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「いつかできるなら今できる」~2021.9.26 プレミアリーグ 第6節 アーセナル×トッテナム レビュー

スタメンはこちら。

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目次

レビュー

六角形破壊のメカニズム

 上位勢から脱落しつつあるトッテナムと、上位勢に再チャレンジしたいアーセナル。ノースロンドンダービーは序盤戦で上昇気流に乗るための挑戦権を賭けた一戦になった。

 クリスタル・パレス、チェルシーとロンドン勢に連敗しているトッテナム。ベースとして採用しているとプレビューで紹介した六角形型のやり方を採用するのか、それともチェルシー戦のハイプレスで立ち上がりからガンガン挑むのか?の選択をしなければいけない。

 一方のアーセナルにも選択すべき部分がある。前節テストした4-3-3を採用するのか、それとも3試合出場停止が明けたジャカを起用し4-2-3-1に回帰するかである。まぁこっちはスタメンを見ればすぐに4-2-3-1を採用したってわかることだけども。

 トッテナムが採用したのは六角形で構えて中央封鎖を狙う形である。従って、アーセナルはこの六角形をどう広げるかがポイントになる。結論から言えば、アーセナルのこの試合のトッテナムの六角形攻略は、このシステムのロールモデルとして採用できるくらい優秀な出来だった。

 まず、アーセナルはバックラインを軸にじっくりとボールを回す。これまでのアーセナルはジャカが最終ラインに落ちて3バックを形成することが多かったのだが、この試合では中盤の最終ライン落ちはなし。人数調整が必要な場合は冨安が最終ラインに加わって3枚目になる。

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 大外はSB、もしくは2列目の選手が幅を取り、相手の幅を広げる。この動きでトッテナムの六角形を歪め、アーセナルは中盤にスペースを見出すことができていた。特にこのサイクルがうまくいっていたのは左サイド。大外をとるのはティアニーが多い。本来、ティアニーの位置のポジションの選手に対してはトッテナムのバランスで言うとSBが出ていく頻度が高い。大外はSBが基本線。

 この時にポイントになるのはスミス・ロウの立ち位置。大外ではないのだけど、アリとタンガンガの間くらいの位置にいるため、どちらの選手にとっても躊躇なくティアニーにプレスに行くことができない。

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 アーセナルがうまかったのはここから。アリが無理に出ていけば、切れるのは横のつながりである。アリが最も警戒することはスミス・ロウへの縦パスを入れられることなので、横方向へのパスは阻害しにくい。空くのは六角形の中。ジャカやトーマスのスペースが前を向きたい位置だ。

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 大外から内側に入れられるパスを切れるのはトッテナムで言えばルーカスだろう。そうなった場合、アーセナルはどうするか。簡単である。CBからやり直せばいい。そうなると今度はCBの前のスペースが開く。ここからアーセナルは配球しやすくなる。もしルーカスが横を塞ぐのをサボれば、ジャカやトーマスにボールをつければいい。

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 IHが横に広げられた上に、CBの縦パスを阻害できない時に負荷が大きいのはホイビュアである。もうアーセナルのCHにプレスをかけられる選手がホイビュアしかいない。その上、アリは外に開いているので、アンカーである彼の脇は空いている。縦パスを入れられたタイミングで一気にプレスにいく。

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 だが、ジャカはトッテナムのMFラインの後ろにボールを受けられる選手がいることを把握している。なるべく、低い位置で受けてホイビュアが出てくる間にボールをコントロールする時間を作り、ワンタッチで裏に流す。

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 このサイクルでトッテナムの六角形は破壊できる。このスキームがピッチのあらゆるところで起きていたのでトッテナムとしては苦しい。背負うのはウーデゴールでもいいし、ラインの裏で待ち受けるのは2列目の誰でもいい。

・大外を活用し、トッテナムのIHをサイドに広げる。
・広げたトッテナムの中盤の後方の選手にボールを届けて加速する。

 上の要素で撒き餌をまき、加速した攻撃を発動する。それが共有できていたのがこの日のアーセナルだ。

 ジャカに縦パスをつける段階でホイビュアが出てこなければ、ジャカが前を向けるし、アーセナルとしては当然これもいい状況になる。余談だが、ジャカとトーマスはあまり小回りの効くタイプではないので周りの選手がどう前を向かせるかが重要。ジャカは普段は列を落ちることでこの難を解消している。が、全体の重心が下がってしまうデメリットもある。この試合ではバックスのボール運びからより高い位置でジャカが前を向くことができたのが大きかった。

 むしろ、この試合のジャカはこれまで以上にボールを奥側で受ける意識が高く、隙あらば深い位置まで顔を出してボールを奥に運んでいた。

 トッテナムとしてはタンガンガを起用した時点でサイドへの対人を期待する部分があったのだろうが、出足が十分ではなかった。それを許さなかったのがガブリエウの配球力だろう。大外を見せつつ、アリやタンガンガが内側を開けたり、ルーカスが絞りすぎたらガブリエウは内側にもボールを通すことができる。

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 ちなみにタンガンガが外に出て行った挙句に遅れれば、スミス・ロウに裏を取ることができる可能性も出てくる。

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 アーセナルがこの試合でタクティカルな部分で一番大きい収穫だったのは紛れもなくこの保持のスキームである。相手が何を阻害していて、何を阻害できていないのか。そして自分たちにとっていい状況は何か。トッテナムのMFラインの後方で受けられたら最高!でも、それが無理ならジャカやトーマスに中盤で前を向かせるのも悪くない!みたいな。これまでのアーセナルでは考えられないくらい「どういう状況を作るのか。相手によってどの状況を作ることを目指すのか」が階層として整理されている印象を受けた。相手によってやることを変えなきゃね!というアーセナル積年の課題解決に光が差した試合でもある。

■大外を使うリスクが決定打

 こうなるとトッテナムは厳しい。さらに一つ奥ではオーバメヤンのポストが絶好調で2列目のアタッカーが前を向くのは余裕。ジャカがホイビュアを引き寄せながらどかしてしまえば、アーセナルのアタッカーは独壇場である。

 1点目も2点目もアーセナルはジャカがホイビュアを交わしたことからスピードアップができている。好調な前線にカウンターの機会を与えたのはここのマッチアップを制することができたからといっていいだろう。スミス・ロウ、オーバメヤンの得点でアーセナルは一気に前に出る。

 トッテナムの保持は苦しい。アーセナルのプレスは相変わらず、人を過剰にかけない形。オーバメヤンとウーデゴールの2人でCB、GK、アンカーの4枚を見る形である。基本的にはアンカーを消しながらプレスをかける。ウーデゴールのプレスの掛け方はうまかったし、オーバメヤンのプレスがやる気だったのはわかるけど、それにしてもトッテナムがあまりにも中盤に縦パスをつける気がなさすぎると思う。

 無理をしなくても前線に蹴ればケインとソンがなんとかしてくれる!と言うのはあるのかもしれないが、アーセナルは後方に人を余らせながらプレスをかけている。ケインやソンは人に囲まれながら受ける状態を作られてしまい、いくら彼らと言えど厳しい。

 アーセナルのプレスに対しては、バックラインでボールを回し、アーセナルの中盤に『前に出てこようかな?どうしようかな?』と言う状況を作るのがセオリーだ。ホイビュアに仮にボールが通れば、ジャカとトーマスは前に出ていこうか迷うだろう。だが、トッテナムはこの手段を取ることをそもそも放棄していたので、アーセナルとしては困ることはない。

 GKを絡めたビルドアップをするなら、やはり相手の重心を前に出すことが前に来て、前線を使うのは後方を手薄にする下ごしらえは欲しい。無論、無双モードのケインならばそれでもいいのかもしれないが、今のケインは明らかにそういうコンディションではない。もう少し中盤より手前で手助けしないとボールを前に進めるのは難しい。

 アーセナルはプレスとブロックの二段構えで対応する。敵陣深くまでプレスをかけるフェーズと、トップがハーフウェーラインで、DFラインがPA手前くらいの高さで構えるフェーズ。

 自陣でブロックを構えるフェーズから、ローラインに押し込まれてサンドバックになるのがここしばらくのアーセナルの悪癖になる。この試合でそれを防いでいたのがウーデゴール。プレスの先導役として、自らが出て行くだけでなく、ボールホルダーの受け手となる選手のマーカーにも出て行くように促すなど、プレスのスイッチ役がすっかり板についている。

 この日のアーセナルはプレスに行った前線の選手を1人にしなかったし、後方で跳ね返すDFラインを跳ね返すために前線と中盤がラインを回復させる努力も怠らなかった。

 トッテナムはこれに対して、IHが列落ちして相手を動かそうとするがアーセナルは動かない。このトッテナムの仕組みは保持がダメだった時のアーセナルそっくり。後ろが重くなるばかりでボールが前に進まない。加えてアーセナルはライン間のスペースをとにかく狭くし、ケインにはホワイトがとにかく追いかけ回す役割を担っている。縦パスのコースを見つけるのは難しい。

 となるとトッテナムは外で無理をする必要がある。何度か述べているようにトッテナムの大外はSBのもの。大外を使うならばSBが出て行かなければいけない。実際、トッテナムの前線が絞りがちな関係もあり、アーセナルは外を捨てていたので大外までボールを届ければ、トッテナムはフリーでクロスを上げることができていた。だが、これには当然被カウンターのリスクが伴う。

 その被カウンターのリスクが露見したのがアーセナルの3点目。ロストし、必死に戻ってシュートブロックしたケインを嘲笑うかのように、サカがセカンドチャンスを冷静に生かして試合を決定づける3点目を前半の内にあげた。

■スキップとヒルの投入は効いたけど

 後半、トッテナムはエメルソンとスキップを投入。大外攻撃をSBに任せるならばタンガンガよりはエメルソンだろうし、中盤の守備での横の繋がりをより意識するならばスキップとホイビュアは併用したほうがいい。特にスキップの投入は一定の効果があったと言えそう。中盤の水漏れ塞ぎの能率は前半よりは上がったと思う。

 勝ち点を狙うならばトッテナムは後半頭からハイプレスに出てくるだろうと思ったのだが、それをしなかったのが意外だった。理屈としてうまく行くかは置いておいて、3点差を埋めるには試合自体のテンションを上げる必要があったが、それをしなかったトッテナム。部分的な修正は理にかなってはいたが、アーセナルからペースを引き戻すまでには至らない。

 やや試合がトッテナムに傾きかけたのは終盤。プレスのスイッチ役のウーデゴールが前に出て行く機会を得ることができず、やや全体が後ろに重くなると主導権がややトッテナムに動く。

    交代出場で入ったブライアン・ヒルもポジティブ。左のサイドを浮遊しながらハーフスペースと大外をレギロンと共に攻略。大外で孤立しがちなレギロンのパートナー候補にようやく目処が立ちそうだったのはトッテナムにとって数少ないこの試合の収穫といえそうだ。

 アーセナルとしては失点シーンは従来の課題であるサイドの縦関係の受け渡しの拙さが露呈してしまった部分。だが、多くの課題に対してこの試合で答えを出してみせたアーセナルならば、冨安を中心にこの課題も解決するはず。

 この縦の受け渡しの部分と、ラムズデールがかろうじて防いだルーカスのミドルのシーンにおけるカットインの塞ぎ方の部分は終盤の守備で気になったところ。1点を分ける試合、よりレベルの高い試合では勝敗を分ける一発の機会を相手に与えてしまう場面だった。欧州カップ戦出場権にチャレンジするためには、ベンチワークも含めて課題に対する終盤の対処にはより注意を払う必要がある。

 ソンの反撃で一矢を報いたトッテナムだが、90分を見ればアーセナルが完勝。総得点でトッテナムを上回ったアーセナルが彼らと入れ替わる形でトップハーフに浮上する形でノースロンドンダービーは幕を閉じた。

あとがき

■コンディション回復待ちだと…

 手堅く守り、前線の選手を生かすことでウルブス時代から好成績を残してきたヌーノだが、現状のケインのコンディションでは攻撃の部分が成り立たない。前線の好調さに頼り、そこが立ち行かなくなると攻撃が行き詰まると言うのは、皮肉にもアーセナルが陥った得点力不足と同じ道でもある。

 前向きさに迷いがある六角形ブロックがシティ以外に通用しないことも気がかり。堅く守るの前提が維持できないのならば、そもそもが厳しい。ケインの復調を待つ以外に策はないのか、はたまた修正策が準備されているのか。ヌーノの真価が問われる秋になりそうだ。

■問われるのは当然継続性

 ほぼ完璧なダービーの勝利と言っていいだろう。特に前半の出来はアルテタ就任以降最高と言ってもいいくらい。3得点をした事実以外にも相手の出方を見ながら、手札を切っていきながらゴールに迫っていく姿はさながらボールを持てる強いチームのものだった。

 当然課題となるのは継続性。アルテタのアーセナルが大一番で結果を出したのはこれが初めてではない。オールド・トラフォードでもスタンフォード・ブリッジでも勝利を掴んできたチームである。だが、それを継続的な強さに昇華できなかった。

 多くのアーセナルファンが望むことは今回掴んだ機会は離さないでほしいと言うことだろう。なんとか相手に食らいつきながら、勝利してきた今までのビックマッチと異なり、この試合のアーセナルは90分間相手を圧倒することができている。期待感としてはアルテタ就任直後と近い出来だったはずだ。内容を伴うダービーでの勝利で掴んだ流れをもう手放さないでほしい。

 確かに今のチームは若い。未来もある。でも、今できることがこんなにあることを証明することができた。いつかくる素敵な未来を夢見ながら手元に何も残らなかったブリティッシュコア時代の再現はもう十分。今できることが十分あるのだから、それを積み重ねながら自分たちで時代を作る。この日の出来を継続できれば、再びプレミアのトップレベルに返り咲く日もそこまで遠くはないはずだ。

試合結果
2021.9.26
プレミアリーグ 第6節
アーセナル 3-1 トッテナム
エミレーツ・スタジアム
【得点者】
ARS:12′ スミス・ロウ, 27′ オーバメヤン, 34′ サカ
TOT:79′ ソン
主審:クレイグ・ポーソン

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