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「とりあえず棚上げで」~2022.5.1 プレミアリーグ 第35節 ウェストハム×アーセナル レビュー

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目次

レビュー

■勝利以外の命題は

 プレビューでこの試合のポイントとして挙げたのはアーセナルが保持の局面で自分たちのやるべきことができるかどうかである。

 より具体的にはここまでサカに頼る部分が大きかった前進から崩しのフェーズで中央からの開拓ができるかどうかである。この試合のサカのマッチアップの相手は本職が右のSBであるフレデリックス。力関係はおそらくサカの方が有利だろう。

 だが今後のことを見据えると他の前進のルートは確保しておきたいところ。なぜならば、サカが常に1on1で相手を抜ける状態であるとは限らないから。リバプール戦のように強靭なSBが相手ならば抜くのに苦しむだろうし、2対1の形を作られることもあるし、そもそも負傷離脱でいなくなることだってある。現にサカは側から見ても細かい負傷を抱えながら終盤戦をプレーしている。離脱という悪夢がいつ現実になってもおかしくない。

 というわけで3ポイント獲得が最優先ではあるものの、他の前進のルートの開拓の重要度はかなり高い。この試合ではウェストハムの苦手な狙い目としてDF-MF間のスペースの管理を挙げた。シーズン終盤の疲労からか、ただでさえ間延びする機会が増えているウェストハムのライン間。その上、ドーソンの前節退場の影響でCBは頭数が合わない状況。ライン間を潰せる圧力を十分かけられるのかは未知数である。

 ライン間で前を向く選手を作れるか、そして後方からそのパスを刺せるかどうかがこの試合のポイントとなる。ライン間のプレッシャーが甘く、スペースが十分ならばポストだけでなく、縦パスを受けた選手たちは自らの反転んも期待できる。

 トーマスやティアニーだけでなく、ふくらはぎの負傷でホワイトも不在となったこの試合。アーセナルも後方のスカッドは苦しい状況。受け手だけでなく、出し手側のスキルも当然問われる展開になる。

■後ろが重たいビルドアップの難点

 ホールディングとガブリエウの2人とともに3バックで保持ではポゼッションを行うアーセナル。やはり入れ替わったメンバーでは一朝一夕で前進できるわけではない。特に苦しかったのは右サイドのやりくりである。どこからどう設計したのかはわからないがかなり後ろに重い配置になっている。

 後ろに重いポジションとなっているのはウーデゴールの役割とエルネニーの振る舞いが一因である。ウーデゴールがサイドに流れること自体は珍しいことではない。この日のようにSBが低い位置を託されているときはSBとWGの間に入りリンクマンの役割をこなすことが多いからである。

 その際に難となるのがエルネニーの存在である。ここ数試合のレビューでも触れたが、エルネニーにはボールホルダーに寄っていってしまう癖がある。これによりホルダーのCBは自らがボールを運ぶ選択肢を失ってしまう。

 もう一つ、この動きが問題になるのは高い位置をとる選手がいなくなってしまうことである。ウーデゴールはサイドに流れているし、トーマスが相棒ではない時のジャカは低い位置をとる機会が多い。その上でエルネニーまで位置を下げてしまうと、前線とつながる選手は極端に少なくなってしまう。

 繰り返しになるが、この試合のポイントはウェストハムのライン間に縦パスを差し込み、前を向く選手を作ること。これではポストに降りてきたエンケティアをサポートする選手がいなくなってしまい、前を向く難易度は上がってしまう。

 稀ではあるが、エルネニーのポジションが高い位置をとることができた際にはアーセナルはクリーンな前進ができている。13分のシーンや23分のシーンでは高い位置にポジションを移したエルネニーが前進の原動力となっている。

 余談であるが、この試合のマルティネッリがいつもの大外ではなくやたらと絞って位置を取っていた。理由としては大外をタヴァレスに任せられることに加えて、エンケティアとのつながりを持ち、ライン間で前を向くという狙いがあったかもしれない。右サイドが機能不全ゆえに、マルティネッリが外に流れれば、サポートのいないエンケティアは孤立の可能性が高まってしまう。それを防ぐためのポジショニングの可能性がある。

 この日は左サイドの完成度もなかなかにしんどい。左のSBのタヴァレスはボールを持っていない時には、優れたオフザボールのポジション取りで前進に大きく貢献をする。しかし、ボールを持っている時にはパスを出すタイミングが遅れるなど、周りを見ながらプレーすることの精度がガクッと落ちてしまう。彼の持ち味を考えれば、ボールを持った時のプレー選択の精度は上げないとダメだろう。タヴァレス個人にとって今後の課題になる部分である。

 マルティネッリとの連携も課題の1つになる。この日は右サイドでボールが詰まりそうになった時に、大外のタヴァレスまで一気にボールを飛ばすことが多かったが、サポートがないまま孤立することもしばしば。マルティネッリとのパス交換からエリアにボールを運んでいきたいところだが、それもできなかった。

 もっとも、先に述べた通りこの日のマルティネッリの振る舞いを考えれば普段と異なるタスクが背負わされている可能性がある。そうした部分も左サイドの連携が不十分なことと関連しているのかもしれない。

 この日のアーセナルの前進について簡単にまとめると、エルネニーやウーデゴールが高い位置をとりながら前進することができればアーセナルのチャンスは大きく広がる。が、そのようなメカニズムはなかなか高い頻度で再現ができない。左サイドも苦戦しているし、右の大外のサカはそもそも前を向いて仕掛けられる機会が少なく、同サイドのフレデリックスを交わすことができても、カバーに飛んでくるライスによって封殺されてしまう。

 そうした展開だっただけに先制点は貴重だった。 タヴァレスの自陣からのプレス脱出や、相手の横パスを掻っ攫ったウーデゴールからエンケティアのあわやと言えるシュート。いい攻撃の形を作った流れの中からのCKでホールディングがプレミア初ゴールを決める。守備で大きな貢献を果たしているホールディングが攻撃面でも大きな貢献を果たした先制点となった。

■ライス起点の展開で同点に

 こちらもプレビューに書いた話ではあるが、この日のアーセナルの裏テーマはウェストハムにパスミスからカウンターの好機を与えないことだった。ここ2試合のアーセナルは低い位置でのパスミスが非常に多い。前進に難を抱えており、カウンターの名手を何人かベンチに置いている状況のウェストハム相手でも低い位置からボールを引っ掛けて仕舞えば、簡単にゴールに迫られてしまう。だからこそ、低い位置での下手なロストは避けなければいけない。

 だが、左サイドを中心にこの日のアーセナルはパスミスが多く、この課題はうまくいかなかったと言っていいだろう。ウェストハムにはカウンターからのシュート機会が十分にもたらされることとなった。

 しかしながら、そうしたアーセナル側からのアシストがない場合、ウェストハム側も前進に苦しんでいた。後方は大きく開くCBにCHが絡んでボールを受ける形。行動範囲が多いライスを軸にウェストハムは組み立てを行う。

 だが、ボールを縦に入れてからのスピードアップはイマイチ。パスミスも出ていたし、ウェストハムが前進に使うことが多い左サイドにアーセナルの頼もしい守備陣がいたのも一因だろう。

 スタメン復帰戦となった冨安はベンラーマをほぼ完封していたし、エルネニーはウェストハムの攻撃が加速できそうなところでスローダウンをさせるべくちょっかいをかける。彼らを抜ききれないまま上げた山なりのクロスを跳ね返すのはホールディングにとっては大の得意分野である。

 唯一の不安要素は自身へのマークが甘いと見るや否や、左サイドから果敢に攻め上がるライスの存在。立っているのではなく、後から侵入してくる分、アーセナルにとって高い位置をとったライスは捕まえにくい。ウェストハムはこのアクセントを使いながらエリアに迫ることができていた。

 ウェストハムの同点ゴールにつながったのはライスを起点とした全く別の攻撃から。逆サイドのコーファルへのサイドチェンジを使い、右サイドからエリア内に侵入。最後はボーウェンがシュートをねじ込んで前半の内に追いついてみせた。

 このゴールについては割とタヴァレスの立ち位置を責める声が多かったように思うが、個人的にはこの場面の彼のポジショニングを咎める論調はしっくりこない。クロスを上げさせたことを悪する人の意見に従うならば、タヴァレスはより外の位置にポジショニングしておけばいいということになる。

 しかし、タヴァレスとガブリエウの間にはボーウェンがいる。仮にタヴァレスがガブリエウとの間を空けたポジションを取るならば、ライスから直接ボーウェンを狙うことができる。実際のボールの動かし方でもガブリエウはボーウェンへのマークが間に合っていないのだから、ボーウェンを監視する優先度をタヴァレスが高く設定しているのは妥当なように思う。

 ライス→ボーウェンへのパスを通してしまえば、ライス→コーファルのパスが通った時よりゴールの脅威があるのは明白。判断やポジショニングの部分で言えば、タヴァレスはできることをやったと言えるだろう。このシーンにおいてはガブリエウのボーウェンに対するスライドが遅れたことの方がより重大なミスと言えるように思う。

■なりふり構わぬ防衛

 前半の内に追いついたウェストハム。後半も同じようにライスを軸とした配球でアーセナルの両サイドから攻める狙いを見せる。アーセナルはこれに対して、マルティネッリの低い位置での負荷を上げることで対応。同点弾となったウェストハムの右サイドのオーバーラップに対して、低い位置まで彼が下がることで対応することとした。

 だが、アーセナルは後半から高い位置へのプレスも強化している。そのため、マルティネッリはハイプレスとリトリート両面で高い負荷の守備タスクを負うことになった。こうなるとマルティネッリはもはや攻撃に出ていくどころではないのは仕方ない。

 マルティネッリにとって助かったのは早い時間にアーセナルに勝ち越しゴールが生まれたことだ。これによってアーセナルのスタンスは撤退重視に舵を切ることになった。その分、プレッシングの負荷は低下。ハイプレスとリトリートの両睨みの時間が短く済んでいなければ、マルティネッリの負荷はさらに高くなっていたことだろう。

 得点の話を少しすると、またしてもセットプレーから。今度はガブリエウが決めて見せた。この日のウェストハムのラインナップは背が小さいため、クリアに距離が出ないことが多い。この場面でも不十分なクリアがアーセナルの波状攻撃を招いてしまった。ガブリエウのマーカーもランシーニであり、仮にきちんとついて行ったとしても競り負けていたかもしれない。

 リードを奪い、重心を下げて対応するアーセナル。攻撃は早めのオーバーラップを見せるウェストハムの右サイドをエンケティアがロングボールを収めてひっくり返す形を軸にする。この日のエンケティアはオフサイドにもかからなかったし、ボールを収めて自らフィニッシュまで持っていく頻度が高く頼りになった。欲を言えば追加点が欲しかったが、味方のサポートもないままで割と低い位置からゴール付近まで自ら持っていくシーンが多かったため、これ以上望むのは個人的には酷なように思う。

 ブロック守備においてはアーセナルの右サイドは冨安、ホールディング、エルネニーが奮闘し、左サイドはマルティネッリの増員で安定感がアップ。ウェストハムは攻めあぐねる時間が続く。

 見かねたモイーズは選手交代で打開を決断。左サイドに流れてプレーすることの多いアントニオの投入でサイド強化を図る。これに対してもアーセナルは粘り強く対応しており、大きくサイドの攻防の優劣が変わることはなかった。だが、冨安が負傷交代となると話は全く別。ウェストハムのサイドの圧力に徐々に苦しむ頻度が増えてくる。

 ウェストハムはソーチェクの投入で、アバウトなクロスでも合わせられるターゲットも増員。アーセナルはエルネニーとホールディングを投入したい展開に追い込まれるが、すでに2人ともピッチにいるので投入できない。

 終盤はただただ祈る場面が増えたが、ウェストハムの攻撃をなんとか凌いだアーセナルが勝ち点3をゲット。逃げ切りに成功して3連勝を決めた。

あとがき

■伸び代はどこにあるか

 プレビューでは『ウェストハムの弱点は・・・』とか『アーセナルは克服すべき課題が・・・』とか偉そうなことを言っていたのだけども、最後の最後はそんなことはどうでも良くなり、とにかく根性でやり切って見せたことと勝ち点3が残ったという展開だった。

 相手に燃料を与えない!というミッションは大失敗でバリバリウェストハムに得点のチャンスを与えまくってしまったので、内容的には満足はいかないし、課題の解決はとりあえず棚上げになってしまった。が、勝利は万能薬説もあるし、残る試合も少ないので、自信をつけながらプレーの質が上がってくることをただただ願うのみ。

 特に、エルネニーをはじめとした低い位置からの繋ぎは意識1つで変わってくる部分だと思うので、上積みが残り試合の中で出てくるならばここなのかなと思っている。前を向けば素晴らしいパスを出せる技術がある選手であることはこの試合で証明している。あとは動き方を直せば保持でもさらに高い貢献を見せることができるはず。成功体験を積みながら1つでも多くの得点機会を作り出してほしいところである。

 マイク・ディーンはこれでアーセナルの担当試合は最後だろうか。長い間、お疲れ様でした。

試合結果
2022.5.1
プレミアリーグ 第35節
ウェストハム 1-2 アーセナル
ロンドン・スタジアム
【得点者】
WHU:45′ ボーウェン
ARS:38′ ホールディング, 54′ ガブリエウ
主審:マイク・ディーン

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