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「がむしゃらな横綱」~2019.1.13 ラ・リーガ 第19節 レアル・ベティス×レアル・マドリー レビュー

 ベティスといえばキケ・セティエンという知識が自分にもあるのはフットボリスタのおかげ以外の何物でもない。ポジショナルプレーのスペインクラブ代表のような紹介をされていたベティス。両WBを大外アイソレーションでカットインとクロスを仕掛けまくると聞いて面白そうだとは思っていたが、あまりちゃんと見たことはなかった。なので今回のゼミ課題になった時に「やっとゆっくり見れる!やったぜ!」と思ったのだが、超キーパーソンであるWBの一角のジュニオールが離脱。なんてこった。セティエンとしては恐らく亜流の4-3-3で臨むことになった。
 
 ベティスの4バックはせいぜいセティエンらしくないですむのだろうが、もっと大きい規模で「らしくない」のがレアル・マドリー。勝利に恵まれず波に乗れないシーズンはこれまでにも経験はあったが、この試合に臨む配置はバックが5枚。マジか。マドリーが5バックとか、聞いたこともないしイメージも全くない。リーガに横綱審議委員会とかあったらやばそうな感じだけど、大丈夫なのだろうか。

スタメンはこちら。

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目次

【前半】
ボールはベティス、ペースはマドリー

 試合はベティスのボール保持で始まる。空いているのはカルバーリョのところ。序盤のマドリーの5-3-2は割と噛み合わせた形でセットした印象だったが、カゼミーロを遊軍待機している分、ベティスも1人余る。それがカルバーリョ。空いているカルバーリョにマークに行くのはヴィニシウスとモドリッチが多かった。モドリッチが動いた場合はそこに入れればいいし、マドリーのインサイドハーフが動かなくても、ベティスのインサイドハーフは受けるためのパスコースを作る動きが欠かさずできていた。

 というわけでボールを握れない展開だったマドリーだったが先制に成功。貢献度が高かったのはヴィニシウス。カウンターの起点の役割を果たしたのに合わせて、ボールを持っているときにカルバハルの裏抜けの動きでベティスのラインを下げるのに成功。オフザボールでバイタルの人口密度の低下に貢献した。すかさずモドリッチ。試合の流れとは異なり先制したのはレアルマドリーだった。

 先制点の後もボールを握ったのはベティス。しかし試合のペースを握ったのはレアル・マドリーといって差し支えないかもしれない。5バック相手のチームに先制点を奪われるとしんどいのは万国共通だが、それがレアル・マドリー相手ならなおのことだろう。ボールは動かせるものの、陣形のバランスを崩せない展開が続く。マドリーは高い位置から奪う際も、勢いのよいストーミングのようなプレスというよりは、真綿で締め付けるようなプレッシングを見せた。積極的な奪い取るというよりは邪魔な位置にとりあえず立つと。なんかこれ、きっと見た目よりもすごいしんどいんだろうな。ミスしたり空いてないところに出したらボール奪うからね、みたいな。基本はプレスに行く人数や誰か特定のマークマンを決めることなく推移していたマドリー。ヴィニシウスがカルバーリョを見るときもあれば、モドリッチが見てヴィニシウスがトップから挟み込む形もあった。統一されていたのは、ハイプレスをかけるときは中盤もしっかり人をかみ合わせるという部分だった。マドリーはボール保持の際もゆったりとポゼッションしており、試合のテンポそのものを落ち着かせながら、時計の針を進めている印象を受けた。セルヒオ・ラモスが警告を受けてからはさすがに全体のラインを下げたけど。

 ベティスはカルバーリョがフリーでボールを受けることができる場面は少なくはなかったものの、そのから先の相手を崩す一手というものが見えてこなかった。5バックの手前のサイドのスペースなど空いているスペースは活用しようという意図は見えたけども。基本的にはインサイドハーフとWGがハーフスペースと大外を行ったり来たりして、パスコースを作っていた。大外はフランシスとジュニオールの専用レーンっていうのはボリスタで読んだけど、少なくともこの日は違ったようだった。マドリーの5-3-2だと外はケアしにくいので、ベティスのインサイドハーフが陣形を外に引っ張る形は有効だったように思う。マドリーのインサイドハーフがついて来れば内側が空くし、マドリーのWBが捕まえに来れば、ベティスのWGが大外を裏抜けできるし。

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 ただ前進はしても最後に待ち構えているのが強固なCB陣なのでそこから好機を作れないシーンばかり。マドリーは先制後にMFのラインを下げていたのでなおさら。MFーDFライン間の圧縮もかかっていた。
 ボールは持てるものの、展開を握るのはマドリー。ボールを持ったベティスとしてはシュートまで行けず、まったり時計を進めたいマドリーに絡め捕られたような前半だった。

【後半】
2つのハードルをまとめて解決した同点ゴール

 前半の終盤に引き続き、後半はより一層ブロックに磨きをかけるレアル・マドリー。3センターが前線のプレス隊に加わりプレッシャーをかけることはほとんどなく、5-3ブロックは低い位置で待ち構える形を作ることになる。しかし、前半にも言ったようにマドリーのWB前のスペースは5-3ブロックだと埋めにくい。マドリーの右サイドのここのスペースはインサイドハーフがカバーしており、WBはほとんど迎撃に出てこなかった。たとえばホアキンがピン止めしている!とかそういうわけではなくて、ホアキンだろうとフランシスだろうと、まずはモドリッチが対応して5バックは維持というのが基本的なマドリーのスタンスだった。場合によってはモドリッチが最終ラインに加わって6バックのような対応を見せるときすらあった。

 マドリーの右サイドはそういう対応だったが、左WBのレギロンは右のカルバハルほどはステイの意識は高くなく、左CBのナチョとの間にギャップがしばしば。この間をカナレスが裏抜けやらボールを受けたりやらで使うことで、ベティスはチャンスメイクに動いていた印象。ベティスも攻め手としては左右非対称で、左WGがスタートだったホアキンがピッチ全体をフリーダムに動き回るのに対して、右のカナレスはバラカンと連携し右サイドからチャンスメイクする場面が目立つことになる。

 最終結果を把握してから試合を見たため、ベティスが追いつくことはあらかじめ知っていたんだけど、サイドから押し下げつつバイタルからパス交換かミドルで攻略するのかなって思っていたら、中央パッカーンだった。カナレスが中央からギリギリ裏抜けして先制。アシストを決めたロ・チェルソはマドリーの右サイド側にスライドしていたマドリーの3センターがケアできない立ち位置だった。そのため、迎撃に出てきたラモスのエリアをカナレスが活用した形に。後半のベティスはマドリーの中盤のライン突破と、ラモスを中心とした最終ラインの攻略に苦しんでいたので、スライドする3センターの脇で受けたロ・チェルソが最終ラインの大ボスであるラモスを吊りだすというのは、ベティスが後半に抱えていた課題を一気に解決できる形だったと思う。

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 正直、これだけ本気で守っているレアル・マドリーから同点となるゴールを挙げただけでもベティスに勝ち点をあげたくなった。

 同点にされてしまったマドリー。流れが変わるのは交代選手が入ってきた74分から。セバージョス投入で4-3-3で前線からのプレスを解禁。打ち合いの様相になってきた。マドリーは前線にフレッシュな選手がいるし、ベティスはウィリアム・カルバーリョがまた放置されだしたので、ともにオープンな展開に。あとナチョが左サイドバック割と持ち場を留守にすることが多かった。

 最後に試合を決めたのは古巣対戦になったセバージョス。フリーキックの起点となったロストはおそらくチームのルールで「それはなしね!」ってなっている類のミスなので、ベティスとしてはちょっと悔やみきれない締めくくりだなと。ここまでうまく運べてただけに残念な結末。試合はそのまま1-2でレアル・マドリーが勝利した。

まとめ

 セティエンも試合後のインタビューで語ったように想定外だったレアル・マドリーの布陣。それでもベティスはよく対応していたと思う。大外でのアイソレーションのような形はこちらが勝手に期待していたほど見れなかったけど、ジュニオールの負傷やらマドリーの変則布陣やらの事情があったんだろう。中盤とウイングが連携してマドリーをブロックを動かそうとする形はとても見ごたえがあった。本文中では触れなかったけどサナブリアも黒子としてよく働いていたと思う。唯一脆さを見せたのは、自軍深い位置でボールを取られた時のカウンター対応だった。ここはそのミスがない前提で設計されているのかな?と思ったけど。おかげで序盤のマドリーの真綿ハイプレスにはちょっと苦しんでた。たぶん、あれはシティだとアグエロのところで解決するんだろうなと思う。でもマドリーにはラモスがいるからね。パウ・ロペスの足元がいかに正確でも相手がラモスでは繰り返しCFのところから攻略というのは現実的ではないのかなと。
 事前に聞いていた情報とは少し違う、いわゆるよそゆき仕様のベティスだったかもしれないが、フォーメーションにとらわれない、どこのスペースを崩すのかという共通理解はチームとしてなされていたように感じたし、セティエンの理念が落とし込まれた完成度の高いチームだと感じた。次は普段着もみたいな。

 強いチームが先制して5バックってすごい強いなって思った。字にしたらすごい馬鹿な日本語だね、これ。マドリーみたいなCBに質的優位があるチームならなおさらのことだった。前線の選手もスピードタイプで運動量も豊富だったうえに、走って死んでができる中盤の組み合わせなら、この戦い方は恐らく合理的だろう。ただ、この形をオプションとして採用するかどうかはマドリー相手に批評する横綱審議委員会みたいな声が出てこなければの話。ベティスがあくまでつなぐチームという前提があってこそだが、マドリーは目の前の相手以外のものとも戦わなきゃいけないクラブだと思うので、そこはめっちゃ大変だと思う。まだ見てないけど、次のセビージャ戦は4バックで挑んでるようだ。いずれにせよ、ロペテギでシーズンスタートして、結果的に5バックでバロンドーラーが走って死んでをやっても強いっていうのは、レアル・マドリーの底力だなと感じた。あとヴィニシウスいいっすね。

試合結果
リーガエスパニョーラ 第19節
ベティス 1-2 レアル・マドリー
ベニト・ビジャマリン
【得点者】
BET 67′ カナレス
RMD: 13′ モドリッチ, 88′ セバージョス
主審:エルナンデス・エルナンデス

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