MENU
カテゴリー

「フリが効いている」~2021.9.29 J1 第28節 川崎フロンターレ×ヴィッセル神戸 レビュー

スタメンはこちら。

画像1

目次

レビュー

■大崎を巡る前進の攻防

 前を向けば中2日、後ろを見ても中2日。ACL敗退後、試練の5連戦は日程のもっとも厳しいところに差し掛かっている。

 今季の川崎の好調の要因は『先行逃げ切り型』とはボリスタで書いてあったフレーズだが、過密日程+選手の移籍で前半からプレスに行くのは難しいという状況。多くの試合では後半に狙いを定めて一気に畳みかけるというやり方でなんとか逆転勝ちをもぎ取ってきている。

 だが、この過密日程も佳境の神戸戦において、川崎は比較的強気のプレッシングで挑んで見せた。中盤は噛みあっている3枚がそのまま迎え撃つのがベースとして、FWは相手が一番通しにくいところを捨てながら、神戸のバックラインにプレスをかけていく。

画像2

 プレビューでも示したように神戸のビルドアップは大きな展開が出来る選手が限られている。大崎、イニエスタ、未知数だがポジション的に気を付けなくてはいけないのが櫻井といったところだろうか。

 神戸の今の4-2-3-1において、こういうきついプレスに対抗するときにまず動き出すのは大崎である。ラインを落とし、CBと並列となることで深さを作り、相手のプレスを引き寄せて内、外、対角にパスを出していく。

画像3

 川崎はこの大崎から始まるビルドアップをどう阻害するかがプレスの課題になってくる。ロールモデルになるのは9分のシーンだ。家長が外の初瀬を消しながら大崎に詰めていってボールを奪回したシーン。鬼木監督も声に出していてほめていた場面である。

 この場面、何がよかったかというと家長が詰める段階ですでに大崎の選択肢はかなり制限されていたことである。中盤の櫻井とイニエスタはそれぞれダミアンと旗手がライン上に立っておりボールを出せない。逆サイドはマルシーニョが酒井の高さにあわせている。中盤と逆サイドへの展開は難しい。

 その上、降りてくる中坂も橘田と山根で挟んでいる。仮にここにボールを預けられるなら家長が背中で消せている初瀬にボールを届けられるのだけど、そこも使えない。

画像4

 で、大崎が右に少し持ち出して角度的に初瀬側にパスを出すのがが難しくなったタイミングで家長が詰めてボールを取る。家長がプレスをかけたタイミングではもうすでに大崎の選択肢は限られてしまっていた。外から詰めただけでなく、その詰めるタイミングにおける大崎の選択肢の少なさもこのプレスがうまくいった要因であろう。

 逆に大崎の動きに対して、川崎がうまく対応できなかった例もある。12分のシーン、大崎に旗手がプレスに出ていった場面である。この場面では川崎は大崎の選択肢を阻害できていない。なので、一番近くの中坂に旗手がプレスをかけたタイミングでワンタッチで流されてしまう。ここから川崎はパスをどちらに誘導するかが定まらなくなり、最終的にボールを持ったイニエスタが前を向いてフリーになる。

 イニエスタが前を向くでピンと来た人もいるかもしれないが、この対応ミスは先制点にそのまま直結している。そのイニエスタはサイドに流れる大迫にパスを出すと内に入った武藤にクロス。川崎は枚数が揃ってはいたが、大迫の間を外したクロスと武藤の抜け出しに反応が出来ず先制を許してしまう。大迫と武藤の連携は清水戦でも似たようなものを見せており、連携は日に日に向上しているように見える。

 もちろん、大迫と武藤の連携と技術は見事なのだが、神戸の好機はこの大崎の可変を中心としたビルドアップを軸にいかに展開できる選択肢を持てるかにかかっている。先制点はここを制した前進からであった。川崎がここを阻害できるかどうかがこの試合の流れの分かれ目になる予感がした9分と12分のシーンだった。

■大迫収まれば川崎が助かる

 だが、先制点をきっかけにこの神戸のビルドアップをめぐる攻防はややテイストが変わってくる。おそらく、大迫のハイボールの競り合いが川崎のバックスに対して優位を取れたことが大きな理由の一つ。前半の大迫は五分の戦いならばほぼ谷口とジェジエウに完勝。神戸はWGが下がらずに両サイドに張っていれば、大迫から落としが来て、DFラインを前にフリーでドリブルのチャンスがやってくる。

 神戸としては中盤中央では先ほどのようにプレスで屈してロストする危険性がある。加えて、サンペールも不在となると中央を経由するメリットをそこまで見いだせなかったのだろう。

 サンペールに代わり中盤を務めた櫻井に関して気になったのは22分のプレー。初瀬からのボールを引き取って右サイドへの展開を意図する一連のプレーは悪くない。けども、この場面では脇坂を引き付けてから逆サイドに展開したかったはず。ここでドリブルを怠ってしまったために、脇坂はパスを出した逆サイドのカバーに間に合ってしまう。運ぶドリブルを噛ませておけば、谷口を武藤で引き出せただろうし、全体の重心が上がる分、自身もそのあとの攻撃に絡めた。

画像5

画像6

 時間が経つにつれて降りることに逃げないプレーが増えて、川崎のプレスに慣れていったことも踏まえれば、櫻井のこの試合の出来はもちろん悪くなかったが、サンペールと比べると見劣りをするのは仕方がない。

 加えて、この試合では酒井が高い位置を取るタイミングがやや遅かったように思う。神戸が川崎相手を保持で振り回す際は逆サイドのSBが川崎のWGとSBの間のスペースでふわふわ浮きながらボールを受けることが多い。そもそも中盤で前を向ける機会は時間と共に減っていったが、酒井がこのポジションを取る機会はそもそも少なかった感じ。

 そんなこんなで中盤を経由してしっかり押し下げるのもなんかうまくいっていなかったし、大迫にはめっちゃ収まるからそれで行こう!という選択を神戸はすることになる。川崎的には当然大迫にやられまくっていたので、苦しいは苦しいのだけど一番嫌な保持で押し込まれるという状況は避けられることになる。

 大迫にめっちゃ収まるおかげで、川崎は最悪の展開を回避する的な。風が吹けば桶屋が儲かるみたいな感じになっていた。

■菊池の奥を使えるか

 川崎の攻撃は4-2-3-1の神戸に対して左偏重で崩していくスタイル。立ちあがり直後には家長が速攻で左サイドに出張するお馴染みの姿が見られていたので、おそらくここは初めから狙い目だったのだろう。

 予想通りこのサイドの攻撃に対して菊池流帆が積極的にサイドに流れながら潰してくる。1分のシーンもそうだし、12分には逆サイドにもわざわざでていっていた。CBとしては守備範囲が非常に広く、めっちゃ責任を背負いまくっている。

 というわけで川崎の狙い目はこの動きまくる菊池の動きを利用することである。マルシーニョが入れ替わりながら出し抜いたシーンもそうだし、IHや登里がマルシーニョを追い越していきながら菊池の裏を取るプレーを狙っていたのも、印象的だった。

 例えば、3分の旗手の抜けだしは菊池が手の届かないところを狙っている。最近、前線への飛び出しの積極性がぐんぐん上がっている旗手。この過密日程でそこのアップデートに励むのは変態すぎる。

画像7

 サイドを破られる機会が増えてきた神戸は、先制点をすでに手に入れていたこともあり、時折5-4-1気味になってスペースを埋めることに注力する。最終ラインに下がるのは中盤の大崎かボールサイドのSHのどちらか。これにより、CBの行動範囲は狭くなる。

 川崎としてはこうなると放り込みは効きにくくなる。ダミアンとはいえ、フェルマーレンと菊池に挟まれては仕事をするのが難しい。川崎としてはグラウンダーのクロスをいれるのもニアで跳ね返されて難しい。かつ、サイドの崩しで効いていたマルシーニョは酒井と正対する機会が増えて劣勢に。

 川崎的には短いパスでこじ開けるしか選択肢がなかった。もっとも、神戸はPA内での競り合いは強くてもそういったブロック守備の堅さで勝負できるチームではない。サイドも中央も細かいパスで神戸の綻びを作り、チャンスに迎えそうな場面まではいったが、ゴールまでは迫れず。前半は神戸のリードで終わった。

■2点目を取りに来たからこそ

 リードして後半を迎えたものの、神戸としてはジレンマだったはずだ。このままローラインで耐えていれば45分間の川崎の攻撃を受ける自信はない。頼みの大迫も重心を下げすぎてしまえば存在感が薄まってしまう!というわけでもう一回前に出ながら神戸は2点目を取りに行く選択をする。

 神戸がその選択をしたことで川崎には攻撃のチャンスが広がる。全体は間延びし、川崎にとってはゴール前の細かいスペースをどう切り崩すかの作業だった前半に比べて、明らかに楽に崩しの選択ができた。

 プレスの掛け合いに関しても中盤は明らかに川崎が有利。プレスの運動量はもちろん、神戸の中盤にはできない二度追いもできる川崎の中盤で優位に。神戸が前半終盤のローラインから前に出るやり方に切り替えたことで川崎はガンガンチャンスを作っていく。

 恩恵を最も受けたのはマルシーニョだろう。前半のような静的な展開では活かされるのは難しかったが、後半再びボールがピッチを行き来する展開になったことで躍動。菊池を出し抜いてPKを奪取する。

 マルシーニョはだんだんできることが見えてきた感。スピードに乗った状態で受けることが出来れば最強、一度足がとまって正対されると高確率で右に行くので止められやすい、抜いた後のフィニッシュは未知数(多分苦手と予想)、左足を使う優先度は低め、体の向きとパスの方向が正直。っていう特徴の選手に見える。

 だが、このPKを家長が失敗。しかし、直後に再度大崎がハンドを犯し川崎にPK。この場面は飯倉が落ち着いてプレーしたかったところ。一度キャッチしたのだから、攻め込まれていた時間帯なので早くリスタートをする意味もなかった場面。味方がたくさん自陣PA内にいたし。橘田のボール奪取は見事だったけど、ちょっと安易なプレー選択だったかなという感じ。このPKをダミアンが決めて川崎が追いつく。

 神戸としては先に2点目を取るためのオープンなプランだっただろうが、川崎に追いつかれてしまった。となるとこの殴り合いのたたみ方は悩ましくなる。その矢先に大崎が負傷交代してしまい、もう一度後ろから保持で組みなおすという選択肢が完全に消滅する。

 なし崩し的に殴り合いを続ける神戸。ただし、運動量はどんどん落ちていき時間が経てば経つほど不利な状況に。プレビューでも話したけど、日程的な不利を鑑みてもなお殴り合いを長時間続けるならば川崎に分があると思う。

 そういう状況の中で川崎は逆転。初瀬への長いボールをインターセプトした山根が一気にフリーで前線に駆け上がりクロス。すると、このクロスがフェルマーレンの処理ミスを呼びオウンゴールに。

 大崎のハンドのシーンもそうだけど、川崎的には前半は入れるのに苦労していたライナー性の速いクロスを簡単に入れられるようになった感じ。失い方が悪いせいでサイドの寄せが甘い上に、中の状況も整っていないので川崎はより処理が難しいクロスを神戸のPA内に送り込むことができていた。

 最後の交代をビハインドの状況で使い攻撃的なメンツをたくさん並べてみた神戸。いくら大崎の負傷で中盤がいないとはいえ、ビハインドの状況でIHにコンバートされた武藤がひたすら中盤でカウンターを止めることに奔走しているシーンはなかなかに見ていてしんどいものがある。

 最後の川崎の得点はボージャンのロストから。右の深い位置で旗手の落としを受けた家長がPK失敗の雪辱を果たすダメ押し弾。終盤は無法地帯となっていた神戸の布陣に対して山村、谷口のCHコンビで迎え撃ち跳ね返す選択をした川崎は終盤までなかなか神戸に押し戻させる機会を与えなかった。

 3試合連続で逆転勝利を決めて今季3回目の5連勝を果たした川崎。次節まで駆け抜け連勝で連戦を終えることが出来るだろか。

あとがき

■シュートが入れば!とかじゃなくて

 この試合の勝敗だけでいえば、大迫のポストが効いていたのは確かだし、イニエスタのシュートがどれか一本入っていれば勝敗はわからなかったといえるだろう。三浦監督は2点目を取るためにアクセルを踏む選択をしていたし、得点をとるチャンスは現実的にあったように思う。

 だけども、イニエスタをはじめとした一線級の選手を揃えておいて「このシュートが入れば勝てた」みたいな試合をしていること自体がむなしい気がするのは確かである。この試合でもそうだけど、三浦監督は試合の中での修正は非常に積極的に動いているし、古橋がいないあとも押すところと引くところを見極めながら戦っているのだろうなという印象は受けた。

 けど、そういう手当の話とかじゃなくて、そもそもこういう土俵で戦っていることがどうなの?っていう不満は順位に関わらず出てくるのは不思議ではないように思う。いずれにしても全体の平均年齢は高いし、この夏の補強も比較的経験豊富な実力者に舵を切った感があるので、今後も運動量の絶対的な少なさとは向き合わなくてはいけないだろうなと思う。後半にそういう展開が多かったのはフィンク時代もリージョ時代もあったしね。

■ビハインドでも戦い方を変えさせる

 またも先制される苦しい展開だったが何とか逆転勝利を手にすることができた。この試合の殊勲賞は中盤の3人だろう。攻守の強度において神戸に差を見せつけたといっていい。

特に橘田はボールの回収のスキルが試合を増すごとにあがっている感じ。攻撃がくる方向を予測して、そのサイドをあらかじめ塞ぐのはシミッチもうまいんだけど、行動範囲の広さも含めると最終ラインのカバーとか高さ以外の要素では橘田の方がよくやっているといえるかもしれない。

 この試合の勝敗を分けたのは後半頭の神戸のシフトチェンジである。リードしているにも関わらず2点目を取らなくてはいけないという帰着になったのは、自陣に引いていては川崎にいずれやられてしまうから。もしくは、終盤に試合が制御できなくなった時に川崎が有利になるからのどちらかを神戸が危惧したのだろう。

 それならば、神戸があえてその時間帯を早めることで前線に余力があり得点が見込める状態で殴り合いに臨むというのが今回の三浦監督のプランである。つまり、川崎はビハインドにも関わらず、ある局面を迎えさせたら怖いチームという認識があったからこそ動いたことになる。

 この日というより、これまでの川崎が積み上げてきたものが神戸のシフトチェンジを促し、川崎有利な展開を引き寄せたのだったら、これまでのチームの実績というフリが効いていたことが川崎にとって大きかったといえる。これまで何をしてきたかで相手にプランを変えさせることが出来るチームになったなんて、川崎も強くなったなと思う。

今日のオススメ

 橘田と迷うけど、イニエスタのシュートを止めたソンリョンで!

試合結果
2021.9.29
明治安田生命 J1リーグ 第28節
川崎フロンターレ 3-1 ヴィッセル神戸
等々力陸上競技場
【得点】
川崎:56’(PK) レアンドロ・ダミアン, 72‘ トーマス・フェルマーレン(OG), 85’ 家長昭博
神戸:13‘ 武藤嘉紀
主審:上田益也

この記事が気に入ったら
フォローしてね!

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次