チーム情報
監督:リオネル・スカローニ
FIFAランキング:8位
W杯2018⇒ベスト16
コパアメリカ2019⇒ベスト4
招集メンバー
GK
23 Emiliano Martínez
28 Juan Musso
12 Agustín Marchesín
1 Franco Armani
DF
13 Cristian Romero
25 Lisandro Martínez
2 Lucas Martínez Quarta
19 Nicolás Otamendi
6 Germán Pezzella
3 Nicolás Tagliafico
8 Marcos Acuña
4 Gonzalo Montiel
26 Nahuel Molina
MF
18 Guido Rodríguez
5 Leandro Paredes
7 Rodrigo de Paul
20 Giovani Lo Celso
14 Exequiel Palacios
17 Nicolás Domínguez
FW
15 Nicolás González
10 Lionel Messi
11 Ángel Di María
27 Julián Álvarez
21 Ángel Correa
16 Joaquín Correa
24 Papu Gómez
22 Lautaro Martínez
9 Sergio Agüero
各試合振り返り
GS第1節 チリ戦
■メッシも周りも悪くはなかったが…
2日目で登場となったのはアルゼンチン。対するは国際大会での存在感の高さが印象的なチリである。立ち上がりにボールを支配したのはチリ。GK、CB2人、アンカーのプルガルの4人でひし形を形成し、ショートパスを主体にボールを組み立てる。
しかしながらチリは前進に苦労していた。困った時はIHが降りる仕組みになっているのだが、ここの裁量の部分がどうだったか。どちらかというと、中盤が降りてきすぎてしまい後ろ重心になってしまうことで、前に人が欠けられない問題が発生していたように思う。
それに比べるとアルゼンチンは前進の確固たる形はなかった。だが、前半から決定機をより得ていたのはアルゼンチンの方。チリに足りなかった馬力のあるドリブルを時折織り交ぜることによって、チリの中盤を1枚剥がして敵陣に乗り込むことが出来ていた。
加えて良かったのが前線のオフザボールの質。ラウタロ・マルティネスやゴンザレスのように、味方のために汗をかける存在がいるのが大きい。17分のシーンは秀逸でゴンサレスのボールの引き出し方の質の高さを味わうことが出来る場面である。大きい展開を使うのがうまく、動きが少し重いチリのバックスに対して、アルゼンチンは最終ラインを一気に攻略するような動きを狙うことが多かった。
もちろん、メッシに引き寄せられるようにパスをする場面も見られはするが、メッシを経由しないと何もできない集団ではないかも?と感じさせるアルゼンチン。それでも結果を出すのがメッシなのだけど。FKで先制点をもたらしたこの日は絶好調。後半はさらに組織の中でも輝くようになっていた。個人的には今まで見た代表のメッシの中ではだいぶやりやすそうだったと思う。
ただし、後半はチリも復調。前線のオフザボールの動きや大きい展開を織り交ぜることによって、前半にはあまり見られなかったアルゼンチンゴールに迫る場面が見られるように。PKを奪取したシーンにおいても、前半にはなかった大きくて速い展開が活きた。前半から主審にフラストレーションを溜めていた様子のチリだったが、この場面ではOFRからの判定修正でPKを得ることが出来た。それ以降も割とビダルを中心に文句は絶えなかったけど。
同点にされたアルゼンチンは猛攻を見せる。メッシが次々にチャンスメイクをかましていくのに加えて、ディ・マリアの投入でボール運びやエリアへの侵入の部分も強化。終盤にゴールに向かう回数はアルゼンチンの方が多かった。しかし、ゴールが枠を捉えない。
結果としては不満だろうが、内容としては個人的には悪くなさを感じたアルゼンチン。チリはなんとか勝ち点1を持ち帰った格好だ。
試合結果
アルゼンチン 1-1 チリ
エスタディオ・ニウトン・サントス
【得点者】
ARG:33′ メッシ
CHI:57′(PK) バルガス
主審:ウィルマー・ロルダン
GS第2節 ウルグアイ戦
■王様は王様らしく
2戦目からの登場になったウルグアイ。おなじみの4-4-2をこの試合でも採用。就任15年目のタバレス監督と、スアレスとカバーニの2トップは依然健在である。
ビルドアップにおいては2-3-5の変形をするウルグアイ。2CBに対してCHが段差上にポジションとりながら角度をつける。ウルグアイの前線は中央密集が基本線。スアレス、カバーニを中心に中央にわらわら人が集まる形はワールドカップと同じくウルグアイのトレードマークである。
一方のアルゼンチンは正反対のアプローチといっていいだろう。あまり強引に押し込むことはせず、ピッチを幅広く使いつつ、カウンターで仕留めることを狙う。前線は斜めの動きを数多く取り入れたオフザボール勝負。広いスペースを縦横無尽に動き回るアタッカーでかく乱する。
ボールの持ち運び役はメッシ。中盤に降りてきたメッシがボールを受けると、それに合わせて動き出した前線のアタッカーをメッシが使うという流れである。このアルゼンチン代表は自分が見てきた中では最もメッシがやりやすそうなアルゼンチン代表だなと感じた。周りの人がちゃんとメッシを王様に仕立て上げられるというか。派手さはないけど、堅実で泥のように走るアルゼンチンの方が大概めんどくさいのである。そんなアルゼンチンは王様であるメッシのショートコーナーから先制。アンカーのギド・ロドリゲスにとっては嬉しい代表初ゴールとなった。
アルゼンチンの強みをもう1つ挙げるとしたら守備の堅さである。押し込まれた状態での跳ね返しにあまりストレスを感じないチームのように見える。サイドアタッカーもきっちり自陣まで下がる。守備においてもめんどくさいことをサボらない。
後半はコレアでプレス強化、ディ・マリアで運び強化と控え選手を軸に部分的に交代で強化を図るアルゼンチン。たまにドリブル一辺倒で急ぎすぎていると感じたら、デ・パウルが落ち着かせる。最強ではないけど堅実である。
一方のウルグアイは定点攻撃はできていたが、いかんせんポジションチェンジが少なくやや攻撃が硬直気味だった。大外から相手を外した状態でクロスを入れられたのは70分手前の決定機くらい。以降は押し込む時間こそ増えるものの、決定的な得点機会を得ることもできなかった。
堅実なアルゼンチンが前半のリードを活かして逃げ切り。先行を許すとめんどくさいチームであることをよく知らしめた一戦だった。
試合結果
アルゼンチン 1-0 ウルグアイ
マネガリンチャ・スタジアム
【得点者】
ARG:13′ ロドリゲス
主審:ウィルトン・サンパイオ
GS第3節 パラグアイ戦
■アグエロ型でもスイッチ役は・・・
前線のメンバーをガラッと変えてパラグアイ戦に臨む決断をしたアルゼンチン。アグエロ、ディ・マリア、ゴメス、パレデスをラウタロ・マルティネス、ゴンサレス、デ・パウル、ロ・チェルソから入れ替えればある程度カラーが変わるのは当然のことといえるだろう。
それにしても大幅にカラーは変わったように思う。特に前線。今までは前でラウタロとゴンサレスが大きく動きながら早い展開を誘発する。今回のゴメスとディ・マリアの2人はむしろ低い位置までボールを引き出して、自らと共にボールを運ぶ。トップに残るアグエロも基準点になるタイプ。つまり、前で走る選手がいない分、後ろが重くなりやすく前線は孤立しやすいという難点を抱えやすい。ゆっくりと確実に後ろからボールを運ぶ必要はある。
パラグアイも当然それをわかっていたのだろう。4-4-2気味に受ける守備を選択したが、なるべく中盤の手前で食い止めるようなプレーが多かった。中盤が戻る時間を稼ぐなら、DFラインから出ていくリスクも取る。とにかくバイタルで前を向かせる状況だけは避けたいところ。
それでもメッシにはライン間で前を向く状況を作られてしまう。大きな展開を頻発するラウタロ型でも、少しずつ前進するアグエロ型でも、スイッチを入れるのはメッシである。この試合でも彼のドリブルで徐々に前に進む。押し込んだ後の崩しはこの日のアルゼンチンのクオリティは高かった。メッシだけでなく、ディ・マリアもタメを作れるため、崩しのバリエーションはラウタロ型より増えた印象だ。
得点シーンにおいてもディ・マリアの緩急に合わせたゴメスの動き出しがきっかけに。2人を引き付けてディ・マリアのカットインのスペースを作ったメッシもさすがである。相手を引き付ける重力がある選手だ。
後半は一転保持の時間が増えたパラグアイ。前節同様跳ね返しまくりのアルゼンチンの守備陣に大分手を焼いていた。唯一可能性があったのはスペースに上げるクロス、そしてホルダーを追い越した選手を使う相手のラインを下げながらのクロス。左SBのアルサメンディアのオーバーラップを使った形は少しはアルゼンチンの重心を脅かせることができていた。
ただし、それでも十分な決定機とは言えず。アルゼンチンが4-3-3にシフトしてからは、中盤で跳ね返しまくりクロスの前に撃退する前半のパラグアイとダブるやり方でパラグアイにプレッシャーをかけるように。
結局最後までパラグアイにおいしい思いをさせなかったアルゼンチン。水際守備の強度は今日も健在。クリーンシートでの勝利を決めた。
試合結果
アルゼンチン 1-0 パラグアイ
マネガリンチャ・スタジアム
【得点者】
ARG:10′ ゴメス
主審:ヘスス・ヴァレンズエラ
GS第5節 ボリビア戦
■果敢なトライも先制点まで
最終節を前に敗退が決まっているボリビア。アルゼンチン相手に爪痕を残すには撤退している場合ではない。というわけで高い位置からアルゼンチンを食い止めに行く。
両チームのフォーメーションを比較すると4-4-2同士(アルゼンチンは厳密には4-4-1+メッシだけど)なのでボリビアが高い位置からプレッシングにいけばある程度噛み合う。
しかしながら、アルゼンチンはこのボリビアの気合の入ったプレスに対してあっさり解決策を見出す。非常に簡単な列落ちであっさりとボリビアのプレスは外されてしまう。狙い目になったのはボリビアの2トップの脇。この脇にアルゼンチンの選手が降りてくることでフリーでボールを受けることができる。ボリビアのプレスもここまで追い回すほど気合が入っているわけではなかった。この位置でメッシがボールを受けてしまえば自分で運んで加速が十分にできてしまう。それだけで解決である。
崩しに関してもあっさりと解決策を見出す。アルゼンチンの崩しは広くサイドを使ってボリビアを横に揺さぶる。これに対しては、ボリビアはSHが低い位置まで降りて対応。2トップは前に残るため、ボリビアは6-2のような中央がスカスカな形で受けることになる。ボリビアが横に広がったせいで中央でフリーの選手を作りやすくなったアルゼンチン。先制点はコレアが深さを作り、メッシからアレハンドロ・ゴメスが裏を取り、アッサリと仕留める。
その後もアルゼンチンはワンサイドで押し切る。中央を起点とした横断は先制点以降もすぱすぱ決まる。メッシがこの位置でフリーになることもしばしば。逆サイドへの展開や自らの仕掛けで自由自在にボリビアを攻め立て放題。順調に得点を重ねていく。
ボリビアは先制点ですっかりと戦意喪失してしまった感。自陣から進むビルドアップに対して、間受けにピッチを縦横無尽に走っていたサーベドラにご褒美のゴールはあったものの、よくまぁ1点決めたなというのが正直な印象。アルゼンチンがボリビアを完勝で下し、決勝トーナメント進出に弾みをつけた。
試合結果
ボリビア 1-4 アルゼンチン
パンタナル・アリーナ
【得点者】
BOL:60′ サーベドラ
ARG:6′ ゴメス, 33′(PK), 42′ メッシ、65′ ラウタロ・マルティネス
主審:アンドレス・ロハス
Quarter-final エクアドル戦
■大駒2枚が決め手
受けに回ったエクアドルの序盤戦を見れば失点は時間の問題のように思えた。深めの位置に構えるアルゼンチンは平常営業。ラウタロ・マルティネスを中心に裏を取る前線の動きと、メッシを中心とするライン間の動きのコンボでエクアドルを押し下げる。
前残りしたメッシに対して、エクアドルのプレゼントパスもあった。これはメッシが珍しくポストというお目こぼし。首の皮1枚でエクアドルは助かる。
すると20分くらいを境に徐々に流れが変わり始める。エクアドルは高い位置からのチェイスを開始。前線は押し上げながら組み合う形をとる。すると展開は徐々にイーブンに。エクアドルがマンマーク主体の動きからボールを途中で引っかけると、大外のプレシアード、エストゥピニャンの両SBが駆け上がりクロスを上げる。同時開催しているEUROでは香車型のSBやWBがブイブイ言わせているけど、彼らもその系譜に連なるSB。特にエストゥピニャンのクロスはエクアドルの攻撃の大きな柱となるパターンである。
これに合わせるエネル・バレンシアも優秀。エリア内に1人しかいないのに動き出しは完璧でクロスが合う場面が多かった。しかし、動きながらな分、精度が高いものが求められる。合わせるところでいっぱいのボールに厚くヘディングが当たらず、決定機が決まらない状況が数回あった。
すると、前半に試合を動かしたのはアルゼンチン。強気のハイラインを敷いたエクアドルに対して、ラウタロ・マルティネスが体を張り、メッシに落とす。スルーパスでGKの飛び出しを誘発すると、最後はデ・パウルが押し込み先制。苦しい展開の中でアルゼンチンが前に出る。
後半も人と人がバチバチぶつかり合う展開が続く。この試合は非常にファウルが多く、特に後半は試合が止まりがち。どちらも攻撃の機会はあったが、どちらの攻撃もぶつ切りな状態がダラっと続く展開になった。
この試合を決めたのはアルゼンチンの大駒2人。途中交代のディ・マリアは2点目のショートカウンターとなるボール奪取の起点と、3点目のキッカケとなるFKを誘発。大エースのメッシがこれを1ゴール、1アシストと得点に変えて試合は終了。ファウルで進まない試合を2人のスターが打開。一気に決着をつけたアルゼンチンが順当にベスト4に進んだ。
試合結果
アルゼンチン 3-0 エクアドル
エスタディオ・オリンピコ・ペドロ・ルドビコ
【得点者】
ARG:40′ デ・パウル, 84′ ラウタロ・マルティネス, 90+3′ メッシ
主審:ウィルトン・サンパイオ
Semi-final コロンビア戦
■個には個で
ブラジルの待つ決勝戦へ是が非でも駒を進めたいアルゼンチン。準決勝で迎えるのは、今大会における我慢強さはトップクラス。準々決勝ではクアドラードの出場停止という難局をウルグアイ相手に何とか凌ぎきったコロンビアである。
コロンビアはどちらかといえばファルカオやハメスのイメージのように、攻撃的なタレントの優位を生かしどんな相手でも殴り返せるイメージだった。だが、今大会のコロンビアは我慢が出来るし、あまり苦手な展開が少ないように見えた。
この試合でもアルゼンチン相手に十分に渡り合ったといえるだろう。準決勝ともなるとメッシも含めて守備も徐々に強度を増してくるのを見ると、コパアメリカもいよいよ大詰めなのだなと思ったりする。アルゼンチンもプレスの回避の耐性は十分。アルゼンチンの前線の守備をいなしながら縦パスでスイッチを入れて進撃する。
縦パスをつけたあとのお決まりはサイドに流すこと。サイドからはルイス・ディアスとクアドラードの両翼がブロックの外側からアルゼンチンのDFラインにダメージを与えるようなクロスを放り込む。決定的な機会は少ないものの、外から打ち抜ける武器をアルゼンチン相手に有しているのは驚異的である。
一方のアルゼンチンが狙うのはDF-MFのライン間。コロンビアが敷く4-4-2に対して、やや苦戦するも結局はこのチームはライン間でメッシに前を向かせてナンボ。試合開始早々にその形からラウタロ・マルティネスの先制ゴールを挙げることが出来たのは大きかった。
先行を許したコロンビアはHTの交代でカルドナを投入。クアドラードを1列下げた。もっとも、1列下げたとはいえクアドラードの役割は大きく変わらずに幅取役のまま。内側で受けられる枚数をカルドナで増やしてリスクをかけつつ、アルゼンチンを押し込もうという算段である。
これが非常に効果的だった。圧を強めるコロンビアにアルゼンチンはそもそも前進することが出来ずに自陣に押し込まれてしまう。頼みのメッシも相手のマークが厳しく、ボールを運ぶことが出来ない。
押し込んでいるコロンビアに同点ゴールをもたらしたのは左のルイス・ディアス。クイックリスタートからペッセッラを出し抜き、そのままゴールに一直線。裏への駆け引きを制して得点までこぎつけて見せた。
劣勢の状況で同点まで追いつかれてしまったアルゼンチン。打開策としては外に流れても切り裂けるディ・マリアを投入する。やや個人の能力に頼った部分があるものの、これでやや盛り返したアルゼンチン。大外から崩せるディ・マリアの登場で内側が少しマークが緩くなり、攻めどころを見つけられるようになった。
一方で、オープンになった分非保持では広いスペースを守らなくてはいけなくなったアルゼンチン。ルイス・ディアスとクアドラードの両名は相変わらず面倒だったし、CHのバリオスはオープンな展開でも渡り合うことが出来たのでペースはイーブンに戻せてもコロンビアはややこしい相手である。
PK戦まで持ち込まれた熱戦で大活躍したのはエミリアーノ・マルティネス。アルゼンチンに足りなかった確固たる正守護神の座をこの大会でしっかりつかんだ苦労人GKの活躍でコロンビアを下し、悲願の決勝進出を決めた。
試合結果
アルゼンチン 1-1 コロンビア
マネガリンチャ・スタジアム
ARG:7′ ラウタロ・マルティネス
COL:61′ ディアス
主審:ヘスス・バレンズエラ
Final ブラジル戦
■的中したスカローニ采配が呼んだメッシの初タイトル
ラウンドが深まるにつれ真剣さが増していくのが決勝トーナメント。当たり前の話なのだが、コパアメリカは中でもその色が濃いコンペティションのように思える。その決勝戦がブラジル×アルゼンチンとなればその緊張感も最高に高まるというのは当然の流れといえるだろう。
試合は共に非常に慎重な入りとなった。相手に強引にプレスをかけに行くことはせず、自陣に穴をあけないことを優先し、とにかく失敗を避けていく形。共にネイマールとメッシという絶対的なスイッチの入れどころがあるが、そこにボールが入った時だけはファウル覚悟で全力で取り囲む。実況の倉敷さんは『コパの決勝は世界一レフェリングが難しい』というのもあながち間違いではないだろう。初手でカードを出してしまうと止まらなくなってしまう。
スローリーな展開がベース、速くなりそうになるとファウルで止める。この展開が続く両チームの中で変化をもたらしたのはアルゼンチンのこの試合の用兵である。ラウタロ・マルティネスやゴンサレスなどここまでスカローニが重用してきた選手たちは献身的ではあるものの、広いスペースで対面のDFを出し抜いてから独力でゴールを沈めるタイプではない。
出し手として効くメッシが封じられた以上、ゴンサレスの先発を回避したのは正解だったと思う。代わりに入ったディ・マリアはまさしく広いスペースで独力で勝負できるタレント。貴重な先制点を奪ったのも彼の仕事。対面のロディの対応があまりにお粗末だったとは言え、アバウトなボールでも広いスペースからゴールを陥れることが出来るディ・マリアを先発で使ったコンセプトが効いた場面だった。
劣勢となったブラジルは後半にネイマールをIHで起用する。めっちゃ奇策っぽいのだが、コンセプトはどこまで行ってもネイマールにボールを触ってもらうこと。そういう意味では合点がいくし、実際に効果もあった。
降りてボールを触るネイマールに対して、アルゼンチンの最終ラインから捕まえに出ていくと数が足りなくなってしまう。そしてそうなるとフレッジ⇒フィルミーノの交代で前線のアタッカーを追加した効果が出てくる。内に絞る分、余る大外にリシャルリソン。この大外のリシャルリソンパターンからブラジルが攻め立てるシーンが続く。
しかし、これにアルゼンチンはすぐさま数合わせで対応。交代で5バック化にして数の論理で大外が余らないようにした。
受ける選択肢をとり、跳ね返しに徹するアルゼンチン。ただ、ブラジルもネイマールの位置を下げた分、被カウンター対応はスカスカに。メッシとディ・マリアを軸にカウンターから独走を食らう場面もあった。特に最終盤のメッシの決定機は絶対にこれで決まったと思ったファンも多いだろう。逆に決まらなかったことでブラジルに押せ押せの雰囲気が流れる。
だが、これをアルゼンチンのバックラインがシャットアウト。マルティネスを中心に5バックの堅牢な守備をブラジルは最後まで崩すことが出来なかった。
優勝したアルゼンチンではついにメッシは代表レベルでの初のメジャータイトル。いや、ほんと良かった。このタイトルを引っ提げてワールドアップに再度チャレンジするメッシは熱い。コパアメリカの最終戦はブラジル×アルゼンチンの看板に偽りのない大激戦となった。
大会総括
■ラストピースとジョーカーが華を添えるメッシの物語
ついにメッシにタイトルが!おめでとう!!!というわけで今大会の優勝はアルゼンチンである。
自分がサッカーファンになってからのアルゼンチンにはざっくりと2つのタイプに分かれるイメージ。1つは豪華絢爛なアタッカー陣が最適解を模索しながら試行錯誤していくアルゼンチン、もう1つはボロ雑巾のように労働者として汗をかきまくる面々が大エースの脇を固めるアルゼンチン。そして、大体後者で臨んだ方がいい成績を残すというところまでがセットである。
今回のアルゼンチンはどちらかと言えば後者に当てはまるだろう。正直、前線はド派手なスター集団ではない。ラウタロ・マルティネスは非常に優秀な選手で個人的に大好きな選手ではあるが、従来のアルゼンチンのFWとは異なる。エゴが少なく、良くも悪くも自らが得点を決めることが第一になっていない。アグエロは伝統的なアルゼンチンのFWの系譜に連なる存在だろうが、今大会ではほぼ出番はなかった。別格のメッシを除けば汗かき役が優先されたといえるだろう。
前線はラウタロ・マルティネスやゴンサレスなどフリーランに長けた面々を並べ、ボールを引き出すことでメッシをサポートする。個人的には今大会のメッシが今まで見てきたアルゼンチンのメッシの中でもっとも気持ちよくプレーしているように見えた。
バックスも強固でロメロ、オタメンディ、ペッセッラなどコンビの面々が代わっても堅さを維持。中盤もデ・パウルやギド・ロドリゲスを中心に働き者揃い。ローラインを敷いて単純な放り込みを無効化するという意味では、南米最強といっても過言ではない。
ただ、このアルゼンチンはそれだけではない。堅くて実直なアルゼンチンの従来のイメージになかったものがこのチームにはあった。確固たる正守護神である。何度も危機を救い、PK戦までもつれ込んだコロンビア戦では圧巻のセービングを連発したエミリアーノ・マルティネスこそ、このアルゼンチンにおけるラストピース。堅実なだけではタイトルに届かなかったかつてのアルゼンチンのイメージをゴールマウスから塗り替えてみせた。
もう1人、栄冠の立役者として名前を挙げたいのはメッシ以外の『大物』としてジョーカー扱いだったディ・マリア。コンディションは絶好調。労働者のイメージも強い選手だが、この大会では大外から何枚も相手を剥がしてのチャンスメイクというスター的な要素が光った。途中出場で劣勢を独力でひっくり返し、ノックアウトラウンド唯一の先発となったファイナルでは決勝点を奪う大活躍を見せた。
メッシとそれを固める労働者、それに加えてラストピースと唯一の例外。キャストそれぞれがそれぞれの役割を全うしてチームを輝かせて優勝までたどり着いた姿は、まるでメッシに初のタイトルがもたらされるまでの映画を見ているかのようだった。
頑張った選手⇒リオネル・メッシ
ブラジル人でもメッシにタイトルを取ってほしかった人がいるというエピソードが全て。本当によかったね。