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「ブレーキ防止の付け焼き刃」~2021.8.28 J1 第27節 北海道コンサドーレ札幌×川崎フロンターレ レビュー

スタメンはこちら。

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レビュー

■綺麗だが凄みは…?

 まず注目すべきは札幌のメンバー。この日は小柏、チャナティップ、青木と前線には小兵のアタッカーがずらり。おそらく、展開としては早い流れに対応できるような人選だろう。過密日程+アウェイゲーム続きでコンディション面に不安がある川崎に対して、札幌は早い展開で主導権を握りたかったはず。アタッキングサードにおいてテンポを落とさないためのメンバーと言えるだろう。

 実際、この試合のおけるコンディションは側から見れば明らかに札幌の方が上だった。セカンドボールに対する出足とか、中盤の体のぶつけ合いとか50:50のフィジカルコンタクトの部分は、札幌が川崎を上回ることが多かった。

 保持の局面は五分五分、もしくは札幌の方が少し多かったくらいだろうか。札幌の保持はCHの荒野が最終ラインに落ちることで、CBを押し出すお馴染みの形を採用。目立ったのは右のCBに入った田中の持ち上がりだった。川崎は遠野と小林を先導役として時折高い位置からプレスに出てくるが、札幌はそれを裏返すように田中が宮城の裏までボールを運ぶことで、札幌は川崎のインサイドハーフを釣り出すことに成功する。

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 そうなると川崎的に苦しいのはアンカーに入った山村の脇。大外にインサイドハーフが引っ張られることで、川崎はアンカーの周辺が空くことになる。機動力が欠点の山村をアンカーに据えるのは、正直小兵だらけの札幌相手には逆効果だとは思うが、シミッチを休ませるためには仕方ないのだろう。ここは正直、疲労のマネジメントによる部分が大きいように思えた。

 ただ、札幌も保持において完璧だったかと言われるとそういうわけではない。気になったのは大外に振りながら綺麗な形でのフィニッシュを目指していたこと。アンカー脇でフリーで受けた後、対角の大外を目指す頻度が多かった。

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 もちろん、ピッチを広く使いながらの攻撃は悪いものではない。むしろ、個人的には好きである。15分の青木の決定機などはこうした対角のクロスから生まれたものである。チャンスもこの形からできていた。

 ただ、札幌の攻撃を考えた時に、ライン間で受けた時のドリブルは彼らのスイッチを入れるものである。山村やジェジエウなど、もう少し小回りで直線的に壊すトライがあってもよかった。過負荷とはいえ、川崎は左右に振られる間に脇坂や橘田が帰陣する時間を得ることができていたので、場面によっては左右に振らすに直線的にボールを進める展開があったもよかったのかもしれない。そういう部分で存在感を出せそうなチャナティップの凄みが消えているのはやや気がかりではある。

 札幌としてはサイドに振ることで押し下げることはできていたので、押し返す手間を川崎に与えたかったのかもしれない。シュートまで行けるシーンまでは作れてはいけと思うけど、ラストパスのずれやシュートのズレで決定機まではいけなかった。

■ボディコンタクトから見る主導権

 川崎の保持、ショートパスと足の長いパスを組み合わせながら自陣深い位置からの前進を狙っていく。

 ちょっと本筋からはズレるのだけどこの試合を見る前に、浦和×広島のリーグ戦を見た。この試合の浦和のゴールシーンは広島のプレスをかわしながら相手に触られないように空いているスペースで繋ぎ、シュートまで持っていった形だった。詳しくは見てください。

 で、何が言いたいかというとこないだ戦った広島とか札幌のようなチームに対しては体を当てられてしまうと、今の川崎は厳しい。ダミアンや家長不在のこの布陣では特にその部分は強調される部分。

    従って、浦和が決めたこのゴールのように、相手に触れさせずにスペースを繋ぎながらゴールまで向かうシーンを作りたいのが川崎。それをさせずに中盤で食い止めたいのが札幌だった。つまり、この試合の両チームの陣容や戦い方においては体がぶつかるシーンの頻度で主導権がどちらにあるかがわかるような試合だった。裏を返せばそれくらいセカンドボールの優劣は明らかだった。

 この試合の序盤は川崎の保持において、非常にボディコンタクトが多かった。そして、それに伴うボールのロストも多かった。ショートパスのズレもそうだし、広島戦と同じく足の長いボールを蹴ることで、札幌の選手にボールの出る先をチェックされてしまったという要素もあるだろう。

 特に苦しんでいたのは左サイドの宮城。おそらく、前を向けない状態で受けるのはまだ苦手なのだろう。経験を考えれば、苦手なプレーはあるのは仕方ないが、彼のスケールの大きさを考えるとできるようになってほしい部分だし、何よりそういう苦しい時に今の川崎には彼にクリーンで渡せる余裕がない。本人にとっては試練だろうが、跳ね返してほしい部分である。

 ボールを奪われた後、川崎は特にバックスが前に出ていきながら即時奪回を狙う。だが、出足が間に合わなかったり、あるいは間に合っても反転を許してしまうことが多かった。川崎はDFラインが1枚かけた状態で、相手のカウンターを受けることが非常に多い試合。そうなると流石の札幌も直線的にゴールに向かうので、チャンスになる。自陣からのボール運びよりも川崎のミス起点からのミドルカウンターの方が札幌はより脅威となるボールを運び方を見せていた。

■ハマった遠野の役割

 ロスト→ピンチの流れが止まらない川崎。苦しい戦況の彼らにとって光になったのは両IH。サイドに出て行ったり、自陣まで下がって行った上に攻撃の起点とこの試合のIHはかなり負荷は高かった。前節出場がなかった脇坂と福岡戦でも動きのキレが落ちていなかった橘田だからこそ任せられる役割という感じである。

 距離の近いパスワークやターンでIHが前を向くと川崎の攻撃は一気に加速する。右サイドで起用された遠野はストライカー的な振る舞いが最も似合うWGなので、幅を取るよりもこの日のように内側でのFW的な役割の方が合っている感じ。遠野の役割に合わせて川崎の攻撃が直線的に設計されているのか、それともたまたまなのかはわからないが小林との連携も含めて、この日の遠野の役割は展開に非常に合っていたものだと思う。

 逆に山根はなかなかオーバーラップの機会を得ることができなかった。前に出ていきにくい仕組みだったことが7割、出ていけそうな状況でも出ていけないくらい疲れていたのが3割という感じだろうか。それでも数少ないオーバーラップの際にはチャンスを作るのはさすがだけど。

 先制点はなかなか高い位置でプレーするのに苦労していたもう1人のSBから。ようやくビルドアップで高い位置をとった登里。ボールの前進に貢献すると、最後はハーフスペースを抜けて田中を釣り出し、宮城→小林へのパスコースを切り拓いた。数少ないオーバーラップを質の高さに結びつけたのは左のSBも同じである。

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 そしてもう1人、小林悠である。高嶺を片手で背負うとそのまま反転してシュート。本職のCBではない高嶺を長年川崎のエースを背負ってきた小林が手玉にとったシーンと言っていいだろう。これで札幌戦は10試合連続得点。おそるべき札幌キラーだ。

 高嶺の試練は続く。川崎の2点目の場面のクロスは、ニアに立っていたならば跳ね返さなければいけないもの。おそらくGKにキャッチさせるリスタートを睨んだものだったと思うが、その部分を天秤にかけてもニアで跳ね返してクリアするのがCBの優先すべき役目。

    こういった優先順位の付け方を見る限りはリスクの取り方があまりCB的でないのだろう。本職でない選手をここで使ったところが札幌としては悪い方向に転がってしまった部分だった。

■早い展開への危惧

 2点のリードでハーフタイムを迎えた川崎。通常ならば、盤石ムードなのだろうが、この試合は気がかりな部分がある。それは後半の展開。古より、川崎と札幌の試合の後半はオープンな形に帰結することが多い。川崎的にはダミアンと家長という前線の優位となる選手が後半から出てくるため、普段ならば早い展開には期待ができる。

 ただ、その早い展開を支えられる中盤がいない。脇坂と橘田は前半から高い負荷をかけられているし、強度の面で似た役割を担える遠野はWGでスタメン。旗手は負傷で不在。小塚は明らかにカラーが異なる選手。SBの山根もこうした展開が本来は得意な選手だが、この日のコンディションではさすがに期待できなさそう。

   となると早い展開に対して川崎は前線をサポートする部分の機能不全によってブレーキを引き起こすリスクがあるということになる。そのリスクとどう向き合うかが後半のテーマであった。

 後半も札幌がやや攻勢でスタート。後半は比較的直線的な動きでゴールに向かう頻度が上がり、川崎のゴールを脅かすようなシーンは多かった。前半からの苦しい流れが変わらない川崎は選手交代とシステム変更で対応。シミッチを投入しCHとして山村と並べ、橘田をSHに移動。とりあえず加速の温床になっていた中盤中央のスペースを消すように選手をおこうということだろう。

 しかし、この4-4-2気味の守り方は付け焼き刃感が否めなかった。引いて受けるだけでなく、出ていくことも諦めなかった川崎の4−4−2だったが、2列目が時折前に出ていきすぎることで、DF-MF間のスペースを開けてしまう場面も。70分のシーンとか、川崎が出て行ったからこそ招いたピンチである。

 危ういながらも受けなければいけなかった理由は既に説明した通り。早い展開についていきながら打ち合えるメンバーは限られていたから。だからこそ、不器用ながらもこうした形で対応しなければならなかった川崎である。

 しかし、苦しかったのは札幌も同じ。相手の重心が下がるのならば迷うことなくジェイとルーカスを投入したのはよかったのだけど、ボールを持たされると急にどうしたらいいのかわからなくなってしまう感じに。得意の早い展開での勢いが嘘のように萎んでしまう。加えて、時間の経過とともに前半に幅を利かせていた球際の強さも消滅。終盤は互いにグロッキー気味にボールがゆっくりと両陣地間を行ったり来たりするのを眺めることになった。

 川崎は未勝利を3でストップ。得意な札幌の地で再度上昇気流に乗るための勝ち点3を得た。

あとがき

■前半の振る舞いが気になった

 前半の早い展開から点が取れなかったのは痛恨だろう。シュート数は十分だったけど、それぞれが得意な角度からのシュートは少し少なかったように思う。金子がペナ角からシュートを打った時くらい?全体的に綺麗に崩そうとした分、アタッキングサードでの勢いが削がれたように見えた。

    ボールを取り上げる目的もあったのかもしれないが、この日の川崎にボールを握りながら支配するプランはあまりなかったように思うので、もう少し直線的に進む機会を作ってもよかったのかなと思う。

 90分のコーディネートで勝負するチームではない+後半勝負のチームではないだけに、川崎が4−4−2に割り切るまでに既に追いつけてなかった時点で、この試合の勝ち点は厳しかったかもしれない。

■不慣れでもやり遂げた

 苦しい苦しい試合だったが、少ない攻撃を得点に結びつけた前線、そしてそれを支えた中盤のおかげで勝つことができた。今は何よりも勝ち点である。山村のアンカー起用や付け焼き刃感の否めない4-4-2はそれを差し引いても優先しなければいけないことがあるという証拠でもあると思う。

 逆に言えばそれだけなりふり構わずに得た勝利は非常に大きい。リーグ戦は3週間空く。内容に目覚ましい改善が見られるわけではないが、カップ戦に乗り込む前に未勝利に落とし前をつけたのは非常に大きいといっていいだろう。

今日のオススメ

 相性の悪い相手に囲まれながらもアンカーを頑張った山村。保持ではパス後のオフザボールで前のスペースに入り、前進を促すなど地味な貢献も光った。

試合結果
2021.8.28
明治安田生命 J1リーグ 第27節
北海道コンサドーレ札幌 0-2 川崎フロンターレ
札幌ドーム
【得点】
川崎:34′ 小林悠,39′ 遠野大弥
主審:岡部拓人

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