①マンチェスター・シティ×リバプール
■両チームの矜持と実行度の差
両チームのメンバー選考にはミッドウィークをどう過ごしたのか?の差がくっきり表われている。ベンフィカ相手に思い切ったターンオーバーで逃げ切ったリバプールはこの試合にベストメンバーを持ってくることができた一方で、アトレティコとリバプールのサンドイッチに苦しんでいるシティはメンバーをある程度入れ替えざるを得なかった。
メンバーは違えど、シティの大まかな構成はリーグでのリバプール戦と同じ。ベルナルドが中盤の低い位置に入る4-2-3-1であった。
リーグにおけるリバプール戦は人数をかけたシティの低い位置での保持がある程度効いていたが、この試合ではリバプールは高い位置からつぶすことを選択。最も注意したいベルナルドに関してはケイタが追い回すことで高い位置からプレッシャーをかけていく。
それに対してシティはアンカー脇に縦パスを入れる隙を伺っていた感じ。対角パスから外を回して裏!というやり方はやや体力面で不安があったのか見送られることが多かった。グリーリッシュのタメを攻撃で活用したかったというのももしかするとあるのかもしれない。。
サイドでの多角形形成や旋回は比較的少なめ。1つずつズレを作って前進していくというよりは、一気にスイッチを入れて叩くという方が今年の対リバプールのシティの戦い方であった。
ただし、消耗を抑えるといってもハイプレスはやってはいた。特にCHのフェルナンジーニョととベルナルドはその嫌いが強く、彼らのボール奪取からショートカウンターの流れはシティの攻撃パターンの1つだった。
しかし、先制したのはリバプール。セットプレーからコナテという最近のカップ戦のリバプールでのお馴染みの光景で先手を奪う。
続く、追加点はリバプールのプレッシングから。シティのバックラインに対して、ジリジリと詰め寄って追い込んでいくと最後にミスったのはステッフェン。あのリーグにおけるエデルソンの衝撃プレーから1週間でこうした出来事が同じチームで起きるのはいかにもプレミアらしい筋書きである。
やはり、両軍の動きとして日程の差はやや感じる部分は正直あった。プレッシングの圧のかけ方も、攻撃のスピードアップもマークの仕方も1段リバプールの方が上。マネのボレーでさらなる追加点を挙げたリバプールは完勝ムードの波に乗ったように見えた。
しかし、後半頭からシティは反撃に打って出る。まずは前半に見せたフェルナンジーニョのインターセプトから。一気に追い込み、ボールを奪ってグリーリッシュのゴールにつなげて見せた。
その後も反撃を続けるシティ。だが、やはりデ・ブライネの不在は大きく、前がかりになるリバプールの陣形を切り裂けるダイナミズム溢れるドリブルなしでは推進力を思ったように出せない。その分、速い攻撃の威力低下は否めないところだった。
互いにバックラインに怪しいミスが出たこともあり、後半は大きい展開から切り合いの様相を見せる両軍。どちらかといえばシティがリバプールの動きを見ながらポゼッションする時間が少し長かっただろうか。ただ、攻略には時間がかかってしまい、マフレズがエンドライン側から抉って最後は中央にグリーリッシュといういい形を作るまでにはすでに試合は後半追加タイム。ミスがあってもGKにパスを遠慮なく回すところにはシティの流儀を感じた。
一方、リバプールの流儀を感じたのは終了間際。1点リード、あと1分少々で追加タイムも終わるという場面で、敵陣でボールをもってガンガン攻め込むサラーには迷いはなかった。これも矜持を感じた部分だった。
試合はリバプールの勝利。先週のリーグ戦とは異なり、プランの実行度のところで差がついた印象だった。
試合結果
2022.4.16
FA Cup 準決勝
マンチェスター・シティ 2-3 リバプール
ウェンブリー・スタジアム
【得点者】
Man City:47′ グリーリッシュ, 90+1′ ベルナルド
LIV:9′ コナテ, 17′ 45′ マネ
主審:マイケル・オリバー
②チェルシー×クリスタル・パレス
■奇襲をなだめて持ち込んだ総力戦
準決勝のもう一カードはロンドンダービー。3年連続の決勝を狙うチェルシーとアップセットを狙うクリスタル・パレスの一戦である。
立ち上がり、奇襲を仕掛けたのはクリスタル・パレスだった。今季の彼らの攻撃は3-2-5可変がデフォルト。この試合でも3バック基調の戦い方だったのは確か。ただし、この試合では3バックの組み方を根本から変えてきた。普段であれば3バックを形成するのはCB+SBが1枚。主に右のウォードがバックラインに残り、左のミッチェルは右のWGと左右対称になるように高い位置を取る。
だが、この試合では左右どちらのSBも高い位置を取る。それもなるべく直線的に。狙いはチェルシーのWBの裏だろう。特に機動力にかけるアロンソの背後はパレスの集中的な狙い目の1つだった。
SBの代わりにバックラインに入ったのは本職が中盤のクヤテ。この試合では攻守において3バックの一角だったといっていいだろう。チェルシーに対しては、守備において。バックラインを5枚にしておく意義はある。ワイドから彼が運ぶことでWBをつり出してウォードが裏を取るスペースを作ることができればOKだ。
チェルシーのビルドアップに対するマンマークもパレスが仕掛けた奇襲の1つだろう。中盤を中心にマンマークが主体。おそらく、こちらはリーグ戦で先日チェルシーに勝利したブレントフォードのオマージュ。メンディをはじめバックラインからある程度時間を奪えば、効く可能性はあるということだろう。
だが、クリスタル・パレスはどちらの奇襲からも得点にたどり着くことは出来ず。チェルシーはCL明けの重たい体ながらなんとか攻勢をしのぐ。パレスの5-3-2に対して、3バックからボールを運ぶことで落ちつきを見せたチェルシー。パレスのプレス隊に迷いをみせることに成功する。
もう1つターニングポイントになったのはコバチッチの負傷でロフタス=チークが登場したことである。直近の試合では右サイドの裏抜け役というタスクワークをこなしているロフタス=チーク。彼が入ったことでジョルジーニョをアンカー気味にゲームを組み立てるようになったチェルシー。アンカー脇やハーフスペース裏を狙えるロフタス=チークの登場でチェルシーは右サイドが活発に。
非保持におけるアンカー脇が空いてしまうのはネックだが、そこは右のCBのジェームズが絞ってカバー。攻守においてジョルジーニョのサポートを行うようになる。これによりチェルシーは保持でも非保持でも安定して押し込めるようになった。
バックラインからの保持を進めるチェルシーに対して、徐々にジリ貧になっていくパレス。奇襲を諦めて、ザハを頂点にした5-4-1へシフトし、ザハを中心としたロングカウンターに専念することに。
ここまで追い込んだ時点でチェルシーは有利。この時点でパレスにはもう隠し玉とできる選手は怪我明けのオリーズくらいしか見当たらない。前半は効いていたパレスのプレスだが、徐々に出し手にプレスをかけるか、後方の陣形をコンパクトに保つかのポイントを探っている様子で迷いが出てくる。
ポイントを絞り込めず、チェルシーに自由に保持を徐々に許すようになってしまうパレス。すると、後半に先制点をゲットしたのはチェルシー。ミッチェルをパスミスをかっさらってそのままゴールを奪ってみせた。
試合が持久戦の様相になると、さすがにチェルシーに分がある。コバチッチの負傷のアクシデントをロフタス=チークに任せて、立て直しつつ形勢を整えるまでのながらは見事だった。流動性の高い3トップで固定されてたこともあってか、特にヴェルナーを中心とした裏への抜け出しが効いているのは分かった。本人のシュートが決まらなくても(決まった方がいいけど)怖い存在であることは間違いない。
後半は試合を優勢に進めていったチェルシーに対して、ザハ一本鎗にシフトしたパレスは苦戦。全く可能性がないわけではなかったが、常にチェルシーが安定して試合を進める状況を変えられなかった。
CL明けの重い動きながらも奇襲を防ぎ、総力戦に持ち込んだチェルシーが90分のゲームコーディネートで上回った試合といっていいだろう。
試合結果
2022.4.17
FA Cup 準決勝
チェルシー 2-0 クリスタル・パレス
ウェンブリー・スタジアム
【得点者】
CHE:65′ ロフタス=チーク, 76′ マウント
主審:アンソニー・テイラー