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「渡してしまった金棒」~2023.12.9 プレミアリーグ 第16節 アストンビラ×アーセナル レビュー

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レビュー

掴みにくい先制点の要因

 今季のリーグでのホームゲームでの連勝は8。昨季から合わせれば連勝記録は14。クラブにおけるホームでの連勝記録の更新をかけて、アストンビラは首位アーセナルとのホームゲームに臨む一戦だ。

 アーセナルは非常に慎重な立ち上がりからスタート。プレッシングは控えめで無理なハイプレスにはいかずにバックラインにボールを持たせる余裕を与える。おそらく、この辺りはアストンビラの得意な引き付けてから一気に縦に進むフェーズを警戒してのことだろう。

 一発でボールを奪いに行くのは難しくとも、片側のサイドに寄せながらのボール奪取を狙うアーセナル。サカが外を切るスタンスを筆頭にアーセナルがボールを寄せることを狙っていたのは自軍の左サイド側である。

 アーセナルの左サイドがハイプレスをかけるときに扱いが厄介なのはティーレマンスだ。トップ下に入ったティーレマンスは右のハーフスペース付近に常駐。ハヴァーツ、マルティネッリ、ジンチェンコ、ガブリエウの誰が見てもOKな位置にいるが、誰が見るかがはっきりしない立ち位置ともいえる。

 ハイプレスをかけるのであれば、ハヴァーツはカマラを追いかけるし、マルティネッリはコンサを追う。しかしながら、この試合では常にアーセナルはプレスをかけていないので、ティーレマンスを基本的に見るのはハヴァーツかマルティネッリのどちらか。プレスに出ていくタイミングで後方に受け渡すという流れだった。

 失点シーンでもティーレマンスに関する受け渡しがうまくいったとは言えなかった。ただ、この失点の要因を個人のエラーとして炙り出すのは難しい。この部分はゴールシーンを見返せる状態で読むことを推奨。アーセナルの右サイド側でワトキンスのポスト→ルイスがウーデゴールを外して逆サイドへの展開をした時点でアーセナルは後手に回っている。

 カマラがジェズスをいなし、カルロスがフリーになっている時点でアーセナルは自分のマーカーに強くいくのは難しくなってしまっている。

 ゴールから逆算すると、ベイリーとティーレマンスへのアプローチが遅れているのが悪いので、この局面にかかわったジンチェンコが悪いようにも見える。だが、ジンチェンコがそもそも寄せられないのは前列のマルティネッリやハヴァーツがホルダーに制限をかけられていないからであり、そうなると彼らが悪いことになる。

 だが、ハヴァーツやマルティネッリがホルダーにチェックをかけられないのはウーデゴールやジェズスが逆サイドからボールを逃がしてしまったからである。かといって「この失点はウーデゴールとジェズスが悪い」と結びつけるのはいささか無理があるだろう。当たり前だが、ゴールそのものと失点の要因は発生した事象はゴールから前の時間(もしくは場所)に大きく遡るほど薄くなる傾向がある。ジェズスやウーデゴールが同サイドから脱出させないことは重要だが、これができないからといって失点に結びつくわけではない。アストンビラが後方で作り出した時間をきっちりと前に送った結果が得点として帰ってきたと考える方がしっくりくる。

 強いていえばベイリー→マッギンのラストパスが通った場面でライスはサイドのヘルプではなく、中央にとどまるべきだったとは思う。だが、このゴールシーンより前の場面でライスはジンチェンコのヘルプとしてベイリーにダブルチームを組むために外に出ていっている。当該シーンではベイリーのマーカーはガブリエウであり、ダブルチームの必要性は薄いともいえるが、このシーンでのライスの振る舞いはチームの試合前の約束事を知る立場でないと検証は難しい。

 いずれにしてもアストンビラが見事だったのは確かだ。クリーンな繋ぎで相手を引き付けては穴を開けて正確なプレーを刻みながらアーセナルのゴールにスマートに迫っていった。今季のアーセナルが食らった失点の中でも最も可能性の低いところから攻撃をゴールに繋がれたシーンだったように思う。ティーレマンスが引いた分、高い位置を取る形でゴール前に飛び込んだマッギンもとても抜け目がないプレーだった。

カマラとルイスの先読みが冴える

 ハイプレスに自信を持っていけないことでボール奪取のポイントを定めることができないアーセナル。高い位置でボールを奪えないのであれば自陣からのビルドアップは何とか整備したいところである。

 バックラインからのビルドアップは3-2型のビルドアップが基本形。前節絞らなかったLSBはキヴィオル→ジンチェンコの入れ替えと共にインサイドでのプレーが復活することとなった。

 3-2からの流動性は健在。3-1になったり、ウーデゴールが入って3センターのようになったり、そこからジンチェンコが抜けたりなどのある程度の遊びを持って組み立てている。

 アストンビラのプレスは4-4-2から枚数を合わせる形での変化はなかったため、アーセナルは後方にフリーマンを作ることは難しくはなかった。ライン間に入れればジンチェンコは前を向けるし、高いDFラインの背後は空いている。

 しかしながらこの背後のアクションはあまりうまく使えていない印象。裏を使われる前提でカバーするマルティネスや、中盤から飛び出していくハヴァーツについていくカマラにより、アーセナルのハイライン裏抜けは消されていた感があった。この辺りは「ぱっと見で使えそうでも工夫がなければ裏抜けは通らないのではないか」というプレビューの予想通りだった感はある。時間経過と共にサイドからの裏抜けを増やしたジェズスもそれに気づいていたように思えた。

 加えて、シンプルにアーセナルの長いレンジのパスの精度も物足りない。前を向けるジンチェンコの縦パスや、前線の選手たちの横断を促すサイドチェンジの質も低く、長いボールがつながらなかった。この辺りは先制した場面におけるアストンビラとの明確なクオリティの差となった。

 ボール保持が思ったよりもうまくいかないアーセナルは失点したこともありハイプレスで迎撃を増やすことに。その結果、懸念になっていたティーレマンスのマークは後方で受け取る形で整理されることとなった。

 一緒に配信をしていたkeitaさんが気づいていたが、逆サイド(アストンビラの左側)にボールがあるときはティーレマンスにジンチェンコが絞って対応し、ボールサイド(アストンビラの右側)ではガブリエウが前に出ていっていたのが基本線となる対応だったように見えた。無理に入れ替わることもしなかったので、ティーレマンスのマーカーであるジンチェンコと外のベイリーを監視するガブリエウは内外の位置が入れ替わることもしばしばだった。カバーリングというよりもこれは単純な設計の話で片づけるのがいいと思う。

 後方のハイプレスが整理されたアーセナルは高い位置からのプレスに手ごたえを見せる。特に中盤につけるアストンビラのパスは危険なものが多く、アーセナルはハヴァーツとウーデゴールを軸にビラのCHを刈りどころに一気にプレスを強めていく。サイドから深さを取り、マイナスのコースにラストパスを入れていくアーセナルだが、マイナスのウーデゴールはビラに先読み。右に流れるカマラと流れたスペースを消すルイスの関係性はアーセナルの左サイドからの攻撃に対抗するのに十分なものだった。

 保持が落ち着いたアーセナルは自陣からのビルドからサイドに流す形を作ってはいたが、アストンビラのCHを軸としたスライドを外し切れず。アーセナルの左サイドとアストンビラの右のマッチアップは非常に見ごたえがあった。最後の砦となったマルティネスも予測の鬼っぷりを発揮し、ウーデゴールのシュートをキャッチで止めて見せる。

少し時間はかかったが主導権を奪って攻めるようになったアーセナルに対し、アストンビラは早め早めの対応を誤らないことで対抗。リードを維持したまま試合はハーフタイムを迎える。

展開にマッチしない選手交代

 前半に負傷したベイリーを交代し、ディアビを投入したビラ。それに伴い配置はマイナーチェンジ。ティーレマンスとマッギンのサイドペアに組み替えて、2トップはワトキンスとディアビのコンビになる。

 トップの位置に入るのがティーレマンスからディアビになったことで、カマラが列を下げた際に穴を開けることとなる元のスペースのカバーリングが怪しくなることが多くなったビラ。その恩恵を受けたジンチェンコは前半よりもクリティカルな位置でボールを受けることができた。

 不可抗力的な交代であるベイリー→ディアビだが、もちろんビラ側にも意義がある交代。ワトキンスとディアビの2人を揃えれば、アバウトなボールでも2人で攻撃を完結する破壊力がある。カウンターであれば多少前後分断しても問題はない。守備での貢献はもちろんティーレマンスの方が上だが、2点目をより効率的に取るための線も新たに生まれた交代だといえるだろう。

 アーセナルは左サイドで浮くジンチェンコから攻撃を構築していく。前半からの改善ポイントは前線の裏抜けを複数人が行うことで、カバーリングの先読みを鈍らせること。そして、裏抜けに参加するのはジェズスとマルティネッリであり、先読みに長けているカマラが監視しているハヴァーツは裏抜けに関与する頻度を下げることでカマラを対応から遠ざけたことなどが傾向として読み取れた。

 ジンチェンコの柔らかいロブ性のパスからマルティネッリ、ジェズスが抜け出すことからアーセナルはチャンスメイク。逆サイドからもサカが1枚ではあるが裏抜けを狙っており、おそらく後半開始からしばらくのこの時間がアーセナルにおける勝負の時間帯。だが、なかなか攻め落とすことができずに苦戦。PKを取ってくれればという場面もあったが、VARはOFRをレコメンドせず、ビラはなんとかボックスを守りぬく。

 エメリは選手交代で手当てを行いアーセナルに対抗。WB的にふるまえるラムジーを左に入れてカマラが列落ちしないでも5バックを維持できる形に変更。中盤にカマラが残ることでジンチェンコへのケアもできるようになるなど、展開にアジャストさせた形に変えてくる。

 さらにアーセナルは選手交代することで出力が低下。狭いスペースをこじ開けることが得意なトロサールはこの試合の前線のタスクにマッチしていない感はあった。エンケティアもオフザボールから相手の最終ラインを揺さぶることができずに苦戦。長いボールからの裏抜けが減ったことでそうしたパスを出せるジョルジーニョを起用すべきだったという声もあったが、個人的には抜け出す側の前線が入れ替わった割には動き出しが物足りなかったなという感覚である。

 終盤になってもコンパクトな守備に対してチャンスを量産するところに至らないアーセナル。89分にハヴァーツがネットを揺らしたシーンはファンとしてはキャッシュのハンドを取ってほしかったが、ここも判定はノー。

結果的に最後のチャンスとなったこのシーンを仕留められなかったことでアーセナルはネットを揺らせないまま終了。難攻不落のビラパークを打ち破ることができず、アーセナルは3季ぶりにアストンビラ戦での敗北を喫することとなった。

あとがき

 大前提としてアストンビラは非常に強かった。4-4-2が何も仕事をしないまま淡々と裏抜けから崩される試合もアウェイであれば普通にあるので、その再現をできないかなと思ったのだが、アーセナル側の精度不足と先制点で勢いづかせてしまえば、簡単に攻略をするのは難しい。巻き返したとはいえ、序盤のアーセナルの振る舞いは難所で鬼に金棒を渡してしまったようなものだった。

 カマラやルイスの動きをみるとアーセナルをきっちり研究した跡は見て取れる。シティ戦から中2日でこの落とし込みは立派の一言である。アーセナル側からすると勝負する局面を裏抜けというカラーに絞らされてしまったことで、ベンチメンバーが流れに乗りにくい状況を作り出された感があった。xG自体は上回ってはいるが、思う通りに展開を進める時間は長くなく、難所という看板に偽りがないことを知らしめられた90分だったといえるだろう。

試合結果

2023.12.9
プレミアリーグ 第16節
アストンビラ 1-0 アーセナル
ヴィラ・パーク
【得点者】
AVL:7’ マッギン
主審:ジャレット・ジレット

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