スタメンはこちら。
レビュー
■ひっかかるロングパス
まず、見ていくべきは広島のスタンスである。2週間空いた体力とは裏腹にスカッドには怪我人が続出。そうした中で迎える川崎戦にどのようなスタンスで臨むのか?という部分がまずは気になるところである。
立ち上がりの広島が見せたのは高い位置からのプレッシングだった。トップのジュニオール・サントスはアンカーを消すことを優先するが、シャドーに入った柴﨑とエゼキエウは両方のCBに積極的にプレッシングをかけていく。シャドーの守備におけるタスクは非常にハード。特にはサイドバックの攻め上がりにも対応する役割を命じられていたので、プレスバックも負荷が高かった。MF色の強い柴﨑を起用した意図の一つはここだろう。
川崎としては序盤は面食らったものの徐々にこのプレスには落ち着いて対応するように。立ち上がり以外はこのハイプレスに直接やられる回数は少なかった。ボール運びにおいて活用していたのは長いボールである。プレビューで指摘したように、広島は守備においてCHがフラフラと高い位置に出ていくことが多い。
川崎が序盤に狙ったのはこのCHの後方のスペースに落とすような長いボール。中盤でセカンドボールを拾える人数が多いのは川崎の方。加えて、この日の前半は広島ゴール側から川崎ゴール側にかなり強い風が吹いていた。従って、川崎が蹴る後方からのロングボールは押し戻される方向に。広島のラインがコンパクトでないのに加えて、MF-DFの間に落ちるようなボールが風によって増えることで川崎はロングボールからライン間で前を向けるようになってきた。基本的に風は向かい風なので前半は不利なのだが、中盤が間延びしたときに限っては川崎がボールを受けられていた。
もう少し、短いパスの部分ではアンカーのシミッチにボールを預けるメカニズムも安定。IHに縦パスを当ててポストで落とす。シミッチのマーカーであるサントスは、角度でマーカーを消しているので、パスが入るアングルが変わればシミッチはフリーになる。
ただし、川崎のこの日の前進はここからが問題。前進の仕方に丁寧さが欠けていた。後方からのグラウンダーのパスはやたら一発を狙う足の長いものが多く、通れば一気に前進できる一方で、相手からするとカットの狙い目になるパスも多かった。
単純にピッチを掴めていないのか、疲れもあるのか川崎の長いパスの精度はそもそも十分ではなかった。ボールを引き出す側の準備も不十分で、ボールを受けにくる動きや逆に裏に抜ける動きも足りていなかった。加えて、とにかく広島の選手は球際が強い。さらに休養も十分。一般的には『パスが長い=届くまでの時間がかかる』なので、ボールが出てからでも間に合うレンジのパスを選択した川崎は広島にとって格好の的。受け手を潰してカウンターを発動する準備が整っていた。
川崎としては長いハイボールを使って、危ないエリアにボールを届けることはできていたものの、グラウンダーのパスから一つ一つ前に進んでいくような前進はできていなかった。むしろ、ここから生まれていたのはピンチ。シミッチやジェジエウの長いパスのミスをひっくり返され、広島に強烈なカウンターを喰らう川崎だった。
■問えなかった足元スキル
守備の局面でも今季お馴染みのハイプレスが鳴りを潜めていたのは疲労の影響だろう。川崎はダミアンが中盤を見るよう形で無理にプレスにいくことはせず、両方のWGが高い位置まで出ていき、ワイドのCBにプレスをかけていくスタイルだった。
広島が前進の光明を見つけ出していたのは右サイドである。低い位置で野上がボールを持ち、長谷川をひきつける。加えて、WBの藤井が裏に抜ける動きを見せて登里を引っ張る。その間のスペースにシャドーの柴﨑が落ちてくるという流れで前進ができるように。
そこから先のコンセプトはプレビューで説明した通り、右サイドでの密集からの打開。特に登里の左側、エンドラインの方から抉るような動きでエリア内で入り込む動きを狙っていたように思う。そう、まさに得点シーンの部分である。川崎としてはサイドを破られた際のああいうニアのグラウンダーのクロスはCBがなんとかするというのが原則。いいアングルが見当たらなかったので、車屋に対応可能だったかというのはわからないが、広島が登里の対人を制し、車屋のカットを回避したという時点で失点シーンにおいて川崎は二重の防衛策が機能しなかった事になる。
ちなみに、広島はこの試合は前節からWBの左右のサイドを入れ替えている。前回の福岡戦では左に入った藤井が逆サイドでサントスのポストからサイドチェンジを受けて、突破を図るというアイソレーション気味の活用法だった。再びプレビューより。
だが、この試合ではそういったサイドチェンジを活用したアイソレーションはなし。従って、逆サイドのWBである柏の役割のこの場面のように右サイドからのクロスに飛び込める位置でフィニッシュに絡むことだろう。
逆に言えば、広島はそれだけ同サイドの突破に集中していたということ。川崎からするとこの狭いスペースの突破に固執させたかった。広島は狭いスペースの打開を志向する割には、細かいパスを繋ぐと現状ではミスが出やすい。川崎は人数をかけてでも脱出を許さず、広島にそういった技術を問えるようなプレスを仕掛けたかった。
運動量を生かした長い足をパスをカットしてからのカウンター、そして同サイドからの一点突破の定点攻撃。広島の2つの狙いがハマったことを踏まえれば、先制点を取るのが広島というのはなんの不思議もない。
■要所に感じる疲労の痕跡
先制点をとってからは広島のプレスのラインはやや下がり目に変更。ということで川崎はより一層前進の仕方が大事になっていく。広島はローラインに変更したと言え、CHが高い位置までフラフラ出ていく癖は変わらない。なので、川崎的にはそこのスペースから前進していきたかったはずである。過去の使い回しの図で言うとこんな感じで。
40分を過ぎると、こういった中盤のスペースを活用した前進の仕方がだいぶできるようになった。だが、そこからの推進力がない。脇坂と旗手には空いたスペースで受けてからグイグイと前にいく馬力はない。長谷川はボールを受けてから止まってしまう選択をしがちなのが気がかり。44分のシーンのように動きながらボールを受ける方がこの選手の持ち味と言えるだろう。このシーンでは低い位置まで下がり、長谷川との細かいパスの交換で前進を助けていたのがダミアンだったので、ゴール前に人がいない問題はあった。けども、本来はこういう使い方の方がベターなはずである。
もう一つ気になったのは相手を押し込んでからの動き。繰り返しになるが、広島は対人がとても強いチーム。ダミアンだろうと入るとわかっているタイミングで縦へのパスを入れてしまえば、2人に囲まれてあっという間に潰されてしまう。ダミアンに反転ができるスペースがない状態で楔を入れることしかできなかったのはやはり裏やサイドに流れる頻度が少なかったからだろう。このオフザボールの少なさも川崎の連戦の影響を感じる部分である。
■整いきらない終盤
後半の川崎はフォーメーション変更。シミッチと脇坂がフラットかどうかはわからないので4-2-3-1と言い切れるかは微妙だが、家長があきらかにトップ下のような位置に移動し、空いた右に旗手が出ていくという形に変わった。
加えて、広島側はやや5−3−2のような形で守備位置を変更。前半と最も大きく異なったのは右のシャドーに入っていた柴﨑の立ち位置が大きく下がったこと。これは川崎にとっては好都合だった。左からボールを運べるスペースを見つけた川崎はこのサイドから登里や車屋がボールを運ぶように。
さらに中央に移動したことで家長がよりフリーマンとして振る舞いやすくなったことで左サイドは受け手が増加する。進まれることを嫌い柴﨑が前に出ていくことを狙えば、広島の右サイドが前がかりになる隙をつき、裏の宮城に流す。
こうして川崎は宮城に対人でドリブルを仕掛けられる部分を作っていく。文にしたらあっさりだけど、割とこうなるまでに時間はかかった感じである。
しかし、同点弾をあげたのは異なる形から。自陣深めの位置からボールを受けた橘田が右サイドの裏を駆ける旗手に一気にパスを通す。そこからエリアにボールを入れると待ち受けていたのはダミアン。このシーンでは広島のバックスがエリア内でダミアンを囲んで体の向きを変えさせないための制限をかけることができていなかった。
前半とエンドが変わったことで今度は追い風の向きで強風を受けることになった川崎。あんまり攻撃の役には立たなかったけど、カウンターに置いて広島の反撃の威力を下げるのには効いていた感じ。加えて広島は交代枠を使い切った後に青山が負傷するという不運も。実質10人で戦うハメになった時点で広島の勝ち筋はだいぶ薄くなったと言わざるを得ない。
徐々に整理ができてきた闘い方、広島の苦しい状況を踏まえれば川崎が押し切れるか?というところに注目が集まった残り時間10分強。しかしながら、この終盤戦においてなかなか川崎は攻め手を準備しきれない。
気になったのは小林悠の使い方。よく長谷川を三笘みたいに使っても•••みたいな感じの意見が出てくるが、ここ2試合くらいは小林をダミアンみたいに使っているなっていうのも個人的には気になっている。清水戦は普通にこなせていたけど、広島相手だと少し背負うのは厳しい。もう少し奥行き見せてもよかっったかなと思うんだけども。
あとはセットプレー。おそらく荒れた天候+大迫の弱点であるハイボール処理を強いるためにゴール付近にボールを入れさせまくっていたのだろうけど、いくらなんでもキャッチされすぎだと思う。カウンターへ移行されるリスクを踏まえてもあまり機能していたとは言えなかった。
決め手に欠き、最後まで舞台を整え続けることができなかった川崎。後半序盤からの巻き返しでは同点止まりが精一杯だった。
あとがき
■不器用さと馬鹿力と
味方のサポーターはヤキモキするが、相手にする方からすればいつでもめんどくさい。それがここ数年の広島である。積み上げがないと嘆くファンはTLで見かける頻度的には多いが、相手として迎え撃つと火事場の馬鹿力レベルが相当高くとても手を焼く。特に自陣ゴール前の体の投げ出し方とかはかなり鍛えられている感じである。
一方でこの試合や福岡戦で見られるようなゲームコントロールのメリハリのなさは気になる部分である。川崎相手にリードからロングカウンター一発で追いつかれるのは切ない。がんばれるが、器用ではなく展開によって闘い方を変えられないので、この部分がストレスになっているのかなと思う。
■まだスカッドを使い余している
いやー、ハード。選手のコメントを見ても、勝ちにこだわりながらもちょっとアウェイで難しい環境での引き分けというのを前向きに捉えていこうという感情と半分半分という感じ。まぁ、しんどいよなー。
コメントの多くにもあるように丁寧にできなかった前半が全てだろう。苦しい試合においては、守備が悪い流れながらも踏ん張りながら勝ち点を重ねてきたので、相手の狙い通りの攻撃に打つ手なしで失点してしまったら、勝ち点3を持ち帰るのは難しい。
大変だけど、丁寧に前に進んでいくこと。そして、起用されている選手の特性に合わせるように変形していくことを続けるしかない。選手個人のためにチームの持ち味を消すわけにはいかないが、三笘や田中を追い求め続ければいいという訳ではない。選手によって持ち味は違う訳だし、フルスカッドで戦っていかなければいけないスケジュールなのだから、そこで柔軟性を持てないと自分達の首を締めるだけである。まだスカッドは使い余している。難しいけど丁寧にやることをトライし続けるしかない。
今日のオススメ
得点シーンの橘田のスルーパス。長いレンジのパスを通すイメージが無かったけど、こういう引き出しもあるんだなと思った。
試合結果
2021.8.21
明治安田生命 J1リーグ 第25節
サンフレッチェ広島 1-1 川崎フロンターレ
エディオンスタジアム広島
【得点】
広島:27′ 柏好文
川崎:73‘ レアンドロ・ダミアン
主審:村上伸次