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「道しるべになることを願って」~2024.7.20 J1 第24節 柏レイソル×川崎フロンターレ レビュー

プレビュー記事

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レビュー

クロスから得点を生むために必要な要素

 暑いか、雨か。日立台でのアウェイゲームの思い出は割と天候的にハードなものが多い気がする。2024年は夕立の気配漂う7月という「暑い」と「雨」のコンボで柏とのアウェイゲームを迎えることとなった。

 立ち上がりにカラーが先に見えたのは柏。右サイドに流れる木下へのロングボールでスタート。この場面以外にも立ち上がりの木下は左右に流れながらのターゲット役として振る舞うことが多かった。

 川崎はこれに対して、ロングキックで蹴っ飛ばしながら対抗していく。そして、その流れから先制ゴールをゲット。家長が流れてややオーバーロード気味になった左サイドから三浦がクロスで山田新にピンポイントで合わせて先制点をもたらす。

 対面する片山を瞬間的な加速でおいていき、正確なクロスを送るという三浦の一連のプレーはお見事。構造的にというよりは相手との駆け引きで間合いを作り出した感がある先制点であった。

 試合は動いたが主導権に関してはまだまだ模索中の両チーム。川崎は無理にプレスにはいかずに柏のバックスにある程度ボールを持たせてOKという立ち上がり。前節のC大阪戦では中盤での間延びが失点の引き金になったため、気にかけているのかもしれない。降りてくる柏の中盤に対して「引き取るからいらないよ」と山本にハンドサインを送った山田新のアクションは前に前に進んでいくプレスを好む彼にしては意外だった。

 柏はロングキックから左右に流れる木下をターゲットに起点を作る。特に彼らの左サイドにはマテウス・サヴィオというJ1でもトップクラスのSHがいる。こちらのサイドにボールを集めて、川崎のファウルを誘ってのセットプレーが多い立ち上がりとなった。

 押し下げられた川崎は前線のプレスバックでひとまずは応急処置。脇坂のプレスバックの様子を見ると、絞ってくるサヴィオを起点とした中央攻略には相当な警戒を払っている可能性がある。ファン・ウェルメスケルケンが右サイドでたびたびファウルを犯すのはまずかったが、プレスバックで脇坂が下がってくるのであれば、山本がカウンターで出て行くというバランス感覚も含めて、川崎の方向性は悪くないように見えた。

 ただし、川崎は自陣でボールを持った時にはなかなか展開を落ち着かせることができず。柏は川崎に比べると4-4-2の2トップがCBに積極的にプレスをかける流れ。佐々木は対面の相手を落ち着いていなすことができたが、右の大南はこの状況に苦戦。大南からの縦パスをカットするかのように待ち構える柏の守備に対して、破ることもやり直すこともできないまま、ただただ前に蹴って捨てる場面が目立っていた。

 そうした綱引きの中で川崎はさらにゴールを重ねる。波状の攻撃の流れの中から家長→山田新のクロスで追加点を奪う。高さにアドバンテージがない中でシンプルにクロスの精度が見事。もちろん、スペースで駆け引きをした山田新も見事である。

 いいクロスを上げるにはホルダーに十分な余裕があることが重要なファクターなのでダイレクトに家長につけた佐々木は殊勲のパスであった。さらに手前でさかのぼれば、山本のボール奪取から右サイドへの展開という一連の押し返しのプレーも波状攻撃の流れをつなぎとめるための重要な役割を果たしたことにも触れておきたい。

 純粋な高さだけ見れば厳しい柏相手にも川崎はきっちりサイドからクロスを上げる態勢を整えれば、勝機があることを見出した2つのゴールだといえるだろう。たまに、押し込んで点が入らないサッカーをしているチームにクロスを悪者にしている人がいるが、いつだってクロスは得点の有効な手段である。悪いのは大体使い方だ。

 2つのゴールの場面で言えば、三浦と家長がそれぞれの形でサイドからクロスを上げる隙間を作ったのが1つよかったポイント。ふわっとしたクロスではなくスペースを狙った形にすることで相手の対応を難しくするアプローチもよかった。

 また、セットプレーの流れもあるため、どこまで設計かの判断は難しいが、いずれのゴールもマルシーニョがボックス内のターゲットとしてクロスに飛び込んでいるのはよかった。山田新のマークの分散にもなるし、近頃ゴールが増えているのはこういうゴール前への飛び込みを怠らないところとも関係しているかもしれない。

落ち着かせる以上のところにたどりつかない

 しかしながら、柏はすぐに追撃弾をゲット。度重なる川崎の右サイド側でのファウルにより、同じようなアングルでFKを蹴る機会が多かったサヴィオはついに12分に得点を演出。白井のゴールで1点差に追いつく。

 川崎からすると大外のジエゴがフリーになってしまってラインを下げながらインサイドの対応を強いられたのが苦しかったところ。これ以降も大外のジエゴがフリーになる同様の位置からのFKはいくつかあったが、サヴィオは特に狙い撃ちする様子がなかったのは意外であった。

 ちなみに、「ソンリョンはなんで全力でとびに行かないの?」という疑問に対して「届かないとわかっているボールに無理に体を伸ばすと、クロスバーの跳ね返りで身体に当たってオウンゴールとかになるからだよ」というやり取りが自分の質問箱の質問者同士でなされていた。たまに、質問者同士が勝手に疑問を解決しあう、Yahoo!知恵袋的な側面が質問箱にあるのはやってみるまで知らなかった世界である。

 失点以降も川崎は保持でのやりくりに苦労していた。左サイドのマルシーニョと三浦はスピードで対面に優位を取れているので、ここにきっちりボールが入れば二人称でも奥を取れそうな気配はするが、柏のプレスが強まると、佐々木がこの左サイドに落ちついてボールを供給できる状況を川崎のビルドアップ隊が作れなくなる。

 すると、業を煮やした家長がとりあえずボランチの位置まで降りてくる。押し込まれ時間が長く、右の大外で待っていても後方からのボールの供給がないので、それならひとまずボールを落ち着かせようということで登場したのだろう。

 確かに彼の登場によって試合は落ち着いたが、プレビューでも触れた通り、柏の守備で一番顕著な縦の間延びが見られるのはサヴィオとジエゴの間。その場所を持ち場とする家長が離れてしまうと、ここからの前進は絶望的なものになってしまう。

 この日の川崎の前半の保持は最悪の手前でストッパーをかけている感があった。家長の移動でバランスは崩れるが、休む時間は作れるというのは走り合いに持ち込まれることで不利になりそうな柏相手であれば意義がある。大南の捨てるロングキックも相手に奪われてのショートカウンターよりはマシだったりはする。

 相対的に優位だった柏ではあるが、こちらも気になるところはある。垣田、木下の2トップはデュエルこそ強いのだが、収めた後のプレーの幅が広くはないし、柏の中盤も別にそこにつながる意識が強くはないので、前進のためのロングボールのターゲットにすると、川崎のバックスに競り勝てるけど、そこから先がつながらないという現象が出てくる。この辺りは前の選手に時間を与えることができない柏の悩みが細谷不在によって顕在化した部分なのかなと思う。

 彼らをボックス内への仕事に専念できる終点として活用できればいいのだけども、そうした前進を機能的にやるのは難しそうである。13分のように古賀のキャリーのコースを降りる垣田が消してしまった(垣田自身は加入直後なので仕方ないところもあるだろう)ように後方からのキャリーに対して呼応するアクションがなかった。自陣からのショートパスの設計は少し解像度が足りていない感じがする。

 そのため、頼りになるのは結局のところは背負ってもボールを受けて起点になれるサヴィオだった。左右に揺さぶるという意味では戸嶋もフリーの時は悪くなかった。横に広く使う展開でSBのオーバーラップを促せられれば、柏の2トップはボックス内の仕事に専念できる。逆に先制ゴールを奪った白井は繋ぎの局面でのミスやミドルシュートでのふかしなど、時間をもらったり渡したりするプレーにおける技術的な不足が少し目に付いた印象だった。

 要するに、柏の攻撃は2トップを起点に近づけてしまうと期待感を作り出せないが、彼らをフィニッシュに近いところに持っていければ手ごたえがあるという感じ。前半追加タイムの決定機もサヴィオが前線への飛び出しで佐々木を請負ながらロングボールを収めて2トップを解放したところから。

サヴィオの芸の多彩さには本当に脱帽である。ボールを持った時はもちろんうまいのだけども、膠着した局面を動かすためにどのような動き出しが必要なのか知っている感があるのは強い。

 とはいえ、柏は2トップのロングボールを起点として組み立てる場面が多く、効果的な前進ができない場面も多々あった。川崎はそうした場面のミスを利用してカウンターで前に行く場面もあった。

 だが、それ以外の状況では川崎が活路を見出すのは難しかった。保持では家長の移動でバランスが崩れ、前にボールを進めたい山本にミスが目立っていた。

それならば、ロングカウンターで状況をひっくり返す手段を模索したいが、大暴れするサヴィオに対して家長は自陣まで戻って守備をしていたし、脇坂もプレスバックから中央のスペースを消すことを優先。陣形は後ろに重くなり、なかなかボールの預けどころを作ることができない。唯一のルートであるマルシーニョも犬飼が「知っているよ」と言わんばかりのカットで冷静に消すとなると、ほぼ川崎の攻め手は柏側のミス待ちにフォーカスすることとなっていた感があった。

 そういうわけで白井のゴール以降はそれぞれの苦悩を抱えつつも、柏の方がゴールに迫れているかなという流れで推移した前半だった。

欲しい要素が詰まった3点目

 後半に調整をかけたのは川崎。アンカー付近まで浮遊していた家長の行動範囲を右サイドに限定。この制約の効果はそれなりにあったといっていいだろう。後ろが広くビルドできるようになったことにより、川崎のボール回しは前半よりも余裕が見えるようになった。

 縦関係を作りながらフリーになるのがうまい橘田と山本のコンビは垣田と木下の背後で前を向ける場面が増えていき、ここから柏のDF-MFのライン間のハーフスペースに顔を出す家長や脇坂を縦パスの収めどころとして活用できるように。

 右サイドから大きなサイドチェンジが飛んでくれば、佐々木が後方からのキャリーで左サイドを押し上げるなど、広くビルドアップをすることにより、前半よりも窒息感は薄い立ち上がりとなった。

 家長という基準がある川崎の右サイドの攻撃はうまくいきそうでいかない流れが続く。特にハーフスペースアタックを行う脇坂に対して柏の潰しがきっちりついていったことと、それの対抗策となる家長のペナ角クロスが柏に余裕を持って防がれたことが大きい。こういう展開ではミドルシューターの重要性が身に染みる。

 しかしながら、押し込むことを成立させたこと自体には意義がある。佐々木、大南のCBコンビは押し下げられた柏から出てくるロングボールを封殺。木下と垣田には少なくとも前進のためのロングボールのターゲットとしての役割をほぼ許さなかったのは彼らの功績。特に佐々木の出来は圧巻で、クリーンなボール奪取から前進までの流れをシームレスにできるのは押し込むフェーズを保つ場面においては重要であった。

 だが、決定機は作れないし、ハイプレスからリズムを作れるわけではないので、川崎は一方的に主導権を握ったわけではなかった。柏の保持ではSHが縦パスのレシーバーとしてインサイドに絞って起点に。サヴィオだけでなく、山田雄士も登場することで戸嶋の縦パスの受け先を作ることで保持からの押し返しに貢献していた。

 川崎はよく体を寄せてパスについていったように思うが、基本的にはデュエルという意味では柏の方が中盤で有利なのだろう。アバウトなパスを誘発することができても、柏が再びボールを回収するという流れになり、一度押し込まれると脱出するのに苦労するサイクルに突入する。

 すると、セットプレーから柏は同点ゴール。CKからのソンリョンのパンチングで逆サイドに落ちたボールを山田雄士が拾い、ファーのピンポイントクロスで垣田の移籍後初ゴールを演出した。この試合のゴールは見事なクロスが起点になることが多かった。

 川崎目線で言えば瀬古が試合後のコメントで述べたように「誰かがクロスに寄せればいい」という反省しかないのだけども、この場面ではその「誰か」を誰にするのかが難しかった。

 ファーの山田雄士にもっとも近かったのは大南と佐々木。この2人はCBであり、背の低いスカッドのこの日の川崎において彼らが出て行ってクロスを上げられるのは致命傷である。次に近かったのは三浦。まぁ、出て行くのであれば彼なのだろうけども、直前のCKのマーカーとして持っていたのは木下であり、セカンドに迷いなく出て行くにはためらう材料はあったのかなと思う。

 前半に指摘した通り、セットプレーではファーに浮いている選手を作ることが多かった川崎の守備。柏の2点目の起点になったCK時のファーサイドに佐々木と大南という高さのある選手が入っていたというのが前半を受けての対策なのであれば、逆サイドに流れたボールに対してボックスという持ち場を離れにくくなるのは必然ともいえる。そして、そうした対策を取るのは前半を見る限り妥当な感じもする。なので瀬古の言う通り「寄せればよかった」のだけども、「誰がどのように」という点で改善策を見つけるのが難しい場面だなと思う。

 川崎は失点を機に3枚替えを敢行。結果的にはこの交代策は刺さることになる。前からのプレスを強める柏に対して、大島は冷静に降りるアクションを絡めながら背後を取ることができていた。瀬古は前節よりも3人目として右サイドに登場する場面が多く、後ろを重くして前とのつながりを寸断するような動きは見られなかった。

 結果的に3枚替えの交代策は川崎にとって決勝点の呼び水となった。大南が落ち着いてボールを持つ場面から珍しく奥の瀬古にボールを通すことで柏のバランスを崩すと、インサイドへの折り返しに反応したマルシーニョ。ここからのシュートラッシュで川崎は3点目を決める。

 最後のシュートラッシュのところではオフサイドの見逃しが発生した可能性が極めて高いが、崩しの形としてはとてもよかったように思う。大南は前半の不甲斐ないパスワークを上書きするかのような縦パスを瀬古に通したし、瀬古も自身が高い位置を取る意識がうまくハマった格好になった。

 さらには瀬古の意外性のある選択肢に対して絞ったマルシーニョの動きもよかった。これも前半に指摘したマルシーニョのボックス内に入っていく意識による賜物でもある。

 瀬川をトップにした理由について鬼木監督は守備でのプレス役に加えて「裏への動きをもたらしてくれるから」という趣旨のコメントをしていた。柏の守備は割と人に引っ張られる意識が高いので、瀬川が高い位置を守ることで柏のDFをピン留めして小林とマルシーニョにシュートを打たせる設計だったら面白いなと思った。

 終盤の川崎は毎節恒例のバタバタモード。受けに回るとオフザボールの動きが大きい柏に対して後手に回りつつ、カバーに入る選手が何とか処理する場面が目に付くようになる。特に大島と橘田は前節の大南と高井を彷彿とさせるかぶり方をしており、この辺りは見ていて怖いところではあった。CBが絡まないだけ、前節のかぶりよりは怖さが薄いけども。

 PKを献上した場面も橘田が無理な体勢での守備が続いた流れだった。カバーリングに奔走する橘田の負荷をもう少し下げられれば、もっと楽な体勢で小屋松に相対できたかもしれない。

 しかしながら、このPKをソンリョンがストップ。川崎は前線3枚を中心に時間を守ることを選択し、そのミッションを遂行。リーグでの未勝利をストップし、開幕戦以来のアウェイゲームでの勝利を挙げることとなった。

あとがき

 文字通り薄氷の勝利だったように思える。良い時間に押し切ることができたこともよかったし、勝てるかどうかは別として後ろも食らいついていくようなプレーは見えていたので、川崎が今季勝つときのプレーができていたのかなという感じ。特に佐々木と後半の大南の出来はかなりチームを助けていた感がある。

 ビルドアップにトライするとか、きっちり休むとか、あるいはCBを捨てて相手の中盤からミドルブロックを組むとか、個人的には今の川崎がやってほしいことが並んでいたので、試合の方向性的には満足。ただし、もったいないボールの捨て方があったり、休んじゃうと点の匂いがしなかったり、ラインを下げると今度は前進に苦労したり、終盤のブロック守備もバタバタしたりなど、それぞれの要素を見れば足りないところがとてもよく目につく試合だった。

 ただ、道しるべとしてこの試合に取り組んだことを伸ばす方向に行ってくれればいいなと個人的には思っている。磐田戦周辺とかを見ると、チームとして何をいいプレーとするのかが迷子になっていた感もあったので、クオリティは足りずともその基準が戻ってきた感じの試合を中断前に1つできたのはとてもよかったのではないかなと思う。勝ちながら反省というよりは勝ったけども反省くらいのニュアンスだけども、ひとまず軌道にもどった感があるのは朗報だ。

 柏からすると不在者の影響はあったように思う。終点だけでなく始点としても優秀な細谷がいればボールが収まった後のプレーやオフザボールの引き出しは格段に増えたはず。関根が対面であれば先制点の三浦のスピードにも対応できたかもしれないし、中盤でのパスワークは高嶺が出ていればもっと安定していただろう。川崎の左サイドの守備が不安定だったことを踏まえれば、終盤には明らかに島村も欲しい戦況であった。

 どの時間帯も極端に悪いとは思わなかったけども、この時間が一番よかったね!の尖り方が少し足りなかった気もする。不在者がいればもっと見えてくる気はするけども、らいかーさんのコラムに対して柏の人が腹落ちしている感を見ると、困った時にどこにすがるかのところについてもう少し解像度が上がってくるかがもう一段上の順位に行くためのカギになるのかもしれない。

試合結果

2024.7.20
J1リーグ
第24節
柏レイソル 2-3 川崎フロンターレ
三協フロンテア柏スタジアム
【得点者】
柏:12′ 白井永地, 67′ 垣田裕暉
川崎:4′ 10′ 山田新, 79′ 脇坂泰斗
主審:中村太

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