。
結局、試合はアーセナルが逃げ切り。危うい展開まで持ち込まれての苦しい終盤となったが、ノルマの勝ち点3は確保。勝ち点差4のアドバンテージを有し、ノースロンドンダービーに臨むことになる。
試合結果
2022.5.8
プレミアリーグ 第36節
アーセナル 2-1 リーズ
エミレーツ・スタジアム
【得点者】
ARS:5′ 10′ エンケティア
LEE:66′ ジョレンテ
主審:クリス・カバナフ
⑩マンチェスター・シティ【1位】×ニューカッスル【10位】
■CLの鬱憤は首位固めで
本命だったCLの舞台からは白い巨人の底力に屈し、姿を消すことになってしまい、今季も失意を味わうことになってしまったシティ。どうしても逃したくないリーグタイトルにはリバプールの引き分けという吉報が届いた中での一戦となっていた。
対戦相手はニューカッスル。強豪相手に一旗揚げたい野心を有しているチーム。シティがうまくCLから切り替えられないことがあれば、一発がある恐ろしい相手である。
試合はまずはシティのポゼッションで進んだ。この日のフォーメーションは4-2-3-1。バックラインのCB2枚とロドリ、さらには左サイドからもう1枚借りてきての4枚のフィールドプレイヤーにGKを絡める形でのポゼッションが多かった。
左サイドのうち、ビルドアップに絡んでくるのはCHのギュンドアン、もしくはSBのジンチェンコのどちらかのケースが多い。左サイドの幅取役はグリーリッシュが行うことが多く、ギュンドアンとジンチェンコのビルドアップに絡まなかった方が高い位置でグリーリッシュをサポートする。
右のカンセロは高い位置を取ることが多く、ビルドアップに絡むケースは少なかった。右のワイドをマフレズではなく、スターリングにしたのはよりインサイドのストライカーロールで輝けるという判断だろう。右の大外はカンセロが使うことが多かった。
基本的には左で作って右が決める形が多かったこの日のシティ。先制点の場面はまさしくそれを体現する形。左のグリーリッシュのタメから中央を経由し、大外に立つカンセロに。これを折り返すと最後はスターリングがきっちりストライカータスクを果たし先制する。
フィジカルの部分ではやり返す隙がありそうなニューカッスル。サン=マクシマンの陣地回復からもぎ取ったセットプレーやファーに待ち構えるクロスなど、時折得点の可能性を感じさせるプレーは見えてはいた。
しかし、この日は一貫してペースを握ったシティ。前半のうちにラポルトのゴールでリードを広げると、後半早々にセットプレーからロドリが追加点を決めて安全圏の3点差まで到達する。
試合はその後、セーフティリードを得たシティが完全にコントロール。ニューカッスルに反撃の可能性を与えないまま、ボールを持ちながら時計の針を進めていく。
このまま試合は終わるかと思いきや、最終盤に再びシティが着火。90分にフォーデンが4点目を奪うと、後半追加タイムにはスターリングがこの日2点目のゴールをゲット。得失点差でも大きくリバプールに水を空ける大量5得点を決めてみせた。
CLを目標に掲げてきたチームゆえに敗退への失望は大きいはず。その鬱憤を見事にリーグにぶつける素晴らしいパフォーマンスで首位の座をさらに強固なものにした。
試合結果
2022.5.8
プレミアリーグ 第36節
マンチェスター・シティ 5-0 ニューカッスル
エティハド・スタジアム
【得点者】
Man City:19′ 90+3′ スターリング, 38′ ラポルト, 61′ ロドリ, 90′ フォーデン
主審:スチュアート・アットウェル