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①日本×サウジアラビア
■狙い通りと奇襲、2つの顔で首位撃破
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直接の勝ち点差が4なので首位攻防戦という色はやや薄めだが、それでも予選突破に向けた大事な一戦には変わりない。サウジには突破決定がかかっているし、日本はこの試合の結果で次節の必要要件が変わってきそうな予感である。
試合は共にやや慎重な立ち上がりを見せた。比較的高い位置から追っていくケースは日本の方が多かったが、大迫+外切りプレスのWGの2枚でスイッチを入れるプレスに対して、サウジはそこまで無理をしなかった。
サウジの前進の黄金パターンは外切りの日本のWG裏にいるSBにボールを渡し、日本の中盤を引っ張り出しつつ、中央への細かいパス交換でサイドチェンジを狙う形。
この場合、最も楽なのはGKから直接浮いているSBに届ける形なのだが、サウジのGKはどうやらそのボールは蹴れないようなので、CBがポゼッションの駆け引きで勝利しSBにボールを届けなければこのパターンが見えてこなかった。
サイドチェンジを受けた左のSBのアッ=シャハラーニーがオーバーラップからファーに正確なクロスを届けられれば、長友の外側からチャンスを作ることが出来たのだが、中盤での前進からのSBのオーバーラップを生み出す頻度とそこからのクロスの精度にはやや難があったため、サウジはチャンスを量産することが出来なかった。
決まった攻め手で結果を出したのはむしろ日本の方。伊東純也が任意の相棒(IHor大迫or酒井)を引き連れて、大外+HSで右サイドを崩し切る形はこの日も機能。特に1on1じゃ止めるのが難しい伊東がもう1人を引き付けることが出来たために、相棒が動き回れるスペースはかなり確保できていたように思う。
1点目のシーンは日本の攻撃の理想といってもいいだろう。右の伊東のスピード勝負で優位を取り、大迫と南野の連携でフィニッシュ。左右非対称のWGのタスクの正当性が結実した得点となった。
後半の頭、日本はプレスを強化。外切りプレスをやめて、サイドは迎撃する場所に設定。日本のWGが縦を切るようにホルダーにチェックをかけるタイミングでIHと大迫が中央を圧縮し、ボールを奪取。ここからショートカウンターでチャンスを作る。
プレスで主導権を握った日本は先制点ではアシスト役に回った伊東純也が今度はスーパーミドルで4戦連発のゴールをゲット。サウジをさらに突き放す。
終盤は交代選手がやや精彩を欠いたことで主導権をサウジに渡す場面もあったが、CB+3センターの非保持の冷静な対応で自陣深くの守備でもサウジの攻撃陣をシャットアウトする。
両チームとも限られた手段での前進が多く見られた試合だったが、前半にその形で点を奪い、後半にモデルチェンジで奇襲をかけた日本がサウジを上回った試合となった。
試合結果
2021.2.1
カタールW杯アジア最終予選 第8節
日本 2-0 サウジアラビア
埼玉スタジアム2002
【得点者】
JAP:32′ 南野拓実, 50′ 伊東純也
主審:コ・ヒョンジン
②オマーン×オーストラリア
■優位に立つも2回の誤算でフイに
オマーンは4-4-2のフラットのフォーメーションを採用。前節と同じ陣形ででグループ内における3強の一角崩しに挑んでいく。だが、この形は個人的には前節と比べて機能しなかったように思う。
まず、オーストラリアの4-2-3-1からムーイをアンカーに下ろしての逆三角形のビルドアップにうまく対応できていなかった。おそらく、オマーンは2トップが2CB+アンカーの3枚を監視する形を実現したかったのだと思うのだけど、ここが機能しなかった。枚数が合わない分、ホルダーを捕まえられないことに加えて、オーストラリアはオマーンの最終ラインに対してスピード面で優位。高く設定されたオマーンの最終ラインの裏に積極的に蹴り飛ばすことによってチャンスメイクに成功していた。
オーストラリアはこの優位を生かし15分にボイルが裏に一発で抜け出した形からPKをゲット。これをマクラーレンが沈めて先制。上位2チームを追いかけるための順調な滑り出しを見せる。
オマーンの4-4-2フラットは保持の面でも難あり。予選序盤で存在感を見せることができたのは段差の多い中盤が菱形の4-4-2で多くの斜めのサポートを作ることができていたから。4-4-2フラットでは構造上、斜めのパスコースはあまり多く存在しない。
オマーンはパスコースを創出しようと動き出しても、オーストラリアの中盤は同サイドにグーッと圧縮をかけることで密集をそのまま押しつぶす。オーストラリアは積極的にボールを取り上げることはしなかったので、保持率こそ両チームで差がない展開だったが、主導権はオーストラリアのものだった。
順調に時計の針を進めていたオーストラリアだったが、後半の途中でまさかの誤算。トランジッションから攻め上がったSBのカラチッチの裏を使われてしまう。カバーに入ったCHを嘲笑うかのように、オマーンはCHが空けたバイタルからミドルを放ちワンチャンスをものにする。オーストラリアにとっては高くつくミスとなってしまった。
後半のオーストラリアはサリーでバックラインの数的優位を確保し、外循環でボールを前に届けて、クロスを上げることで敵陣に迫る機会が多かった。このクロスがファーに届けば、4枚で迎え撃つオマーンのバックスは対応が難しくなる。そのため、クロスがファーに正確に届くかどうか?がオーストラリアの攻撃がうまくいく分かれ目となっていた。
79分に勝ち越し点を生んだのもファーへのクロスで競り合うことができたから。こぼれたボールをデュークが落とし、攻め上がっていたムーイが叩き込んで再びリードを奪う。
これで決着かと思われた試合だったが、終了間際にオーストラリアはまさかのPK献上。人数をかけて囲っていた気になっていたボールホルダーに裏へのパスを出させたことがまずは問題な気がするが、1点目と同じくカラチッチの裏を取られてしまっての失点は切ない。
2回追いつかれてしまい勝ち点3を積む機会を逃してしまったオーストラリア。3月シリーズの日本とサウジアラビアとの連戦を厳しい状況で迎えることになってしまった。
試合結果
2022.2.1
カタールW杯アジア最終予選 第8節
オマーン 2-2 オーストラリア
スルタン・カーブース・スポーツコンプレックス
【得点者】
OMA:54′ 89′(PK) ファワズ
AUS:15′(PK) マクラーレン, 79′ ムーイ
主審:モハメド・ハッサン
③ベトナム×中国
■依存脱却で繋がる最下位脱出の望み
グループBの上位対決となった日本×サウジアラビアの試合の直後に行われたのは、グループのボトム2によるベトナム×中国の一戦だった。
中国は日本戦を踏襲する4-4-2を採用。アランやアロイージオなど、日本戦ではベンチやメンバー外だった帰化組をスタートから起用するという変化を付けてきた。
一方のベトナムは5-3-2。5-4-1との2択感があるが、キーマンであるグエン・クアン・ハイの位置が低くなるこちらのフォーメーションで中国と向き合うこととなった。
ベトナムの3センターは左右に動きながら中国の攻撃を片側に寄せる試みを行う。これに対して中国はその密集をかち割るようなアプローチ。パス交換から3センターの間を通すような縦パスを狙っていく。
縦パスの受け手として存在感があったのは18番のアロイージオ。フィジカルを活かしてベトナムのDFを背負い、裏を取り走る選手にラストパスを送っていた。中国は2トップ+SH2人がポジションレスに動き回る構造になっていたし、ベトナムの5バックは裏抜けに対する耐性が結構脆いので、このやり方は仕上げとしては悪くはなかったと思う。
ただ、そもそもの前提となるベトナムの3センターをかいくぐってアロイージオへの縦パスを通すというところの精度はイマイチ。中国はポゼッションでの仕掛けはそこまでできるチームではないので、その点で苦戦していた。
対するベトナムは早々に先制する。左サイドからズレを作り、最後はファーサイドのホー・タン・タイが決めて先手を取る。ベトナムはこれまではグエン・クアン・ハイの一撃必殺ラストパス頼みだったのだが、この試合ではかなりその依存度が下がったように思う。
例えば、先制点の場面では左の大外から2トップの一角のファン・トゥアン・ハイが同サイド裏に流れたことで、中国のDFラインが乱れて大外の選手ががら空きになってしまっていた。2トップの動き出しがこの試合では崩しのスイッチになることが多かった。中国がその余裕を与えた側面はあったが、ホルダーにプレスをかけられないとこれだけ多彩な崩しは出来てしまうチームということなのだろう。
セットプレーからの同サイド崩しで追加点を得たベトナムは試合を終始支配。ボールこそ、中国に渡す場面が多かったが中国が効果的に攻められている場面は少なかった。
後半、中国はアロイージオ、アランを下げて狭いところを打開にこだわるよりも、広いスペースにボールを逃がすメソッドも併用で採用した感じ。前線で背負えるアロイージオ役は9番のチャン・ユーニンに代わり引き続きインサイドの解決策も探っていく。
だけども、これも攻め手として確立できないまま時計の針は進んでいく。ビルドアップ隊がこうしたバリエーションを操るほどのスキルがないのが中国の現状である。
試合は後半に互いに1点ずつを追加して終了。エース依存からの脱却の兆しを見せたベトナムが中国を下し、最下位脱出に望みをつなぐこととなった。
試合結果
2022.2.1
カタールW杯アジア最終予選 第8節
ベトナム 3-1 中国
ミー・ディン・スタジアム
【得点者】
VIE:9′ ホー・タン・タイ, 16′ グエン・ティエン・リン, 76′ ファン・バン・ドゥク
CHI:90+7′ 徐新
主審:ナワフ・シュクララ
日本代表1月雑感
■田中碧抜擢の理由と国内合宿の意味合い
森保JAPANを追いかけている有識者からよく出てくるキーワードは『選手個人の対応力』である。最低限の原理原則は設定するものの、細かいピッチでの修正点は選手に任せる。物議を醸した遠藤が戦術ボードをいじっている映像はこうした森保監督の大元となる方針を象徴したものといっていいだろう。
となると、議論のポイントは『選手に任せる裁量の調整』というハード面の話と『選手たちがどれだけピッチで修正できるか?』というソフト面の話の2つに絞られる。
森保さんは選手を固定するとよく言われてはいるが、最終予選の中で日本代表は中盤にドラスティックな改革を加えている。無論、田中碧と守田のことである。
この2人の抜擢の理由は川崎ユニットでセットで起用しやすいこと!だと思っていたのだけど、最近は広範囲に動き回りつつ、ピッチで必要な場所に顔を出す動きを質が高く繰り返すことなのかなと思うようになっている。それが川崎で普段行われていることやで!ってことかもしれないけども。
柴崎→田中碧への入れ替えはレビューでも繰り返し指摘した『3センターの均質性』の部分の発現により、ピッチの中で選手たちが歪みを修正する手段を増やすシステム的なアプローチである。それに加えて、行動範囲は広いものの歪みが出にくいように動きなおしながら調整できる彼ら2人の特性を加えた感じ。
なので、守田中のコンビの採用は3センターの均質性によってハード面で不具合の手当てをしたという側面もある一方で、ピッチで修正しながらトライできる選手が新たに登用されたというソフト面での手当でもあるように思う。
森保JAPANが1月に行った国内合宿の意味として竹内さんは
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代表常連組のコンディション向上
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代表候補組に対する基準の再提示
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パリ五輪組に対する経験
の3つを挙げていた。
代表の練習はとにかく強度が高いらしい。国内合宿の意味合いは代表はこれくらいの強度は必要!という基準を再提示するとともに、自分たちが普段やっている環境とは異なる状況、より高い強度での適応能力を見ているのかもしれない。
ここをクリアできなければ、守田や田中のようにソフト面で日本代表の力になるのは難しいという判断なのだろう。同時に、その基準をクラブに持ち帰ることが自クラブの底上げにもつながるはず。
指導側にとっても、選手側にとっても一つでも実りが多い代表期間となることを祈るばかりである。