先に断っておくけども、書いてみたらあんまり明るい話は多くなかったので、川崎についてとにかく楽しい記事が読みたいよ!っていう人にはあまり向いていない内容かもしれない。というわけで今年の川崎を振り返る。まずはいくつか気になるトピックスについて並べてみる。
2023年のトピックス
1. 偽のSB採用の話
シーズン開幕前の川崎の話題としてはもっぱらこの話だったように記憶している。川崎は新しいことに挑戦する。それがマンチェスター・シティ化であり偽のSBであると。山根がインサイドでプレーするのが肝になるという話であった。新しいシステムについては2020年の4-3-3へのトライがポジティブだったこともあり、比較的前向きにとらえられていたように思う。
しかしながら、今の川崎のスタイルについて聞かれた時にマンチェスター・シティというワードを持ち出して説明する人はまずいないだろう。3-2-5へのトライは大枠としてはうまくいかなかった。
自分の3-2-5に関する展望は開幕戦の横浜FM戦のプレビューで書いた。ポイントとなることを箇条書きでピックアップすれば以下の通りになるだろう。
- 後方からインサイドとアウトサイドへの2択を突き付けることができればビルドアップは安定する。
- 立ち位置を守ることを意識しすぎて攻撃が膠着するためWGの打開力への依存度が増す可能性がある。
- 流動性を持たせるためには誰かが一人二役を担いながら無理をする必要がある(山根であればできるかもしれない)。
要はこうした部分ができなかったため、川崎のビルドアップは破綻したといえるだろう。序盤は形にこだわることが先行し、インサイドに強引につけた結果あっさりとロストする機会が多かった。GKやCBはアウトサイドの選択肢をちらつかせないまま、相手のマークを背負ったまま降りてくる3センターにボールをつけては相手にショートカウンターのチャンスを与える。
相手を見なかったことも問題は第1節の横浜FM戦のソンリョンのミスからの失点は個人のエラーに帰結できるが、続く鹿島戦では3トップ+2IHで組む相手に対して、3-2に変形しわざわざプレスにつかまりやすくしていた。こうなれば当然マークは剥がすことができない。
たとえ、ビルドアップが安定したとしてもアタッキングサードでは苦戦。マルシーニョは三笘と違って大外でボールを渡しておけばOKというタイプではないので、静止状態から違いを作るのは難しい。山根が低い位置での仕事を増やすことになれば、右サイドの従来の強みであるトライアングルを生かすのは難しい。だからこそ一人二役だったが、それは山根にとっては輪をかけて難しいミッションになる。
そういうわけで偽SBとやらは全然うまく回らなかったが、シーズン終盤になって山根がビルドアップでポジションを変えながらプレス回避をしたり、大南が引き付けながら空いたところを使う器用さを身につけたりなど、細かなところで収穫はあった。要はシティ型とか3-2型というのは単なる手段の1つに過ぎず、そうしたビルドアップのスキルアップというのはどういう枠組みでも工夫次第でできるということである。
2. 守備の話
川崎がボールを持っているときはプレスでハメられていたが、川崎がボールを持たれているときはプレスでハメることができなかった。ハイプレスに関しては明らかに見切られる機会が増えている。ポゼッション志向のチームが増えているわけではない今のJリーグにおいて、序盤の川崎のハイプレスのクオリティは武器として通用するレベルではなかった。
これに関しては運動量に難がある3トップが足かせになっているのは明らかである。その一方で終盤戦の川崎を見る限り、現状で最強なのはダミアン、家長、マルシーニョであることは動かしがたいと思うので、仕方ない部分がある。
状況を悪くしたのは撤退守備の効率性の悪さだろう。引いたとて守れないことが川崎をさらに苦しくした感がある。同サイドに2人がかりでホルダーを囲い込んだとしても脱出されて、薄いサイドに運ばれてしまうことが頻発していた。
前の選手が誘導したボールの出し先に山村や高井がプレスにいけないことが多いうえ、逆に間に合わないのに出ていっては交わされる場面も多かった。これに関してはシーズン中盤戦までの橘田と年間を通しての瀬古にも同じ課題が見られた。出ていっているのに無効化されることは出ていかないよりも厳しい。ボールを奪いに行かなければという前向きな意識が傷口を広げていくのは切ないところである。
後半戦はむやみやたらなハイプレスが減った。その分、試合の流れを強引に持ってくることは難しくなったが中盤のカバー範囲は想定的に狭くなった。橘田の復調もあり、中盤のボールハントの狙いどころはだいぶ見えてきた印象だ。
終盤戦は山村と登里という2人のスピードに難があるDFが左サイドで使われていたが、ボールの雲行きが分かれば多少狙われていてもなんとかしていた印象だった。天皇杯決勝の細谷が相手でも外に追いやることさえできれば問題ないということはボールをどこに誘導するかを明確にすることがいかに大事かの証左であろう。大島とシミッチの両者も身体能力に限りがありながら、出ていくケースにおいてのミスは少ない。
逆にそういった雲行きが見えにくかったり、あるいは雲行きが見えたとしてもどうしようもないくらいまずい状況に陥ったりなどがやたらと一発退場が多い理由になるだろう。後者に関しては特に保持時の陣形や攻撃の終わらせ方とシームレスな部分である。
誰もがバリバリ動けるわけでない今の川崎においてボールを奪いきること以上に、後方の列で奪い取りやすくするための守備は非常に重要になってくる。終盤戦は前半戦に比べると退場が少なくなったことを見ても、遅れたタックルは減ってきているのかなと思う。
3. CFの話
結局、ダミアンが最強やったんかい!というのは切ないところ。味方とフレキシブルにポジションを入れ替えたり、あるいは今季の序盤の取り組みが実を結び、後方から時間を前に送るビルドアップができたりするのであれば、周りとつながるのがうまい宮代でもなんとかなるのでは?と思ったが、その前提は成り立たず今も川崎は前進の手段やラインの押し下げをCFに頼りっぱなしである。
数字的にはノーゴールという完全な期待外れに終わったゴミスさえもそれなりの評価をしたくなってしまうのは、やはり独力でラインを下げることができるCFの存在が前進とボックス内でのクロスの仕上げにおいてどれだけ重要かということだろう。宮代、小林、山田で回している中で彼が入ったことへの一息の安心感は異常だった。特にマルシーニョや家長以外のストライカー系のWG起用される選手たちは助かった感がある。ダミアンのフィットネスが上がらない時期にも「今季は彼を待つしかないな」とすぐに割り切れた。それくらい日本人のCF陣とは差があった。
ダミアンはいなくなってしまい、おそらくゴミスはフルタイムでのコミットは難しい。少なくとも前進の手段としてはビルドアップの整備かCFを使った押し下げのどちらかは必須。できれば両方欲しいという中で、来季の柱をスポット起用での存在感発揮に偏っていた山田に託すのは現状ではそれなりにギャンブル性の高い運用になると思う。働き盛りの外国人CFを入れるのが適正だろうか。
4. 補強選手の話
外部からの補強選手のフィットが遅く、レギュラーを掴むのが遅いという川崎。鬼木監督就任以降で明確な通年レギュラーを掴んだ日本人の外部補強選手は家長、阿部、山根くらいのもの。その中で初年度の早い段階からフィットしたのは山根と阿部の2人である。
そういう意味では今季の補強は比較的力になったといえるだろう。谷口不在やスカッドでの怪我人が多かったことはバックグラウンドとして存在するが、大南は1年目で終盤戦では柱といえるところまで成長したのは大きい。
瀬川は大南ほど多くのプレータイムには恵まれなかったが、スーパーサブとしての資質をいかんなく発揮。あらゆるポジションをこなしつつ40試合以上の出場を果たし、積年のチームの課題である途中交代からのゴールゲッターとしても重要な役割を担った。
上福元もソンリョン不在時のパフォーマンスには助けられた。明らかなミスやセービングにおけるムラがある分、1stチョイスにはなれなかったが、後方からの組み立てにおけるGKの重要さや守備範囲の広さが川崎にもたらすものはなにかをチェックすることはできた。
外部での補強である程度の戦力化ができたことは非常に前向きである。その一方で主軸を担えるポテンシャルが確約されている選手を他クラブから獲得することはなかなか難しいのは川崎に限らない話。クラブ側のプロテクトが厳しいうえにそうした選手の目はJの他クラブではなく海外に向くケースが多いためである。今年の補強の成果に関して文句はないのだが、外からの補強だけでチームを作り変えることの難しさは川崎だけではない市場全体を見渡した所感にもつながってくる。
5. 終盤戦の復活の話
すごくネガティブな話ばかり書いてきたようにも思うのだけども、終盤戦の川崎はなんだかんだで結果を出した。リーグ戦の優先度を引き下げることを許された結果の副産物であることは認めざるを得ないだろう。リーグの手を抜いたとは思わないが、投入したリソースは明らかにACLと天皇杯にフォーカスされていた。
昨シーズンの終盤戦の感覚から言えば、主力の投入をし続けることでのクオリティの担保は週1ならばなんとかなるが、週2になると厳しいことは明らか。今季もその傾向は踏襲されたことになる。
主な理由は中盤のフィルタリング能力及び相手を剥がすプレーの精度が落ちると今の川崎は戦えないからだろう。中盤はレギュラー3枚&少し違うタイプのシミッチの4人とそれ以外の差がかなり大きい。
幸か不幸か、終盤戦の好調はそうした割り切った運用が許された故の産物だったといえるだろう。リーグ戦では新潟戦以降は無敗で踏ん張ってはいたが、内容に寂しさがあったのは確か。今季負けなかったからといって、来季の週2での運用の成功が保証されたわけではない。もちろん、来季の見通しが不透明なことと今季割り切ったこととの是非とは別の話である。今季はどう考えても割り切ってリソースの集中投下が正解である。
一発勝負の状況になった時に依然として相手からすればめんどくさい立ち位置なのが今の川崎である。中盤より後ろは単純なロングボールでは吹っ飛ばされないし、前線は決まった試合であれば走り回ることができる。つなぎながら試合を支配することを捨てたわけではないだろうが、それが叶わなかった時のエスケープのルートの多さはACLを意識したもののように思えたりする。
多少のルート分岐でも対応できるような幅を手に入れた反面、最大出力値は少し落ちたようにも思える。ACLでの更なる進撃を意識するのであれば、やはり外国籍選手の枠は埋めておきたい。
まとめと来季のイメージ
5つの項目を並べてみたが1つ以外は結構各論的な感じがする。自分のアナライズ不足、構成の練りが甘いといった部分もあるかもしれないが、今季の目玉であった方向性がうまくいかなかったり、故障者が多く出てしまったりなどでできないことが顕在化した可能性も考えられる。その結果足りないところを見えなくするような戦い方を終盤戦にかけて覚えて、週1であれば十分なクオリティを見せられるチームまでたどり着いたのが今季の川崎の終着点というイメージである。
今季はシーズンの終盤にチームは過密日程を迎えたものの、チームとしては優先度をつけやすい状況だった。が、来季の頭にも過密日程は約束されており、こちらに関してはまっさらなリーグテーブルとACLのノックアウトラウンドを並行して戦うという週2でフルコミットを求められる日程になる。
抜けてしまったポジションの補強や怪我がちな選手のスカッド内での立ち位置見直しはもちろん必要だが、試合をしながら休むスタイルは身に着けたいところ。今の川崎は強度の高さがそのままクオリティに直結しているところがあるが、それでは来季の序盤に苦しくなることは目に見えている。
望んだほどの成果ではないかもしれないが、大南や山根といった数人の選手には保持でのトライの正解は見えている。来季は今季以上に保持の部分に手を付けることは必須。保持でのプレス回避を軸としたポゼッションしながら休憩できるスタイルへの需要は例年以上に高い。闇雲にマルシーニョに蹴りまくるスタンスで行ったり来たりしてしまえば、疲れは大きくなってしまう。
スカッドに厚みをもたらすという話で言うと、税制の規制の厳格化により外国籍選手の獲得のハードルが高くスケールダウンが余儀なくされる可能性があり、国内での主力引き抜きが難しい状況。少し財政規模の小さいクラブからの獲得や大学生、高校生での生え抜きの成長で賄うしかない。
前者の代表格である山根はもちろん、瀬古も順調に育っており、獲得が噂される三浦もこの部類に入ることになる。一方の自前の育成に関してはやや評価が難しい。スタメンでプレーできるスケールになった高井は十分すぎる1年目。大関や名願、松長根といったほかの同年代の選手に関してはまだ仕方ない感はあるが、前評判の高さや怪我人が多いスカッド事情を考えれば、もう少し存在感が欲しかったのも事実だ。
レンタルに出された彼らの一世代上の選手たちは武者修行先でも確固たるレギュラーの選手が見当たらず苦しい戦いを強いられている。五十嵐、永長あたりはレンタルバックの可能性はあるが、カテゴリーが下のリーグでインパクトを残したとは言い切れない彼らが川崎で出番を掴めるかは不透明だ。川崎に残ったまま怪我をし続けた佐々木を含め、大卒2年目や高卒3年目までの選手たちについては個人的には数の割には計算できるところまでたどり着いている選手の少なさは気になってしまう。
繰り返しになるが来季は年間を通して週に2試合戦う公算の強いシーズン。川崎がJリーグを牽引する存在になるシーズンにするためにはレギュラー層のスキルアップ、計算できるスーパーサブの増員、そして疲労を抑えることができるスタイルづくりとハード面とソフト面の両面から大幅な改善が必要ということになるだろう。
とはいえ、今年たどり着いた成果に関してはスタッフと選手たちのたゆまぬ努力の結果であることに疑いの余地はない。来季はより大きな成果を手にすることを期待して、この文章を終わりにする。選手、スタッフ、サポーターの皆様、1年間お疲れさまでした。