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「強さとは」~2021.9.5 ルヴァンカップ Quarter-final 2nd leg 川崎フロンターレ×浦和レッズ レビュー

スタメンはこちら。

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目次

レビュー

■数勝負ではない消すプレス

 プレビューでは1stレグで完全休養させたユンカーを先発させると予想していたが、リカルド・ロドリゲス監督の決断は1stレグのリピート。機動力でかき回した駒場での布陣を等々力でも焼き直して勝ち抜きに挑むという決断を下した。

 リカルド・ロドリゲスの狙いがはっきりとわかる立ち上がりだった。序盤戦から前線から浦和は激しいプレッシングを仕掛けてくる。川崎の4-3-3に対して、4-4-2の守備で立ち向かうときは守備側は『シミッチをどう消すか?』から考えないといけないというのは、普段自分のレビューを読んでいる人にとってはお馴染みの話。

 この試合の浦和は端的にいえば2トップの根性で消した!ということになるだろう。CFにプレッシャーをかけつつ背中でシミッチを消し、サイドにボールが出たときは角度を変えてカバーリングに入る。

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 冒頭ではあるが、個人的にはこの日の川崎で最も残念だったのはこの自陣からのビルドアップの部分である。小泉と江坂は非常に負荷が高いタスクを負っていたと思う。人数で言えば、川崎のビルドアップ隊の方が浦和のプレス隊よりも多い。だが、川崎はお互いの距離感が遠く、パスが人から人につながるまでに時間がかかる。個人のパスのスキルに加えて、珍しく等々力の芝が荒れていたのもパスが走らない一因になったはず。

 ただ、そういった純粋にパススピードを上げてこのプレスを攻略するアプローチが見たかったわけではない。シミッチはマーカーによって消されているのではなく、角度によって消される側面が強かったので、角度を変えてしまえばフリーになる。例えば、浦和のCHにまとわりつかれているIHに預けてワンタッチで戻してもらうとか。

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 小泉や江坂のプレスの角度を変えながら何回でも追える部分を外せなかったのは悔やまれる。こういう部分が抜群に上手いのは大島だろう。動き直しながら自身が狭いスペースで前を向くのも上手いし、ホルダーとの距離を狭めて少ないタッチのパス交換でプレスをかける側の角度を惑わすのも上手い。浦和で言えば、小泉や平野がこういったプレーが抜群にうまかったので、非常に歯痒い思いを個人的にはしていた。

 あるいは純粋に浦和のCHにターンで勝てる旗手がいれば中盤で優位は取れたかもしれない。脇坂はこの試合では背負って反転するお得意のプレーは平野と柴戸によって封じられていた。あとは浦和の前線のプレス隊は内側のパスコースを消す意識が高かった(コース消しに専念していたから移動距離が少なく済みプレスが間に合っている)ので、ドリブルで運んでゲームメイクできる車屋がいれば少し違っていたかもしれない。田邉もトライはしていたけど、運んだ後のパスの質の部分はまだ先輩と差が出てしまったかなという印象である。

■浦和の勝ちだけど川崎も強い

 では、川崎が浦和のプレスに屈して何もできなかったかと言われればそれは別の話。活路を見出したのは右サイド。山村にはCHもSBもあるいはGKへのパスも規制されている状況が多かったが、そうなった時に前線どころに預けどころがあった。小林とダミアンである。

 山村には選択肢がひとつしかない状況を作らせた時点で浦和のプレスの勝ち。浦和にはパスの出どころが予測できる状況で、常にパスの受け手にパスが出る前にプレスをかけられている状況だった。ただし、前方のダミアンと小林のところは川崎が優位だった。

 小林にあっさり収められているところを見ると、明本の寄せが甘いのかな?と思ってしまうけど、裏抜けを見せているダミアンの動きがチラつくと、寄せていいのか迷うところでもあるのだろう。

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 プレスは取りきれなくてもひとつしかないパスコースに誘導し続ければ早い段階で受け手にプレッシャーをかけられるので仕組みとしては完成だと思っている。そういう意味で、この試合の浦和のプレスは川崎に勝つ局面が多かった。しかし、それでも小林という限定した選択肢の先でボールを収められてしまうのが川崎の強さでもある。誘導された先でもなんとかしてしまう!みたいな。

■IH起因の時間の余裕

 川崎のプレスは浦和ほど積極的ではなかった。理由としてはこの日のスタメンの人選によるところが大きいだろう。いつもの川崎の4-3-3ならWGは外のパスコースを切りながら高い位置からプレッシャーをかけ、相手の最終ラインから時間を奪う。その際に生まれるWG-SBの間のスペースはIHが埋めるという約束事がある。カバーリングを成り立たせるIHの運動量をベースに成立している仕組みだ。

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 しかし、この試合のIHの片方は家長。サイドへのカバーも、逆サイドのIHがサイドのカバーに出た時に中央のスペースを埋める仕事もできる選手ではない。ましてやこの日の浦和の2トップは江坂と小泉。こうしたスペースに顔を出し、局面を前に進めるのが抜群に上手い選手である。

 なので、川崎はそもそもWGが低い位置を取ることで全体の陣形を縦方向に圧縮。特に明本がいるサイドの小林はこの傾向が強かった。小泉や江坂が呼吸するライン間のスペースを消しつつ、サイドのギャップをWGがそもそも作らないことでコンパクトさを強く意識したものとなった。

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 こうなったときに川崎が犠牲にしているものは何か。CBへのプレッシングである。その分、時間を与えられた岩波とショルツには十分にフィードを出す余裕があった。

 先制点はそのCBのフィードから。江坂の一発裏抜けを生み出したのは岩波のロングキックだった。川崎は初期対応が遅れたのが大きい。機動力に難がある山村はジェジエウと異なり、初動が遅れると取り返せない。あるいは江坂を完全に視野に入れていたSBに山根がいれば、体を当てるくらいの対応はできたはず。これまで高い負荷にさらされ続けてきたレギュラーセットとそうでない組み合わせの違いが出てしまったシーンと言えるだろう。

 ただ、仕組みの上でこのゴールのトリガーとなっていたのは、CBへのプレスをかけないという川崎の選択である。このパスを出されて、かつ後方で後手を踏んでしまうというのは、このやり方を選ぶならば割り切らないといけない部分だと思う。保持で角度を変えられなかった問題とはまた種類の違う課題のように感じる。

■システム変更にまつわる仮説

 30分から35分の間に川崎はシステムを4-4-2に変更した。このやり方の主目的としては失点シーンのように浦和の最終ラインに時間を与えることを避けるためだろう。以下は鬼木監督のコメント。

── システム変更も含めて流れを取り返したが、そこの狙いは?
 相手の狙いのところを逆に狙いたかった。そこがうまくはまらなかった。少しシステムを変えて、自分たちがプレッシャーに行ける形にして、相手の狙いを消しながら、自分たちの良さを少しずつ出せるように進めました。得点シーンもそうですが、上手に絡める配置を理解してやってくれました。だからこそ、次に進みたかったというのはあります。

── システム変更して前線に2人を並べたのは、相手のセンターバックを自由にさせないためでもあるのか?
 あそこを少し自由にさせすぎました。違うシステムでも、そこをいきたかったが、構えてしまった。わかりやすく2人で追い出せる形をとりました。そこがメインだったと言ってもいいかもしれません。
https://www.frontale.co.jp/goto_game/2021/levain_cup/02.html

 川崎の非保持の決まりとしては優先度が高いのはブロックを組み、ライン間のスペースを消すこと。『相手の狙いを逆に狙う』というのはライン間に落ちて仕事をする小泉と江坂をスペースごと潰し、カウンターの起点にしてしまおうということだろう。

 しかし、先制をされてから中盤は比較的高い位置からプレスに行ったため、コンパクトさを維持できなくなっていた。もちろん、点を取らなきゃいけない状況なので理解はできる。だが、当初のコンセプトと実態が乖離していたのも事実。なのでシステム変更に踏み切ったというところだろう。

 ここからはさらに仮説感が強まる部分なので話半分で聞いてほしい。このシステム変更で負荷が高まるのは後方の守備陣だ。全体として間延びした形で相手の攻撃を受けることになるし、前か?後ろか?の判断を強いられる状況も増えると想定される。そうした場面ではバックラインにジェジエウが必要だったはずだ。

 で、おそらくなのだがジェジエウのプレータイムは45分と決まっていたと思う。再発での負傷交代の可能性はある選手に対して交代枠は使えても、交代回数を使うのは難しい。投入と負傷交代で2回を消費してしまってはほぼ戦術的な交代ができなくなる。

 なので、この4-4-2でプレスをかけて高い位置から浦和の時間を奪いに行くプランは本当は後半頭からだったように思う。ただ、失点が許容したCBに時間を与える部分と直結してしまっていたこと、プレスが間延びしコンパクトさを維持できなくなっていたこと、その上で交代回数を消費できないことを踏まえてプランだけ10−15分ほど前倒しにしたのだと思う。

 浦和の時間を奪いに行くプレスの発動のタイミングをプレビューではこの試合のポイントとして挙げたのだけど、このタイミングが浦和の得点によって後半開始から前半30-35分にズレたのではないかというのが自分の仮説である。

■合わせ技で一点突破

 4-4-2のミラーで挑むとどうしても保持の局面でギャップを生むのが難しくなる。そうした中で川崎が狙いを定めたのはハーフスペース。とりわけ、登里の積極的なオーバーラップで大外がとれる左サイドに狙いを定めた感じがあった。

 中央はダミアンがショルツに明確な優位を取れているわけではないし、彼のポストに合わせて走り込める脇坂はシステム変更の影響で物理的な距離が遠くなっていた。

 逆サイドは大外に張れる選手がいない上に、橘田はリスクを考慮してかハーフスペースに裏抜けする選手への斜め方向のパスをとても躊躇っていたため、右からの攻略は難しかった。

 当然橘田には動き出しは見えていたと思うけど、自らが置かれているポジションが普段よりも保持で勝負した時のリスクが高いこと。そして、そうした部分の理不尽なツケを払うのが得意な谷口やジェジエウが隣にいるわけではないことを考えてやめてしまうことが多かった。この辺りはポジションの経験によるところが多いだろうし、山根がここのリスクの掛け方のバランスが抜群に上手いので仕方ないと思う。橘田はむしろよくやっていた部分が大きいし、彼を責めるつもりは毛頭ない。

 話が逸れた。そういう事情で左のハーフスペースの奥を取る形を徹底的に狙っていたのが川崎だったと思う。普段だったら、2トップ採用の際はダミアンが左、小林が右だけど、この日は逆が多かった。相手のCBとのマッチアップの事情もあると思うが、左にはこの抜け出しで勝負できる小林を置きたかったのではないかと思う。ミラーで勝負するなら、個々人のスキルでズレを作らなければならない。

 そして、もう一つの要素が家長の出張。右のSHの家長が同サイドの異なる切れ目に顔を出すことで、浦和の守備にギャップができたし小林の抜け出しからフィニッシュまで淀みなく進んだのが川崎の同点弾の場面。左ハーフスペース奥という一点しかない突破を合わせ技で打開してみせた。これも強さの一つだと思う。

■勝てなかった要因はどこなのか

 長くなってしまったので後半は簡潔に。後半も川崎が保持を阻害しつつ、ペースを握る展開に。噛み合わせられて後方に時間をもらえなくなると、浦和のビルドアップはどうしても詰まりやすくなる。リカロドさんも認めているように、江坂や小泉の主体のハイプレスは90分続けることは難しい。後半に試合が進むにつれて、川崎のバックスが慣れたこともあり、高い位置からの川崎の保持の阻害は浦和にとってどんどん厳しくなっていった。

 川崎の攻撃で気になったのは長谷川が入った後の左サイドの攻撃。普段だったら、長谷川、ダミアン、小林のセット起用は小林がファーに構えるクロス攻勢なのだが、この日は小林、家長、ダミアンがどんどん左によってきており、ファーでクロスを待ち構える形は限定的だった。正直、現地で見ていて疑問だったのだけど、試合を見返すと1点目の再現をしつこく狙っていたのだろうなということで合点が入った。すなわち、左のハーフスペース裏の一点突破である。

 ただ、合理性で言うと微妙なところ。少なくともエリア内でFW2人が待ち構えて欲しかった感はある。長谷川が2枚を引き寄せられていた分、登里や家長でこのスペースをとれる可能性もあるし、抜け出した後を考えても左利きの彼らがクロスをあげる方がスムーズでもある。ちょっと余っている人が多い感じ気がして勿体無さが勝ってしまった。

 CKからの勝ち越し弾はここ数試合ずっと続けてきたGKのそばにクロスを上げる形から。山村はバッチリ持ち味を発揮してみせたし、鈴木にとってはCKからの2失点は今後の課題になるだろう。

 そこから先の同点劇は川崎サポーターにとって整理するのが難しい部分である。直接原因としては、西とユンカーに仕事をさせてしまったところだろう。前者は対人守備、後者はプレス強度とそれぞれ怪しい部分がありつつも攻撃に出た時はスペシャルな仕事ができる選手。繋ぎの局面では両者ともにほぼ封じられていたが、仕上げの部分では抜群だった。

 逆に言えば、川崎としてはその浦和の仕上げの局面の頻度を減らすことができなかったことが大きいと思う。2失点目で言えばシミッチと橘田が同サイドからボールを逃してしまったことが川崎にとっては誤算だった。

 ちなみに遠野の追加タイムでのバックパスが消極的でこれで流れを持っていかれたと指摘する人もちらほらいたけど、個人的にはこの意見はあまり腑に落ちない。遠野のパスを受けた橘田はボールを受けた段階では十分に時間もスペースも余裕があったし、前に蹴り出す時間は十分にあったし、ユンカーがあの位置までプレスに来ていたことを踏まえればGKかCBに戻すことも可能だったように思う。陣地回復優先という考え方もわかるが、保持で時間を使ってもOKだろう。

 遠野のバックパスから押し込まれる流れになったのはその通りだが、原因として責を押し付けるには少し因果関係が遠いように思う。むしろ、途中で述べた橘田の判断の遅れの方が押し込まれたこととの関係性は密接に思う。ただ、繰り返しになるが慣れないポジション+頭も体も疲れている終盤ということでこういうミスが出てしまうのは仕方ない部分だと思う。

 勝てなかった要因としては4-4-2への移行が早まってしまったことが個人的には思い当たるところ。DFラインへの負荷が増えるシステム変更をもう少し遅らせられれば、あるいは終盤にもう少しバックスが頭も体もクリアな状態で浦和の攻勢を凌ぐことができていたかもしれない。

 でもこれも仕方がない。その采配によって流れを引き戻して同点に追いついているし、ジェジエウなしで4-4-2で受けるのはリスクの高い判断だったと思うが、前半のうちに浦和に追加点を許してはいない。対策としては十分結果を出した部類になると思う。

 西とユンカーという限られた局面でのスペシャルな持ち味を出せる選手たちから逆転突破の光明を見つけた浦和。川崎が前半に同点に追いついたように、彼らもまたそうしたわずかな糸口を結果として結び付けられる強いチームだったということが、川崎敗退の最も大きな要因だったように思う。

あとがき

■レビューをあげた理由は

 本文が長くなったので浦和に関しては省略。少しだけ言うならば平野のような選手を攻守に淀みなく、馴染ませられることが今の浦和の強さだと思う。あと、前半のプレス強度は今季最強の相手だった。

 本来はカップ戦の敗退は見返すのもしんどいし、次がないしでレビューを書くのを放棄してしまうことが多い。それでも今回はこのレビューを書こうと思ったのは、彼らは今までやってきたことをこのピッチで体現したし、そのやってきたことを体現したこの180分はきっと次につながるしという部分が大きい。

 選手たちが真摯にカップ戦に向き合ってることが本当にこの日のパフォーマンスからは伝わってきたので、自分もこの試合に真っ直ぐ向き合うのが礼儀だと思った。他の人から見たら的外れかもしれないが、自分が思い付くチームとの向き合い方、支え方はこれなので。

 敗退は悔しいが、シーズンもチームもまだ続いていく。そして、ACLで大逆転負けを喫したあの日の埼スタのチームと今の川崎は違うことを川崎のサポーターたちは知っている。強かったけどもっと強くなる必要があるというだけだ。負けてなお、自分たちが何者であるかを示し続けて戦った川崎の選手に最大限の敬意を表したい。

 このレビューを読んでいる方で、まだ試合を見ていない方がいるならば、是非とも観戦を薦めたい。こういう試合を増やすことがJリーグのレベルアップにつながると思うし、何より両チームの個性の異なる強さが等々力のピッチでぶつかる姿はサッカーを見る醍醐味に溢れているからである。

今日のオススメ

 3得点目につながるコーナーを獲得した長谷川竜也。この日は自らが生かされる状況は整っていたとは言い難いけど、彼にできることを示せた日だと思う。

試合結果
2021.9.5
ルヴァンカップ 準々決勝 2ndレグ
川崎フロンターレ 3-3(AGG:4-4) 浦和レッズ
※アウェイゴールルールにより浦和レッズの勝ち抜け
等々力陸上競技場
【得点者】
川崎:40′ レアンドロ・ダミアン, 77′ 山村和也, 83′ ジョアン・シミッチ
浦和:8′ 江坂任, 87′ キャスパー・ユンカー, 90+4′ 槙野智章
主審:家本政明

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