このプレビューは対戦カードの過去の因縁やジンクスを掘り起こして、試合をより一層楽しむための物です。
Fixture
明治安田生命 J1リーグ 第18節
2021.7.17
清水エスパルス(13位/5勝8分8敗/勝ち点23/得点22/失点28)
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川崎フロンターレ(1位/17勝4分0敗/勝ち点55/得点51/失点15)
@IAIスタジアム日本平
戦績
近年の対戦成績
直近10回の対戦で川崎の7勝、引き分けが3回。
清水ホームでの戦績
直近10試合で清水の1勝、川崎の7勝、引き分けが2つ。
Head-to-head
<Head-to-head>
・川崎は公式戦の清水戦において直近11試合無敗 (W8,D3)。
・直近10試合の清水ホームの試合において川崎が負けたのは一度だけ。
・直近8試合の川崎の清水戦勝利のうち、7試合は川崎が3得点以上の勝利。
・当該カードで清水が勝ち点を獲った試合は5試合連続で川崎が2得点をあげている。
相性でいえば川崎は優位である。ワンサイドゲームに終わる試合も少なくなく、一方的に清水を押し切ってしまう試合もしばしば。ピーター・ウタカに殴られまくった2015年の大敗を除けば、清水は近年成績のいい相手である。
ただ、気になるのはスコア。17試合連続で複数得点記録中と固め打ちが当たり前になっている清水戦だが、2得点では勝てないのが通例。川崎が勝利した直近8試合のうち、7試合は3得点以上を上げている一方、引き分け以下の5試合は全て2得点どまり。2点までなら清水の粘りで引き分けに持ち込まれることも珍しくはなく、3得点を挙げられるかどうかが川崎にとって大きな壁となっている。
スカッド情報
【清水エスパルス】
・鈴木義宜は頭蓋骨骨折で欠場。
・エウシーニョは左内転筋肉離れで4週間の離脱中。
・中村慶太は左膝内側側副靭帯の損傷で欠場見込み。
・成岡輝留はU-24日本代表トレーニングパートナーのため欠場。
【川崎フロンターレ】
・三笘薫、旗手怜央は代表活動で離脱中。
・小林悠は左膝内側側副靭帯損傷で6週間の離脱。
予想スタメン
Match facts
【清水エスパルス】
<清水のMatch facts>
・公式戦6試合無敗。
・昨季同時期比で勝ち点は11多い。
・今季ホームゲームでのリーグ戦は2勝のみ(D4,L3)。
・6位以上とのホームゲームでは今季無得点。
・原輝騎は自身初のJ1での2試合連続得点を記録中。
・ロティーナ監督は過去の4回の川崎戦においていずれの試合においても得点も失点も記録している。
天皇杯を含んでの数字ではあるものの、公式戦6試合無敗は2019年以来。上り調子といっていいだろう。手堅さは少しずつ増してきた印象で簡単に負けないチームになってきている。今節負けなければロティーナ就任後初めてのリーグ戦4試合負けなしとなる。
今季のホームゲームに関してはリーグ戦では2勝止まりとあまり得意ではないが、直近5試合のホームでの公式戦は4勝。リーグ戦2勝、天皇杯2勝とホームでの成績も上がってきている。2試合のリーグ戦の勝利はいずれもクリーンシート。ホームでの上位との試合は今季得点を挙げれていないので、しぶとくロースコアに持ち込みたい算段だろうか。
ただ、ロティーナ監督は対川崎戦になるとどの試合においても得点も失点も記録するというスタイルと少し離れた結果になりがちなのは気になるところ。いずれにしても、得点に関してキーになりそうなのは好調を維持する原輝綺。2試合連続で生まれている得点以外にもクロスによるアシストでチームのチャンスクリエイトに貢献したいところだ。
【川崎フロンターレ】
<川崎のMatch facts>
・引き分け以上で今シーズン30試合連続無敗を達成。
・公式戦7連勝を達成すれば今季初めて。
・ACL明けのリーグ戦は4連勝中。
・アウェイでのリーグ戦は直近3試合とも2得点以下。
・長谷川竜也は直近のリーグ戦26試合の出場で得点がない。
・脇坂泰斗はACLにおいてチーム最多の5アシストを記録。
相手のレベルというエクスキューズはあれど、ACLを全勝で終えたのは立派。なぜならば、全勝よりいい成績を取ることはできないからである。当たり前。どんなテストでも100点を獲るやつと1位を獲るやつはすごい!というのは自分が通っていた中学の頃通っていた塾の先生の言葉である。ばあさんだったけどまだ元気かな。
ということで、引き分け以上で今季の公式戦無敗記録は30の大台にのぼることになる。長野戦のPK決着を引き分けとすれば勝てば今季初の公式戦7連勝もかかっている。いい形で中断を迎えたい。
懸念となるのは当然疲れ。慣れない地での中2日の6連戦。しかも、クラブ内部には陽性反応が出た人も出てきたということでサッカー以外にもピリピリしているのが現実だろう。だが、ACL直後のリーグ戦成績は良好。リーグ全体で振るわなかった2019年でも4連勝を記録している。自力突破が消滅した2019年のホームの上海上港戦の直後は日本平の試合で見事0-4の快勝。リカバリーを果たしている。
先の項で清水戦は3得点が勝利に向けて必須!と書いたが、アウェイでのリーグ戦は直近3試合で2得点とあまり数字は芳しくはない。キーとなるのは2人。1人は長谷川竜也。三笘薫の移籍が濃厚な現状ではスタイル云々の以前にチームにおける背負う責任の重さが変わってくるのは間違いない。2020年7月のクラシコ以来伸ばし続けているリーグでの無得点記録はそろそろ止めなくてはいけないところ。2020年のルヴァンカップで複数得点を決めてイメージがいいであろう清水相手に得点を決められるか。
もう1人のキーマンは脇坂。田中碧の退団、そして旗手怜央の離脱で今節からこの男が中盤を背負う可能性は高まっている。ACLのベスト11に選ばれたいい流れを維持し、長谷川同様さらなる重責を川崎の中盤で背負ってほしいところである。
展望
■コンセプトに基づくSHの役割
2021年の年始。ストーブリーグにおける主役の一角は間違いなく清水だった。ロティーナの就任に加えて、国内の実力者と外国籍選手の補強で一気に上位に駆け上がるのでは?という予想もあった。だが、個人的に唱えている『ストーブリーグの王者はリーグ戦の主役になれない』説はまたしても当たってしまったように思える。
思ったような上昇曲線にはなっていないかもしれないが、それでもここ最近の清水は調子を取り戻している。ロティーナといえばトランジッションを少なくというコンセプトで攻守両方の局面を自分の制御下に置くスタイルがおなじみである。その部分はこの清水にもある。まずはそこがポイントの1つになる。
そしてもう1つのポイントは人数調整。何のこと?という感じかもしれないが、攻守のバランスやビルドアップにおける人数の増減をどこで行うかという話。清水は直近の試合ではこの役目をSHに託している。JではどちらかといえばCHのサリーやそもそも3バックスタートによって中央で人数を揃えるケースが多いけど、清水はサイドで調整をかけている。ちなみにだけど、欧州サッカーでは割とサイドで人数調整をかけるチームが近年はゴリゴリ主流な気がする。だからいいというわけじゃないけど。
SHとざっくりと説明したが具体的に人数調整は片山に託している。清水以前からのロティーナの教え子で左右どちらのサイドの高い位置でも低い位置でもプレーできるポリバレント性は人数調整にはうってつけの存在。
後述するけど、清水のSHにおける現状の役割はこの人数を調整するために高い位置でも低い位置でもプレーできる役割と、逆サイドのクロスに飛び込む役割がメイン。なので、ドリブラーとか韋駄天系の選手の出しろは少ない。金子が出ていってしまったりとか西澤のプレータイムが減っていたりとかは本人のコンディションとかを抜きにしても納得できる部分だなと試合を見ながら思った。
■局面は制御下に、クロスは原輝綺に
局面ごとに見ていく。まずは守備の部分。より整備されているように感じる局面だ。CBが2枚か3枚かによって異なる部分というのは当然出てくる。単純な重心の話が1つ。3枚のCBを採用するときは後ろ重心で5バック化。4バックよりもラインを下げた対応になる。直近の試合で5バックを採用した試合は5レーン的な要素で殴られる試合が多い。例えば、徳島戦は途中から5バックにシフトしたし、横浜FCにもかみ合わせる形で3バックスタートだった。埋めながら深く構えてスペースを消す。
大分戦のように4バックを採用した試合はより高い位置でのプレスに行くイメージ。SHは時折外を切るようにプレスをかけて、中盤より高い位置で食い止めようと狙うシーンも時折見られてくる。ハイプレス志向とは言わないが、高い位置で止める意識が強まるのは間違いない。
ブロック志向の時はむしろサイドは追い込む場所。素早いサイドチェンジを防ぎながら攻撃を遅らせてボールをからめとるのはロティーナっぽい部分。ちなみに高い位置にプレスに出ていった時も取り切るというよりは速い攻撃の起動を防ぐことに重きをおいているように見える。ここら辺もロティーナの局面を制御下に置くというコンセプトに基づいたものといえそうだ。
攻撃の部分はここ数試合は何はともあれ原輝綺である。SBがメインポジションだが、CBとして起用されても攻め上がりのタイミングが良く、クロスの質も良好。得点を取っているが、どちらかといえばチャンスメイカー色が強い。清水の攻めの主な手段は原輝綺のクロス。そして、そのクロスを上げた時にエリアに人数を揃えることが出来ているか。SHにクロスに飛び込む力が必要というのはこの部分につながってくると思う。
エリアの中に人数を揃えられた時のクロスこそ最高なので、清水は押し込めれば押し込めるほど良い。セットプレーから点が取れているようにエリア内での競り合いも強みになっているチームである。
■これからの課題とこれまでの課題をクリアする
清水の課題としては点が取れないことだろう。高い位置からのカウンターの機会自体が多いわけではないというのが前提だが、その少ない機会においてもショートカウンターの精度は高くない。チアゴ・サンタナが収まらないわけではないが、やはりこの部分はボールを1人で運べるドリブラーの不在が影響が大きい気がする。人数的に同数でも攻め切らずに後ろからヘルプが来るのを待っている間に敵のブロックの枚数が揃ってしまうこともあった。
また、後ろ重心で守るとビルドアップでも細かい陣地回復はできないのが現状。押し込まれてもある程度は守れるが、その局面を変えるための武器はない。したがって、先述した原のクロスまでの道筋を整えるのが難しくなってくる。強みとなる状況はあるが、そこに持って行くための手段がないのが清水としての課題となるだろう。
ならば、前からいってショートカウンターの機会自体を増やせばいいだろうか。だが、そうなった時にバックスの守備範囲が広くなる不安がある。カウンターの局面ではないが、徳島戦の2失点目のように相手が加速して向かってくる状況における清水のバックスの対応能力は高くない。おそらく、ボール周辺の圧はかけられるけど、そこから脱出された局面においては脆さが出るチームだと思う。
したがって、川崎にとってはショートパスでのプレス脱出からの急加速は狙い目になる。後は清水のDFラインは横の動きにも懸念はある。CBが横のポジションを取り直す際の動きがやや甘く、WB-CB間やSB-CB間へのスライドがやや甘い。ヴァウドはこの部分に出ていくことが多いけど、そうなるとヴァウドが出ていったスペースが今度は空いてしまう。5バックの方が守れるのは、この穴が顕在化しにくいからだ。ちなみに5バックの場合はSHが内側に絞るか3センター化して、大外をWBに任せることが多いので、サイドにDFがヘルプにくる機会は結構作れそうな感じはする。
まとめるとまずは清水に点を獲らせないという意味では物理的にゴールから遠ざけてしまうことが最も大事。川崎が試合を握りながらハーフコートゲームができるのが理想といっていい。攻撃は急加速で清水のバックラインに広い範囲を守らせたい。自陣にこもった時は手薄になりやすいサイドからバックラインの横のスライドの甘さでできた穴を突く。これがベターだと思う。
試合を90分握ることは今季の川崎がなかなか苦手としているテーマだし、三笘不在でサイド攻撃の質を高めていくのはこれからの課題、そしてチアゴ・サンタナのようなパワーのある外国籍選手に負けないのはACLを見据えての課題。川崎はこれまでの課題、これからの課題をクリアし『3得点の壁』をクリアすることが出来るだろうか。
【参考】
transfermarkt(https://www.transfermarkt.co.uk/)
soccer D.B.(https://soccer-db.net/)
Football LAB(http://www.football-lab.jp/)
Jリーグ データサイト(https://data.j-league.or.jp/SFTP01/)
FBref.com(https://fbref.com/en/)
日刊スポーツ(https://www.nikkansports.com/soccer/)