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「Catch up UEFA Champions League」~Round 16 2nd leg part 2~ 2021.3.16-3.17

1st legはこちら。

目次

①アヤックス×ベンフィカ

■先制点が全ての流れを変える

1st leg

 保持における破壊力を下地に、今年のCL決勝ラウンドの台風の目候補として名前を挙げる人も多いアヤックス。1stレグでは引き分けに終わってしまったが、2ndレグでもゴリゴリの攻撃色全開でベンフィカを攻め立てる。

 まずは相手のSHを手前に引き出しながらサイドに穴をあけて攻略するのが彼らの流儀。バックラインに1人相手の選手を置いてけぼりにしたところでサイド攻略に挑む。サイドはトライアングル、もしくは4人でポジションを入れ替えながら同じ位置関係のバランスを取ることが多い。

 アヤックスはサイドを変える機会は少なく、同サイドでの攻略をまずは念頭に置いている。スタイルは微妙に違えど、躍進したベスト4のシーズンもとにかくどこにでも顔を出すファン・デ・ベーク戦法で戦っていたので、近年のアヤックスには割と数的優位での局所破壊のイメージはある。日本でいえばそういうモードに入った時の川崎フロンターレ風味とでもいえばいいだろうか。

 右サイドのアントニーはそんな中でもソロでのドリブル打開ができる破壊力を持っている選手。普通はそうした選手には味方はカットインするスペースを与えるために離れることが多いのだけど、この試合においてはとにかく寄る。あくまでミクロなスケールでアントニーの持ち味を生かそうという考え方に見えた。もちろん、個々人のスキルは折り紙付きではあるが、全体設計としては欧州のトレンドとは結構逆行気味のチームだなというのが感想である。

 そんなこんな押し込み続けるアヤックス。ベンフィカは撤退しながらSHの位置を下げて、最終ラインの人員を確保するが、それでも破られかけてしまう。サイドでのパスワークからの抉るような侵入。ベンフィカはヴェルトンゲンとオタメンディを軸にただただ跳ね返す時間が続く。

 ベンフィカはボールを奪っても即時奪回の餌食に。密集に対して縦に突っ切ろうとするからダメなんだと気づき、横の大きな展開を織り交ぜるようになった途中からはだいぶ保持の時間を確保することができた。保持においては手早くトップに渡すやり方がメイン。トップのヌニェスは左サイドに流れながらロングボールを引き出しつつ収める機会はあった。

 だが、パスが2本とつながらないのがベンフィカの悩み。後半は中盤で引っ掛ける機会も増えて、カウンターに打って出れるケースも出て来たのだが、そこからパスがつながらないのでは意味がない。

 押し込み続けるアヤックスが依然有利と思われた展開だが、セットプレーからベンフィカがワンチャンスをモノにする。ヌニェスがFKに合わせてトータルスコアでリードを奪うゴールをゲット。アヤックスはマーカーのティンバーが競ることすらできず。懸念であった最終ラインの強度がここで足かせになってしまった。

 アヤックスはここから攻撃的な選手を大量投入するパワープレーに移行するが、焦りからオフサイドとファウルを連発。らしくない直線的な攻撃からはチャンスの芽は見えてこないまま、時間がどんどん過ぎていく。アントニーへのサポートの仕方も変更せず、1on1もやる気はなかったように見えた。

 結局試合はそのまま終了。ワンチャンスだが、的確に相手の弱みに付け込んだベンフィカがアヤックスの嵐のような攻撃を食い止め、ベスト8に駒を進めた。

試合結果
2022.3.16
UEFAチャンピオンズリーグ
Round 16 2nd leg
アヤックス 0-1 ベンフィカ
ヨハン・クライフ・アレナ
【得点者】
BEN:77′ ヌニェス
主審:デル・セーロ・グランデ

②マンチェスター・ユナイテッド×アトレティコ・マドリー

■夢の劇場で見せたアトレティコの哲学

1st leg

 終了間際のゴールでなんとかタイスコアでリターンレグを迎えることができたユナイテッド。この試合でも序盤はどちらかといえばユナイテッドが攻勢に出ていた。ユナイテッドの攻撃陣はSHがやや絞り気味。特に右のエランガはインサイド側に絞ることが多かった。

 よって幅をとってチャンスを作るのは左サイド。ロナウドもサイドに流れながらこちらのサイドからクロスを上げることを狙う。アトレティコの5バックはWBが最終ラインのプロテクトをすることを優先。低い位置からクロスを上げるユナイテッドの選手にチェックをかけるのが遅れることが多かった。

 ユナイテッドはチャンスを作れてはいたが、SHが内に寄ったりロナウドが外に流れたりすることでズレができた!というメカニズム的な話というよりは、ハーフスペースに抜けるフレッジやスピードのあるエランガで局所的にデュエルで勝利することでのチャンスメイクが中心。ロナウドはどっちかといえばインサイドにいた方が良さげのように思うんだけど。

 サイドからのクロスで危険にさらされることが増えたアトレティコは、グリーズマンをSHに落とす形で5-4-1でブロックを形成し直す。この役割をグリーズマンにやらせられるのがアトレティコだし、シメオネ!という感じである。これにより、ユナイテッドの攻撃はある程度手当をすることができた。

 アトレティコの保持は立ち上がりはユナイテッドのバックラインのギャップを突くような裏へのランを使いながらの前進が目立ったのだけど、前半途中からはやや淡白さが際立つように。そのため、段々と横に降りながらの攻撃に傾倒していくアトレティコ。ただし、長いレンジのパスの精度が刺さらず、一本ピッチを横切る大きなパスが決まればなーという感じだった。

 そのピッチを横切る大きなパスがようやく決まったのはアトレティコにとって最高のシチュエーション。右サイドでフェリックスのタメからフリーになったグリーズマン。このグリーズマンのクロスがファーまで正確に届き、これをロディが押し込んで先制する。

 ポイントだったのはフェリックスがサイドに流れながらヴァランを引きつけていたこと。その分、インサイドに絞ったダロトにはファーのロディへのケアは少し難しくなってしまっていた。

 リードで迎えた後半、アトレティコは前半以上に5-4-1で構えてのワンチャンスカウンタースタイル。ユナイテッドはこれを崩すチャレンジをすることになる。

 左右に振りながら攻撃の糸口を探るが、アトレティコの5-4-1を動かしながらの揺さぶりをかけることができないユナイテッド。攻め込んではいるけども、打開策を見出すことができない。

 ラングニックの手打ちも非常に中途半端だった印象。クロスが主体となっているのに、パワープレーでターゲットになりうるマグワイアを下げて、スピードに難がある上にすでに警告を受けているマティッチをバックラインに組み込み、カウンターを迎撃させるというのははっきり言って意味不明。いくらマグワイアが不安定なプレーに終始していたとはいえ、終盤にこの交代をするのは攻守に自らを弱めただけのようにしか思えない。

 アトレティコは強いていえばもう少しボールを大事にすることができれば楽に試合を運べたが、それでもブロック守備の強度は十分。こうした苦しい時間をストレス少なく過ごせるのは彼らのカルチャーである。

 5-4-1へのシフトチェンジからワンチャンスでリードを掠め取り、ブロックを組んで逃げ切る。夢の劇場で見られたのはユナイテッドの勝利ではなく、彼らをねじ伏せたアトレティコの哲学だった。

試合結果
2022.3.16
UEFAチャンピオンズリーグ
Round 16 2nd leg
マンチェスター・ユナイテッド 0-1 アトレティコ・マドリー
オールド・トラフォード
【得点者】
ATL:41′ ロディ
主審:スラヴコ・ビンチッチ

③リール×チェルシー

■足りなかった縦成分で名誉挽回

1st leg

 オーナーの財産凍結により、前代未聞の自腹遠征という形でフランスに降り立ったチェルシーの面々。リールとしても選手たち自身の金で遠征にやってきたチームをホームに迎えるという経験も非常にレアなはずである。

 ピッチ外の様子で見れば窮している感じがあるチェルシーだが、ピッチの中においては1stレグでは2点リードと優勢で2ndレグを迎えている。

 この試合でもどちらかといえば優位に立ったのはチェルシーである。チェルシーの3バックでの組み立ては4-4-2で対するリールにとっては少々工夫が必要。SH、特に左のグズムンドソンが縦にスライドすることでチェルシーのバックラインにプレッシャーをかけようとする。

 だが、さすがにチェルシーのWBに対して、リールはSBまでスライドするほど強気な守備を見せることは出来ず。チェルシーはボールを落ち着ける場所を確保しながらポゼッションする。だけども、リードしているチェルシーは無理はしない。やり直しを繰り返しながら、薄いサイドを作る試みをしつつ仕掛けのパスは慎重に。U字型のポゼッションが中心で、縦に貫くようなパスがなかなか出てこなかった。

 それに対して、リールはサイドを変えられるたびにラインを高く維持すべく中盤とDFがラインをきっちり上げていた。よって、試合はチェルシーの保持の時間は続くもミドルゾーンでボールを回す時間ばかりが増えていく流れとなった。

 リールはカウンターでのワンチャンスを狙っていくスタンス。だが、突き抜ける個人はおらずチェルシーのバックラインに穴をあけることができない。

 そうした試合の流れが変わったのはクリステンセンの負傷交代である。右のCBに彼の代わりとしてチャロバーが入ったことで、リールは攻略の糸口をみつけられるようになった。シェカのターンから左に流れたデイビッドにボールを渡し、いきなりチャロバーにイエローカードを受けさせたことは流れが変わった証拠だろう。

 その流れに乗るようにリールはPKを獲得。ジョルジーニョのハンドでリールは1点差に迫るPKでの得点を得る。

 だが、一気に畳みかけたいリールを前にチェルシーは反撃。前半終了間際のラストプレー。これまでのチェルシーの攻撃に足りなかった縦に貫くラストパスを受けたプリシッチが角度のないところから得点を叩き込む。縦成分をもたらすラストパスを与えたのはハンドを犯したジョルジーニョだった。

 再び2点差を追うことになったリール。ギアは極端に上げずに慎重な姿勢を貫きながら攻撃を継続する。チェルシーが受けに回ったこともあり、リールは保持の機会を得ることはできていた。だが、攻めあぐねるシーンが続き、チェルシーのゴールを脅かすことはできない。

 そうこうしているうちに隙を逃さないチェルシーが動く。WB→WBという幅を使った攻撃を完結させての追加点をゲット。アスピリクエタが押し込んだゴールで試合は完全に決着する。

 180分を通してチェルシーが主導権を握ったこのカード。リールも意地を見せはしたが、前年王者の壁は高く、このラウンドで姿を消すこととなった。

試合結果
2022.3.17
UEFAチャンピオンズリーグ
Round 16 2nd leg
リール 1-2 チェルシー
スタッド・ピエール・モーロワ
【得点者】
LIL:38′(PK) ユルマズ
CHE:45+3′ プリシッチ,71′ アスピリクエタ
主審:ダビデ・マッサ

④ユベントス×ビジャレアル

■消極的だった180分

1st leg

 1stレグは電光石火のヴラホビッチの先制ゴールで口火を切ったユベントス。だが、その後の時間での逃げ切りには失敗。ビジャレアルに追いつかれてトリノでのリターンレグを迎えることになる。

 ここ何年か、全体的にCLノックアウトラウンドの試合は積極的に見てきた方だと自負しているのだが、この試合はここ数年のノックアウトラウンドの中ではかなり異質だったように思う。というのも他のどの試合に比べてもテンポが遅い。具体的にいうと、プレスラインを下げてホルダーを捕まえよう!という意識があまりない両チームの対戦だった。

 格上のチームがリードしているのならば、試合を一方的にポゼッションで終わらせる!みたいな流れも見たことはある。だが、先ほども説明したようにこの試合の頭の段階では両チームはタイスコア。得点を取らなければPK戦までまっしぐらの試合である。

 個人的にはビジャレアルの振る舞いはまだわかる。ユベントスのボール保持は左のSBのデ・シリオを高い位置に取らせて、SHのラビオが内側に絞り、5レーン気味にふるまっていたので、とりあえずこちらも5バック気味にして迎え撃とう!ということで右のSHであるピノを低い位置まで下げたのだろう。

 ユベントスは左のデ・シリオ、右のクアドラードを軸にクロスで砲撃。特に右は3人程度で連携しながらクロスを上げることもあったが、あんまり旋回で誰かをフリーに!という感じは伝わってこず。チャンスはクロスの精度によって担保されている感じだった。

 シュートがバーを叩くなど攻撃面ではクロスの精度起因での成功が見えなくもなかったユベントスだったが、守備に関してはとにかく消極的。ビジャレアルはGKを挟む形でCBがビルドアップを行っていたが、そこにはプレッシャーをかけることは皆無。SBの攻め上がりを警戒してか、こちらも5バック気味で攻撃を受ける形となった。

 どちらのチームも保持側の時間を奪おうというアクションがないので、とにかく展開がスローリー。攻守の切り替えとか、インテンシティというワードをどこか別の世界に置いてきてしまったようなのんびりとした時計の針の進み方をしている試合だった。

 後半になり、ようやくユベントスが重い腰を上げてプレッシングに打って出る。だが、ショートカウンター気味になりそうな場面においても、前線にスピードアップができる存在がいない。縦に速い攻撃は実現できないまま時間が過ぎていく。

 そんな中でユベントスに綻びが出てしまったのは5バック変形までして手厚くしたはずの守備。5バックで構えているチームとしては許したくない2本のフリーでのパスを中央で許してしまったゆえに、ユベントスは対応が後手に。これがルガーニのPK献上のトリガーとなってしまう。

 交代直後のモレノがこのPKを決めると、続く85分にはパウ・トーレスがセットプレーから追加点をゲット。慌てるユベントスを尻目にカウンターからデ・リフトのハンドを誘い、ビジャレアルはものの15分でユベントスを奈落の底に突き落とした。

 思えば、2試合における見せ場といえる見せ場は開始1分で決めたヴラホビッチのゴールくらい。確かに2ndレグは枠内シュートの数も相手を上回ってはいたが、この試合を見て『よくやった』と胸を張れるファンはあまりいないように思える。消極的なメソッドからの脱却を図れなかったユベントスにとっては結果以上に厳しい内容を突きつけられるCLとなってしまった。

試合結果
2022.3.17
UEFAチャンピオンズリーグ
Round 16 2nd leg
ユベントス 0-3 ビジャレアル
ユベントス・スタジアム
【得点者】
VIL:78′(PK) モレノ, 85′ トーレス, 90+2′(PK) ダンジュマ
主審:シモン・マルチニャク

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