Fixture
明治安田生命 J1リーグ 第8節
2022.4.9
川崎フロンターレ(2位/5勝2分2敗/勝ち点17/得点14/失点12)
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柏レイソル(3位/5勝1分1敗/勝ち点16/得点10/失点3)
@等々力陸上競技場
戦績
近年の対戦成績
直近10試合の対戦で川崎は6勝、柏は2勝、引き分けは2つ。
川崎ホームでの戦績
直近10試合の対戦で川崎が5勝、柏が4勝、引き分けは1つ。
Head-to-head
柏には苦手意識がある川崎ファンは多いとは思うが、直近8試合のリーグ戦では川崎が無敗。最後の負けはエドゥアルド・ネットがセットプレーでディエゴ・オリベイラをフリーにし続けた結果、2-5の大敗をかました2016年である。
昨年は柏は2試合で川崎に得点なし、等々力では3連敗中とデータ的には柏は苦しい。しかし、勢いに乗る柏からすればC大阪に続く等々力での大量得点は狙える。等々力での過去5勝のうち、3回は4得点以上という傾向にのっかり、等々力制圧を目論んでいるはずだ。
スカッド情報
【川崎フロンターレ】
・FC東京戦で肩を負傷した車屋紳太郎は全体練習に合流。
・登里享平は右大腿二頭筋肉離れで6週間の離脱中。
・長期離脱中のジェジエウは引き続き欠場。
【柏レイソル】
・右膝半月板損傷している武藤雄樹は欠場。
予想スタメン
Match facts
【川崎フロンターレ】
C大阪戦での大敗からのリバウンドメンタリティを見せることが出来なかった磐田戦では内容の乏しいドロー。仮に週末に勝てなければ2019年以来3シーズンぶりのリーグ戦3試合勝ちなしとなる。ホームでの連敗を喫することになればこちらは4年ぶり。浦和、FC東京に連敗した2018年のゴールデンウィーク以来となる。
スタッツで見れば今季の川崎の変化は一目瞭然だろう。失点の数は12。試合数の違いを踏まえても年間45失点ペース。これは魔の2019年よりも多く、2015年の水準である。
それでも最少失点差で推移すれば終盤に勝ち点をもぎ取る力はある。今季ビハインド5回で得た勝ち点は5で、これは鹿島に次いで多い。ちなみに昨季はシーズン全体でビハインドの局面は8回しかなかった。
川崎の不調の象徴になってしまっているのが家長。だが、柏戦は相性が非常にいい。象徴的だったのは2020年の最終節。三笘と共にハーフタイムで登場した家長は柏優勢で進んだ展開を2人であっという間に塗り替えてしまった。磐田戦ではほぼノーインパクトだったが、何とか復調のきっかけをつかみたいところ。逆サイドのマルシーニョは好調なだけに、右サイドの攻撃にも糸口を見つけ出したい。
【柏レイソル】
スタッツを見るだけでは断言できないことはよくある話だが、柏の試合を見た後にこのスタッツを見ると好調なチーム成績がにじみ出ているかのようである。
リーグ戦では4試合負けなしであり、昨季の3試合という最長記録をすでに更新。昨季との同時期比較で得点は倍増し、失点は1/3以下、そして勝ち点は驚異の4倍である。
強力なカウンターは今季の柏の旗印ではあるが、数値の上で特筆すべきはむしろ守備。昨季は17回あった複数失点試合が今季はまだない。ちなみに7試合終了時の5勝1分1敗での勝ち点16というスタッツはリーグ優勝をした2011年とぴったり同じだったりする。
特徴的なのは枠内シュート数の多さ。シュート数はあてにならないと思っているけども、枠内シュート数は割と経験上そのチームの得点力とある程度の相関を持っていると思っている。柏は特にシュート全体における枠内シュートの率が高く46%。40%台はリーグ唯一で、他の2桁得点チームは軒並み30%台である。正確なシュートを打てるストライカーの力と正確なシュートを打てるシチュエーションの提供が兼ね備わっているということだろう。
個人で見るとアタッカー陣の好調が光る。マテウス・サヴィオの3得点はいずれも試合を決める決勝ゴール。リーグでは最多である。唯一、今の柏で川崎にとって優位なデータを見つけるとしたらネルシーニョの個人成績。神戸時代を含めて等々力では勝利がなく、直近の5試合の対戦では3得点12失点の未勝利。川崎がオカルトに縋るとしたらやはりここだろう。
予習
第5節 名古屋戦
第6節 磐田戦
第7節 C大阪戦
展望
■用意されたフレームがバックラインの手助けに
C大阪に勝利した火曜日の時点で、ついに暫定首位の座を奪取。シーズン開幕前は降格争いに巻き込まれる可能性が高いという下馬評を完全にひっくり返している柏の快進撃は、今季序盤の最大のサプライズといっていいだろう。
第5節の名古屋戦から試合をチェックしているのだが、実際に試合を見ても確かに昨季に比べて良くなったところは多く、内容が結果に結びついているといえそうである。どの部分が成績の向上につながっているのか、このプレビューではじっくりと考えてみたい。
最も変化が大きいのはビルドアップである。昨季までバックラインからのビルドアップは柏の弱点といってもいい部分。ボールをもっても前進できないというのが日常的な光景だった。今季はそのビルドアップには一定の安定感がもたらされている。
理由はバックラインの足元のような技術的な部分よりも、ビルドアップのフレームの部分にあると思う。例えば、左サイド。相手が2トップならば2トップ脇に、3トップでプレスに来るのならばプレス隊の背後に選手がサポートに入ることが多かった。2トップ脇にポジションを取ることが多いのは古賀や三丸、3トップの後方にヘルプに落ちてくるのが多いのが小屋松、そしてどちらにも顔を出すのが戸嶋という感じだろうか。とにかく相手の中盤の守備ブロックの手前でボールを受ける選手を1人準備しておく。
逆に右サイドは奥側に待ち受けるサヴィオにとりあえず預けるパターンが多い。彼にボールを渡し、ひとまずキープしてもらう。そうしている間に右サイドの選手が上がりながらサポートに入り、多角形での崩しが始まり相手を押し下げる。右サイドのボールの動きはそんな感じである。
比較するのならば、左サイドは守備ブロックの前にポジションを取りながらまずは様子見、右は強引に奥を取って味方を引き上げる!という感じになるだろうか。加えて、トップには爆発的な加速力を持っている細谷がいる。当然彼への裏へのパスもOK。
このように昨季と比べて、柏のバックラインにはボールを信頼して預けられる場所がいくつか用意されている。複数の選択肢の目途が立っている分、余裕を持ってプレーできるようになっているのだろう。
アタッキングサードにおいてもホルダーのサポートは充実。裏を取る選手、大外を駆け上がる選手、ライン間に入り込む選手など様々な選択肢を用意する。ライン間にしてむただ立っているというよりは違う場所から入ってくるパターンが多いので守備者からすると捕まえにくい。こうしたオフザボールの役割を被ることなくこなせているので、遅攻でも今までのように困り果てることは少なくなった。
要はアタッキングサードでもビルドアップでもサポートランを続け、選択肢を常に用意し続けることができるというのが柏のビルドアップの改善の理由と考える。
加えて、その仕組みに選手個人のキャラクターが乗っかっているのが強み。例えば、細谷。仮に守備側が柏にハイプレスをかけようと彼らの左サイド手前にいる選手を捕まえに行こうとしたとする。すると、当然背後が空く。その裏のスペースを細谷がサイドに流れながらつくことができる。
左サイドでいえば三丸の存在も面白い。大外から斜めのコースが空けばFWを狙った斜めのパスを打ち込むことができるし、仮に放置されれば自身がカットインしながらPA内に迫ることができる。正確なクロスを持つ彼を放置することは守備側にとってはリスク。磐田はまんまと放置した三丸にアシストを許してしまっている。
■手綱を握るシャドー
柏のチームとしての攻撃のデザインとしては大きく分けて2つ。まず1つ目は相手の守備をサイドに寄せてからのファーへのクロス。細谷のサイドへのフリーラン、三丸のサイドからの持ち上がり、そして右サイドの多角形からの抜け出しなど、相手にとって片方のサイドをケアしなくてはいけない状況をまず作る。それによって、相手の中央のプレイヤーをサイドにおびき寄せる。そしてクロスを上げる。クロスは相手の守備ブロックの動きとは逆となるファーが狙いになる。
ボールサイドに相手を寄せて、薄いサイドにクロスを上げて決める。このパターンが多い。クロスに飛び込むのは逆サイドのシャドー、WBに加えてIHも。特に戸嶋はこうしたエリア内への飛び込みをサボらずに試合終盤まで続けることができる。
もう1つのパターンはシンプルな前線3人を軸としたカウンター。物理的な速さと突破力でぶん殴ってくるイメージである。こちらはわかっていても止められないぜ!の方である。
守備に関しては5バックの陣形を基本として5-3-2と5-4-1を使い分けるのがベース。ここの使い分けはシャドーの小屋松とサヴィオに一任されている感。半分IH、半分シャドーの彼らによってチームのプレスの手綱は握られている。
彼らが重心を上げればバックラインは呼応するし、出ていかないのならばステイする。無謀なプレスで穴を空けがちというのも柏の弱点の1つだったが、そうした弱点が見えにくくなったのは手綱を握っている彼らの功績が大きい。C大阪戦のように5-4-1でまずは自軍を固めつつ、ロングカウンターで一刺し!というのを展開に応じて細かく使い分ける器用さはこれまでにはなかった強みである。
サイドの守備には5バックがスライドしながら圧をかけるパターンも持っている。5バックを敷いてどーんと構えるのではなく、ボールサイドにグッとよって脱出させないアプローチをかける動きである。
これは予習した中でいえば名古屋戦の振る舞いが顕著。おそらく定点攻撃でサイドに強力なアタッカーを有しているチームにはこうした手段も持っているということなのだと思う。
■受け止めるのが役目
柏のチームとしての懸念としては、サポートランの量と質の低下による、ボールホルダーの選択肢減少が真っ先に挙げられる。主力のコンディション低下、負傷、移籍などによってこうしたサポートの質の低下やシステムの根幹を担う選手が機能しなくなることが最も怖い。
ただ、ここを気にするのはもう少し先の話だろう。ミッドウィークに試合がある週にぶつかる(柏は火曜日のC大阪戦でのターンオーバーはなし)ことで試合単位でのランの量と質の低下の可能性はなくはないが、今のところは5枚交代によって走りきれる試合の方が多い。磐田戦で中村に代わって大外を爆走していた岩下などがその好例である。
というわけで川崎からすると非常に難しい相手である。弱点は少ない、現時点での完成度が高いチームなので攻略する難易度は高い。
あえて狙い目を挙げるとすればやはりバックラインだろうか。川崎の保持においてはダイレクトに彼らを揺さぶるような大きな縦のボールを入れる。3バックの中央の高橋はたまに体を当てるのをサボることがあるので、ここにダミアンをぶつけることで明確な起点となる可能性は十分にある。ここを起点に両サイドのCBの裏への駆け引きを挑みたいところ。
C大阪戦でも柏のバックラインは山田のような身のこなしがうまい選手に手を焼いていたので、ここで勝負ができればゴールへの最短ルートになりえるように思う。
逆にブロックを敷かれた時は相手の挙動をまずは観察すること。できることならC大阪戦のように同サイドにこだわるよりも、G大阪戦の後半のように広く攻めながら相手の薄いところを作りたい。特に柏がボールサイドに人をかける名古屋スタイルで来るのならば、家長出張をはじめとするオーバーロードによる密集攻略は柏のカウンターの格好の狙い目になるだろう。
サイドを変える際はなるべくバックラインは小屋松やサヴィオを引き付けてから。プレスの手綱を握る彼らを手前におびき寄せれば、柏の陣形の間延びを誘発することにできる。擬似カウンターではないが、素早くサイドを変えることが難しいのならば、なるべく引き込んで縦にスペースを作りたいところである。
磐田戦での川崎のプレスの規律を見る限り非保持はしんどい。特に右サイドに明るい展望を描くのは難しい。
手前でプレーする古賀、戸嶋にWGがプレスに行った制で後方でIHとSBがタスクオーバーを起こし、小屋松、細谷、三丸に暴れまわられる!みたいな未来は簡単に描くことができる。
特に斜めに入り込んでくる三丸のカットインや、CBを引きつれる細谷のランには要注意。場合によっては早めにラインを下げる判断も重要である。撤退守備において重要なのはクロス対応だろうか。佐々木、山根はボールが逆サイドにあるときこそ注意を払わなければいけない。佐々木は磐田戦でミスったクロス対応を再び問われることになるだろう。
カウンター対応に関してははっきり言って細谷に走られたらもう無理である。前を向かせずにスピードに乗せる前に対応するしか選択肢がない。とは言っても、スペースにロングボールを蹴ることもある柏相手にバックラインだけで前をむかせないのは至難の業。
となるとやはり、即時奪回の前線のプレスは重要である。中2日という厳しい日程ではあるが、ロスト後の振る舞いでまずは攻撃をスローダウン。その上でショートカウンターに移行できたら理想である。柏のバックラインは足元の不安が解消されたわけではないのでまずは時間を奪うアプローチは有効であるといえるだろう。
ロブ性のロングボールだけでなくグラウンダーの楔から素早く前を向く選手を作る連携も柏は成熟している。即時の縦パスを防ぐためにはまずはロスト後のプレスからだ。
と、ここまでいろいろと述べてはきたが、今の川崎にとってまず大事なのは磐田戦のように自ら機会を掴みにいかないプレーを改めることからである。あの試合のパフォーマンスのままで勝てるほどJ1は甘くはない。この試合はまずはそこが最低限である。
その上で、柏はここまで予習してきた中では最も強い相手という感触である。そしてチームとして勢いにも乗っている。下馬評でいえば有利なのはおそらく柏。敵チームも今ならば川崎にも勝てるという思いで等々力に乗り込んでくるはずだ。
そうしたモチベーション十分の相手を受け止めるのは王者の役目である。そして、そうしたイケると思っているチームを叩くのも王者の役目である。カシマスタジアムでの鹿島もおそらくそう思っていただろう。行けると思っている相手に立ちはだかってこそ王者なのである。
苦しい局面は間違いなく訪れる。C大阪戦のように崩壊せずにそうした局面でも我慢する。そして反撃して勝利への道を切り拓く。ACL前の国内最後の大仕事。唯一の土曜開催、注目度抜群の柏との一戦で、自分たちのプレーを取り戻し、王者の役目を果たすことが川崎に求められることになる。