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「浸透したイズム、しなかったイズム」~2018.11.10 J1 第32節 セレッソ大阪×川崎フロンターレ レビュー

 優勝したよ!スタメンはこちら。

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 直近の公式戦で8戦1勝。C大阪は調子が上がらない状態だ。名古屋戦を見たが、得意のハードワークは鳴りを潜めていた。特にボール保持時のオフザボールの動きに乏しく、チャンス構築に苦心していた印象だ。杉本と柿谷はともにここまで4ゴール。チームの最多得点は丸橋の6ゴールと得点源が不在になっている。それでも直近6試合は複数失点なし。堅守を生かして勝利の糸口を探りたい。

 そんな不調なチームが相手でも川崎がポジティブになれないのは、C大阪を大の苦手にしているからだ。鬼木監督就任後、公式戦の対戦5回で4敗。5回の対戦いずれも失点をしており、勝利を逃した4試合はいずれも複数失点を喫している。ルヴァンカップやゼロックススーパーカップなど、タイトルがかかった大一番でも勝てていない。くしくもタイトルがかかった今節、川崎は小林悠を欠いて苦手な相手とどのように戦うだろうか。

目次

【前半】
スペースは突ける!・・・けど

 試合は川崎のボール保持でスタート。いつもの流れだ。C大阪は4-4-2ブロックを敷く。プレスは2トップで行うが、川崎のCBがボールを保持しているときは、積極的にアプローチにはいかない。とくに柿谷は中盤へのパスコース遮断やハーフスペースへの経路を閉じたり、時には中盤のブロックに参加したりなどで守備にも奔走していたのが印象的。
 川崎からすれば山口、ソウザという対人守備に強みがある2人がいる中央からは前進が難しい。DF-MFのラインの間にはボールを入れられていたけど、前は向けずチャンスは作れない。そんな中でボールを前に進めていたのは登里。ピッチのあらゆるにポジションし、受け手として機能していた。

 最も試合前に自分がしたこのツイート通り、C大阪はボールを支配しながら、川崎相手に勝利を収めているチームではない。サイドにボールを閉じ込め、中央でボールを跳ね返せれば、ボールを持たれていても問題がない。川崎が狙いたかったのはボールサイドのハーフスペース。名古屋戦でもそうだったが、C大阪はボールサイドのSBとCBの距離が空くシーンがちらほら。ここのスペースをうまくついたのが4分30秒付近のシーン。

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 この場面はセットプレーからの流れだったので配置はいびつだが、サイドに流れた中村についていった松田と中央にとどまったヨニッチの間から車屋がPAに侵入したシーン。ここのスペースは空くのでねらい目だった。

 というわけでハーフスペースから攻略すればいい!となりそうなものだが、実際はこの崩しが有効に機能する場面が少なかった。
 理由はいくつかある。1つはC大阪の選手のボールホルダーへの寄せの速さ。川崎がサイドに展開した後にC大阪の選手が寄せていく速さは、試合が進むにつれ徐々に強まった。芝が長かった影響もある。パススピードの低下もC大阪の選手の寄せが間に合うのに一役買っていた。

 もう1つはその先の話。攻略後のPA内の話だ。先述の車屋がハーフスペースに侵入したシーン。車屋がボールを受けた段階でPA内に川崎の選手は0人。C大阪の選手は4人いるため、車屋にはほとんど選択肢はなかった。この場面では偶発的に守田の前に転がりシュートで終わったが、ハーフスペースを攻略したにもかかわらず、あまり確実性が高いシチュエーションではなかったことは確かだろう。

 スペースから侵入はできても、その先に川崎の選手がいなければ意味がない。川崎の前線には独力で打開できる個はいない。そのため後ろから時間を削り出すビルドアップをして、前により良い状態で届けることでチャンスを作るのが川崎のスタイル。この試合では先述の理由により、サイドで打開するためのシチュエーションがいつもより厳しかった。それに加えて最終的にPA内で最後の仕上げで質的優位をもたらす小林悠が不在だったことにより、打開してもエリア内の受け手がいない状況になっていた。

 車屋のシーンもそうだし、15分付近に見事なスキルからカウンターを演出した守田が起点になったシーンもそう。スペースにボールは送り込めても、タメが作れなければ人は送り込めない。C大阪は全体として重心が低いため、ロスト後の帰陣は早い。一番チャンスにつながりそうだったのは、川崎が押し込んでロストした後のC大阪のカウンターをカットする状況か。いわゆるゲーゲンプレス。川崎の選手は前に残ってるし、C大阪の選手は前に走り出す。重心的には逆を取れる。
 ほんとは相手のボール保持でボール奪ってショートカウンターができれば一番いいんだけど、川崎は前線が火をつける形のハイテンポな守備は得意ではないし。 

 知念が入ってからは中央のターゲットはできたが、左サイドのレーン攻略を担っていた登里が後退したため、サイドの崩しの質が下がるというジレンマに。困ったときの大外エウシーニョ!もそこまで効果的でなく、時間が経つにつれチャンス創出に苦しむことになった。

【前半】-(2)
セレッソは間から裏に

 C大阪が苦しんでいたのは前進の局面。CB2枚とCH2枚で四角形を作ってのビルドアップ。前進のキーになるのは間のスペースにCFが降りてくる動き。川崎のDF-MF間にCF(主に杉本)がポスト役としてポジション。そこからサイドにさばく流れが多かった。ただし、杉本は対面する谷口には封じられていたので、ポスト役として機能したのはフリーでポジションを取れた時だけで、あまり頻度は多くなかった。

 というわけでC大阪も前進に苦しむ。好機を作り始めるようになったのは40分付近過ぎ。ソウザが中央で持ち上がりつつサイドに展開、そこから早めに裏へのボールをいれるようになってから。前線の2枚が裏への意識が高まり、それがそのままダイレクトにチャンスへと直結した。柿谷、フリーでのヘッド決めておきたかった。

 もう1つはセットプレー。C大阪の川崎戦のセットプレーはソンリョン付近に選手を1人配置して可動域を制限。GKに向かう球筋のボールをけりこみ、全体のラインを下げた後に、空いたPAやや浅い位置を攻略する形。等々力の福満のゴールみたいな。杉本もソウザも決められなかったけど、この形は川崎は対策打てずという感じだった。
 AT突入直前の川崎のカウンターをカットした田中亜土夢、素晴らしい。あのボール触れると触れないのでは大違いだった。

 試合はスコアレス。ともにゴールは決まらず後半に向かう。

【後半】
課題になるのはカウンター対応

 後半も前半と同じ展開が続く。川崎のメインは右サイドから。やっぱりここはエウシーニョがいないと厳しいなぁと。来季以降どうなるかわからないけども。タメを作って、自分で裏にも抜けられるのは大きい。家長との連携もだんだん良くなってきたし。
 中央にも知念っていう収めところはできたけど、屈強なC大阪の守備陣を前に、さすがに独力で時間を作るほどボールキープはできず。

 攻めあぐねている川崎を尻目に先制点を決めたのはC大阪だった。まずはキム・ジンヒョンのフィードが素晴らしかった。前半も低い弾道でフィードを飛ばしていたのは目にしたが、このシーンでは効果てきめん。誰も寄せられない弾道で丸橋にライナー性のパスを飛ばしたことにより時間が生まれた。田中亜土夢の折り返しのクロスのタイミングも見事。杉本のPAでも駆け引きも谷口を上回った。後方からの優位性の積み重ねが生んだナイスゴールである。

 川崎目線に立てば、両CBの対応には不満が残る。杉本に負けた谷口はもちろん、サイドで田中亜土夢をつぶせなかった奈良にも責任はある。カウンターや穴が開いた時の対応として、奈良が前で迎え撃ち、谷口がカバーに回るというのはチームで決められていることだろうし、それぞれの強みを生かすためのいい役割配分だとは思う。ただ、リスクを負った状況であることは間違いない。当たり前だが、奈良がサイドに出ている分、中央には奈良がいない。出ていくなら止めたいところ。このシーンのように通常なら許容できる程度のクロスを上げられる行為ですら、さらなる劣勢を呼ぶことになる。
 後半3分のカウンターの場面もそう。ソウザにチェックに行くならば、奈良は裏へのパスは出させてはいけない場面だった。
 川崎は前線に人を多く送り込むことにより優位を生み出すタイプのチーム。故にCBはタスクが多く、難しい対応を個で止めなくてはいけない部分が多い。この得点シーンの奈良と谷口は残念ながら局面にうまく対応ができなかった。神戸戦の3失点目と似ていたかな。

【後半】-(2)
足りなかった「阿部イズム」と知念がみせた個の力

 先制点を取ったことにより、さらにブロックを固めるC大阪。山村を前線に入れることで、時間進んだら交代なしで5バックできるぜ!となりました。いやがらせか!
 知念以外に中央打開のカードはもう持ち合わせていない川崎。長谷川のシャドー起用とか面白そうだけど、今季全然やってないもんね。ならサイドだ!ということで齋藤学と鈴木雄斗を投入。鈴木はRSBに入った。最後は守田がSBやってたから、もう少し前にいたけど。おそらく高さ補強かな。齋藤に託されたのは、ブロックをサイドから打開すること。一昨年までは中野嘉大(現仙台)がやっていた仕事である。「高さがあるブロック相手にドリブラーで打開」は川崎の交代選手に託された仕事の難易度としてはまぎれもなく最上級難度である。中野の2年前はすんごい批判されてたけど、このタスクで結果出すのは難しい。まあでもこのために獲得したのが、齋藤学だからね・・・。ただこの試合では好機は演出できなかった。

 最後の最後で違いを作ったのは知念。攻撃の流れから鈴木と挟むようにしてボールを奪うと、そのままエリア内に侵入しPK奪取。これ見ると、絶対倒れたほうが得だよね。山下のチャレンジがノーファウルでジンヒョンのチャレンジがPKなんでしょ。踏ん張ったほうが損だよなぁといつも思う。Jに限らずね。
 とにもかくにも土壇場でPKを獲得した川崎。家長はほんとPKうまい。2年前に大宮と対戦した時から思ってたけど。

 よくわからないけど、追加タイム途中から引き分け許容の方針にしたのかな?勝ちに行っても引き分けでもどちらでもいいけど、足並みはそろえないとだめだろう。PKではボールを中央に素早く戻していたし、そのあとも普通に攻め急いでいたし。PKのところでプレーが止まっていたんだから、ベンチはその間に作戦決めてピッチに伝えるとかでよかったんじゃないかなとか。

 意志の統一ができてたのか、できてないのかはわからないが最後の最後で川崎は失点。齋藤のボールロストが発端。これは意志統一とか関係なくまずいプレーだった。本人も優勝決定後しばらくは茫然自失という感じだったなぁ。ただ、そのあとの杉本のところで谷口と大島はカードと引き換えにチャンスをつぶせたはず。鹿島戦の阿部のファウルのようなプレーはまだチームに根付いていないようだ。1点目の奈良のシーンもそうだが、時には高い位置でカードをもらって止めるべきシーンもあるはず。ロスト後即時奪還の鬼木イズムは浸透してきたが、「阿部イズム」はまだチームには浸透せずということを90分を通して示された試合だった。

 試合はそのまま終了。C大阪が2-1で勝利した。

まとめ

 名古屋戦とは全く違う顔を見せたC大阪。自身の順位的にはモチベーションを保つのは難しかったかもしれないが、目の前での胴上げ阻止は彼らを奮い立たせたようだ。阻止できなかったけど。
 特に中央のブロック強度はかなり高く厄介だった。献身的な両SHも見逃せない。カウンターの精度も後半に行くにつれて向上。徐々に川崎を困難な状況に陥れていた。
 来季以降はどうなるか。ボール志向が強い監督の招聘の噂があるけど、スカッド的にはあまりそっちには向いていないような。特にCMFとCB。ジンヒョンは結構いけるかもと思った。漏れ聞こえてくる話を統合すると自由を謳歌路線を歩みたいようだが、新監督に加えてスカッドの再編と動きの多いオフになる可能性もありそうだ。

 川崎はまたしてもC大阪を超えられず。天皇杯も含めて本当に鬼木フロンターレは大阪での試合にとても弱いのは何か理由があるのだろうか。
 この試合に関しては、あらゆる手を使っても、サイドで優位に立てなかったところ。そしてカウンター対応がまずかったのが敗因だろう。個人的には4-4-2攻略といえばエディオンスタジアムでの広島戦なのだが、あのレベルでの連携をシーズンで常時保つのはハードルが高い。来季以降も付きまとう課題だろう。

 シーズンダブルを食らいながら優勝達成の瞬間を迎えるというなんとも苦笑が漏れる展開だった。それでも優勝はめでたい。一年間頑張った結果だ。どう終わるかはあまり関係ないというか、逆にいい思い出になったのではないか。笑
 来年はもっと豪華な風呂桶作って掲げような!!!

試合結果
2018/11/10
J1 第32節
セレッソ大阪2-1川崎フロンターレ
【得点者】
C大阪:55′ 杉本、94’ 山村
川崎:90’家長(PK)
ヤンマースタジアム長居
主審:村上伸次

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