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「ズラしてもズラしても」~2021.11.7 J1 第35節 サガン鳥栖×川崎フロンターレ レビュー

スタメンはこちら。

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目次

レビュー

■マンマーク破りに苦戦する川崎

 王者として迎える第1戦目。すなわち、自分がプレビューをサボり始めて1試合目である。

 というわけでまずは鳥栖がどのようなチームか把握することからスタートである。過去の試合をチラッと見た感じでは基本的なフォーメーションは5-3-2。保持の際はこの形から変化を見せる。特に左サイドの動きは大きく、左のCBがSBのロールをこなしながら4バックに変形する。下情報はざっとこんな感じであった。

 川崎戦での鳥栖の守備は敵陣でのマンマークと自陣での撤退ブロック守備の使い分けだった。相手陣ではハイラインで1人1人を捕まえつつ、撤退時は後ろに人数を余らせるような形で自陣に籠る。

 保持側がマンマーク破りで最も大事なのはミスマッチを作ることである。当たり前だけど、どこかの局面の1対1で優位に立てれば1対1を10箇所作って守る!という手法はまかり通らなくなる。

 そして、そのミスマッチができるエリアが敵陣であればあるほど攻撃側に有利である。ハイプレス基調のマンツーは後方でDFが広い範囲をカバーしなければいけない状況になることが多く、攻撃側はスペースがある状況で向き合う機会が多い。

 川崎がマンマークで優位に立とうとしたのは裏抜けのできるマルシーニョのところ。島川とのマッチアップではスピードの面でマルシーニョに分がある。スペースに出して走りながら受けるタイプのパスは特に効く。大島からのスルーパスはその一例である。鳥栖側もそれをわかっていたからこそ、川崎の左サイド側を守る役割の小屋松と飯野は比較的早いタイミングで撤退し、マルシーニョのカバーに入ることが多かった。

 しかしながらトータルで見ると川崎の保持は収支的にはマイナスだった。マンマークでハメられた中盤とバックラインは相手に捕まっている状態が続き、前を向いてボールを受けることができない。旗手のような強力なターンで自ら前を向ける選手ならその状況でもいいのかもしれないが、大島や橘田はそういうタイプではない。

 そういう困った時にチームを救ってきたのが家長である。中盤に顔を出し、相手を背負いながらのポストで味方に前を向くことができる。家長の不在はそういう意味で大きかった。

 CFがダミアンではなく小林だったことも大きいだろう。相手を背負ってのプレーの精度に関して言えば年々低下していることは認めないといけないかもしれない。味方に時間を作るという部分においては小林は大きく貢献できたとは言い難い。

 また、仮に自陣を脱出して前線にボールを送る事ができたとしても、前線の選手が与えられた時間をうまく使えないのが大きかった。マルシーニョは抜け出した後のプレー選択と精度に問題がある。抜け出し後のボールタッチがやたら多く、選択肢が狭まった状態でしか次のプレーを選べない。あまりシュートを打つ場面が少ないのはおそらくシュート精度とパンチ力には難があるからだろう。

 鳥栖の守備の狙い目となりそうだったのは、敵陣でのハイプレスから自陣での撤退に切り替える繋ぎ目になる部分。すなわち、縦に早く進んだ時のプレーを早めに完結させることなのだけど、マルシーニョのようなそれができそうな選手には早々に2人がかりで取り囲み、スピードをとにかく落として時間を稼ぐ。マルシーニョの球離れの悪さも相まって、鳥栖はスローダウンに成功する機会が非常に多かった。

 マルシーニョとは逆にゴール前に顔を出す機会が得られなくて苦しんだのが遠野。前半の終盤から右の大外に立つ彼の元に対角のパスが飛ぶことがあったが、大外で時間を得ることができたとて彼にできるプレーは少ない。むしろ、彼はゴール前に直線的に進み、フィニッシュの部分を生かしたいタイプである。

 対角パスでのプレスの脱出と、大外で幅をとるWGのタスクはこの日の川崎には必要なものではあったが、それが遠野にとって適任かどうかは別の話。同サイドのIHである脇坂が抜け出すフォローを待たなければ効果的な選択肢を得る事ができなかった。

 つまり、抜け出す前と抜け出した後の両方に川崎の保持は問題を抱えていたといえるだろう。

■内側を無理に使わなくても•••

 一方で鳥栖の保持の攻撃はスムーズだった。エドゥアルドと島川のCB2枚に加えて、樋口と仙頭の2人の計4人がビルドアップ隊になる。幅をとるのは飯野と大畑の2人。しかし、前線のプレイヤーがサイドに流れるのにも積極的である。人数調整も自在で川崎のプレスに引っかかるケースも多くなかった。

 川崎はサイドに流れる選手についていくよりも中を閉じることを優先して動かないで守る傾向が強かった。特に川崎の左サイドはその傾向が強い。単純に大島のように行動範囲で勝負できなかったり、マルシーニョのように戻りきれなかったり。旗手はSBからこの2人の皺寄せを解消できるほど守備面で何とかできる選手ではない。

 大島が外に流れなかったのは内側により消すべきパスコースがあったというのもあるだろう。鳥栖のFWはボールサイドに流れながらパスを受けようとする意識が高く、ホルダーから見ると斜め方向に出そうと思えば出せる。

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 けども、この斜め方向のパスを使うことはあまりなかった。鳥栖はフリーになっている外優先でパスを回す。だけど、川崎視点で言うと、仮に大島が決め打ちで外に流れて内側を空けてしまえば橘田の傍から簡単に侵入されてしまう。なので、動くわけにはいかないということだろう。

 鳥栖が内側へのパスを使わないのは危険なロストを避けるのがまず一つ。鳥栖は後方が手薄になりがちな可変を使っているので、下手なボールロストを避けなければいけない。斜めのパスは通るとメリットが大きい一方で、通らなかった場合に危険なカウンターを受ける可能性が高くなる。

 もう一つ、鳥栖が外周りを優先する理由は内側を使わなくても打ち抜けるからだろう。特に鳥栖の右サイド。飯野、小屋松など個々人で川崎の左サイドを切り裂ける選手のドリブルが炸裂。特に飯野はキレキレで、開始早々の突破しての先制点に加えて、2点目はアーリー気味にアシストする。おそらく、スタメンの時点で川崎の左サイドは狙い目と思ったのだろう。仕上げはこちらが多かった。

 川崎としては外で太刀打ちできないのならば、内側で跳ね返すのが常。しかし、この試合の川崎の両CBはその部分で物足りなさはあった。酒井には高さで、岩崎にはポジショニングとフリーランの量で完敗。隙あらば中野が中央に入り込んでくる。エリア内の人数確保はクロスに併せて十分にできていた。

 山村はエリア内での駆け引きで、車屋は被カウンターの際の無理なチャレンジでピンチを増幅させるなど、どちらも及第点には程遠かった。谷口とジェジエウのコンビは当たり前にこれをやってのけるので、こういう試合を見てしまうとありがたみを感じざるを得ない。

■イタチごっこのシステム変更

 ハンドによるPKも含めて3点のビハインドで前半を折り返した川崎。当然何かを変えなければいけない。前半の戦況を見るに、点を取るために取れる選択肢は2通りである。1つはマンマークにおけるマッチアップで優位を取れる選手を入れること。例えば、ダミアンとか家長とか。そしてもう1つは仕組みを変えることである。

 ひとまず、川崎が選んだのは後者だった。3-5-2チックなシステム変更を行い、後方は山村、山根、車屋の3バックを形成。交代で入った登里が左のWBの位置に入る。狙いとなるのは相手の2トップに対して、プレス隊でズレを作ること。特に左のCBに入った車屋が鳥栖の2トップ脇から持ち上がることで鳥栖のIHの動きを止める。

 前進を手助けできる登里が左サイドに入ったこともあり、川崎は左サイドから前進を行えるように。前半はCHが捕まることで被カウンターの機会を相手に与えてしまっていたが、後半はズレを生かした外循環を行うことで前半よりも前進はできるようになった。

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 仕組みが落ち着いたところでダミアンと家長を投入する川崎。仕上げのところの個の質を上乗せする。

 が、これで屈しないのがこの日の鳥栖。川崎の3バック化に対して5-4-1にシフトチェンジしサイドの手当を強化する。川崎がハーフタイムに仕掛けたズレは鳥栖のシステム変更によって再度修正されてしまう。

 鳥栖がもう一つ厄介だったのは、3点差の状況においてなお鳥栖に川崎のゴールを落としに入れる気力に溢れていたことである。この日の川崎は終始IHはネガトラに不安を抱えていたし、家長が交代で入ったとてその部分は優位に立てるわけではない。鳥栖には十分ロングカウンターで得点の可能性が見える展開だった。

 0-3のまま時計の針が進むとなると川崎は焦ってくる。川崎が3バックを採用しようが4バックを採用しようが、鳥栖はプレスの枚数を変えながら噛み合わせることを狙ってくるのはこの展開から想像がつく。なので、どちらにしてもズレを作るのは難しい。

 それならばなるべく前に人を送り込みやすい4バックを選ぶのはわかる。川崎の最終盤の布陣は右サイドに幅を取れる選手がいないので、山根が自陣に下がりっぱなしの3バックよりは彼を押し上げることができる4バックの方が得点の可能性は上がる。

 ただ、川崎は4バックを採用すると被カウンター時に鳥栖の2トップのカウンターを同数で受けないといけなくなってしまう。前半を見る限り、川崎のCBは鳥栖のFW相手に後手を踏む可能性が高い。したがって、個人のデュエルで最も優位が期待できるジェジエウを投入しよう!という流れだろう。負傷は不運であった。1日も早い復帰を祈っている。

 終盤、左サイドを中心にエリアに攻め込む頻度が増えてくる川崎。ダミアン、旗手、家長を軸に鳥栖のエリア内に一気に人をかけて攻め込んでいく。最終盤は流石に前向きのプレスの矢印が薄くなった鳥栖。ダミアンの得点で1点を返したが、反撃もそこまで。前半の3点のリードを覆しきれなかった川崎が敵地で今季2敗目を喫した。

あとがき

■個人もチームも勢いに乗るきっかけに

 しばらく勝利がなかった鳥栖だがこの試合は快勝と言っていいだろう。個人のパフォーマンスも、この日のために準備したプランも見事にハマった。

 特に卓越したパフォーマンスを見せたのが岩崎と飯野。前者は運動量とPA内での位置どりの巧みさで川崎の守備陣を翻弄。後者は外から相手を切り裂き、大外から川崎を撃ち抜いてみせた。岩崎は特にこれまでのJリーグでのパフォーマンスを考えるとようやく掴んだチャンス。チームも個人も鬱憤を晴らす完勝と言っていいだろう。

■優勝したからというよりは•••

 側から見れば『優勝したチームが気を抜いて負けた』になるだろうが、この試合に出た選手たちの今季これまでのパフォーマンスの弱点がしっかりと出た内容。鳥栖によって川崎の選手が持つ弱みが炙り出されてしまったという感じである。

 特に仕組みの部分でこれだけメタメタにしっかりやられて盛り返せなかったのは今季初めてと言っていいので悔しいところ。この試合ではハーフタイムの修正となったが、より早いサイクルで修正をかけられればもう少し鳥栖を揺さぶることができたかもしれない。選手たちの試合後コメントにもあるように、少し流れに身を任せるまま押し込まれてしまう場面が多かった。

 個人のパフォーマンスで気になるのは小林と大島の2人。特に体を当てるプレーにおいて、無理の効かなさが如実に現れ出している感じ。川崎に対してはとりあえず最終ラインにプレスをかける!がひとまずの攻略法となりつつある中で、大島がちょっと展開についていけてない感があるのは気になる。

 もちろん、大島は要所では持ち味を出しているのでダメダメというわけではないのだけど、怪我がちの体の中でどこまでこういったアスリート的な部分の向上を測れるのかはちょっと未知数の部分である。焦ってほしくない気持ちと、真価がなかなか見られないもどかしさの板挟みというのが彼に対する個人的な思いである。

今日のオススメ

 プレーというよりも人だけど登里。外からボールを循環させるというミッションを淡々とこなしてペースを多少なりとも引き戻した。

試合結果
2021.11.7
明治安田生命 J1リーグ 第35節
サガン鳥栖 3-1 川崎フロンターレ
駅前不動産スタジアム
【得点者】
鳥栖:3′ 岩崎悠人, 20′ 酒井宣福, 32′ 小屋松知哉
川崎:90+1′ レアンドロ・ダミアン
主審:今村義朗

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