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レビュー
■決め打ちの動きでのビルドアップ
3戦2敗スタートとなり、苦しい最終予選でのスタートとなった日本。だが、オーストラリアとの直接対決で流れを変えて戦績を持ち直すとそこからは連勝を重ねて2位まで順位を上げてきた。
一方のオーストラリアは日本とは逆に直接対決を取りこぼしてから流れに乗れていない。加えて、今回の代表ではロギッチ、ムーイ、アーバインと中盤の主力級がごっそりと離脱。大迫、冨安、酒井、古橋と常連組が不在の日本以上に苦しいやりくりを強いられることになる。引き分けでも最終節に望みがつながりはするが、日本の最終節の相手がベトナムであることを踏まえれば、実質勝利のみが唯一のオーストラリアの予選突破の道といっていいだろう。
立ち上がりからボールを持つ時間が長かったのはアウェイの日本だった。日本の低い位置からのボール保持にオーストラリアが対峙する場面はこの試合では結構多かったのだけど、どちらの視点から見てもツッコミどころがある!というのが正直なところである。
オーストラリアはデュークとフルスティッチが前に出てくる4-4-2の形でのプレッシングを行う。基本的にはオーストラリアの2トップは日本のCBに強くプレッシャーをかけることはなく、中盤にパスが出た時にヘルプに出れるような位置にいた。
日本はこれに対して同サイドのIHをサイドやや低めの位置に降りて受けさせるように。同サイドのSBはそれに合わせて高い位置を取る。
日本のIH番は基本的にはオーストラリアのCHだったが、相手が降りていく場合はSHに任せる形が多かった。よって、オーストラリアの前プレの3枚目となっていたのはボールサイドのSHだった。
ビルドアップする側の日本の視点から言えば、バックラインの動きのバリエーションの少なさが気になった。例えば、CBの対面からのマークが薄い分、定位置から離れたところで受けたらどうなのか?とか。持ち運ぶドリブルをしたらどうなるのか?とか。あるいは低い位置で受ける動きをIHではなくSBがやったらどうなのか?とか。
CBの持ち運びに関してはこれまでやってきていない部分なので、この試合でできていなかったことしてもまぁそんなもんか!という感じなのだけど、山根の資質を考えれば右サイドにおけるSBとIHの低い位置での関係性はもう少しバリエーションが見えてもいいのではないかなと思った。例えば下の図のような前進とか。
オーストラリアの前進の方法とも絡んでくる場面があるので後述するが、ボールサイドでなくても自動的にSBが高い位置を取る日本のシステムも横の動きのなさやネガトラにおける脆弱性を考えれば、危うい要素ではあたt。
■CHがアキレス腱になる
ただ、ツッコミどころの多さでいえば個人的にはオーストラリアのプレスの方が多かったように思う。一番手を焼いたのは日本の右サイドである。大きな展開から左から右に持って行かれるような一気にバックラインを押し下げられるような流れは苦手。
理由の一つとしてはオーストラリアのSHが日本のIHのケアをする比率が高かったから。この試合の日本のIHは低い位置での仕事が多かったため、そのIHを気にしていたオーストラリアのSHにとっては、こうした後方への大きな展開は逆を突かれる行為に等しい。
この一連の流れ自体は不思議ではないのだが、問題はオーストラリアのCHである。日本のIHのケアをSHと分担しているので、その分他の仕事をしたいところ。例えば、大きな展開に対して最終ラインに戻り、メイビルのプレスバックが完了するまでの時間を稼ぐとか。
だが、この日のオーストラリアのCHに最終ラインのプロテクトをする意識は低い。メイビルのプレスバックが間に合わなかったときはもちろん、間に合ったとしても危うい場面はあった。27分に日本が迎えた南野の決定機は田中碧に走られたニアのハーフスペースを封じられなかったことが元凶。ここのプロテクトは出来ればCHが間に合わせたいところ。
もっとさかのぼった話をするならば、オーストラリアは中盤を同数以上で受けることが多いにも関わらず日本のサイドチェンジを許す場面があまりにも多い。なので、そもそもメイビルの戻りが間に合わない!となる場面が発生するのもCHに責任があるように思う。先に挙げた27分の場面もそもそも中盤で南野の横ドリブルでメトカーフがピン止めされたため、田中碧を追っかけられなかったという側面もある。
日本が相手を動かすという意味でのビルドアップができていなかったにも関わらず、前進の機会とエリア内でのチャンスが巡ってきたのはオーストラリアの中盤より前の守備の機能不全が一因として挙げられる。急造コンビで苦しかったのはわかるが、この試合においては十分付け入るスキになる傷の大きさだったといえるだろう。
日本は時間をもらえたCBから裏への抜け出しを狙ったり、あるいはトランジッションから縦パスを付ける形で加速したりなど。相手を動かしながらスキを作るのはあまり得意ではないけども、スキがあるところにパスを刺し込むのは得意なので、オーストラリアの弱みに付け込みながら前進の機会は作れていたように思う。
エリア内では南野が絞りながらアタッカー仕事を全う。大迫がCFの時とほとんど同じノリでプレーしていたといってもいいだろう。浅野は普段はあまり見られない下がってボールを受ける仕事も頑張ってこなしてはいた。さすがに大迫と同水準は無理だし、相変わらず抜け出してからのコントロールは甘いが、前線で起点になるということに関しては求められた役割をこなしたといえるのではないだろうか。
■右に流れるフルスティッチが唯一の糸口
オーストラリアのビルドアップに対しては日本は2CBをトップの浅野が監視。そこ以外は人で人を捕まえることで均衡を保ちつつ、高い位置からひっかけてショートカウンターを狙う。
トップの浅野はオーストラリアがサイドにボールを運んだ時には同サイドに限定しようと囲い込みに動くが、コースの読みとホルダーへの距離が少し遠いため、十分にプレッシャーがかからない。だけども、オーストラリアのCBも浅野が与えた時間をうまく使えるわけではないので、そこは日本からすると助かった部分である。日本は中盤も人を捕まえることはできていたし、低い位置でのビルドアップからのオーストラリアのチャンスは皆無に等しかった。
というわけでオーストラリアが活路を見出したのは速攻。日本のSBがビルドアップ時にやたら高い位置を取ることに固執しているのを見て、フルスティッチが日本の左サイドに流れながらチャンスをうかがう。
長友の裏を取られることは少なくはなかったが、日本は比較的うまく対応してはいたように思う。ただ、40分の吉田の対応はどうだったか。サイドに出ていくならば迷いなくつぶしてほしかった場面だし、クロスを上げることを許してしまえば、結局PA内に戻ることはできない。フラフラ出て言った挙句、ノープレッシャーでクロスを上げさせるのはいただけない。遠藤のカバーの有無にかかわらず、もっと早くホルダーを捕まえたい。
この場面においては出て来たクロスへの対応にも難はある。山根はこの場面でデュークに競りかけることすらできなかった。直前のCKの場面(ファウルで取り消しになったところ)においても競り負けてしまっており、国際舞台における競り合いという以前の代表戦で露呈した課題は据え置きといえるだろう。
ただ、40分の場面以外にオーストラリアに得点のチャンスがあったかといえば微妙なところ。フルスティッチの右サイド流れ以外に糸口はなく、日本以上に前進に苦しんだ前半だったといえるだろう。
■守田のバランス感覚が展開に変化を与える
前半の項で触れ損ねたが、オーストラリアのSHが降りていく日本のIHについていく際に、最も恩恵を受けやすいのはSBである。50分のシーンのように、きっちり守田がメイビルを引き寄せることが出来ていたら、山根はぽっかり空くことになる。
オーストラリアは前半の途中からメイビルにこの低い位置に降りていくタスクを割と軽くすることで後方の守備者の数を担保することを重要視していたように思う。加えてハーフタイムのCHの交代で中盤のフィルター能力を強化する!といった感じだろうか。
後半は速い展開での右サイドでの完結が難しくなった影響もあってか、日本は縦パスでスピードアップを狙うケースが増える。勝たなければいけないオーストラリアはオープンでの殴り合いは上等。フルスティッチだけではなく、デュークへの縦パスも使いながら、攻守の切り替えが早い展開に持ち込んでいく。
最終予選における日本はこうした展開には韋駄天アタッカーを途中交代で放って、速い展開のまま制する!というのが常だった。だが、古橋も前田も招集外、さらには浅野も頭から使ってしまっており、こうした速い展開で自分たちの方向に流れを引き寄せるカードは日本にはなかったように思う。
そのため、日本は勝算がおぼろげな撃ち合いを続けることに。引き分けで困るのはオーストラリアの方なので、戦況が五分ならこの展開はオーストラリアにとっておいしい。
そうした流れの中で輝いたのが日本の右サイド。ここがゆっくり攻めるための起点になっていた。別格だったのは守田だろう。ビルドアップ時の自分の降りる動きというのは相手の守備ブロックに移動を強制させてこそ!というのがあったのだろう。そのため、メイビルがついてこないと見るや、以降は降りる動きを減らし、相手に影響を与えられるより奥側の位置でボールを受け、背負いながら味方にフリーのスペースを提供していた。
中継内で内田篤人が『守田君はSBからすると助かる』という旨の発言をしていたが、おそらくこうした相手にプレスがかかる位置でボールをキープし、周りをフリーにすることが出来ているからだろう。山根、伊東というオフザボールの鬼2人を従えながら、自身も動きながら同数でうけようとするオーストラリアの左サイドユニットを押し込みつつ破壊するようになっていく。
守田は川崎時代を基準にしても、できることがめっちゃ増えたと思う。最終予選の中でパフォーマンスが最も伸びたのは個人的には彼かなと思う。
前半は苦しんでいた山根だったが、後半はこうしたサイドにおける3人での崩しという川崎色の強い動きが求められたこともあり、徐々にクラブで魅せるような滑らかな攻撃参加が増えるように。クラブでの彼の強みである高い位置からのインターセプトや、時間を得た時にまずCFの動き出しを意識するパスが顔を見せる機会は後半にだいぶ増えた。
それを踏まえると、山根は試合の中で相手に対して慣れてきて、自分の持ち味を出せるようになった来たのかなと思う。確かに彼はそうやって川崎でも成長してきたなとちょっと感慨深くなった。
ゆっくりした押し込む攻撃でもなんとか成立するようになった右サイド。となると、欲しくなるのは左サイドでの仕上げである。引き分けOKの状況で入れるか?という問題はあったけども、人数をかけていない日本の左サイドをこの数的なバランスで成り立たせるならば交代選手は三笘一択。
三笘はほとんど注文通りの役割を果たしたといえるだろう。1人どころか2人を引き付けて左サイドで開きながら押し下げるという日本の新しい攻撃のルートを開拓する。
だが、三笘の特筆すべきところは開いての仕事に留まらないところ。後半再三続いていた右サイドのトライアングルの崩しから抜け出した山根がエリア内に折り返すと、これを三笘が沈めて日本が先手を取る。
実質、この先制点でワールドカップ出場権を手中に収めた日本。だが、三笘はさらに追加点をゲット。誰もがキープかと思って見守っていたら、Jリーグファンなら既視感のある大外からのグイグイのカットインで強引に2点目をこじ開けて見せた。
中に入ってのストライカータスクと大外の質的優位タスク。後半から改善された右サイドの連携に2つの役割を上乗せした三笘が日本の決め手となり、オーストラリアを撃破。見事に敵地でワールドカップ出場権を決めて見せた。
あとがき
■これ以降の変身はあるのか?
まずはおめでとう!プレッシャーのかかる最終予選のスタートにはなったが、見事なリカバリーでノルマを達成して見せた。
川崎ファンの目線を差っ引いても、最終予選の流れが変わったのは守田と田中の併用に舵を切ったオーストラリア戦なのは明らか。そこに1月シリーズで大ハッスルした谷口、板倉とオマーン戦とオーストラリア戦という2つのアウェイで決め手になった三笘、そして山根が乗っかったことを踏まえれば、川崎一派の代表への貢献度の高さは言うまでもないだろう。ファンとして誇りに思う。
1月の谷口やこの試合の山根のように普段戦っているリーグ戦からアジアの舞台で躍動している選手を見るのは感慨深さもひとしおだ。高い位置から積極的に止めにいったり、この試合の決勝点のように終盤になっても攻撃参加で得点に絡んだりなど。これこそが川崎!というスタイルで突き進んで結果を残しているのも何とも言えない喜びがある。正直、川崎スタイルの代表への移植は難しいのではないかと思っていたので、喜びと同じく驚きもあるけども。
さて、先を見据えれば課題は少なくはない。バックラインからのビルドアップで相手と駆け引きできていればオーストラリアはもっと楽な相手だったはず。左サイドのハイラインを支えるバックスが徐々にスピードに対応できなくなってきているのも気がかりだ。オープンさを韋駄天で許容していた試合中盤のコントロールもこの試合では解決策が見えなかった。
そして、最も大きな心配は守田と田中の併用による中盤のポジションチェンジとトランジッション強化という変身を最終予選の途中で見せてしまったことだろう。これまでの本大会でうまくいった日本代表はこうしたブレイクスルーを本大会前まで隠しながら(あるいは自ら壊すことで再構築を余儀なくされながら)、戦ってきた感がある。
だが、今回はその成功例に照らし合わせるとその変身はだいぶ手前に来ているように思う。対戦相手からすると研究材料はたっぷりあるはずだ。
森保監督に次の一手はあるのか。それともブレイクスルーなしで引き出しを細々増やす方向に舵を切るのか。出場を決めた本大会までの時間をどのように使うのかは引き続き注目である。
試合結果
2021.3.24
カタールW杯アジア最終予選 第9節
オーストラリア 0-2 日本
埼玉スタジアム2002
【得点者】
JAP:89’ 90+4’ 三笘薫
主審: ナワフ・シュクララ